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恵庭市

花とまちとともに。サンガーデンが創る喜びの庭

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花とまちとともに。サンガーデンが創る喜びの庭

恵庭市事業者の想い

文:本間 幸乃  写真:斉藤 玲子
 
冬の厳しい寒さを乗り越え、春の訪れを告げる花。
季節のめぐりを伝える花々とともに歩んできたのが、恵庭市で花苗生産・販売を行う株式会社サンガーデンです。「恵まれた庭」を体現する地でいち早く花の栽培をはじめ、現在では全道一の生産規模を誇ります。
小さな種から始まったサンガーデン60年の歴史と挑戦について、専務取締役の山口展正(のぶまさ)さん、ガーデンショップ店長の藤井香代子さんにお話をうかがいました。

写真左:藤井香代子さん、写真右:山口展正さん
写真左:藤井香代子さん、写真右:山口展正さん

畑の片隅に蒔いたのは、小さな挑戦の種

サンガーデンの創業は1964年。藤井さんの父・哲夫(てつお)さんが、農業と並行して花の栽培を始めたのがきっかけです。
 
ーーお二人は何代目にあたるのでしょうか?
 
藤井:私たちは二代目ですね。私は娘で、展正さんは姉の夫なんです。
農家の長男として生まれた父が、畑の一角に建てたビニールハウスで花の種を蒔いたのがサンガーデンの始まりです。
 
ーーここは畑だったのですか?
 
藤井:一面畑で、人参や大根を作っていました。
父は高校で花の栽培を学びましたが、当時は「花でメシは食えない」と言われた時代。家業を継ぐ宿命にあった父の、ささやかな挑戦だったのだと思います。
 
山口:「農家の仕事も手を抜かないのなら」という条件のもと花の生産を始めた義父は、昼は農業、夜は花と不眠不休で働いたそうです。ひたむきな姿を見た人たちの紹介を通じて、少しずつ花を買ってくれる人が増えていきました。

創業者・哲夫さんが花の栽培をはじめたビニールハウス。今は雑貨売り場として使われている。
創業者・哲夫さんが花の栽培をはじめたビニールハウス。今は雑貨売り場として使われている。

ーー花の生産は順調だったのでしょうか。
 
藤井:恵庭の気候が花苗の生産に向いていたのです。春に需要が高まる花苗は、冬場の生産が勝負です。恵庭の冬は気温が低く晴天が多いので、昼夜の寒暖差でキュッとしまった丈夫な苗ができる。「恵庭の花は長持ちする」と評判になり、生産量が増えていきました。
 
山口:札幌近郊という、恵庭の立地も追い風になりました。
生産量の増加とともに庭や公園などをつくる造園の仕事も舞い込み、さらに規模が拡大。
創業して10年後、1974年には「株式会社サンガーデン」として法人化し、3年後には造園工事業の認可を取得しました。
当時はまだ農業も営んでいましたが、年々花用のビニールハウスが増えていく光景をみて、「花だけで食べていけたらいいな」と、義父は思いを巡らせていたのではないでしょうか。

「わたしの庭に植えたい」花を作ろう

サンガーデンの特徴は「大量多品目」の苗。年間300万株以上、500種類もの品目を扱う背景には、ある転機がありました。

ーーお二人がサンガーデンに入ったのはいつですか?
 
山口:僕は1993年です。その頃には花と造園だけで生計を立てており、従業員も増えていました。ただ会社としては、家族経営がそのまま大きくなったような印象で、「組織」とは言えない状態だったんです。
「このままではいずれ立ち行かなくなる」と危惧して、僕は社内体制の整備を試みたのですが……。義父とともに歩んできた人たちにとって、入社したばかりの僕の意見は受け入れ難かったようです。「今までのやり方と違う」と反発され、うまくいきませんでした。

ーーそんな状況をどうやって乗り越えたのでしょうか。
 
山口:1995年に直売所(現ガーデンショップ)をオープンすることになり、店長を任されたんです。結果を出せば意見を聞いてもらえるんじゃないかと、店舗運営に力を注ぎました。
ガーデニングブームにも後押しされ、翌年は売り上げが倍に。その2年後は3倍、3年後には4.5倍まで伸びたんです。
成果をあげたことで、徐々に僕の声が社内に届くようになりました。
 
直売所を通して「お客さんが本当にほしいものは、ここにはない」と気づきました。サンガーデンが生産してきたのは、いわば「あって当たり前」な、公共の花壇で見かけるような花。お客さんが心から「私の庭に植えたい」と思える花ではなかったのです。
そこでお客さんのニーズに沿った生産に切り替えよう、と提言しました。「これないの?」と言われたらとにかく作る。
35万株作る品目もあれば、100株しか作らない品目もあります。
 
ーーすごい差ですね。
 
山口:「大量多品目」がサンガーデンの特徴です。2〜3%は、自分たちが「あったらいいな」という品目も入れて、遊び心も大切にしています。
 
ーー直売所で聞いたお客様の声に応えることで、さらに生産規模が広がったのですね。

取材は7月上旬。春の繁忙期を過ぎてもハウスにはたくさんの花が。「いつ何時でも花があるようにって、使命感があるんです」と山口さん。
取材は7月上旬。春の繁忙期を過ぎてもハウスにはたくさんの花が。「いつ何時でも花があるようにって、使命感があるんです」と山口さん。

ーーサンガーデンだからこそできる、花苗への工夫やこだわりはありますか?
 
山口:「土」にはとにかくこだわっています。厳選した肥料や原料をブレンドした、オリジナルの培養土を使っています。
 
藤井:サンガーデンの土はショップでも販売しているんですよ。ガーデニング初心者の方には「土は絶対に良いものを使って」とアドバイスしていますね。
 
山口:土の蒸気消毒もいち早く取り入れました。土を70度くらいの低温蒸気でじっくり消毒することで、植物の成長に役立つ「良い菌」だけが残るんですよね。
廃車のダンプを改良して、独自の蒸気消毒システムを開発しました。25年前から今も現役ですよ。

山口さんのアイデアから実現した、オリジナルの蒸気消毒システム。機械に繋ぐとダンプの荷台に埋め込んだプレートから蒸気が出る仕組み。
山口さんのアイデアから実現した、オリジナルの蒸気消毒システム。機械に繋ぐとダンプの荷台に埋め込んだプレートから蒸気が出る仕組み。

ーー土の改良も山口さんの代から取り組んだのですね。
 
山口:直売所という居場所を義父が作ってくれたおかげで、僕は続けてこれたんですよ。
 
僕は「受け継いで良いのは精神だけ」だと思っているんです。事業のあり方や方法は、時代とともに変わっていかなきゃいけない。
さまざまな品目に挑戦していくうちに生産技術や知識が蓄積され、ニーズに沿った苗を自分たちで生産できるようになった。この頃がサンガーデンにとっての転換期でしょうね。

父の想いを胸に挑んだ一大イベント

「どんなに小さな要望にも応えよう」と、ニーズに沿った生産販売にこだわり続けてきたサンガーデン。その背景には、花を愛する恵庭市民の存在がありました。
1990年代から市民が主体となって進められた恵庭市の「花のまちづくり」。
サンガーデンは恵庭市花苗生産組合の一員として、先代の頃からまちづくりに関わってきました。

ーー市民と行政が一体となって取り組んできた「花のまちづくり」ですが、特に印象に残っている取り組みはありますか?
 
山口:2022年に開催された「全国都市緑化北海道フェア」ですね。過去の開催地は全て人口50万人以上の政令指定都市で、通常は準備に3年以上を要する大きなイベントなんです。恵庭は人口7万人規模、さらに準備期間は約2年という異例の条件で開催が決まりました。
 
「なんとか成功させよう」という一心で準備を進めましたね。
 
開催期間の6月25日〜7月24日を花盛りにするため、組合内では花の生産時期や量を調節して。早すぎても遅すぎてもダメですから。通常業務はそっちのけでスタッフが頑張ってくれました。
 
藤井:その頃に「黄色いマリーゴールドがどの店にもないんだ」って、札幌から来られた方がいました。緑化フェアの花を優先して、マリーゴールドを作っていなかったから、市場に流通していなかったんです。「もしかして私たち、とんでもないことしてる?」って申し訳ない気持ちになりながらも、スタッフ一丸となって力を注いだイベントでした。
 
山口:「できるはずがない」と言われたイベントを実行できたのは、「花のまちづくり」に前向きに取り組む市民の方々がいたからです。僕らは協力者の一人に過ぎないんですよ。
 
 
ーーまちの一大イベントとはいえ、どうしてそこまで力を注げたんでしょう。
 
藤井:父が晩年「恵庭には花の拠点が必要だ」と話していたんです。
後に「はなふる」という形でその願いは実現しましたが、完成を目にすることなく、父は12年前に亡くなりました。だから、父の夢だった花の拠点でおこなわれるイベントをなんとしても成功させたかった。
 
全国から人が集まり、恵庭の花を楽しむ姿を見て、「お父さんの言った通りになったよ」って。父にも見せたかったですね。

敷地内にあるカフェ奥を流れる小川は、お父様が最後に手がけた造園の仕事だそう。
敷地内にあるカフェ奥を流れる小川は、お父様が最後に手がけた造園の仕事だそう。

ーーお父様は「花の力」を信じていたんですね。
 
藤井:そうですね。「まちが良くなれば、自分たちも良くなる」という考えをもつ人でした。父がよく言っていたのは「地域の人に愛される会社になれ」。
恵庭って本当にお花好きの人が多いんです。サンガーデンがここまで大きくなったのも、市民の方々が引っ張ってくれたからだと思います。

ーー花ってどうしてこんなに人を惹きつけるんでしょうね。
 
藤井:花がもつ「生命力」に惹かれるんじゃないでしょうか。毎年同じ時期に芽吹き、緑が濃くなり、子孫を残すために花を咲かせる。必死に生きようとする姿をみると、純粋に「すごいな」って感動します。
 
山口:植物が人間に教えてくれることって、たくさんあると思いますよ。

社会と結びつき、地域に愛される存在に

「花のまち・恵庭」を支えるサンガーデンの花は道内各地にも広がり、まちを彩っています。札幌の大通公園やJR函館駅前のほか、2023年北広島市にオープンした「エスコンフィールドHOKKAIDO」周辺の造園も担当。2024年には創業60年を迎え、改めて「お客さんと直接つながる」大切さを実感しているといいます。

山口:コロナの影響で商社主催の展示会が中止になったことを機に、思い切って「自分たちで展示会をやろう」って。スタッフが直接説明する販売方法に挑戦したら「こういうのを待ってた」と、取引先のみなさんが喜んでくれたんです。嬉しかったですね。
 
藤井:「『作る』と『売る』はセットだよ。ハウスの中がゴールじゃないよ」と、スタッフにはいつも伝えています。「サンガーデンの花がほしい」お客さんに喜んでもらうまでがゴールです。
私たちの作った花がどんな風に社会と結びついているのかを、スタッフにも伝えていきたいですね。
 
山口:社会と強く結びついていないと「地域に必要とされている」とは言えないですから。これからも地域から愛される、喜んでもらえる存在でありたいですね。

たった一人が、畑のビニールハウスに蒔いた種から始まったサンガーデン。お二人が創業者・哲夫さんから受け継いだ精神を、今でも大切に守り育てていることが伝わってきた取材でした。
取材後、お二人が「いつもここで季節を感じている」というオープンガーデンを歩くと、花や緑がそっと見守ってくれているようでした。
サンガーデンはこれからも喜びの声に応えながら、まちを彩り続けていきます。

Information

株式会社サンガーデン
〒061-1356
北海道恵庭市西島松561番地4
電話番号:0123-36-8050
ガーデンショップ営業時間:9:00~17:00
営業期間:4月1日~10月連休いっぱいまで

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