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白石市

白石に根ざし愛される卵を。竹鶏ファームが広げるありがとうの“わ”

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白石に根ざし愛される卵を。竹鶏ファームが広げるありがとうの“わ”

白石市事業者の想い

文:高木真矢子 写真:平塚実里

東京から東北新幹線で約2時間の宮城蔵王の玄関口、宮城県白石市。
竹鶏ファームは、この地で昭和40年に創業し、4代にわたり養鶏を手がけています。竹炭をフル活用した独自の飼育法で育てた鶏が生む「竹鶏たまご」は、クセがなく優しい味わい。鶏卵をはじめ、スイーツなどの加工品も生産しています。
地元に愛される養鶏場を目指し、奮闘する4代目社長の志村竜生さんに話をうかがいました。

独自の飼育法で生産する白石のブランド卵「竹鶏たまご」

国道4号線沿いという養鶏としては珍しい立地にある竹鶏ファーム。
前身の「志村養鶏場」として1965年に創業、2000年に法人化し竹鶏ファームとなりました。


ーー竹鶏ファームのこれまでの歩みを教えてください。

志村:2023年で創業58年になります。私の曽祖父で創業者の志村富治と祖父の幸一が、庭先養鶏としてニワトリ100羽を飼育するところから始まりました。その後、徐々に経営を拡大し、飼育から販売までの一貫経営をするようになりました。

1975年、父で3代目の治幸が母・久美子と経営に参加。この頃、ニワトリは2万2000羽まで増えていました。1983年に兄で専務の竜海(たつみ)、1985年に私が誕生。物心ついたころからニワトリと卵が身近にある暮らしでした。

うちは国道沿いという珍しい立地の養鶏場です。近隣に住宅が多かったわけではありませんでしたが、飼育するニワトリの数が増えるにしたがい、悪臭対策を考えるようになったといいます。そうした中、1994年、消臭効果が期待できる竹炭に父は出会います。竹炭の魅力にのめり込んだ父は地元の方の協力を得て、竹やぶの一角に自社の炭窯を創設。鶏の飲水も竹炭で浄化した地下水を使い、独自の配合でニワトリの飼料に粉砕した竹炭を混ぜるなど、試行錯誤を重ねました。そして、1995年竹をフル活用した卵「竹鶏物語」が生まれました。

志村:現在でも、養鶏場の敷地で竹炭を粉砕して飼料に混ぜ、ニワトリを飼育しています。

竹炭を飼料にするための研究はその後も続き、1998年には竹炭を飼料に混合する製法と竹炭を通した水の製法の2件で特許を取得しました。順調にニワトリの飼育数も増加し、2000年には「竹鶏ファーム」として法人化。安定した経営が続いていました。一方、父・治幸さんは常々「なぜ自分で育てたものに自分で値段をつけられないのか」と業界全体の課題を口にしていたといいます。

長年、竹炭を粉砕している工場は天井まで真っ黒
長年、竹炭を粉砕している工場は天井まで真っ黒

Uターン、そしてリブランディングへ

竜生さんは高校卒業後、大学で畜産を専攻。大学卒業後にはフードサービスの会社に就職しました。「いずれは後を継ぐんだろうなという意識もあった」という竜生さん。子どもの頃には気づかなかった白石の魅力を感じるようになったのもこの頃でした。
これからの養鶏の在り方や地域でのビジョンを語る父とのやりとりが続く中で、2010年にUターンを決意。兄・竜海さんも2012年に家業に入ることとなりました。


ーーUターン後はどのような取り組みをされたのでしょうか?

志村:初めは仕事を覚えるところから始めました。Uターン翌年には東日本大震災もありましたが、幸い大きな被害はなかったので、被害を受けたエリアに食糧を供給するなど、復旧のために活動しました。当時、震災で目の当たりにした景色に、地域への思いがより強くなりました。

仕事にも慣れた2013年頃、父・治幸さんと話し合いリブランディングに取り掛かります。これまで「竹鶏物語」としてかぐや姫のデザインを起用していたパッケージを変更。竹鶏ファームの商品と認識しやすく、手に取る方に愛されるパッケージやロゴにリニューアルしました。

ーーリブランディングで大切にされたことはありましたか?

志村:専門家とキャッチボールを繰り返していくうちに、家族経営が根本にあるわが家では、「卵は家族みんなで食卓で食べるもの」だと気づきました。そこから着想を得て「卵が家族を育む」というキーワードにたどり着いたんです。家庭で料理をする人が喜んで手に取ってくれる、家族に食べさせたくなる、そんなデザインに一新しました。

志村:この頃、兄とともに考えたのが「日本で一番、ありがとうの”わ”が生まれる養鶏場」というビジョンです。
「何で日本一を目指すか?」と考えた時、規模を拡大することではないという結論に至りました。昔から、祖父母にも、両親にも物心ついた頃から「お客さんは大事だ、感謝の気持ちを忘れないように」と言われて育ってきました。この商いは、地元の方に愛されることが大事。昔も今も、会社のDNAとして受け継がれています。

毎月1回発行している「竹鶏かわら版」。竜生さんの母が2005年から始め、顔が見える養鶏場として、お客さんにぬくもりを届けている。手書きの文字やスタッフの近況などに親近感がわく。
毎月1回発行している「竹鶏かわら版」。竜生さんの母が2005年から始め、顔が見える養鶏場として、お客さんにぬくもりを届けている。手書きの文字やスタッフの近況などに親近感がわく。

僕らにできるのは、卵をはじめとする商品を通じて、「ありがとう」の輪が循環していくような養鶏場を目指すこと。「卵を通じて、幸せと健康を届ける」というミッションがずっと変わらずあるんです。

地域も家族ととらえ、これまでにも増して、地元の飲食店や小売店の縁をつないでいく竜生さん。飲食店やホテルのシェフなどの口コミで「竹鶏たまご」の名はどんどん広がり、売上の7割が宮城県内を中心とした外食業を占めるほどにまでなりました。

さらに、スフレパンケーキ専門店「FLIPPER'S」への卵卸、牛タン・利休の温泉卵をきっかけに加工場も新設。加工品事業の展開も始めたのもこの頃です。「竹鶏のたまごぷりん」「シフォンケーキ」など、卵以外にもさまざまな自社商品を持つようになりました。しかし、そんな勢いに乗る竹鶏ファームにも大きな壁が立ちはだかります。

売上が前年比4割減、コロナ禍で立たされた窮地と見つめ直した方向性

2020年、新型コロナの感染拡大が全国的に広がりました。
政府の要請もあり、飲食店は軒並み閉業・休業。その影響は竹鶏ファームにも大きいものでした。


志村:一番大きい影響があったのは、2020年の4月です。売上が前年比4割減まで落ち込みました。飲食店が営業できなくなれば使ってもらえなくなるので、それはしょうがない。でも、鶏は毎日卵を産む。急に減らすことはできないんです。

当時約4万8000羽のニワトリを飼育していた竹鶏ファーム。
コントロールできない卵の生産量をどうしたらいいか。生産者が生活者と繋がり支え合うCSA(地域支援型農業)という考え方を元に、竹鶏ファームでは配達用の車を使った「出前たまご」の取り組みを始めることにしたのです。


志村:震災やリブランディングで改めて感じた地域への思い。そして、コロナ禍によって、これまで竹鶏たまごを広めてくれた飲食店の皆さんがいたことに、深い感謝でいっぱいになりました。支えてくれるお客様は近くに沢山いて、そのお客様ともっと向き合わないといけない。地域に根付く生産者にとって一番大事なことだと改めて思い知りました。

奇しくも、新型コロナによって竹鶏ファームの方向性はより明確になりました。
テレビや新聞にも取り上げられ、2021年4月から2023年3月までの3年で、出前たまごは、約3万件の利用があったといいます。
出前たまごの採算性は決して高くありませんでしたが、原点に立ち返ることで、これまで以上に地元の人の認知度が高まりました。売上にも大きな影響を与えたコロナ禍でしたが、規制緩和とともに、経営状況にも少しずつ回復のきざしが見え始めました。

日本で一番、ありがとうの“わ”が生まれる養鶏場を目指して

しかし、コロナ禍を経た2022年から、飼料の価格高騰と鳥インフルエンザの発生がまたしても竹鶏ファームの経営を直撃しました。2022年12月には鶏卵と鶏肉の価格が1993年以降で最高値を記録。この背景には、ロシアによるウクライナ侵攻の影響による飼料高騰に加え、鳥インフルエンザの拡大が大きく影響したのです。

ーーこの頃の状況はいかがだったのでしょうか?

志村:2022年6月には赤字額が前年比3倍以上となっていました。コロナ禍で食べてくださる方が増えていたんですが、飼料代が上がり利益が出なかった。
ニワトリを減らそうと決断しても、数字に出るまでには半年ぐらい時間がかかるんです。

当初は、これだけ卵の値段が上がると予測できない状態でしたが、生産量を減らしてでも、届けたい人にちゃんと適正な値段で届けようと会社全体での方向を決めました。自分たちの原点である「地元の人に食べてほしい」という思い、昔から父が言っていた、「自分で作ったものを自分で値段をつけたい」という言葉を信じて。先はどうなるかわからないけど、夏に決断し、年明けには鶏を減らす、それまでは耐え抜く、そんな本当に厳しい状態で冬を迎えました。

ーーこの頃発信されていた「どうせ倒れるなら前のめりで倒れよう」という言葉が相当な覚悟だったのだろうと胸に刺さりました。

志村:夏に値上げを決めて、翌年の3月に駄目だったらもうしょうがないなという感じでしたね。潰れるところもありましたし、苦しさや後継者問題から辞める小さい養鶏場もありました。M&Aなども起こって、業界最大手の経営破綻は業界全体にも衝撃を与えました。

そんな中でも、竜生さんたち竹鶏ファームのメンバーは前を向き続けました。
2023年3月30日には、仙台市にある百貨店「藤崎」で、たまごを食べる産直DELIをコンセプトにした初の惣菜店「竹鶏ファーム仙台藤崎店」をオープン。竹鶏たまごをふんだんに使った「たまごサンド」や地域の飲食店と作り上げたたまご惣菜を販売しています。

竹鶏ファーム仙台藤崎店
竹鶏ファーム仙台藤崎店

ーー苦境の中でも挑戦し続けていますね。これからは人口減少の一方で高齢化が進み、健康に関する需要の高まりもあるのではと思いますが、今後の夢や目標というところをお伺いしたいです。

志村:「卵のテーマパーク」を作りたいという夢があります。
竹鶏らしいものを考えたときに、この場所に来てもらって、何かできないかなと。

父が言い続けてきたことで「卵は手段であって目的じゃない」という言葉があるんです。会社としても「卵を通じて幸せと健康を届ける」を掲げています。卵をテーマに、家族で来て、1日遊べるような楽しい場所を作って、健康になってほしい。生きものを扱っているので、命の大切さを感じられるような場所をいずれ作っていけたらと思います。

白石市で情熱をもち、日々挑戦を続ける竹鶏ファーム。その存在は地域の人々にとって大きな希望となり、これからも新しい価値を生み出していきます。

店舗情報

竹鶏ファーム 白石本店
〒989-0731 宮城県白石市福岡深谷字児捨川向1-2
営業時間 10:00〜17:30(年中無休)
T E L 0224-25-2814

仙台藤崎店
〒980-0811 宮城県仙台市青葉区一番町 3 丁目 2−17
藤崎百貨店 本館 地下1階
営業時間
金・土…10:00〜19:30
上記以外…10:00〜19:00
※藤崎百貨店の営業時間に準じます
T E L 080-2847-4162

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