稚内の誇り「稚内ブランド」を通して、心の距離を縮める
稚内市プロジェクト
文:三川璃子 写真:原田啓介
日本海とオホーツク海の二つの海に囲まれ、なだらかな丘が広がる町。この雄大な自然から生まれた水産物や畜産物は、稚内を代表する産品として全国に届けられています。
「商品が手に届いた瞬間、その場で稚内を感じられるように」
時代の大きなうねりの中で、「本物」にこだわり守り続ける稚内ブランド。ブランドを立ち上げ、稚内のファンを増やす歩みにはさまざまな想いがありました。
稚内の「魅力」を届け、ファンを増やしたい
稚内の特産品といえば、何を思い浮かべるでしょうか?
私は、稚内に着いた瞬間に「美味しい海産物が食べたい」と胸が踊りました。
稚内ブランド認定品には、たこやほっけなどの海産物はもちろん、宗谷黒牛などが登録されています。ふるさと納税返礼品とも関わりの深い稚内ブランド。海と山の幸に恵まれた稚内が考えるブランドの在り方とはどんなものなのでしょうか。
稚内ブランドの取り組みについて、稚内市 建設産業部 水産商工課で、ふるさと納税や稚内ブランドを担当している三上雅人さんにお話を伺います。
ーー三上さんは、稚内出身ですか?
三上:生まれは稚内です。高校の3年間は旭川で過ごしましたが、地元に帰って恩返しがしたいと思い、平成4年4月に稚内市役所に採用されて働き始めました。もう30年になります。
稚内市役所に奉職して、最初は社会体育の担当で総合体育館などで13年、そこから観光に5年、福祉に10年、そして現在のふるさと納税を担当するグループに配属されて、今年で2年目です。
ーー30年間で、稚内市役所ではどんな変化がありましたか?
三上:人口減少への対策として、取り組む事業が増えています。それだけ挑戦する事例が増えているということ。稚内ブランドもその一つです。
ーー稚内ブランドでは、具体的にどんな活動をしているのでしょうか?
三上:市内の事業者さんの商品を稚内ブランドとして認定し、全国へ稚内のPRや販路拡大を図る活動です。具体的には、ブランド認定品がわかるホームページを設けたり、市内外でのイベントや、物産展での販売、PR活動などがあります。原材料や加工品だけでなく、地域資源もブランドとして認定し、魅力を発信しているのも特徴です。現在は、原材料7品、加工品25品、地域資源4点を認定しています。
ーー稚内ブランド認定品は、ふるさと納税の返礼品としてもたくさん出ていますよね。
三上:嬉しいことに現在では、全国から多くの人がふるさと納税の制度を利用して、稚内市へ寄付してくれています。稚内ブランド認定品のPRにも効果があると期待しています。
ふるさと納税は、他の自治体との寄付額や返礼品の競争に捉われてしまっている感じがしますが、稚内市出身の方や、本市に魅力を感じて、「稚内を応援したい」という人が利用してくれる制度であってほしいと思っています。
ーーtakibi connectの「応援者を増やす」というテーマと共通する部分がありますね。
三上:まさに、そうです。稚内のファンを増やして地域活性化につなげたい。稚内ブランドもその助けになるよう、ファンを増やすためのブランドとして価値を高めていきたいですね。
正真正銘の本物を
平成23年から活動が始まった稚内ブランド。稚内のファンを増やすには、稚内を感じる「本物」でなければならない。その想いを体現するため、約10年間変わらずに厳格な審査が行われています。
ーーブランド認定の審査はどうやって行っているのですか?
三上:まず、稚内ブランドの認定を受けたい商品を事業者さんから、稚内ブランド推進協議会へ申請してもらいます。協議会は申請を受けて認定審査会を実施し、審査を通過した商品は晴れて稚内ブランドとして認定されます。
稚内ブランドの加工品の認定期間は3年間で、再度認定を受けたい場合は再申請、再審査を受けなくてはなりません。これは稚内ブランドの特徴かもしれません。他のブランドは「年度認定」で登録されてたり、更新だけというブランド認定も多いようです。
3年経てば状況や実績が変わってきます。品質などの確認も踏まえつつ、再度認定を受けるということで、審査させてもらっています。
ーーブランド認定後もこうした審査を続けて、信頼を担保してきているのですね。
事業者さんからの反応はありますか?
三上:ブランド認定品ということで、認知度が拡大し売上につながっていると聞いています。また、取引先との交渉がしやすくなったという声も。認定品以外の商品も売れるようになり、事業者全体の売上にも貢献できているようです。
稚内の思い出が蘇るブランドに
10年間厳しく審査し続けたからこその、高い評価と信頼がある稚内ブランド。激動の時代の中で「信頼」を担保し続けることは容易ではありません。2020年と2021年はコロナの影響で物産展などのイベントは中止。時代の変化とともに、稚内ブランドはどのように歩みを進めているのでしょうか?
ーーこれまでの稚内と今とで、何か変化はありましたか?
三上:もともと稚内は観光が栄えている町です。日本のてっぺん宗谷岬や宗谷丘陵、利尻礼文サロベツ国立公園を始めとする豊かな自然が広がり、夏には全国・海外、多くの人々が稚内へ旅行に来ています。しかし、団体のツアー旅行から個人旅行に移り変わるなどで、観光が少し伸び悩んでいる感じがします。10年ほど前までは、稚内と関西、中部をつなぐ便が季節運行していましたが、今は運休しています。
さまざまな変化がある中、稚内の価値は現地で体験する旅から「お取り寄せ」にシフトしていっている感じがします。これまで稚内に来てくれた人が、稚内の産品を取り寄せることで、旅の思い出が蘇る。旅のタイムカプセルのような役割を担っているのかなと。そのためにも、稚内産にこだわり、稚内を感じられるブランドで在り続ける必要があると思っています。
ーー旅の形が時代によって変化していったのですね。去年から今年にかけては、コロナの影響も重なりましたよね。
三上:コロナの影響はやっぱり大きかったですね。市内外のイベントは全て中止となり、稚内ブランドのPRができませんでした。
このご時世、自治体の取り組みには制限が設けられて、できないこともたくさんあります。民間の運営ならできたこともあったのかな、と悩ましい点もあります。
自分たちにできることは自治体として、稚内ブランドの「信頼」を紡ぎ続けること。自分たちが担えない部分は民間の事業者さんと手を取り合って活動していきたいです。
遠いけど近い町、稚内へ
「稚内って物理的には遠いけど、できれば距離を近くしたいんですよね」と微笑みながら語る三上さん。稚内を身近に感じる未来とは。稚内ブランドの今後について伺います。
三上:観光客の方でも、リピートして稚内に来てくれる人がいます。それぞれにまた来たいと感じる思い出や理由があるんですよね。物産展のイベントで道外に行くこともあるんですけど、そこで「何回も旅行で稚内に行ったことがあるよ!」という人も結構いて。
私の祖父と祖母は、本州から陸路でここ北の果てに来て酪農を始めたと聞きました。役場にも馬車で行くような時代です。その時代と比べると、今は稚内に空港もあって、電車も通っているぶん、「近く」なっているかもしれません。
稚内ブランドの商品は、どんな場所にいても稚内の思い出が呼び起こされるように、稚内の全てをぎゅっと詰め込んでお届けしたいです。「コロナが終わったらまた稚内に行こうね」って、話が始まるようなものを目指したいですよね。
ブランドを通して、稚内をまだ知らない人にも魅力を知ってもらうきっかけになればいいなと思っています。現地に来たことがない人の場合、稚内のイメージはその商品で決まってしまいます。だからこそ、商品で魅力を存分に伝えられたらいいなと。
稚内を本当に大切に思ってくれている人に、自分たちが大事にしてきたものを、胸を張って届けていきたいです。
ブランド品が稚内の思い出を呼び起こす装置に。旅が自由にできない今の時代だからこそ、その地を感じられる取寄せ品が必要なのだと感じます。稚内産にこだわり、本物であることを宣言し続ける稚内市。その誇り高い姿勢に今後も多くのファンが増えることでしょう。
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