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白石市

佐々木こけし工房が未来へとつなぐ、白石伝統の新型こけし

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佐々木こけし工房が未来へとつなぐ、白石伝統の新型こけし

白石市事業者の想い

文:高木真矢子 写真:阿部一樹

「新型こけし」を知っていますか?
「伝統こけし」「創作こけし」「新型こけし」の3つに分類されるこけし。新型こけしは昭和20年代に宮城県白石市で誕生し、「量産可能で市場性のあるもの」と定義されています。分業による製作が可能で、猫や犬、ご当地キャラクターなど自由なデザインで量産できるのが特徴です。
 
かつて宮城県白石市には70軒以上の新型こけし工房が存在しましたが、東日本大震災によりその多くが廃業。現在、唯一の工房として新型こけしを製作する、佐々木こけし工房の佐々木功さんにお話をうかがいました。

自由な表現が魅力の新型こけし

子どもの遊び道具としてつくられたのが始まりだという、こけし。温泉のおみやげや観賞用として楽しまれるようになり、人々の暮らしに寄り添ってきました。
新型こけしは、どのように作られるのでしょうか?佐々木さんの工房にお邪魔しました。

佐々木:新型こけしは伝統的な技法と現代的なアイデアが融合した、独特の製作過程があります。まず最初は木材の選択から。私が主に使っているのはミズキと山桜の木です。ミズキは木肌が白くて柔らかく、顔や細かい表現に向いています。一方、山桜は少し硬めで、色味が濃いので、個性的な作品に適しています。

佐々木:次に、ろくろを使って木材を削り、こけしの基本形を作ります。この工程が一番重要で、後々の変形を防ぐために、木目を正面に向けます。これは伝統こけしから受け継いだ技術ですね。
 
形が整ったら、いよいよ絵付けの工程に入ります。
新型こけしの魅力は、この自由な絵付けにあります。伝統的な顔や模様はもちろん、お客様のニーズに合わせ現代的なキャラクターや動物など、さまざまなデザインを施せるんです。

佐々木:昔は天然の顔料を使っていましたが、現在は主にポスターカラーで絵付けしています。より鮮やかで長持ちする素材を選び、木の風合いを活かすことも大切にしていますよ。

佐々木さんは新型こけしの自由な表現力を活かし、さまざまなコラボレーション作品も生み出しています。2013年には劇団四季の仙台公演記念として、キャッツこけしを製作。2023年には通販事業大手のベルメゾンから依頼を受け、お正月飾りスヌーピーを製作しました。

ーー作品を作る上で、難しい点はありますか?

佐々木:新しいものを生み出すのが一番大変ですね。キャラクターの特徴を捉えつつ、こけしという形に落とし込むのは本当に難しいんです。例えばスヌーピーのこけし作りでは、特徴的な耳の表現に苦心しました。
 
商品開発担当者と何度もやり取りし、イメージが形になるまで試作を繰り返したというスヌーピーこけし。こうした新しい挑戦は、佐々木さんの創造力と工夫する力を最大限に引き出しています。

厳しいこけし工人の世界。絞り出して形に

佐々木こけし工房は、先代の佐々木克巳さんが昭和23年に白石市で木地製作と描彩を覚え、独立して始めた工房です。昭和35年に生まれた佐々木さんは、白石市で新型こけし工房を営む家族のもとで育ちました。高校生の頃に家業を継ぐと決意した佐々木さん。しかし、その道は平坦ではありませんでした。

ーーいつ頃から家業を継ぐことを意識されましたか?
 
佐々木:高校生の頃ですね。それまでは学校や遊びに夢中でした。将来について考えるようになって、「うちの仕事でもやろうかな」と、最初は軽い気持ちでした。
 
父親からは反対されましてね。
こけし工人として食べていくのは厳しいと実感していたので、わざわざ厳しいところに飛び込む必要はないと、父は考えていたようです。新型こけしという、比較的新しい分野に対する将来への不安も含まれていたのかもしれません。

当初は「特にやりたいこともない」という理由から選んだこけし工人の道でしたが、次第に佐々木さんの決意は固まります。「こけし工人として生計を立てたい」という強い思いを胸に、新型こけしの世界に飛び込んだ佐々木さんを待っていたのは、厳しい修行の日々でした。新型こけしには「型がない」つまり、手本がないのです。

ーー手本がない状態でどう技術を身につけていったのでしょうか?
 
佐々木:とにかく数をこなして技術を磨き、“感覚”を自分に落とし込んでいくんです。
父のこけし作りを見て学ぶ。見て盗むとか、自分で「これがいいんじゃないか」と思う手法を試しては形にしていくんです。
 
特に難しかったのは、絵付けの技術ですね。こけしは可愛くないと売れません。一つ一つのこけしに魂を込めながら、商品として売れるものを作らなければならない。この両立が、新型こけし工人としての大きな課題でした。

技術の研鑽に励んできた佐々木さんは、コンクールで受賞するほどの腕前に。佐々木こけし工房は、全日本こけしコンクール(※)で経済産業大臣賞や農林水産大臣賞をはじめ、国土交通大臣賞、中小企業庁長官賞、宮城県知事賞など、数多くの賞を受賞しています。

※全国こけしコンクールは1959年に宮城県白石市で始まり、毎年5月に開催されるコンクール。全国から伝統的なこけし職人の作品が集まり、技術やデザインを競い合い、こけし文化を広める目的で行われている。​​

ーー毎年新しいデザインで出品するのは大変そうですね。

佐々木:そうなんです。全日本こけしコンクールは、本当に頭を悩ませます。受賞はもちろん嬉しいですが、同時にプレッシャーも感じますしね。天才肌じゃないですから、絞り出して、絞り出して、なんとか形にして出品しています。
年明けになると「この季節がやってきたな・・」と気が重くなる。4月頃には納品しなければならないので、その時期までにある程度形にしなければ・・と、プレッシャーとの闘いです。

ーーアイデアを得るために、何か特別なことをされていますか?

佐々木:できるだけ多様な作品に触れるように心がけています。美術館や展覧会に足を運んだり、時には全く違う分野の工芸品を見に行ったりもします。

佐々木さんが全日本こけしコンクールに出品した作品の一部
佐々木さんが全日本こけしコンクールに出品した作品の一部

苦境から生まれた新たな可能性

佐々木さんが長年技術を培い、情熱を注ぎ込んできた新型こけしの世界。2020年新型コロナウイルスの感染拡大により、大きな試練に直面します。

ーーこれまでの工人人生で、苦労して心が折れそうだったことはありますか?
 
佐々木:コロナ禍で仕事がゼロになり、約1年間先行きの見えない日々が続きました。インバウンド需要も問屋からの注文ストップになってしまって・・。収入はゼロになり、給付金がなければ潰れていたかもしれません。
 
ーーそうなんですね。先への不安はなかったのでしょうか。
 
佐々木:悩んでいた頃、妻から「犬のこけしを作ってみたら?」というアドバイスを受けたんです。「暇してるなら、何か考えたら?そうだ。豆柴かわいいから作ってみてよ」と言われて。

この何気ない会話が、佐々木さんの創作意欲に火をつけました。苦境の中で生まれた新しいアイデアは予想以上の反響を呼び、猫などの動物をモチーフにしたシリーズへと発展したのです。

佐々木:動物系のこけしは、可愛らしいデザインと伝統的な形式のコントラストが、多くの人の心を掴んだようですね。

苦境を乗り越え、新たな可能性を見出した佐々木さんは、次なる挑戦への足掛かりをつかんでいきます。
産官学連携などに携わった白石市の佐々木義彦さんが2020年9月に「ゆこけし研究所」を設立。2人の佐々木さんは協力して、素材や製法の改良などに取り組み、オンライン販売のスタートやクラウドファンディングなどを展開していきました。
 
さらに新型コロナウイルスの終息とともにインバウンド需要も戻り、「ミニこけし」への人気が高まっています。

佐々木:ここ数年は、外国のお客様に日本の伝統こけしが人気で、手のひらサイズの「ミニこけし」がよく売れています。主に関西方面や京都などの観光地に卸しています。「こんな表情・デザインのミニこけしを作ってほしい」といった問屋さんのオーダーに応えて、製作しています。
 
ーー年間でどれくらいの数のこけしを製作しているのでしょうか?
 
佐々木:年間で500から1,000本近く・・もしかしたらそれ以上かもしれません。注文はそれ以上来てるんですが、製作が追いつかない状態です。
 
需要に追いつかないほどの人気となっている新型こけし。佐々木さんは少し困ったような、でも嬉しそうな表情を浮かべていました。

唯一の工人が紡ぐ、新型こけしの未来図

「新型こけしをもっと多くの人に知ってもらいたい」と願う佐々木さんですが、後継者や伝統の継承など、課題は山積みだといいます。

ーー今は佐々木さんお一人となってしまった新型こけし工人ですが、後継者についてはどう考えていますか?
 
佐々木:
大変ですね。私どもには子どもがいませんから。たとえ子どもがいたとしても、こけしだけで食べていくのは大変なことは、今も変わりません。
 
新型こけしって、知られていないんです。伝統こけしと違って、工人の名前を引き継ぐ制度もありませんし、名前入りで販売するわけでもありません。
ただ、まだ可能性はあると信じています。

歯がゆさと期待が入り混じった声で語る佐々木さん。新型こけしの魅力を多くの人に知ってほしい、という思いが伝わってきます。
歯がゆさと期待が入り混じった声で語る佐々木さん。新型こけしの魅力を多くの人に知ってほしい、という思いが伝わってきます。

ーー新型こけしの未来についてはどのようにお考えですか?
 
佐々木:「新型こけし」という白石の伝統を受け継ぐことは、間違いなく必要です。新型こけし工房や工人は減りましたが、今も残る伝統のこけし工人の方が、全日本こけしコンクールに、毎年新しいこけしを出品しています。将来的には、それが新型こけしにとって変わるのでは?と個人的には思っています。
 
仮に私が新型こけしを作れなくなったとしても、引き継いでくれる誰かが現れた時には、喜んで受け入れたいですね。

日本の伝統工芸が進化し、現代に適応していく姿を体現する新型こけし。今も風情ある街並みが残る白石の街から、新型こけしは驚きと喜びを人々に届け、佐々木さんのような工人が伝統工芸の未来を明るく照らすのだと感じました。

取材を終え工房を後にする際、棚に並ぶさまざまなこけしたちが、あたたかく見送ってくれているようでした。佐々木さんの新型こけしはこれからも、手にした人の心に温もりを与えていきます。

Information

佐々木こけし工房
〒989-0203 
宮城県白石市郡山字鹿野27-62
TEL:0224-25-4034

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