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恵庭にナポリをつくり出す。チェルボの揺るぎない情熱の旅路

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恵庭にナポリをつくり出す。チェルボの揺るぎない情熱の旅路

恵庭市事業者の想い

文:本間幸乃  取材・編集:高橋さやか 写真:斉藤玲子

旅の食事は特別です。「ここでしか食べられない味に出会いたい」と、勇気を出して、地元の人だけで賑わう店に飛び込んでみる。読めない外国語のメニューを指差し頼んで、ワクワクしながら待って。出てきた料理が、驚くほど美味しかったらーー。

「いつまでも忘れられない感動の味を届けたい」。『ピッツェリア エ トラットリアチェルボ (Pizzeria e Trattoria CERVO)』は、そんな想いから始まった南イタリア料理店です。「ナポリで食べた“あの味“をいつも目指しています」と語るのは、統括マネージャーの太田裕也さん。味も空間も「ナポリそのもの」を追求し続ける、チェルボの情熱の旅路をたどります。

「飲めるようなピッツァ」を目指して

グリーンの『CERVO』という文字に、真っ白な壁。大きな窓から覗く窯の炎。イタリア国旗を思わせる外観から足を踏み入れると、思わず幸せなため息が。石窯で次々と焼かれるピッツァの小麦と焦げたチーズの香りに、自然と頬がゆるんでしまいます。「地元のものを使って、イタリアのナポリを表現する」というチェルボの味。その美味しさは、世界的グルメガイド『ミシュラン・ビブグルマン(2017年)』に掲載されるほど。世界中からファンが訪れるというチェルボのピッツァについて、まずは伺います。

ーーピッツァの特徴はどんなところですか。

太田
:一番こだわっているのは、トマトソースです。

ーートマトソース。それはどうしてなんでしょう。

太田
:イタリアのナポリで初めてピッツァを食べた時に、一番衝撃を受けたから。一口食べた瞬間、「トマトがとにかく美味しい」と驚きました。
その感動が忘れられなくて、現地の味を再現しようと日本のトマト缶を100種類ほど開けました。でも結局、合うものは見つからなくて。やっぱり思い出の味が残っているんです。現地で食べた、あの味、っていうのが。行き着いたトマトソースは、現地への完全オーダー。イタリアからケース単位で輸入しています。

ーー生地はオーダーが入ってから伸ばして焼かれるのですね。焼き上がりまでの手速さに驚きました。

太田
:作りおきは一切しないですね。焼き時間は60秒から90秒。現地の焼き方と同じです。
生地には天然酵母を使っているのですが、元種から作っています。生地を発酵させる場所もナポリと同じ条件にするために、湿度や温度帯、暗さまで調整しています。冷蔵庫には入れずに16℃〜18℃ぐらいのところでじっくり発酵させて。焼く時もナポリの気候に合わせて25℃ほどの場所に出し、一気に発酵させます。

バンジュウも時期によってプラスチックと木製を使い分けている。
バンジュウも時期によってプラスチックと木製を使い分けている。

太田:酵母って生きているので、暴れて急に発酵したり、しなかったりします。だから日々、粉と対話しながら。基本のレシピはもちろんありますが、気温と湿度によって、水加減も酵母の分量も毎日変えています。同じ日がないので、正解もないんです。でも「目指しているピッツァ」はあるので、そこに近づくために試行錯誤しています。

ーーその「目指しているピッツァ」とは?

太田
:飲めるようなピッツァ。「ひとりで何枚も食べちゃいたい」となるような軽さのピッツァが目標です。

あつかいが難しい天然酵母をわざわざ使うのは、消化に良い生地にしたいから。ピッツァって、もともとお腹にたまりやすい料理なんです。そしてうちはトラットリア(郷土料理のレストラン)なので、色んな料理を食べて欲しい。前菜からピッツァ、パスタ、デザートまで食べて「ちょうど良かったね」と思っていただくためには、ピッツァを軽く、消化の良いものにする必要があります。そこで行き着いたのが天然酵母でした。

ナポリの料理人にとっても、「いかに消化の良いピッツァを焼くか」というのが永遠のテーマ。ご飯3膳分くらいの量を食べているのに、まだ食べたくなるというのが、伝統的なナポリピッツァです。

肌の温度でも生地のコンディションが変わるという。
肌の温度でも生地のコンディションが変わるという。

ーー「伝統的なナポリピッツァ」の店として、『真のナポリピッツァ協会』※から認定を受けていらっしゃいますね。

太田
:はい。北海道で初めて、世界では273番目の認定店となりました。

ピッツァはナポリの郷土料理で、貧しい人たちが苦労して作り上げてきた歴史があります。その歴史と技術を守り伝えていくために、協会が世界中のピッツァを厳しい目で審査しています。使っている素材から窯の状態、職人の技術、お店の雰囲気、提供した時のスピードやメニュー構成まで、全て直接チェックをして。「もうイタリアそのものだね」と認められないともらえない称号です。

例えばトマトソースの塗り方にも、職人ならではの技があります。ベタ塗りではなく、あえてムラをつけて塗るのがナポリ流。トマトソースは生地より温度が低いので、たくさん載せると火の通りが悪くなってしまうからです。

石窯の温度って450℃〜500℃くらい。肌感覚で確認しながら一定の温度を保ちます。薪の炎で全体が温まるようにドーム型になっているのですが、焼くのは床なんです。下のタイルにこもる遠赤外線の熱で焼くのが、石窯の大きな特徴。だから焼くと、ピッツァの耳がふわっと上がってくる。
ソースにムラをつけて塗ることで、火の通りも良くなるし、食べる時に味と食感にコントラストが生まれます。

具材も適当に載せているようで、計算されています。ナポリピッツァは1人1枚食べるので、どこを食べても同じ味ではなく、飽きがこないような工夫がされているんです。

歴史ある称号をもらった以上、僕らも伝統的な形でピッツァを作り続けること。「ナポリに行かなくても、ナポリを感じられる」というところが、チェルボの核になっています。


※真のナポリピッツァ協会(イタリア語:Associazione Verace Pizza Napoletana、通称AVPN)は、1984年にナポリで創立された非営利団体。ナポリピッツァに関わる緻密な基準をつくり、商標の保護や伝承を行っている。

窯をも動かす感動を恵庭でつくり出す

「ナポリの人たちが守り受け継いできたものを、絶対にブラしてはいけない」と語る太田さん。イタリア語で「田舎」と呼ばれるカンパーニャの州都であるナポリ。その土地で生まれ育った人々の美学と情熱から生み出されたピッツァは、チェルボの代表、東島実さんの心も動かしました。

ーーチェルボを創業した経緯を教えていただけますか。

太田
:2003年に代表である東島が南イタリアに渡り、パエストゥムという町で働いていたことがきっかけです。仕事が休みの日にナポリへ足を運び、出会ったのがナポリピッツァ。ちょうど日本でもカットピザが流行し、その延長でナポリピッツァが知られ始めた頃。まだ北海道では珍しかった時代です。東島は初めてのナポリピッツァに感動して、すぐに現地で窯を購入して、北海道へ送ったんです。

ーー窯を送る?!凄い行動力。

太田
:それだけ魅力的だったんでしょうね。「ひと口食べて感動した」と言っていました。東島がナポリから送って半年かけて到着した窯を使い、2004年にチェルボがオープンしました。

チェルボの店名にある『トラットリア』は、家族経営のレストランのこと。おばあちゃんとお母さん、子どもや孫もいるような、気取らない「まちの定食屋さん」です。東島はイタリア滞在時に『マンマ』と呼ばれる現地のお母さんたちから、料理を教えてもらっていました。『マンマ』の味は、先祖から代々受け継がれてきた味。チェルボも同じように、地元に根付いた、歴史を感じられる味と空間を提供したい、という思いからはじまっています。

大きなタイル絵にはナポリ湾と街の風景が描かれている。
大きなタイル絵にはナポリ湾と街の風景が描かれている。

太田:チェルボの店づくりを、僕たちは自己満足と捉えているんですよね。自分たちがナポリで体感した喜びや感動を、お客様にも感じてほしい。共有したい。そうしてお客様が喜んでくださるのが、何より嬉しいんです。

だから飾る絵一枚、壁の色や溝ひとつ、床のタイルから照明に至るまで、現地そのものに近づけています。300年から500年前の建築物が多く残るナポリと同じように、最先端を表現するのでなく、いかに逆戻しできるか。どんなにこだわっても、まだまだやり足りないですね。

飲食業って、広い意味でのエンターテイメント。非日常を味わってもらうためには、“普通”から逸脱するくらいの店づくりが必要だと思っています。

床のタイルもナポリと同じように斜めに並べ、テラコッタ色に塗り、あえて周りを削っている。
床のタイルもナポリと同じように斜めに並べ、テラコッタ色に塗り、あえて周りを削っている。

コロナ禍で奪われた文化を取り戻すために

2004年のオープンからナポリの伝統と文化を受け継ぎ、恵庭に根付かせてきたチェルボ。料理だけでなく、空間を含めた「非日常の体験」を提供するスタイルを貫いてきました。そんな中で起こった、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大。現在も続く社会情勢の混乱は、チェルボにも大きな影響をもたらします。

ーー今まで「これは辛かった」という時期はありましたか。

太田
:2020年以降、新型コロナウィルスの影響が始まってからが、一番辛かったですね。何が辛いって、店舗の軸である「文化の提案」ができなくなってしまったこと。

南イタリアでは、家族や友人との食事を大切にする文化があります。その「みんなで食事を楽しむ」っていう空気感が、一時期全くなくなってしまった。店舗の、この空間でしか食べられない料理やサービスの提供が思うように出来ない状況は、本当に苦しかったです。

太田:少しでも気持ちよく食事と会話を楽しんでいただきたいと、前菜をコース仕立てで提供していた時期もありました。店舗のあり方を模索する中で、逆に進んだのは冷凍ピッツァの技術です。

チェルボの冷凍ピッツァは、窯で焼いてすぐにマイナス30℃で冷凍、真空包装。焼きたてのおいしさをそのまま閉じ込めています。

ーー冷凍ピッツァは焼き加減が難しいイメージがありますが、チェルボではすでに焼かれたものを冷凍されているのですね。

太田
:ご家庭など焼く環境が違っても変わらない味を届けたいので、8割くらいまで焼いてから冷凍しています。冷凍ピッツァは電気の窯を使っているのですが、石窯だと調整が難しい火加減も、同じ温度帯を一定に出すことができる。ピッツァを焼くには最高の環境です。生地の発酵時間も、トマトソースの塩加減も、チーズの切り方も、全て店舗で出している物と一緒。だからクオリティも遜色ありません。

ただ、窯で焼くピッツァには愛があるんですよね。ナポリの人たちや焼く人間のそれまでの苦労がちゃんと入っている。店舗とご家庭で食べるのとでは、味は一緒かもしれませんが、その上に載っている情熱が違います。ぜひ食べ比べていただきたいですね。

「店舗に来れない方とも、この味で繋がっている」と太田さん。
「店舗に来れない方とも、この味で繋がっている」と太田さん。

恵庭にナポリの根を張るために

先が見えない中でも、「ナポリそのもの」を提供することにこだわり続けてきたチェルボ。今後の計画を聞いてみると「チェルボという存在を、より深く恵庭に根付いたナポリにしていくこと」と揺るぎない答えが返ってきました。

ーーその一貫した姿勢って、どこからくるんでしょうか。

太田
:改めて考えると・・ナポリが本当に好きなんです。現地にいくと、壁1つ1つ全て感触を確かめたくなるくらい。地元にしかない地元というか、現地の人が生まれ育った土地の文化や雰囲気まで感じたいんですね。とにかく知りたい。身につけたい。そして知ってほしい。食べてほしい。喜んでほしい。

ーー愛が伝わってきました。

太田
:愛と情熱の地。今は現地へ行けませんが、恵庭でナポリを表現できる環境は特別だと思っています。

実は今、ウクライナ情勢の影響で食材が入りづらくなってきているんです。トマトソースも入ってくるかどうか際どい状況。他の食材もどんどん高級になり、「これが本当のナポリピッツァなのか?」と日々葛藤しています。

太田:でも、価格が高騰した食材を国内のものに変えたら「チェルボとしてのやりたいこと」ではなくなってしまう。だから苦しいけれど、食材を変えて価格を据え置きするのではなく、値上げしてでも今のままやろう、という方向性で動いています。

これまでも苦しいことはありましたが、迷いを感じたら店舗を改装したり、現地に行って感動を思い出したり、という方法で乗り越えてきました。ここまで自分達の力だけでは解決できない問題は、初めてかもしれません。

けれど一切妥協はしません。今できる表現方法を、手を抜かず続けていくこと。それだけですね。

「恵庭にナポリをつくり出す」。その揺るぎない情熱は、かつて小さな国だったナポリが、争いや支配の中でも独自の文化を築いてきた歴史とつながります。遠い海を渡り受け継がれた炎は、「チェルボ」という新たなまちで、灯され続けています。

店舗情報

【店舗情報】
ピッツェリア エ トラットリアチェルボ (Pizzeria e Trattoria CERVO)

〒061-1409 
北海道恵庭市黄金南2丁目19−7
TEL: 0123-34-6301
営業時間:
ランチ 平日11:30~14:00/土日・祝日11:00~14:00
ディナー 17:30~20:00
冷凍ピッツァの販売 11:00~18:00
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