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猿払の歴史もまるごと届けたい。巡り会い、伝播する小松水産の想い

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猿払の歴史もまるごと届けたい。巡り会い、伝播する小松水産の想い

猿払村事業者の想い

文:三川璃子 写真:原田啓介

成功の裏側には必ずみんな苦労があるーー「ホタテの村」「年収の高い村」として、今では数多くのメディアに取りあげられる猿払村ですが、ほんの数十年前には想像を絶する苦悩時代を乗り越えていたのでした。
「猿払村が奮闘した歴史も一緒に届けたい」と語ってくれたのは水産業、土産・飲食店「さるふつまるごと館」を経営する小松水産代表の小松孝喜さんです。

猿払村の特産品ホタテをはじめ、牛乳やバターなどいくつもの商品を通して、猿払の魅力を発信し続ける小松さんの想いを伺います。

漁師の手で、地元に届ける

小松水産が営む「さるふつまるごと館」は、むきたてプリプリのほたて丼が食べられるだけでなく、猿払牛乳やアイスなども購入できるお土産店として観光客、地元民からも愛される場となっています。ここまではどんな道のりがあったのでしょう?立ち上げのきっかけから現在に至るまでを紐解いていきましょう。

ーー「さるふつまるごと館」を立ち上げたきっかけは?

小松
:うちは先代からずっと家族で、鮭やマスを獲る定置網漁業をやってました。私も引き継いで漁師をしていた頃に、道の駅で行われた祭りで「海産物を売ってみないか」と声をかけられたのがきっかけですね。「自分たちが朝獲った魚をここで売ってみようか」ってことで、イベント出店したんです。

猿払村って漁業が盛んなイメージでしょ?でも、獲れた魚は都市圏に送られるので、地元の人はここで獲れる魚を食べる機会がなかったんですよ。せっかくなら、自分の住んでいるところで獲れた魚を味わえる場所があればいいよねってことで、正式にお店として立ち上げることにしました。

あともう一つの目的は、漁業に関わる人たちの冬季雇用の確保。漁師たちは、11月末でほとんど仕事がなくなるので、3月くらいまで他の仕事を探さなきゃいけなくて。自分も漁師やってたので、その大変さを経験してます。アルバイトとして時計屋さんで働いたり、土方の仕事をして冬の生活をしのぐんです。

でも漁師なら、冬も漁業に関わる仕事ができたらいいよなって。乗組員の雇用を確保したいという思いも相まって、この事業を始めました。

さるふつまるごと館で食べられるホタテ丼。 プリっとした大ぶりの貝柱、食べてみると繊維を感じるシャキッとした食感。口いっぱいにホタテの甘みを感じるあの瞬間は忘れられません。
さるふつまるごと館で食べられるホタテ丼。 プリっとした大ぶりの貝柱、食べてみると繊維を感じるシャキッとした食感。口いっぱいにホタテの甘みを感じるあの瞬間は忘れられません。

ーー漁師の方がここで働かれているんですね。

小松
:そうですね。働く人間が漁師だからこそ、鮮魚やほたては常にいいものを取り揃えてますよ。水槽にあるほたては、実際に私や息子、乗組員が現地に行って買い付けしたものです。人任せで買うことは絶対ありません。たくさん買い付けする時でも、全部一つ一つ手で選びます。

店に並べる鮮魚も同じ。地元の人を頭に浮かべて、自分の目で確かめて買っています。地元の人イコール地元の漁師も来るということ。「やっぱりお前、いいの揃えてくるな」って言われたいじゃないですか。

やむをえず満足のいく仕入れができなかった時も、後日いいものが入って来れば、入れ替えます。それだけ漁師の誇りをもって水産物を売っていますよ。

ーー先ほどホタテ丼を注文した際に、水槽から生き生きとしたホタテが出てくるのがとてもワクワクしました。

小松
:前まで、ホタテ焼きを頼まれた際は、お客さん自身にホタテを取ってもらっていました。コロナのこともありますし、ホタテが突然水を吹き出して服が汚れちゃったりするので、今は私たちスタッフが選んで取ってます。

あと、お客さんが選ぶと時々小さなやつに当たってしまうんですよね。それ見てなんだか申し訳ないな〜と思ってしまって。やっぱり食べてもらうには、大きくて良いやつを食べて欲しいじゃないですか。だから私たちでいいホタテを厳選してます。

一期一会が成長の一歩に

「お客さんとの会話は好きですし、なんでも自分で全部やりたくなっちゃうんです」と小松さん。取材とは別で、私もお客さんとして小松さんと会話する中で、楽しさを感じました。小松さんが現場に立ち、お客さんとの会話を大事にするのにはある理由がありました。

ーー漁業からお店の経営に変わり、働き方もガラリと変わったと思いますが、大変だったことはありますか?

小松
:何もかも初めてで大変でした。もともと私、人と話すのは得意じゃなかったんです。それで、クレームやお叱りを受けたこともあります。全て素直に受け止めて今に至ります。

ーーそうなんですか?小松さんお話上手なので、今じゃ全く想像できないです。

小松:よく言われます(笑) 話しかけられても「あ、そうですか」くらいにしか返せなかったんですよ。昔、お客さんが持参してくださったお土産を拒否した時に、「私たちはあなたと仲良くしたいと思ってやっているのに、失礼じゃないか」ってものすごい怒られたことがあって。自分の接客について、親身にアドバイスしてくれたんです。そのお客さんとの出会いは、自分にとって大きなターニングポイント。こうして助言してくれたお客さんとは、今でもずっと関係が続いていますよ。

「小松さんの顔見に来たよ」って、この北の果てまでわざわざ来てくれる道外のお客さんもいます。この事業を始めて、本当にいろんな人と巡り会う機会が増えました。出会いによって、世の中の知らないことがどんどん知れる瞬間も楽しいです。今はお客さんと話す時間が本当に好きになりましたね。

ーー道外からここまで来てくれるって、本当に嬉しいですね。

小松
:最近は顔の知らないお客さんからも声をかけられることが増えました。

ーー顔の知らないお客さんというのは?

小松
:ふるさと納税や、ネットで知ってくれたお客さんですね。以前、新宿でイベント出店した際に「小松さん、ふるさと納税してるよ〜」って言ってくれるお客さんが何人かいて。いや〜本当に嬉しいことですよね。こうして、猿払から遠く離れた場所でも、一人二人と知ってくれるお客さんが増えているなんて。

忘れてはならない、苦労の軌跡

人との出会いを学びにつなげ、歩みを進めていった小松さん。「苦労があって今がある。私の出会った人はみんなそうでした」と語ってくれました。かつて「貧乏見たけりゃ猿払に行きな」と揶揄されるほど、苦しい時代が存在した猿払村。漁業を営んでいた小松さんの話から、どん底と言われた時代の様子を垣間見えました。

小松
:最近は、年収ランキングの上位など、豊かなまちとして猿払村がメディアに取り上げられることが増えましたが、そこに至るまでの背景や過程を知ってもらわなくちゃ。猿払村の貧乏時代の話を聞いたら、想像を絶しますよ。

約50年くらい前ですかね、私が小さい頃は運動靴が買えないくらい貧乏な時代でした。長靴を切って、短い靴にするんですけど、外で鬼ごっこなんかしたらすぐ脱げちゃって。それが私の家庭だけでなくて、周りのみんなも同じでした。

うちは代々、漁業で生活してました。祖父が山形から樺太に移り、漁業をしたのが始まりです。太平洋戦争がきっかけで祖父が猿払に辿り着き、それ以降ずっとここで漁業をしています。夏は家族みんなで番屋に泊まり、漁に励む。そんな生活を送っていましたが、ちょうどほたてが獲れなくなった時代にぶつかってね。

獲れた魚を漁業組合に出しても、いつ収入になるかわからない・・そんな状況。村から出て行く人もいましたし、うちも隣村の浜頓別まで魚を売りに行くこともありました。じゃないとやっていけなかったので。

ーーそんな苦しい時代を耐えた人たちがいるから、今の猿払があるんですね。

小松
:当時、漁業組合長だった太田さんが稚貝の放流を決断し、徐々に漁業が復活しました。太田さんは「どれだけ村にお世話になったか、この村には返しきれないものがある」ってよく言ってました。

村や村を支えてきた人への感謝の気持ちを忘れず、猿払村のこうした背景も伝えていきたいですね。

猿払を「まるごと」知って欲しい

村の背景も知って欲しいという小松さんの想いが詰まった「さるふつまるごと館」には、ほたての干物などの水産加工品の他に、バターやアイス、ケーキなど多種多様な猿払の産品が並べられています。その背景にある小松さんの想いとは?これから描く未来も絡めて伺います。

ーーふるさと納税では、アイスやバターなども出されていますよね。

小松
:うちの村には魅力や特徴がいっぱいあります。だからふるさと納税でも、畜産商品を売っているんです。でも猿払といえば、まだまだホタテの印象が強い。はじめて都内でイベント出店した時、バターやアイスは売れませんでした。

でも売れ残るのももったいないので、通りがかった人たちに牛乳の試飲を配ったり、ホタテを買ってくれた人には「このバターと一緒に焼いて食べたらうまいよ」っておまけでバターを付けてあげたり。そしたら2回目の出店以降、リピートのお客さんも増えてか、嬉しいことにバターも牛乳もすぐ売り切れてしまいました。

ほたても乳製品も自慢できる。二つ同時に出せる村ってなかなかないと思うんですよね。猿払村=ホタテではなくて、いろんなものが融合して魅力的な村として広まってくれたらいいなと思います。

ーー小松さんの今後の夢や展望はありますか?

小松
:漁業にだけにとどまらず、「村のいいものは全部うちで出したい」という想いがあります。うちの奥さんは酪農出身なのでよく話を聞くんですが、おいしい牛乳を作るために育て方も与える餌も試行錯誤しながらやっています。そうやってみんなが苦労して作ったものを、自分が発信したいと思ってます。

今もすでに村内で作っているものは、ほとんどうちで扱っています。それをずっとこれからも続けていきたいですね。「さるふつまるごと館」という名前に恥じないように、これまでの歴史や背景もふくめて、まるごと猿払の良さを届けていきたいです。

「うちのメニューでほたて焼きがあるんですけど、お客さんには一番美味しいタイミングで食べて欲しいから、どうしても自分で手をかけて焼いてあげたくなっちゃうんですよね」と、いつでもお客さんを気にかけてくださる小松さん。ホタテの美味しさはもちろんですが、楽しく話してくれる小松さんにまた会いに行きたくなる場所でした。

猿払の歴史、想いがまるごとつまった商品、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか?

会社情報

小松水産株式会社

〒098-6222 
北海道宗谷郡猿払村浜鬼志別214番地
電話 01635-4-7780

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