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日本一の公民館が目指す、住民が主役の地域づくり

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日本一の公民館が目指す、住民が主役の地域づくり

白石市プロジェクト

文:高田江美子 写真:鈴木宇宙

「公民館」という場所に対して、どんなイメージを持っていますか?
あまり馴染みがない方もいれば、よく利用するという方もいるでしょう。本来、公民館とは、地域住民にとっての学習拠点であり、交流の場としての役割を果たす場所。

公民館本来のあり方に立ち帰り、住民とともに歩む地域づくりをおこなうのが、宮城県白石市の斎川公民館です。取り組みが評価され、全国に14,281館※ある公民館の中から、文部科学省の第72回優良公民館表彰で「最優秀公民館」を受賞しました。
※平成30年度社会教育調査より

公民館で活動の中心となり奔走する、斎川まちづくり協議会会長の畑中さん、事務長の佐藤さん、白石市役所の佐々木さんにお話をうかがいました。

左:白石市 市民経済部まちづくり推進課 まちづくり支援係 係長 佐々木さつきさん 中央:白石市斎川公民館 斎川まちづくり協議会 事務長 佐藤幸枝さん 右:白石市斎川公民館 館長 斎川まちづくり協議会 会長 畑中多賀男さん (それぞれ、部署・役職名は2021年10月現在のもの)
左:白石市 市民経済部まちづくり推進課 まちづくり支援係 係長 佐々木さつきさん 中央:白石市斎川公民館 斎川まちづくり協議会 事務長 佐藤幸枝さん 右:白石市斎川公民館 館長 斎川まちづくり協議会 会長 畑中多賀男さん (それぞれ、部署・役職名は2021年10月現在のもの)

社会教育施設としての公民館

ころ柿(干し柿)作りが盛んで、秋には家々の軒下に柿がぶら下がる様子が風物詩の斎川地区。昔ながらのおだやかな光景が広がる地区の公民館が、なぜ「最優秀公民館」に選ばれたのでしょう。まずは、斎川公民館の特徴的な取り組みについてたずねました。

ーー斎川公民館では、どのような活動が行われているのでしょう?

畑中
:一番特徴的なものは「きらり斎川笑アップ塾」です。地域の人たちとともに、課題を探り、解決のために学び、考え、実現するための連続講座。
具体的には、世代別の若者会議や地域円卓会議、役員と行事の棚卸しなどをこれまで行っています。20歳代を講師にしたLINEの講習会も開催しました。高齢者と若い世代が交流する場となっています。
平成30年度に実施した全住民アンケートで浮き彫りになった課題をもとに、「誰もが安心して暮らしやすい斎川」をめざし活動しています。

佐藤:公民館は社会教育施設。地域の課題解消のため、自ら考えることも社会教育です。公民館はその学びの場なんですね。
放課後子ども教室もそのひとつですね。白石市第二小学校児童を対象に、笹巻づくり体験や蓮の花の観察など、子どもたちが歴史や文化に触れる活動です。
参加した子どもたちは、幅広い年代の人と関わりながら、地域を愛する心を育み、さまざまな体験を通して知識や知恵を身につけています。

ーー平成30年度に実施した「全住民アンケート」をもとにさまざまな活動をされてきたとのことですが、全住民とはかなり大規模ですよね。実施した背景には何があったのでしょうか? 

佐藤
:まちづくりを考える上で、地域の現状と将来予測がどうなっているのかを、専門家を呼んで、住民と共に学びました。その後、どうしたらよいのかを考えたところ、会場にいた住民の中から自然と「まずは、アンケートを取って地域の現状を知ろう!」との声が上がってきました。

佐々木:斎川地区内に10ある自治会の会長の協力で、担当地区内の家庭を回って、配布・回収していただいたんです。そのおかげで、85.5%という高回収率になりました。

ーーアンケートからは、どのような課題が見えてきましたか?

佐藤
:野生動物による農作物被害に対する課題が一番多かったですね。
世代によっても、課題に思っている内容や項目の順位も異なる結果でした。

畑中:斎川地区は高齢者の割合が多いこともあるので、交通に関する問題も挙がりました。

アンケートの結果から次のステップとして、地域住民参加の報告会を実施しました。ですが、その会には若者が全然来なかったんです。その場で、参加者から「若者の意見も聞きたい」「若者にもこういうことを考えてほしい」といった要望がありました。すぐに「きらり斎川笑アップ塾」で、若者たちの声を聴く会を企画しました。それが「若者会議」です。

佐藤:まちづくりを考えていくにあたって、地域の未来を担う若い世代の考えは重要です。「まずは若者たちの声を聴いてみよう」と動き出しました。

若者会議の様子
若者会議の様子

次世代を担う若者たちを呼びたい

全住民へのアンケート調査から、地域の課題が浮き彫りになった斎川地区。次の一歩として取り組んだのが、若者への参加を呼びかけることでした。

ーーもともと参加率の低い若者を集めるというのは、大変だったのではないでしょうか?

佐藤
:あの手この手を使って、どうにか来てもらえるように考えました。親御さんや子どもたちのネットワークを使ったり。
ある親御さんから「定期テスト明けなら参加できるんじゃない?」という声をいただいて調整したら、みんな来てくれたんです。

始まるまでは、誰も集まらないんじゃないかとすごく不安だったんですよね。最終的には20名ぐらいが集まって同窓会状態に。「久しぶり~」と声をかけ合って、最後はみんなで記念写真を撮りあって。印象的な光景でしたね。

ーー若者会議の場ではどのような意見がでたのでしょう。

佐藤
:「公民館事業に参加してくれないのはなぜか?」を尋ねたところ、「チラシを見ていなくてイベント自体を知らなかった」「自分一人で行くなら嫌だけど友達と一緒なら参加する」という声がありました。子どもたちの状況や私たちのやり方がだめな理由など、その場で学ぶことが出来ましたね。

地域のLINE公式アカウントを作っていたので、その場で参加者に登録してもらって。それから地域の情報は、LINEで発信するようになりました。それ以来、若い世代が地域活動に参加してくれるようになりましたね。今はスタッフとして協力してくれる20代の仲間もできて。運動会や夏祭りなどの地域行事に、積極的に参加してくれるようになりました。

佐々木:参加者の1人が、後日A4の用紙にビッチリと「斎川はこれからこういうことをしていった方が良い」という考えをまとめたものを、斎川公民館に届けてくれたと聞き、びっくりしました。若者がそこまでの熱い想いで地域を思ってくれているなんてと。

佐藤:そこから「S・S・G」(斎川サポートグループ)という若い世代のグループを作って、行事などサポートして欲しい場面で声をかけて、協力してもらっています。

「若者会議」を経て、若者たちが積極的に地域のイベントに参加してくれるようになった斎川地区。主要メンバー8名が「S・S・G」(斎川サポートグループ)を結成し、公民館活動をサポートしています。メンバーの松野さんと遠藤さんにもお話をうかがってみました。

左:遠藤玲那さん 右:松野歩依さん
左:遠藤玲那さん 右:松野歩依さん

ーー「S・S・G」(斎川サポートグループ)では、どのような活動をされているのですか?

遠藤
:結構色々ありますね。一番多いのが、斎川の伝統行事を小学生に体験してもらう「放課後子ども教室」です。季節毎に年間4回実施しています。

松野:斎川地区名産の「ころ柿」作りや、昔ながらの食である「笹巻」、正月飾りのだんごさしやしめ縄づくりなど。年長者の方が指導役になって子どもたちに伝統文化を教え、地域住民の交流の場となっています。

ーー活動を通じて変化はありましたか?今後の展望などあれば教えてください。

松野
:もともと人見知りなタイプだったんですが、地元の人たちと斎川の伝統やイベントに携われるのはやりがいを感じますね。
小さい頃は、地元には何もないと思っていたんです。でも、伝統や歴史が繋がれていて、掘り下げてみたらすごく面白くて。”いにしえの文化”が斎川地区にあったんだと、気付きました。
活動を通じて地域の課題を知ることにも、面白さを感じています。「課題に気付く目」も養われるというか。自分自身のスキルアップにも繋がっています。
私は絵を描くのが好きなので、ゆくゆくはオリジナルキャラクターを作って、PRに繋げられたらうれしいです。

遠藤:斎川公民館の佐藤さんを中心に、若者たちが地域での取り組みに参加する場が出来て嬉しいです。活動の原動力は、地域を盛り上げることで、「斎川の外に出ていった人たちが帰ってくる場所を守っていけたら」という想い。
私は、色々な人を繋げていけるような、飲食店を作れたら良いなと思っています。斎川は人が集まれる場所が少ないので、誰でも気軽に入りやすい場所を作りたいです。

お二人は斎川地区で生まれ育ち、幼稚園から中学校まで一緒の学校で学びました。(閉校を迎えた斎川小学校の平成30年度卒業生の寄せ書きの前にて)
お二人は斎川地区で生まれ育ち、幼稚園から中学校まで一緒の学校で学びました。(閉校を迎えた斎川小学校の平成30年度卒業生の寄せ書きの前にて)

大きな危機感が生んだ当事者意識

幅広い地域住民が当事者意識を持って活動に参加するようになった斎川地区。順調に歩んできたかのように見える、公民館を中心としたコミュニティ形成ですが、活動を後押しした背景には大きな危機感があったのです。

ーーここまでのお話だと、順調にコミュニティが作られた印象を受けます。スタート時は困難なこともあったと思うのですが。

畑中
:私たちが地域づくりに向けて大きく動き出したのは、平成30年。少子化の影響で斎川小学校・南中学校が閉校すると決まったことがきっかけでした。
子どもの減少は、地域全体の衰退につながります。それに対する危機感は、地域の共通認識。「何とかしなくちゃなんないな」という気持ちが高まっていたんです。

まずは、学校の閉校を機に「ころ柿作り体験教室」を企画したところ大盛況でした。ですが、イベントにだけ注力しても地域の持続性は高まりません。さまざまな活動の保存や維持、生活不安など、地域の行く末に大きな危機感を抱く住民が増加したんですね。

畑中:誰もが安心して暮らしやすい斎川地区を作っていくには、どうしたら良いのか。暗中模索していた頃に参加した「白石笑顔未来塾」からヒントを得て、「きらり斎川笑アップ塾」がスタートしました。そこから、地域住民と一体となった斎川地区の地域づくり活動が、本格的に動き出したのです。

佐藤:アンケートも身近に前例がない中で様式から考えなきゃいけなかったし、大変さはつきものですよ。でも、楽しいんですよね。大変さはあるけど、諦めようとは思わない。
斎川の未来のために、私たちも本気だったし、行政も本気だったから今の姿があるのだと思います。

佐々木:地域の取り組みに対して「自分たちが目指すべき未来の姿を、自分たちで実現したいんです」と、ここまで熱い気持ちを持って取り組めるって、奇跡に近いと思うんです。だから、私たち行政は応援すべきだろうと。斎川地区のこれらの取り組みがスタートした当時のメンバーみんなが、「何とかしたい」という気持ちを持って動きました。

畑中:我々がまちづくりに向けて、こうした活動をはじめてから今年で3年目。とりあえず、歩みを止めなかった、というのは大きかったかもしれないですね。
「斎川笑アップ塾」を実施するにあたっては、当初、指定管理の委託料の中では難しい予算規模で、市としても捻出できる予算が無い状況でした。佐々木さんはじめ、さまざまな方の協力や工夫があったからこそ、歩みを止めずに取り組んでこれました。色々スムーズではなかったですが、なんとか一歩ずつ前に進んできましたね。

ーー熱意を持って、それぞれの立場でそれぞれのやるべきことを最大限やったからこそ、今の状態があるのですね。

畑中
:不安な面もありますよ。6~7年かかると言われたことを2~3年でやっている状況ですから。良い指導者がいて、地域住民の結束があるからこそ実現できたのだと思います。
佐藤:斎川地区には「子どもは地域の宝だ」と、学校と地域が協力し合いながら子育てしてきたという歴史があります。その土台があったからこそ、「地域に愛着を持ち、何とかしたい、今がその時だ」と、20代の若者が積極的に協力してくれるんだと思います。先代の皆さんの活動の積み重ねがあったからこそ。

地域に学校が無くなったということは、大きな損失。子どもたちを巻き込んだ未来の斎川地区に対する種まきの機会が減ってしまったんです。

畑中:通学もバスになってしまったり、子どもとの接触の場が無くなってしまったものね。
だからこそ、集まる場やきっかけを作り出す必要があるんだよね。

一人一人が幸せな未来を描ける斎川に

昔からの地域の繋がりや下積みがあったからこその、今の斎川公民館の姿があります。不確実な時代の中で、大切なのは人同士の繋がり。どんどん進み続けるであろう、斎川公民館の今後についてうかがいました。

ーー今後、取り組みたいことや目指す姿などはありますか。

畑中
:これから始めようとしているのは、年長者の困りごとへのサポートです。早急に対応が必要な課題だと認識しています。あとは地域を盛り上げるための活動ですね。地域資源の活用、一人・二人暮らし高齢者世帯へのケア、豊かな美しい自然の保持。課題はつきません。とりあえず今は困りごとの解消が優先ですね。

佐々木:私が斎川公民館や地域の方々と付き合う中で、大切だと感じるのは、「そこに住む一人一人が良くなる・幸せになる」という捉え方です。「地域」と一括りにせず。未来を自ら描き、自らの手で実現していけるように。実現に向けたサポートを行政としてできたらいいなと思っています。

この仕事をする中で、地域・住民の方の力ってすごいなと思って。

私がこの地区と関わるようになったのは、地区公民館が指定管理になってちょっと過ぎた頃でした。当時まちづくり協議会は、貸館と毎年同じような事業を行っていくという考え方が強いと感じていました。でも、それから数年後、事務局体制も変わり、小中学校の閉校を機に、「自分たちが好きな地域を何とか残していきたい」という気持ちに切り替わってまちづくり活動がスタートしました。そこから、日本一の公民館として表彰されて。

次から次へと、私たちには発想できなかったようなことを考え、皆さんが実現させてきました。強い想いと実行する力は、本当に素晴らしい。現場に立ち会い、間近でその歩みを見られるというのは、本当にありがたいですね。

佐藤:今後の取り組みについては、地域の人が自分たちで決めて進んでいくことが、本来のあり方だと思っています。

地域が一つになっていくって本当に難しいと思うんですよ。だからこそ、地域のみんながお互いを理解し合いながら、「少しでも暮らしやすくしていくには?」といった話し合いをして決定していくことができる場が大切。
私たちの先輩方は、子どもたちに対し、愛情をかけて色んな体験をさせ、大事に育てていました。「地域全体で子どもを育てる」ことは斎川の宝。今は、さまざまな事情で世代間の交流や繋がりが少なくなっています。だからこそ、斎川の宝を受け継ぎ、次の世代に繋いでいきたいと思っています。

皆さんの熱い想いを受けて、私自身も胸が熱くなりました。情熱をもって取り組めるのは、「自分たちで地域をなんとかするんだ」という圧倒的な当事者意識が根底にあるから。今回お話をうかがった二人の若者にも、その情熱は確実に受け継がれていました。

地域が子どもを育て、子どもたちが未来に繋げていく。「まちづくりは、ひとづくりである」ということを、目の当たりにした取材でした。まだまだやることは沢山あると仰る斎川公民館。これからの活動と進化に目が離せません。

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