命の幸せを願い育む“豚にも人にもやさしい”ルスツ羊蹄ぶた
留寿都村事業者の想い
文:本間幸乃 写真:斉藤玲子
ひとくち噛んだ瞬間、口の中に広がるジューシーな味わい。「こんなに柔らかく甘い豚肉があるんだ!」と思わず口元がほころぶ、ルスツ羊蹄ぶたのおいしさの秘密は「豚にやさしい」クリーンな環境にあります。
「安心安全」と言葉で表すのは簡単ですが、実現し継続するのは難しいもの。社員全員で「豚にも人にもやさしい」農場づくりに取り組んできたルスツ羊蹄ファーム株式会社の歩みについて、事業本部 事業部長の力石(ちからいし)明さんにうかがいました。
ストレスフリーな環境は徹底した衛生管理から
道の駅「230ルスツ」と、北海道日本ハムファイターズの本拠地である野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」に出店している「ルスツ羊蹄ぶた」。
本社内にあるセントラルキッチンでは、シェフが一つひとつの豚肉に目を通しながら、脂身や筋を手作業で取り除いていました。
丁寧な下処理だけでなく、豚たちが過ごす環境や飼料にもこだわっているという、「ルスツ羊蹄ぶた」の特徴について、まずはうかがいました。
ーー先日エスコンフィールドでヒレカツサンドを食べました。お肉が甘く旨みが感じられて、とてもおいしかったです。
力石:ありがとうございます。「ルスツ羊蹄ぶた」には「オレイン酸」という旨みの元になる成分が豊富に含まれているんですよ。オレイン酸は舌触りや甘さに影響するため、肉質の良さを測る指標のひとつになっています。
こうした特徴を生むのは、豚が育つ環境です。
当社のモットーは「豚にやさしいが人にやさしい肉をつくる」。その根幹にあるのが「病気がない農場」づくりです。病気の原因を農場に持ち込まないために、豚舎はもちろん、農場を出入りする人や車両、持ち込み品まで、洗浄・消毒を徹底しています。
クリーンでストレスフリーな環境によって豚がリラックスするので、柔らかな肉質になるんですよ。
環境づくりに加えて、豚たちが口にするものにも気を配っています。飲料水は農場内にある井戸から汲み上げたもの。飼料は小麦を多く含んだ純植物性。
豚たちが元気にたくましく育つよう、生育環境を整えています。
ーー細かなところまで気を配っているのですね。
力石:そうですね。分娩舎での母豚の細やかな管理も私たちの仕事です。例えば、乳房炎になったお乳をマッサージしたり、薬品でサポートしたり。母豚が子豚を潰してしまうこともあるので、子豚の悲鳴を聞いたらすぐ助けに行きます。
母豚と子豚をよく観察しながら育てていますね。
「豚にやさしい」を目指して。事業承継を機に挑んだ農場改革
「豚にも人にもやさしい」豚肉を手がけるルスツ羊蹄ファームですが、現在の生産体制にたどり着くまでには、改革と苦労の道のりがありました。
前身は1986年創業の辻野ポーク有限会社。経営環境の悪化から、2010年に現代表の藤田博勝さんが事業を承継しました。
当時の農場は病気で鼻が曲がった豚がいるなど、「病気があって当たり前」という状況だったといいます。
ーー藤田さんが承継した当時のことについて教えてください。
力石:藤田はまず「農場から病気を抜くこと」を徹底しました。
豚舎内では豚が暮らすスペースに、石でできた「すのこ」を敷いて、糞尿が下に落ちるようにしています。藤田はまず豚舎すべての「すのこ」をひっくり返して、洗浄・消毒を繰り返したんです。検査で「病気ゼロ」を確認できて初めて、豚を豚舎に戻しました。
その後も農場に病気が入ってこないよう防疫を徹底。クリーンで豚にやさしい環境を維持しました。病気がない分、豚に人手をかけられます。豚にとっても、社員にとっても安心安全な生産システムを構築したのです。
徹底した衛生管理を貫いてきたルスツ羊蹄ファーム。2019年には、食の国際安全基準であるHACCPと、国の安全基準であるJGAPの認証を同時取得しました。
農場の改革を進める一方で、代表の藤田さんが大切にしたのが地域との関係構築でした。ホテル業から養豚に転身した藤田さん。ゆかりのない土地での事業承継は、地域の方々と打ち解けるまでに時間がかかったと言います。
力石:承継当時、藤田は地域のイベントごとには毎回顔を出していたそうです。積極的に参加することで、少しずつ関係性を築いていきました。
事業承継から3年後の2013年、豚舎が全焼する大火事が起こりました。溶接の事故で一気に火種が燃え広がり、莫大な損害に。苦しい状況の中で、地域住民の皆さんにご支援いただき、事業を続けていくことができたと聞いています。
その後雪害で豚舎が潰れてしまった時にも、地域の方々や取引先の方々が駆けつけてくださいました。私も社員の1人として、胸が熱くなったと同時に、「この人たちの期待に応えたい」と奮起したのを覚えています。
今では養豚から生じる糞尿を堆肥にし、地域の農家さんにお配りしています。皆さんに喜んでいただくと同時に、循環型農業の実現にもつながっています。
豚は正直。だからこそ、養豚は誠実に
火事や雪害といった困難を乗り越え、事業を続けられたのは、「藤田のタフネスと礼節があったから」と力石さん。現在では1,600頭もの豚を飼育するまでに成長しました。かつては出荷量の変動が大きかったという農場。豚にやさしい環境づくりに加え、取り組んだのが、内部の環境整備でした。
力石:私が入社した当時は、組織運営に関わる業務は藤田が担い、社員は全員農場での飼育に専念するという体制でした。生産管理のITシステムやIoT機器は導入されていたのですが、仕組みを理解して操作できるのは一部の管理職だけ。そのため飼育手順にばらつきがあり、社員ごとに方法が異なっていたんです。
そこで徹底したのが、生産体制のシステム化・マニュアル化です。当社は約30人で3農場を見るという、少数精鋭のチーム。だからこそ、全員が同じ考え・手順で飼育することが重要だと考えました。
豚は正直なんですよね。少しでも手を抜くと、豚の健康状態が悪くなる。「豚は誠実な人がやるべきだ」と藤田もよく言っています。
ーー体制整備で一番大切にしたことはなんですか?
力石:養豚の三代要素である餌、水、空気を整えることです。それぞれの基準や手順を一から見直し、明確化しました。餌は常に食べられる状態か、水は飲めているか、十分な換気がなされているか。社員全員が同じ目線で飼育管理ができるような仕組みを目指しました。
ーー「基礎基本」を守り続けるのは簡単ではないですよね。
力石:そうですね。養豚ってすごくシンプルで、だからこそ難しいんです。
社員にはただルールを押し付けるのではなく「なぜ重要なのか」を理解してもらうことも大切にしました。みんなでアイデアを出しながら真面目に養豚と向き合ってきたからこそ、基礎基本を守り続けることができたのだと思います。
ルスツ羊蹄ぶたを全国ブランドに
「どんな人にとっても安心安全でおいしい豚肉を届けたい」と、実直に養豚に取り組んできたルスツ羊蹄ファーム。
天塩にかけて育てた「ルスツ羊蹄ぶた」のブランド化を推し進めようと、2020年には加工・販売に特化した窓口として「北海道ルポル株式会社」を創設。飲食店運営や通信販売、ふるさと納税事業を担い、六次産業化に力を入れています。
力石:「安心安全」を第一にする姿勢は加工品づくりにも一貫しています。ソーセージやベーコンなどは、着色料や化学調味料、保存料は一切使わずに製造しています。
ーーエスコンフィールドの来場者投票による「えふめしランキング」では1位をとられていましたね。
力石:飲食の経験は道の駅への出店のみだったので、とても驚きました。でも、それだけ生産体制のこだわりがおいしさに表れているのだと、自信につながりましたね。
エスコンフィールド店の店長・池澤は、スタートから店舗を盛り上げてきた唯一のスタッフなんです。熱意ある接客サービスのおかげでリピーターも多く、固定ファンも生まれています。
農場がおいしい肉を作って、池澤がファンの皆様の期待に応える。みんなの力が結集して取れた1位でした。
ーー素晴らしいですね。今後の夢や構想はありますか?
力石:「ルスツ羊蹄ぶた」を「松坂牛」のような全国ブランドに育てることです。
社員が同じ方向を向き、「安心安全な豚肉を届ける」ミッションを果たせるようになってきたからこそ、新たな付加価値を提供できるブランドにしたいですよね。
私たちは命をいただいています。だからこそ、生まれてきた豚たちにはできる限り幸せに過ごしてほしい。
大切に育てた「ルスツ羊蹄ぶた」の魅力をより多くの人に知ってもらえるよう、私たちの理念や想いも積極的に発信して、ブランド価値を高めていきたいですね。
藤田社長の想いを自分のことのように生き生きと語っていた力石さん。「社員一人ひとりに理念が浸透している」ことが、その姿から感じられた取材でした。
ルスツ羊蹄ファームはこれからも、豚にやさしい環境から、安心安全なおいしさを届けていきます。
Information
ルスツ羊蹄ファーム株式会社(販売会社:北海道ルポル株式会社)
〒048-1731
留寿都村字留寿都200-148

