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村民の声から生まれた「さるふつ牛乳」実直に積み上げた30年間とこれから|猿払村畜産振興公社

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村民の声から生まれた「さるふつ牛乳」実直に積み上げた30年間とこれから|猿払村畜産振興公社

猿払村事業者の想い

文:立花実咲 写真:原田啓介

有限会社猿払村畜産振興公社が運営する、乳製品の加工場「牛乳(ちち)と肉の館」ができたのは、1990年のこと。当時、地域活性化を目的にした、一村一品運動がさかんで、各地に商品開発のための施設が次々に立ち上がりました。

今でこそ、猿払村のバターや牛乳は根強いファンが全国各地にいる名産品。とはいえ、公社が立ち上がった当初は、酪農家が作る乳製品はすべて村の外で販売され、地元の人々が口にする機会はありませんでした。

けれど「猿払の牛乳を飲みたい」という声に応えるため、一村一品運動の高まりも重なって、「さるふつ牛乳」そして「さるふつバター」、次いで「さるふつアイス」が誕生したのです。

安定した品質とおいしさを提供するために

バターやアイスは、「さるふつ牛乳」の牛乳を提供している酪農家と同じところから原料を仕入れています。一つの農家さんに絞ることで、品質と流通を安定させるねらいがあるとのこと。

すでに30年近く、商品を作り、届けている猿払村畜産振興公社。ご担当者の一人・油井泉さんに、現在までの道のりをうかがいます。

油井:この施設は1992年から稼働を始めて、商品を作っています。牛乳だけではバリエーションが少ないし、もともとこの施設自体、バターやアイスを作る設備があったので、商品を少しずつ増やしていきました。

今は、「さるふつ牛乳」と、「さるふつバター」「塩バター」、「さるふつアイス」は6種類の味があります。

── それぞれ、どんなこだわりがあるか教えてください。

油井:牛乳は、78度、20分で高温殺菌をしています。牛乳の成分を均一化するホモジナイズという作業をしていません。だから、脂肪分がお乳を絞った状態に近いため、しぼりたてのような濃厚な味になるんです。

スーパーなどで売っている、均質化された牛乳は、しばらく置いておいても変化がありませんが「さるふつ牛乳」は、脂肪が浮いてくるのが分かります。品質に問題はないですが、しぼりたての味を楽しんでもらえるよう作っているからです。

油井:「塩バター」は、フランスではバゲットにソルトバターを乗せて食べるらしいという話を関係者が聞きつけて、それを猿払でも作ってみようと思って生まれました。

日本で岩塩は採れませんが、粒の大きい、ミネラルをたっぷり含んだ塩を沖縄で見つけて、それを混ぜ込んで「塩バター」として販売しています。塗るというよりも食べるバターとして「塩バター」は食感を楽しんでもらえると思います。日常的にいろいろな料理で使いやすいのは「さるふつバター」ですね。

油井:「さるふつアイス」は、バニラ、コーヒー、胡麻、黒糖、チョコ、抹茶の6つの味があります。そのうち、黒糖味には波照間島の黒糖を使ってます。「塩バター」に使う岩塩を探していたときに、沖縄で縁があって見つけた黒糖です。イタリアから仕入れた、ジェラートを作るための機械を使用して、口当たりがなめらかになるように製造しています。

── デザインも統一されていて、どれもおいしそうです。これらができるまでに、油井さんが大変だったなと感じる出来事、いろいろあると思いますが、なにか教えてください。

油井:うまくいかないことは、もちろんいっぱいありましたよ。作るからには売り先がないと、商売として成り立ちませんから。そういう意味で、より流通させるために、パッケージを変えたりもしました。牛乳は当初、ビンで売っていましたが、コストや重さを考えて、今は樹脂ボトルにしています。

「さるふつバター」も、以前は缶を使っていたんです。でも、缶を作っている業者さんが、製造量を減らすことになってしまって。買っていただく方には「缶の方がいい」という声を、今でもいただくんです。応えたい気持ちもあるんですが、商品を作ってしっかり届けることを考えると、プラスチックに変えざるを得ませんでした。

── 30年間、いろいろな分岐点や壁があったと思いますが、特に油井さんの印象に残っているものはありますか?

油井:
2003年くらいに、機械が古くなったのもあって、2年間くらい製造をストップしていたんです。でも、地元の農家さんを中心に「ぜひまた作って欲しい」という声があって、機械も管理がしやすいように小規模のものに切り替えて、再開しました。

一村一品運動が興ったときは、全国のいろんな市町村で、加工施設や工場を作ったんですよね。でも、結局作っても物が売れなくて、ほとんどが潰れちゃったんですよ。その中で、うちはこういう形で残って製造を続けられているんで、間違っていなかったんだなと思っています。

あえて流行に乗らず実直にやってきた

── 乳製品と聞くと、スイーツとかチーズとか、素人の意見ですが、もっといろいろなものが作れそうな気がしてきます。

油井:そうですね。ヨーグルトとかチーズとか、「こういうものをもっと作ったらどうか」と意見をいただくことも多いです。でも、繰り返すようですが売り先をしっかり作らないと、という思いがあります。

私自身、作りたい気持ちはあるんです。ただ、流行だとか周りの意見に合わせすぎるのは、違うかなと。安い商品ではないですが、ふるさと納税の返礼品として買ってくれるお客様も少しずつ増えています。めずらしいものを脈絡なくいきなり作るより、地道に、できることからしっかりやっていく方が、近道なんじゃないかと思っています。

── 安売りしない方が、濃いファンがついてくれそうな気もします。

油井:私たちから営業をかけたり売り込んだりは、あんまりしていないんです。買ってくれたお客さんが、どんどん口コミしてくれて。

この前、たまたま関西のローカルテレビで「さるふつバター」が映ったらしいんです。お家の冷蔵庫を見せてくださいっていう企画で登場したお父さんが「子どもたちが大好きで」って紹介したのが、うちのバターだったんです。

── おお! すごい偶然ですね。

油井:
次の日から、いきなり注文が増えて。自分たちは、最初は何が起きたのか、わからなかったんですけど。そうやって、全国のいろんなところにいるお客さんが、うちの商品を買ってくれてるんだと知れた瞬間でした。うれしかったですね。

── 今後、新しい展開として油井さんが考えていらっしゃることは、ありますか?

油井:村のIoT推進事業で、イチゴの栽培が予定されています。猿払産のイチゴを使って、アイスを作れたらと思っています。

他にも私自身、やってみたいことはあるんですけど……それも、まずは売り先を考えつつ……あんまり派手な性格ではないので、慎重になっちゃうんですけど(笑)、既存の商品の生産量を増やしたりとか、できることからやっていきたいと思っています。

村外へのPRや、観光資源として、一村一品を目指し、スタートした乳製品の商品開発。村外へ視点を向けつつ、やっぱり地元の方にも食べてもらいたいという思いを忘れない姿勢、そして油井さんを筆頭に流行り廃りに流されず粛々と自分たちができることを続けてきた積み重ねが、30年間、製造が続く理由のように感じます。

筆者も、牛乳、バター、アイス、すべていただきました。牛乳は濃厚なのに口の中に残らず、ごくごく飲める軽やかさもありました。バターは、焼き立てのハードパンに乗せて。アイスは定番のバニラ味をいただきましたが、こちらも口当たりがなめらかで、想像していたよりサッパリしていたため、老若男女に愛される味だと感じました。猿払村の大地ではぐくまれた名産に、舌鼓を打ってみてくださいね。

会社情報

㈲猿払村畜産振興公社
〒098-6222 北海道宗谷郡猿払村浜鬼志別214-7

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