はなふるから始まる、次世代につなぐ花のまち・恵庭
恵庭市プロジェクト
文:髙橋さやか 写真:斉藤玲子
花には人の心を安らかにする不思議な力がある。
人々が混乱の最中にあっても、芽を出し、葉をしげらせ、花を咲かせ、生を全うして散っていく。その儚くも力強い、花の姿に心を惹かれるのかもしれません。
花の持つ力を生かし、市民と行政が一体となって「花のまちづくり」を進めてきた北海道・恵庭市。2020年にまちのシンボルとなる、花の拠点「はなふる」がオープンしました。次世代につなぐ「花のまち・恵庭」について、「はなふる」の整備にたずさわった恵庭市役所の上山さんと、現在はなふるを担当する宮川さんにお話をうかがいました。
花のまち恵庭のシンボルを
花の拠点「はなふる」は2020年11月に、道と川の駅「花ロードえにわ」に隣接する施設としてオープン。7つのガーデンエリアをはじめ、農畜産物直売所「かのな」や親子で楽しむ遊び場「えにわファミリーガーデンりりあ」など、子どもから大人まで楽しめる「花のまち・恵庭」の新しいシンボルです。
ーー花のまち・恵庭を体現する「はなふる」ですが、どのような背景でつくられたのでしょうか?
上山:恵庭の花のまちとしての取り組みは、もともと行政主導ではなく市民の有志からはじまった取り組みです。1961年に「花いっぱい文化協会」が設立されたことからはじまり、「花とくらし展」やオープンガーデンなどのイベントも、市民が中心となって動いていました。
一方で、市民主体の取り組みとはいえ、オープンガーデンなどは個人宅ですから、住んでいる方も生活があります。市としても、「花のまち・恵庭」を体現する施設が必要だろうと、2016年11月に花の拠点基本計画を策定し、検討をすすめてきました。2018年に改定された花のまちづくりプランでは、「花のまちづくりの拠点整備」が明記され、整備に至ったのです。
ーーはなふるの整備に当たっても、市民が参加しながら進めていったのでしょうか?
上山:ええ。「はなふる」は、花のまちづくりのシンボルです。行政だけで進めてしまっては、市民中心で進んできたこれまでの流れと逆行してしまいます。花のまちづくりの中心となってきた方々との意見交換は、重要なプロセスでしたね。
ーーこの場所に整備されたのは、もともと道の駅があったからでしょうか?
上山:そうですね。花の拠点の整備にあたっては、「花のまちづくりのシンボル」に加えて、「恵庭の観光拠点」という位置付けがありました。2006年にオープンした道と川の駅「花ロードえにわ」は、年間100万人が訪れる場所。集客力に加え、オープンガーデンを実施している恵み野地区にも近い。「花のまち・恵庭」を体現する場所として最適だったのです。
ーーまちを象徴するような施設をつくるに当たって、気を配った点はありますか?
上山:長く愛される施設にするためのしかけづくりは、苦労しましたね。
「お花きれいだね」と眺めるだけの場所では、庭や施設の維持管理はできません。せっかくなら、時がたっても美しい状態で、多くの人に親しまれる施設にしたいじゃないですか。
人的にも費用的にも、長続きする仕組みを考えていきました。
ーー長く綺麗な状態で保っていくって大変ですよね。
上山:念願の花の拠点が、10年後には庭の手入れが行き届かず、残念な状態になってしまうのは悲しいですよね。お花を植えるだけじゃなく、水やりや雑草の手入れなど、庭の維持管理には費用がかかります。
カフェやホテルなどの事業者を誘致することや、ふるさと納税で市の取り組みを応援してもらうなど、「いかに美しく保ち、将来に渡って残していくか」の仕組みづくりには、頭をひねりました。
公園内のホテル建設など、恵庭市では前例のないこともあったので、手探り状態でしたね。苦労もありましたけど、花の拠点に宿泊して、そこから恵庭をじっくりと体感できる場ができた。結果的には、良い形でオープンできましたね。
「中止するかもしれない」を抱えながらのイベント準備
長く多くの人に愛される場を目指し、整備された花の拠点「はなふる」。取材当日は、第39回全国都市緑化北海道フェア(愛称:ガーデンフェスタ北海道2022)の開催期間にあたり、平日の午前中から多くの人で賑わっていました。
ーー「はなふる」オープンから2年後のタイミングでの、ガーデンフェスタは追い風になったのでは?
上山:ガーデンフェスタの開催は、恵庭市にとっても「はなふる」にとっても絶好のタイミングだったと思います。
ガーデンフェスタの招致は、2019年5月頃に道内の造園関係団体の方や、市民の方が、市長への表敬訪問の際にお話しされたのをきっかけに、スタートしました。
そこから、担当部署である、花と緑・観光課にいた私が基本構想を策定し、招致に向けた準備を進めて。恵庭単独での開催は難しかったため、北海道庁とも連携し、同年11月正式に招致を発表しました。
ーー全国規模のイベントでは、関わる人の意識をとりまとめていくのも大変そうです。
上山:“市民と一体でつくり上げていくイベント”にすべく、2020年8月頃にガーデンフェスタのサポーターズクラブを立ち上げました。「恵庭で大きな花のイベントがあったね」で終わるのではなく、自分たちも関わったという意識を持ってもらえたらと。ステージイベントや国道に花を飾る企画など、さまざまなアイディアが出てきて、実際形にもなりました。
もちろん全ての市民というわけではありませんが、ボランティアも定員を超える応募が。花植えや会場案内など、多くの方が“自分ごと”として、イベントにたずさわってくれましたね。
ーー市民が自分ごととして参加するというのは、恵庭ならではですね。
上山:約7万人という人口規模の恵庭だから、「みんなで盛り上げていこう」と市民を巻き込んだ取り組みができたと思います。市内の事業者にもイベント出店や、コラボメニューの開発などの面で協力をえました。
ガーデンフェスタは、花と緑のイベントですが、みなさん「恵庭を盛り上げるイベント」として、「どう関わろうか」と考えてくれて。恵み野駅で、道案内のボランティアを独自にしてくれた住民の方もいました。
細かいところを見れば、行政としては至らない部分もあったかもしれませんが、イベントとしては良かったのかなと思っています。
ーーイベントは、コロナ禍での準備だったのですよね。
上山:そうですね。サポーターズクラブでは、話し合いができない時期もありましたし、実行委員会の事務局では、「蔓延防止が出たら・・」「緊急事態宣言が出たら・・」と、それぞれの場面を想定して対策や準備をしながら進めていきました。「感染防止対策を徹底して、イベントは極力実施」というのは、気を配った点です。
「イベントを中止する可能性」を抱えながら、準備を進める辛さはありましたね。
ーー無事に開催できてよかったですよね。
はなふるの整備やガーデンフェスタによって、市民や職員の意識の変化はありましたか?
上山:今回のガーデンフェスタでは、さまざまな世代の方が準備から本番まで関わってくれました。
幼稚園児がつくった「たねダンゴ」のお花畑。駅周辺には、小学生がつくった花の絵のフラッグ。中学生が絵を描いたプランターは、国道などまち中を彩りました。高校生は、コラボメニューを考案。市内の大学生の中には、サポーターズクラブに参加してくれた方もいました。
今回のイベントを通して、これまで花の活動に関わったことのない方が参加するきっかけを生み、「花のまち・恵庭」の新たなスタートになっている感触がありました。ここで生まれた芽をこれから大きく育てていきたいですね。
つくって終わりではなく、長く愛される場に
花の拠点「はなふる」の誕生や、全国規模のイベント「ガーデンフェスタ」を経た今、「花のまち・恵庭」は、これからどのように歩んでいくのでしょうか。
ーー花のまちのシンボルができて、大きなイベントも実施されました。未来に向けて、「花のまち・恵庭」をどうつないでいきますか。
上山:花のまち・恵庭は、ガーデニングだけでなく、花苗の一大生産地でもあります。ガーデンフェスタをきっかけに生まれた、花への興味の芽を育てて、花の拠点を大切に維持管理しながら次世代に残していくことが、恵庭の未来につながっていくのかなと思います。
と言っても、市民全員にガーデニングしてくださいということではなくて・・花や緑の大切さ、「見ると心が和む」など、小さなことから意識してもらえるといいですよね。
宮川:私自身は、2022年4月に花と緑の部署に異動してきて、ガーデンフェスタにたずさわる中で、「花のまち」と言われるだけのことを積み重ねてきたのだと実感しています。
一方で、「恵庭=花のまち」と言える人は、意外と多くないとも感じているんです。ガーデンフェスタをきっかけに、たくさんの市民が関わってくれました。これを機に、若い世代にも「花のまち」の認識が広まって、これからにつながっていく取り組みを展開していきたいですね。
はなふるの7つのテーマガーデンは、ガーデンフェスタの終了後も残ります。イベントなどを通して「はなふる」という場を広めていき、ここを拠点に恵庭自体の観光全体を盛り上げていけたらと。ガーデンフェスタの終了後、熱が冷めやらないうちに、長期的な取り組みも考えていきたいですね。
上山:コロナ禍で、息苦しい日々が強いられました。そうした中でも、少しまちを歩けば、きれいな花が周りにあって、心安らげる場所がある。「はなふる」や恵庭のまちに咲く花々が、自分たちのまちの価値の再認識につながったら、と。
嫌なことがあっても花を見ると心が安らぐ。植物にはそういう力があると思いますから。
「恵まれた庭」という、市の名前を体現する花のまちづくり。当初は反対意見もあったそうです。
「最初は面倒でも、花の名前を知らなくても、きれいな花があって心が安らいで、イベントで楽しいなと思ってもらえたらいい」それを原動力にしてきたと語る上山さん。「花の取り組みをされてるみなさんが熱いので、一生懸命対応したくなる」という宮川さん。
先人たちの先見の明に、次世代の新たな視点が加わり、花のまち・恵庭は未来につながっていきます。