【白石市長インタビュー】教育改革と市民の挑戦が紡ぐ、未来を創造するまちづくり
白石市プロジェクト
取材:中村敦史 文:高木真矢子 写真:阿部一樹
蔵王連峰のふもと、古来から交通の要衝として繁栄を築いてきた、宮城県白石市。
人口約3万1000人の白石市は他の地方都市同様、人口減少という大きな課題に直面する中、「挑戦」をキーワードに独自の取り組みを展開しています。
takibi connectではこれまで、地域へのアツい思いを持った白石市の挑戦者を取材してきました。今回は特別編として、現在進めている教育改革と白石の人々に宿る挑戦魂について、山田裕一 白石市長にお話を伺いました。
子育て世代に選ばれるまちを目指して
今回取材をおこなったのは「こじゅうろうキッズランド」。2018(平成30)年にオープンした、宮城県内最大級の子どもの屋内遊び場です。山田市長自身の子育て経験と、地域の子育て世代の声から誕生しました。
山田:私自身、子どもが4人おりまして「天気に関係なく子どもたちが元気に遊べる場所があったらいいよね」と、妻と話していました。加えてPTA活動などでも同年代の方々から「子どもの屋内遊び場」を熱望する声があったのです。市議会議員時代から提案していましたが、なかなか実現の目処が立たず、「自分がやるしかない」との思いから市長就任後、オープンにこぎつけました。
本市も消滅可能性自治体※に含まれており、毎年出生数が非常に減少している状況にあります。持続可能な白石を市民の皆さんと作り上げるため、現在さまざまな政策にチャレンジしているところです。
特に力を入れているのが、より充実した教育環境・子育て環境の整備。子育て世代の皆さんから選ばれるまちを目指しています。
※若年女性人口が2020年から2050年までの30年間で50%以上減少し、人口が急減することによって、最終的に消滅する可能性がある自治体
山田市長自身が先陣をきって挑戦する白石市。力を注ぐ教育改革は、2019(令和元)年にスタートし着実に成果をあげているといいます。
山田:まず第1ステージとして取り組んだのが、教育レベルの向上です。
具体的には慶応義塾大学と埼玉県が共同製作した学力調査がありまして、本市では2019(令和元)年に導入しました。点数の高低に一喜一憂するのではなく、 学力の伸び幅を客観的に分析できるのがこの調査の特徴です。 調査によってクリアになった、得意分野と苦手分野に合わせて、担任の先生が子どもたち一人ひとりに適切なアプローチを行っています。
2023(令和5)年度の全国学力調査では、全国平均を超える学校も複数認められるなどの結果が出はじめています。英検・漢検などの検定受験に際しても、市では2分の1の補助を無制限に実施しています。山田市長は「行政として、頑張ろうという子どもたちの背中をポンと押してあげたい」と語ります。
教育改革のネクストステップ「白石きぼう学園」の誕生
5年間で着実に結果を残してきた白石市の教育改革。2022(令和4)年から第2ステージとして取り組んでいるのが、不登校児童生徒への支援です。2023(令和5)年4月には「義務教育の段階における普通教育に相当する機会の確保等に関する法律」施行後、全国初となる小中一貫の不登校特例校(現:学びの多様化学校)「白石きぼう学園」が開校しました。
山田:「白石きぼう学園」では「ありのままの君を受け入れよう」をコンセプトに、不登校の児童・生徒に新たな学びの場を提供しています。
いま子どもたちは「これをしなきゃならない」と、枠にはめられる場面が多く、中には窮屈さや生きづらさを感じる子も少なからずいるんですね。 きぼう学園では「やりたいことをやろうよ」と、さまざまな行事も子どもたちの主体性を尊重し、運営しています。
きぼう学園に行ったことによって、友達ができて、 自分の悩みを聞いてくれる先生に出会える。子どもたちにとって「自分だけの居場所」が出来あがっているんですよね。
開校から1年、市外から転入し「白石きぼう学園」に子どもを通わせる家庭もでてきました。 取り組みは注目を集め、2023年だけで視察が100件を超えました。山田市長は「子どもたちは環境によって、前向きに変わるのだと痛感した」といいます。
山田:非常にありがたいことに、出前授業や教育用のドローン提供など、さまざまな企業から、きぼう学園に温かいご支援をいただいております。 そういった中で、「自分が将来大人になったら、自分たちを支援してくれた企業に勤められるように、高校に行ってしっかりと勉強したい」ーー2023年度の中学3年生・8人全員がそう思ってくれて、高校入試にチャレンジしてくれたんです。そして、全員が第一志望の高校に合格しました。本当にこの学校を作ってよかったと感じています。
市民主導の挑戦が紡ぐ地域の絆
「白石きぼう学園」をはじめ、全国に先駆けた取り組みをおこなう白石は、まさに挑戦のまち。歴史をさかのぼると、まちは挑戦者によって支えられ、発展してきました。伊達政宗の危機を3度救ったと言われる白石城城主・片倉小十郎。白石温麺を考案した鈴木味右衛門。温かい心を持ち「ピンチをチャンスに変える」DNAは、今も白石市民に脈々と受け継がれています。
ーーこれまでtakibi connectで取材する中で、 白石の皆さんが逆境にあっても挑戦されている姿が印象的でした。地域の中でのチャレンジについてもお話をうかがえたらと思います。
山田:人口減少が大きな課題になっている中で、本市の斎川地区は住民主体で「地域を盛り上げていこう」と、新たな地域づくりに乗り出しました。
小・中学校が廃校になった斎川地区でしたが、地域の人々は「学校が廃校になったからといって、地域が廃れたと思われたくない」と一致団結したのです。中学生以上の全地区民にアンケートを取って課題を洗い出し、LINEの公式アカウントを活用した情報発信や、地域の伝統文化の継承などをおこなっています。
2020(令和2)年には文部科学大臣から「日本一の公民館」として表彰されました。
山田:人口減少という課題はありますが、市民の皆さんが協力しあい、持続可能な公民館活動や地域づくりへの動きが出ています。
それぞれが地域に誇りと愛着を持って、 自分にできることを積極的に展開している。一人ひとりがチャレンジャーという風に、私は受け止めております。
ーーいわゆる“レジリエンス”を皆さん持っていらっしゃるなと。地域内での切磋琢磨によって、長い歴史をもって事業をされている方々が非常に多い印象を受けます。
山田:本市にはいまも旧村単位のまちづくり協議会や公民館があり、地域のお祭りや踊りなど、伝統や歴史が継承されています。そうした歴史的な文脈も、各地域が切磋琢磨する根底にあるのでしょう。
行政・市民ともに持続可能な地域づくりに挑む白石市。ふるさと納税の寄附は地域づくりや子育て支援にも活用され、挑戦を後押ししています。
山田:人口減少・少子高齢化という大きな課題がある中で、ふるさと納税は「応援したい」という温かいメッセージが込められた、非常にありがたい財源だと受け止めております。
いただいた寄付は、子育て世代の皆さんに選ばれるまちづくりの財源として、活用しています。たとえば「白石きぼう学園」では、子どもたち一人ひとりに個別最適な教育を提供するため、教材の購入や体験学習の実施などに充てています。
子どもたちの「やりたい」をわれわれ大人が、行政が、しっかりと応援してあげられるように、最大限活用しております。
未来を見据え、幼児教育から生涯学習まで
白石市の取り組みは国際的にも注目を集め、2023(令和5)年8月にはOECD(経済協力開発機構)から、教育に関する調査協力の依頼を受けました。山田市長はさらにネクストステージへと目標をかかげています。
ーーさまざまな白石市の挑戦を聞かせていただき、ありがとうございます。今後構想している取り組みについても教えていただけますか?
山田:2024(令和6)年度からは、「教育改革3.0」がスタートし、幼児教育と保育の充実に力を注いでいます。新たに「こども未来課」を設置し、幼稚園と保育園の一元管理をスタート。また文科省から採択を受けた「架け橋プログラム」を実施し、幼稚園・保育園から小学校に入学する際の「 小1ギャップ」の解消も目指しています。「英語特区」として、英語教育は小学校1年生から実施しています。
今後は小学校から中学校までの9年間、一貫した教育を提供する「義務教育学校」の設立も構想しています。
山田:加えて、「子どもの第三の居場所づくり」にも力を注いでいます。さまざまな環境で生きづらさを抱える子どもたちのために、放課後に宿題のサポートや食事の提供、入浴支援などを行う場です。
さまざまな環境の子どもたちを行政として最大限支え、次の世代を生き抜く子どもたちの育成に、力を尽くしていきたいと考えています。
ーー先日「持続可能な地域づくり」をテーマに、デンマークへ視察に行き、森のようちえんなど北欧独自の教育機関を見学してきました。お話をうかがい「子どもが自ら挑戦し学ぶ、それを大人が応援する」白石市の教育は、デンマークの教育と通じるものがあると感じました。
山田:ありがとうございます。「子どもの個性と能力を尊重し、社会全体で子どもの成長を支えよう」という、根底にある理念から、そう感じていただけたのかもしれません。
ーー最後にこれからの白石市の展望を教えてください。
山田:教育に重点をおいてお話ししてきましたが、今後はスマートインターチェンジ※の整備と併せて、防災機能を備えた道の駅の整備を計画しています。平時にも市民の皆さんが公園として活用できる場にしたいと、構想しています。さらに音楽のまちづくりにも力を入れたいですね。
日々の暮らしの中に挑戦できる雰囲気のあるまちにしたい。生涯学習の一環としても、子どももアーティストも、応援できるような白石でありたいと思っています。
※スマートインターチェンジとは、高速道路の既存施設から一般道に出入りできるよう設置された、ETC専用の簡易型インターチェンジのこと。
山田:変化を恐れることなく挑戦することが、まちづくりにおいても重要だと私は考えています。白石市民は「地域のために何か自分にできることを・・」と思ってくださる方が非常に多い。自分ができることの小さな積み重ねで、地域の笑顔は増えていくと、自信を持って言えます。
市民の皆さんと地域がともに協力し、新しい価値を生み出していく。新しい価値に挑戦し、輝き続ける白石市をこれからも目指していきます。
人口減少という逆風の中、教育を軸とした新たな価値の創造に挑む白石市。市民と行政が一体となって未来を創造しようとする姿は、私たち一人ひとりに、自分の住むまちをよりよくしていく力があると、気づかせてくれます。さまざまな課題に直面する日本の地方都市にとって、白石市の取り組みは希望の光となるかもしれません。
白石市よりご案内
【ふるさと納税・選べる使いみち】
白石市では、ふるさと納税寄附金を第六次白石市総合計画における分野目標の実現などのための活用させていただいております。
次の7つの使い道から寄附申出の際に選択することができます。
〇1「人・文化を育む」
学校教育の充実、歴史遺産・伝統文化の継承と活用など
〇2「みんなで地域づくりを進める」
時代に対応したコミュニティの形成、協働のまちづくりの推進など
〇3「暮らしをともに支え合う」
地域福祉の推進、子ども・子育て支援の充実、高齢者福祉・障がい福祉の充実など
〇4「安全・安心を守る」
防災・減災対策の充実、交通安全・防犯対策の充実など
〇5「活力・賑わいを創る」
農林業・商工業・観光の振興、雇用・就労支援の充実、移住・定住の促進など
〇6「まちの未来を描く」
豊かな自然環境の維持、快適な生活環境の構築、道路・公共交通の整備など
〇7「白石市のため」
幅広く市の事業に活用
その他、事業実施報告もぜひご覧ください。