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太陽電池をもっと身近に。 スフェラーパワーのたゆまぬ挑戦

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太陽電池をもっと身近に。 スフェラーパワーのたゆまぬ挑戦

恵庭市事業者の想い

文:髙橋さやか(Writing support:本間雪乃) 写真:斉藤玲子


「太陽電池は、なぜ平らでなければいけないのだろう?」
イノベーションは、誰もが当たり前だと思い見過ごしているものを疑うことから生まれます。地上に射すさまざまな角度からの光。「太陽電池を球面状にすれば、あらゆる方向からの光を取り込め、発電量が増やせるのでは?」そんなイメージを形にしたのが、球状太陽電池「スフェラー®️」です。「スフェラー®️」の可能性を模索し続ける、スフェラーパワー代表取締役社長の井本聡一郎さんにお話をうかがいました。

球状だから生まれるさまざまな可能性

井本社長みずから出迎えてくださってスタートした取材。机の上には、すっきりとしたフォルムのランタンに、コンパクトなペンライト。キューブ型やペンギン型のオブジェも。スフェラー®️を使った製品がずらりと並びます。
ーーいろいろな製品があるのですね。そもそもですが、スフェラー®️とはどういったものなのでしょう?

井本:
スフェラー®は球状の太陽電池です。原料は、砕けて小さくなったシリコン。太陽電池というと、みなさん平らなもの板状のものをイメージされると思うんですが、スフェラー®は光を受ける面が球のかたちをしています。ひと粒が1–2mm程の大きさです。シリコンの粉末を溶かすと、表面張力で球になる。葉っぱの上の水滴みたいに。それを冷やして固めると、この球結晶ができるんです。

自然界では光の当たり方は一定ではありませんよね。太陽は常に移動していますし、ガラスや水面で反射する光や、雲のなかで散乱する光もあります。弊社の会長中田仗祐が「あらゆる光を効率よく採り込むためにはどうしたらよいか?」「平板ではなく球状にしたら、もっと光を採り込めるのでは?」という問いをもったことから、スフェラー®は生まれました。

ーー球状にすることで、光を効率よく採り込めるとのことですが、それによってどういった利点があるんでしょう?

井本:
まず一つ目は、小さな球体なので、形やデザインの自由度が高いこと。例えばこのランタンは、スフェラー®が円筒形に並んでいます。一般的な平板体ではできないデザインです。さらに、球体であることで、あらゆる角度から光を採り込めます。日陰になったり、一部を隠しても大丈夫。下からの反射光で光をとりこぼさないんです。このランタンは、快晴の昼間に光を溜めておくと、4時間くらい点灯するんですよ。

こちらのペンライトは、非常用ライトにもなりますし、自転車のライトにもなります。実際、2018年北海道胆振東部地震のブラックアウト時、これを持っていた方から「非常に助かった」との声をいただきました。あの日は、夜に地震が起きましたから、まず地震発生時に使えて。日中、晴れていたので充電できて、丸2日間使えました。当時は、電池も売り切れてましたし、その中で光が途切れなかったことが安心感にもつながったのかと。
地震後、タクシー会社から「車に1台あるといいな」というお声がけもいただきました。

左の2つがスフェラー®️ランタン、井本社長が手を添えているのがペンライト。
左の2つがスフェラー®️ランタン、井本社長が手を添えているのがペンライト。

常識を疑うところからはじまったスフェラー®️開発

球状にすることで、幅広い分野での活用が可能なスフェラー®️。その誕生は、25年前にさかのぼります。
ーースフェラー®️はどのようにして誕生したのでしょう。

井本:
開発は25年前で、弊社会長であり創業者の中田が発明しました。中田は、もともと三菱電機で、人工衛星用の太陽電池の研究にも携わっていたんですね。その後、1980年に独立。LEDやフォトダイオードの開発・製造を担う京都セミコンダクター(以下、京セミ)を立ち上げます。その後、1995年に球状太陽電池スフェラー®の着想をえて、開発を進めていきました。
そして、2004年には「スフェラー® (Sphelar®) 」(=球状太陽電池Spherical Solarからの造語)を商標登録するとともにサンプル出荷をスタート。2012年に、スフェラーパワーの事業部を独立させて、新たにスフェラーパワーという会社を作ったという経緯です。

JAMICでの実験の様子 写真提供:スフェラーパワー株式会社
JAMICでの実験の様子 写真提供:スフェラーパワー株式会社

ーー京都で創業した会社が恵庭に進出したのは、どういったきっかけがあったのですか?

井本:
創業して9年目くらいに、生産能力をあげるため、全国で工場を探したんですね。その中で、まず白羽の矢が立ったのが北海道の上砂川町でした。上砂川町は当時、炭鉱の閉鎖にともなって企業誘致が盛んだったんです。

京セミの仕事は、電子部品を扱うため細かい作業が多い。細かい作業が得意な女性のパートさんを雇用し、さらに体制を整えようと、1992年恵庭にも工場を建てました。
恵庭市は新千歳空港に近く、北海道の中心都市札幌にも近い。物流面、雇用面で非常にメリットがあるんです。北海道には同業者が少ないので、人の定着率も上がりました。

京セミからの流れで、スフェラーパワーも北海道でずっとやらせてもらっています。
実は、北海道への進出がスフェラー® 発明のきっかけにもなったんですよ。

ーーと、言いますと?

井本:
京セミが上砂川に進出した1989年、時と場所を同じくして、無重力実験センター (JAMIC) が建設されました。JAMICは炭鉱の跡地を利用した施設です。JAMICでは、地下に向けて真空カプセルを落下させ、微小重力状態を作り出すということをしていたんですね。

そこから、中田が「無重力のなかで液状化したシリコンから結晶を作れば、球状の結晶ができないだろうか。」という着想をえて、JAMICに相談にいきました。当然ながら、最初からうまくはいきません。試行錯誤を繰り返して、球のかたちをしたシリコン粒ができるようになったのです。
粒ができたら、次は表面を加工し太陽電池にしていく作業です。通常であれば平らな面におこなうことを、球面上での前代未聞のチャレンジ。初めてできたセルは4粒で、串団子状につないで、光をあてると、発電していることが確認できました。

写真提供:スフェラーパワー株式会社
写真提供:スフェラーパワー株式会社

世界的建築家からのオファーに応えられなかった悔しさをバネに

数多の試行錯誤をくりかえし生まれたスフェラー®️。可能性をひめたこの新たな太陽電池に注目した世界的な建築家から、大きなオファーが舞い込みます。

井本:
2006年に、アメリカの建築家フランク・ゲーリーさんからの依頼が舞い込んだんです。パリにあるルイ・ヴィトンの美術館「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」の建築に際してのことでした。6000㎡のガラス張りの美術館に、スフェラー®️を使いたいと。でも当時、生産能力的にもコスト的にも、とても6000㎡には対応できませんでした。断念するしかなかった。すごく悔しかった・・。やはりもっと大量に作らなあかんなと。こんな小さいところで実験的に作っていたらダメやと。

ーーその悔しさがその後の原動力につながっているのでしょうか?

井本:
そうですね。営業している中でも、「欲しい」というお客さんもいらっしゃるんです。でも、今は量産体制になっていないので、その分価格的に難しいところが。「安くなるまで待つわ」という反応が多くて、なかなかもどかしいところですね。

普及して量産できれば、価格をもっと抑えられるんです。理屈上も、平板の太陽電池より安くできるつくり方なので。そこを目指して、今はパートナー探しにも奔走しています。小さい会社ですから資金面も含めて、いろんな会社さんと協力しながらやっていきたいなぁと。

ーースフェラー®️の普及に向けて奔走する中で、心が折れそうになることはないんでしょうか?

井本:私のモットーで、「失敗はない」と思っているんです。失敗を失敗と思わず、経験と思うようにしています。失敗と捉えるとそこで終わってしまうんやけど、これは絶対、後で生かせるいい経験にするぞと。まあ失敗ばっかりなんですけど。笑
「必ず後に活かす経験にしよう」と。そういう意識でやっています。

エネルギー問題へのソリューションとして

スフェラー®️の普及に向けて奔走する井本社長。これからのスフェラー®️の可能性をうかがうと、とめどなくアイディアを話してくれました。

井本:
可能性は限りなくあるんです。
まず、スフェラー®️テキスタイル。糸状にした太陽電池を織って、太陽電池のテキスタイルをつくることができます。ウェアラブル電源として用いたり、太陽光発電テント。医療用電源に使われた実績もあります。

スフェラー®️テキスタイルの見本。ウェアラブル電源や太陽光発電テントなど用途は限りなく広がる。
スフェラー®️テキスタイルの見本。ウェアラブル電源や太陽光発電テントなど用途は限りなく広がる。

そして、気温上昇にともなって発電効率が下がる真夏の炎天下でも発電量が落ちず、雪が積もっても発電できます。ですから、使用できる場所の範囲が広くなります。製造方法がシンプルでリサイクルも可能ですし、将来的には価格も抑えられるはず。あとは、強度が高いのも特徴です。振動にも強く割れにくいので、車にも最適だと思います。水の中につけて、光を当てると水素が発生するので、それをエネルギーに活用したり・・。

ーーいいとこだらけですね。環境負荷も少ないですし、これからの時代にマッチした製品だと感じます。

井本:
いいとこだらけで、唯一価格ですね。苦笑
これからに向けて、どんどん広めていかないと。

ちょっと昔話になりますけど、京セミの創業が40年前なんですね、当時、創業者の中田は周りから「うまいこと行くはずないやろ。やめとけやめとけ」と言われた中、「LEDには将来性がある」と信じて立ち上げたんです。そして、現在LEDはというと・・広く普及しました。このスフェラー®️もそうなると思うんです。将来的には、当たり前の時代が来る。来させないといけないなと思っています。今のLEDが当たり前に使える時代になったように、このスフェラー®️が当たり前に使える時代が。
それを信じて、軌道に乗せるべく邁進していきます。

「イノベーションを起こす人は、自分の信念を持って突き進んでいく」
ーー井本社長から語られたスフェラー®️と開発者の中田会長についてのお話に耳を傾けながら、イノベーションが生まれる源に立ち会っている気持ちになりました。
「まだまだ知られていないので、こういう太陽電池があるんだと、いろんな人に知ってもらいたいです」と井本社長は熱心にお話されていました。
大きな可能性を秘めた小さな太陽電池の粒。先行きの見えない時代に、スフェラー®️は未来を明るく照らしていきます。

会社情報

【本社】
〒600-8815
京都府京都市下京区中堂寺粟田町93 KRP6号館 310号室

【恵庭事業所】
〒061-1405
北海道恵庭市戸磯385番地31
電話 0123-34-2100
※東京営業所、上砂川事業所もあり
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