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IoT推進で叶える3年目の実り。猿払で生まれたストーリーを育む

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IoT推進で叶える3年目の実り。猿払で生まれたストーリーを育む

猿払村プロジェクト

文:三川璃子 写真:原田啓介

猿払に新しい産業をつくるため、2020年にスタートした施設園芸栽培調査研究事業。takibiconnectとしての取材は2022年で3回目です。

施設園芸の現場に近づくと「カンカン、ガガガ」と奥で音を立てながら、なにやら作業している皆さん。ちょうど新たなハウスを建てている真っ最中でした。

「僕たちこういうこともするんですよ」と少し息を切らしながら、明るく迎えてくれました。どことなく昨年よりもさらに輝かしい表情の皆さんを見て、一年でまた事業が前進したのだと感じます。

左から地域おこし協力隊の飯田大志さん、山口智代さん、坂入亮兵さん、産業課の小高翔太さん
左から地域おこし協力隊の飯田大志さん、山口智代さん、坂入亮兵さん、産業課の小高翔太さん

今回も地域おこし協力隊の飯田大志さん、山口智代さん、坂入亮兵さん、産業課の小高翔太さんにお話を伺いました。

猿払のいちごが海を超えた

2021年の取材では、害虫対策や遠方への輸送などいくつかの課題を抱えていたいちごの栽培。今年は、生食いちごの安定生産も実現し、本州への輸送も叶ったといいます。

ーー2021年は害虫対策などが大変で、生食のいちごの数が少なかったとのことでしたが、2022年はどうだったのでしょうか?


坂入:今年は昨年の失敗を活かし、生食いちごのクオリティを向上させられました。ただ収穫量を犠牲にしてクオリティをあげたので、来年は質だけじゃなく量もしっかり増やしていく必要があると思っています。

小高:去年は病害虫の被害が大きかった白いちごも、今年は村内のお店にも並べられています。少しずつ実りはあるなと感じてます。

これまで生産に苦戦していたが、2022年は実りが大きかった白いちご(品種名:天使のいちご®︎)
これまで生産に苦戦していたが、2022年は実りが大きかった白いちご(品種名:天使のいちご®︎)

ーー収穫量を犠牲にというのは、具体的にどんなことをしたんですか?

坂入:葉が密集すると虫が集まりやすくなります。そのため一つの苗に対して、ある程度面積が必要なんです。そこで、今年は一つ一つの苗の間隔を広めにとることで、害虫対策をしました。

さらに、いちごの実が大きくなるよう芽を剪定しました。いちごの芽って放置すると10以上出てきてしまうんです。摘芽して、芽を3つに絞ることで、栄養を分散させないようにしました。

小高:いちごを植え付ける数も、去年より500個くらい減らしました。一株一株に栄養が行き渡りやすくなった分、粒の大きないちごができやすくなりました。

ーークオリティが上がって販路も広がったのでしょうか?

坂入:去年は村内のQマートが主な卸先でしたが、今年はANAに協力いただき、稚内空港から空輸で本州へ届けることができるようになりました。

東京の東急ストアや神奈川のイトーヨーカードーなどで取り扱っていただいています。

今年は注文数全体を見ると少ないんですが、道内でも名寄や稚内など村外へと広がっています。

ーー以前お話をうかがった時は、いちごが遠方に届くまでに傷んでしまうという懸念がありましたよね。

坂入:梱包資材をいろいろ試したんです。クッション性のある緩衝材やウレタンシートを使うことで、遠方への輸送に成功しました。

とはいえ、品種によっては足がはやいものがあるので、まだまだ課題はあります。

飯田:品質の良いいちごを鮮度を落とさずに届けるのは、本当に難しいなと思いますね。

ーー東京や近隣市町村への販路拡大に対して、どのように動かれたのでしょうか?

小高:猿払村役場産業課の阿部課長や副村長が、積極的に外回りして出荷先を見つけてくれました。

今年はなんとか近隣市町村と東京へ出荷できましたが、僕たちのハウスは2棟しかありません。限られた収穫量の中で出荷調整するのは難しかったですね。

今後も収穫の量と時期のバランスを見ながら、出荷先を増やし、市場調査も進めていく予定です。

IoTでできることを、もっと分かりやすく

IoTを使った農業に挑戦し、猿払村でもいちごや葉物野菜が育てられることが実証された2年目。「育てられることはわかったので、次は環境を整えていく必要があるんです」と坂入さんは言います。3年目はどんな取り組みをしているのでしょうか。

ーー※「IoT」推進ラボとして進めてきた事業ですが、具体的にどのようにIoTを取り入れてきたのでしょう?
(※従来のインターネットに接続されていなかったモノにシステムが組み込まれ、ネットワークを通じて相互に情報交換する仕組み)

坂入:メインで取り入れているのは「灌水」です。時間を指定しておくと、機械が自動的に一定量の液体肥料とともに、作物に水やりをしてくれるんです。

ハウスの温度調節もiPadの操作で完結できます。ハウスの脇にある窓は、暑さや寒さを感知して開閉する仕組みになっています。ハウス内の空調も完全自動です。

専門家の方々が定期的に苗の生育状況を見にきてアドバイスをくださるので、季節によって設定温度を変えたり調整しています。

機械の調整も試行錯誤しながら自分たちでやっていますよ。

ーーIoTを使うことの良さと難しさもあると思うんですが、どうですか?

坂入:
IoTを取り入れることで、栽培にかかる時間はかなり減ります。「朝から晩まで休みなし」という働き方ではなくなりますね。

一方でiPad一つで全てを管理できるところまではきていないので、人の力は必要です。

山口:私はまだこの事業に加わって2ヶ月弱ですが、IoTの機械の原理は理解できたものの、操作や設定は少しややこしいなと感じています。

私たちが目指しているのは、「IoTを活用して誰でもできるスマート農業」です。なので、機械に疎い人でも使えるような環境づくりが今後の課題ですね。

これまで試行錯誤しながら集めたデータや調査結果をまとめて、簡略化させた上でマニュアルをつくらないと、「誰でもできる」農業にはたどり着かないと思っています。

ーー自動で動いている機械の異変などはすぐ気づけるようなものですか?

山口:収穫も兼ねてパートさんが見回りをしてくださるんですが、異変にはすぐに気づいてくれますよ。

IoT導入はあくまで単純作業を省略して楽になるもので、全く人の目がいらなくなるわけではありません。機械と人の違うところは、その場で瞬時に判断できるところ。人にしかできない部分は今後も残っていくと思います。

山口:IoTを使った農業の最終形態は、おそらくスマホ一つで完結できるようなもの。その日の天気に合わせて温度や湿度などの設定も行ってくれて、人はビデオで様子を確認するようなイメージです。

そこまでいけば、本当の意味で「スマート農業」になるんじゃないかと思いますね。今はまだそこに至る途中です。

「おもしろそう」が伝播し、増える挑戦者

「誰でもIoTを使って就農できるように」ーー未来への想いを胸に、新たなステップに向けて奮闘している施設園芸チーム。今年もまたメンバーが加わり、新たな風が吹き始めています。

ーー山口さんは今年度から新たに地域おこし協力隊として携わっているとのことですが、何かきっかけがあったんでしょうか?

山口:以前は白老や札幌の店で働いていたのですが、約7年間働く中で「変化が欲しい」と感じて、転職を考えていたんです。

ちょうどその頃に猿払のIoT事業をインターネットで知り、takibiconnectの記事も読んで、「田舎でこんなおもしろいことをやっているんだ!」と知りました。

日々作業をこなすルーティンではなく、手探りながらも自分の意志で創り上げていくことがしたかったんだと思います。

地域おこし協力隊の募集ページにたどり着いて、3〜4ヶ月悩んだ末、猿払に来ることを決断しました。

ーー実際に来てみてどうでしょうか?

山口:とっても楽しいですよ。来てみてよかったと思ってます。

山口:現在施設園芸にたずさわる協力隊は全部で6名いるんですが、各人の得意分野ややりたいことが実現できるような形になっているなと感じています。

それは小高さんが役場と協力隊の間に立って、動いてくれているおかげです。事業に対して、役場も協力隊も対等な立場で意見交換ができるんです。意見がぶつかり合うのではなく、すり合わせながらベストな方向を探していく。その瞬間がおもしろいし楽しいなと思います。

ーー今のチームはどのような体制で進めているんでしょうか?

小高:メンバーの入れ替わりもありますが、栽培調査やIoTなど、それぞれ役割をもって動いてもらっています。

小高:IoTや猿払いちごのブランディングに力を入れたかったものの、昨年は人数が足りず時間が割けませんでした。

足りない部分を補うために募集をかけて、山口さんと山田さん夫婦が入ってくれました。募集締め切りギリギリまで応募の動きがなかったので、3名が来てくれると分かった時は、本当に嬉しかったですよ。

新規就農者を本格的に受け入れるとなると、今の体制ではまだまだ足りないところがあります。各々の力を借りながら環境を整えていきたいですね。

「猿払にしかない」特殊なストーリーものせて届けたい

1年目、2年目とtakibiconnectで語られる夢がひとつずつ実現している猿払村の施設園芸事業。新規就農の受け入れ体制を整える他に、「ここにしかない特殊なストーリー」を発信するための構想も生まれていました。

ーー皆さんが育てたいちごや野菜を通して届けたい想いなどはありますか?

飯田:僕は目の前のお客さんに喜んでもらえることが1番です。

この間、道の駅に僕が立って、直接販売させてもらったんです。その時に「頑張ってね」って声をかけてもらえて。いちごや野菜を通じて生まれる思い出をひとつずつ大切にしたいなと思いました。

山口:飯田さんが言ってくれたように、私たち協力隊が育てるいちごに、「頑張ってね」と声をかけてくれる村民の方がいる。猿払で育ついちごにはストーリーがあります。

私は主にブランディングなどを担当していて、どうやってファンづくりをしていこうか考えています。

役場と地域おこし協力隊が力を合わせてつくり上げたいちごは、他を探してもなかなかない。「なぜ猿払のいちごを買ってくれるのか?」を突き詰めていくと、知ってくれた皆さんの“応援の気持ち”が入っていると思うんですよね。私もここに来た理由は、いちごが好きだからではなく、事業の背景を知っておもしろそうだと思ったから。なので、ここにしかないストーリーも大切にしたいですね。

ーーどんな風にここのストーリーを届けていきたいですか?

山口:まだ具体的な方法は構想中ですが、インスタグラムやnoteなどのSNSを使って発信していけたらと思っています。

猿払村はまだ世の中に出ている情報が少ない状況です。私はそこが狙い目だと思っています。

最初は「今日の天気」や「今日のいちご」など小さな情報でもいいので、継続してアップしていくのが重要だなと。私一人ではなく、関わる隊員みんなでつくり上げていけたらいいなと思ってます。

坂入:僕は現場寄りの意見になってしまいますが、四季成り※いちごをこれだけのクオリティで出せることを誇りに思いたいです。

猿払で育つ四季成りいちごは全然味が落ちないんです。猿払村は本州に比べても寒暖差が10度ほどあるのに。それがむしろ功を奏したのかもしれません。

味よし品質よしの猿払のいちごを、山口さんが言ってくれた「ストーリー」と一緒に届けられたらと思います。

※四季成り・一季成りはいちごの種類のこと。冬から春にかけて実がなる「一季成り」と、夏や秋にも実を付ける「四季成り」がある。

取材の際にちょうど実っていた、赤いちご(通称:北ポムム(品種名:信大BS8-9))と白いちご(品種名:天使のいちご®︎)  を食べさせてもらいました。

赤いいちごは少し酸味がありつつもジューシーな味わい。意外にも白いいちごは赤いいちごよりも甘みが強くてびっくりでした。

想像以上の美味しさに驚いた取材陣に「もう一ついいですよ」という言葉に甘えながらもう一口。

「新たな産業をつくるため」一歩ずつその夢に近づいている猿払村。施設園芸チームのみなさんの努力がこのいちごの甘さに繋がっているのだと感じました。

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