きっかけはプリキュア?ドーナツ茶屋ほんわかが届ける幸せの味
恵庭市事業者の想い
文:髙橋さやか 写真:髙橋洋平
人生、何が起こるかわからない。
子どもの頃に読みふけったマンガ、毎週楽しみに見たドラマ、親子で一緒に見た日曜日のアニメ。何気ないシーンやセリフに心揺さぶられ、その後の人生に大きな影響を受けることがあります。
恵庭市で「ドーナツ茶屋ほんわか」を営む小国英雄さんがお店をはじめたのは、意外なきっかけから。ふわんわりとやさしいドーナツには、秘められた物語がありました。
人生を変えたドーナツ
ドーナツ茶屋ほんわかがあるのは、国道36号線から一本中にはいった静かな通り。住宅街からほど近いお店には、平日の昼間からドーナツを求めるお客さんが次々にやってきます。ショウケースには、カラフルで見た目も楽しいドーナツがずらり。
「どれにしようか?」と選ぶお客さんはみんな笑顔です。人々を笑顔にする、ほんわかドーナツはどのように作られるのでしょうか。
ーードーナツの種類がすごく豊富ですね。
小国:常時23〜24種類くらい揃えていて、月に一種類、季節を取り入れた限定商品を考えています。7月は瀬戸内レモン、8月にはシャインマスカット。秋には栗のドーナツを考えています。定番商品は、「ふわもち邸」というお店で働いていた頃に培った味のバリエーションをベースにしています。
ーーほんわかならではのドーナツの特徴はありますか?
小国:道産小麦の「春よ恋」を100%使っていて、小麦の風味と、ふんわり&もっちりした食感が特徴です。恵庭の特産品である「えびすかぼちゃ」を使った生地も、うちのオリジナル。かぼちゃのドーナツは、十勝産のこしあんとかぼちゃクリーム、豆乳クリームの3種類あります。
ほんわかのドーナツは、イーストを使い時間をかけて発酵させることによって、ふんわりと軽い食感に仕上げています。
ドーナツの生地作りは、パンと同じで天候に左右されるんです。湿度に弱く、生地を乾燥させないと余計な脂が入って、食べた時の脂っこさに繋がります。
生地の仕込みや揚げるタイミングによって、形も変わってきますし。毎日、完全に同じ状態にはならないので、できる限り品質を保って提供していけるよう、努力しています。
ーー小国さんは、もともとドーナツに関わるお仕事をされていたんでしょうか。
小国:以前は建築関係の会社に勤めていました。当時は工場勤務だったので、直接お客様に触れる機会がない仕事。「ありがとう」と感謝される仕事につきたいなと思いながら、転職先を模索していました。
ちょうどその頃、娘と見ていた「フレッシュプリキュア」に、ドーナツ屋さんが出てきたんです。謎が多い男性が公園でドーナツの屋台を出していて、みんなに大人気のお店。店主の男性は、主人公たちを見守る存在でもあって。娘と一緒に見ていて、「こういう仕事ができたらいいな」と。
そう思っていたタイミングで、妻が新規オープンのドーナツ屋さんの募集を見つけてきてくれたんです。「バイトでもいいから」という気持ちで面接に行ったんですけど、1回目は落ちちゃって。そこのドーナツを食べずに面接に行ってしまったんです。
後日、食べたら「ほんとにこれドーナツ?」衝撃を受けて。イーストドーナツなんですけど、ふわっふわで。輪っかになったドーナツの中にクリームが入ってるのも、「どうやって揚げてるんだろう?」って。「どうしてもここで働きたい」と思って、もう一度面接させてもらいました。
札幌では有名な「ふわもち邸」というお店。ちょうど社長が創業して、8ヶ月後くらいでの入社でした。仕事を続けていく中で社長に認めてもらって、商業施設内の店舗をオープンした時には店長に。そこがドーナツ屋としてのスタートですね。
ーープリキュアをきっかけに、実際に行動にうつせるってすごいですね。
小国:やるならラストチャンスだな、と思いながら動き出しましたね。
「誰かに喜んでもらえる仕事をしたい」という気持ちがあったので、そこがきっかけというか。「おいしかった」と言ってくれるお客様の声は、励みになりますよね。
妻と結婚したのも転機でしたし、子どもと一緒にプリキュアを見たのも偶然の巡り合わせ。自分がやりたくてはじめたというよりは、運命的なものもあったのかな、と思いますね。
「独立するなら今」自分の想いをカタチに
お子さんと一緒に見たプリキュアから動き出した小国さん。ふわもち邸で経験を重ね、恵庭にドーナツ茶屋ほんわかをオープンしたのは、2018年のことでした。自分の想いをカタチにしながらも、自身で経営することの難しさにも直面したと言います。
ーーふわもち邸では店長のポジションについて、そこから独立されたわけですが、「いつかは・・」と思っていたのでしょうか。
小国:うーーん。半々ですね。
いつかは独立しようとも考えていましたし、「一から十まで、自分の考えた通りにお店をやってみたい」という気持ちもあったんですよね。いろいろなタイミングが重なって、「もう今しかない」と。
ドーナツのレシピはふわもち邸を継承しながら、オリジナルの要素も加えて。ふわもち邸の社長にも了承を取りました。
ーーお子さんが小さい時に転職・独立って、結構勇気が必要だと思いますし、周りからの反対とかはなかったんでしょうか。
小国:ふわもち邸への転職は妻が見つけてきてくれましたし、その時点では反対はなかったかな。独立の方がちょっと悩んだかもしれないですね。そこはちょっと説得して。どう思ってたんだろう?
奥さん:やっぱり安定しなくなるし、子どもたちのこともあるので、不安な気持ちはありましたね。うまくいくかどうかも、わからない。年齢的にも、次に就職となると難しいし。色々心配はあったんですけど、「やる!」となったら、ついていくしかないなと心を決めました。
ーー自分のお店をオープンされて、オーナーがいて店長というのとは違う部分も多いのかなと思いますが大変だったことはありますか?
小国:やっぱり金銭面ですかね。会社経営については、何もわからない状態だったので。
いくら投資できて、運転資金をいくら用意して・・という知識がなかったので、経営者としてのほうが難しかったですね。
不安なところはふわもち邸の社長に相談したり、税理士さんにお願いできる部分はお任せして。僕自身は「ドーナツを作ってたくさん売って、売り上げを上げればいい」というスタイルで、ドーナツを作る方に専念できる環境にしました。
ーー売り上げを上げていけば良いとはいっても、集客って苦労はされるところかなと思うのですが。
小国:今もそんなに安定はしてないんですけど、2018年にオープンして、4年間で大体バランスが見えてきた感じですね。
一度来店して、また次の月に・・というのは、よっぽどじゃないと。「おいしい」と言ってくれるお客さんは、リピートしてくれるので、そこを大事にしています。その方からクチコミで広がっていったり。
春先が一番いいので、そこでなるべく売り上げを確保して、夏場は落ちるので耐え忍んで。というのを2年間で覚えた感じですね。
辛い時、悲しい時も、ドーナツで笑顔に
売り上げの波が激しいドーナツ屋の経営。「ドーナツって暑い時期には売り上げが落ちるんですよね」と、小国さんは言います。そうした中でも「冷たいドーナツを出すのはどうだろう?」とアイディアを模索し、「おいしい」と言ってくれるお客様を大切にしながら、実直にドーナツを作りつづけています。
ーー実際にご自身でお店をオープンして良かったですか。
小国:労働時間は増えましたけど、精神的なストレスがなくなったので、それが一番大きいですね。今は妻と2人なので、気兼ねなく。
波が激しいので、いろいろな販売方法を模索しています。2021年からは、ふるさと納税や通販での販売もはじめて。実店舗もネットも、暑い時期はドーナツってあまり出ないんですよね。冷たいドーナツを出せばいいのかな?と。ボンボローニって流行ってるので、あれをちょっと冷たくしたらどうかな・・と考えたりしてます。
ーーこれからやっていきたいことはありますか?
小国:できることなら、目の前に公園があって、海があってロケーションの良いところで、商売できたらいいなって・・夢物語を描くことはあります。夕日を見ながらドーナツをほおばれたら・・とか。現実的には、海があるロケーションだと海風とか、冬は寒かったりとか現実的な問題はあるんですけど。笑
ーー景色の良いところでほおばるドーナツ、最高ですね。小国さんにとってドーナツってどんな存在でしょう。
小国:「幸せにしてくれるもの」なのかなって思いますね。
見た目も丸くて。赤ちゃんは、丸いものが好きっていうじゃないですか。なんだろう攻撃的じゃないし、刺々しさもないし。お客さんも「かわいい」って言ってくれる人が多いですし。
いま辛いこと、悲しいことがあっても、食べた時に一瞬でも元気になれるドーナツを作れたらと思っています。
うちのドーナツの半分は、やさしさでできてるので。
お店の名前のように、ドーナツを食べてほんわかしてもらえたらいいですね。
世知辛い世の中ですから。
小国さんの行動力と、淡々とした口調のギャップに魅せられながらの取材。私自身も娘と見たプリキュアのセリフに、勇気や元気をもらった経験があります。困難な状況にあっても諦めず立ち向かう姿に、子どもだけでなく大人も心を惹かれるのでしょう。
何かに導かれるように「ドーナツ茶屋ほんわか」をオープンした小国さんが作ったドーナツは、お店の名前の通り食べるとほんわか幸せな気持ちに。気持ちが沈んだ時にも元気をもらえるやさしい味がしました。
店舗情報
ドーナツ茶屋ほんわか
〒061-1409 北海道恵庭市黄金南7丁目18−4
電話: 0123-25-5346
営業時間: 11:00~17:00(売り切れ次第終了)
定休日 不定休