優れた目利きと技術で最高の味に。片桐水産が引き出す雄武のおいしさ
雄武町事業者の想い
文:髙橋さやか 写真:高橋洋平
シンプルであるほど、技術が問われる。海産物のおいしさを最大限に引き出す水産加工業の仕事には、目利きの力とスピード感のある加工技術がもとめられます。
海の幸が豊富な雄武町でも、指折りと言われる水産加工会社「片桐水産」。おいしさの秘密とこれまでのあゆみについて、片桐水産株式会社 代表取締役の片桐尚志さんにお話をうかがいました。
光る目利きと加工の技
海にほど近い場所に立つ片桐水産の加工場。車を降りると、背の高い片桐さんが笑顔で迎えてくれました。まずは片桐水産が手がける、毛ガニ・鮭・ホタテについてうかがいました。
ーー片桐水産で手がけている水産加工品はどのような点にこだわっていますか?
片桐:仕入れたその日のうちに処理して、加工することかな。鮮度が大事ですからね。
ホタテは殻を剥いたらすぐに、急速冷凍します。毛ガニは生きた状態で市場から仕入れ、工場に着いたらすぐにバンドをかけて、ボイルします。みんな毛ガニに手を挟まれながら、踏ん張ってやってますよ。
ボイルは一回分200キログラムと決まっていて、50キログラムのカゴ4つを釜にドボンと入れちゃう。このイラストみたいな感じですね。
ーーかなり大きな釜なんですね。茹でるときのポイントはあるのでしょうか?
片桐:塩加減と時間です。
塩加減は親父の代から引き継いだ味付けです。ボイル時間は長いと身がパサついちゃうし、早いと身が腐りやすくなっちゃう。微妙なさじ加減を見極めます。“片桐水産ならでは”の味は、おかげさまでお客さんからの評判も上々です。
ーーそれだけ、おいしいということですね。目利きにもこだわりがありそうです。
片桐:毛ガニは見た目と、色と、触った感触で見極めます。手で触って、足や甲羅の身入りを確かめながら選別するんですよ。
鮭はまず見た目。魚体が銀色に光っているか?や、魚体に入った縞の具合を見ます。あとは大きさですね。体つきのしっかりした鮭を選んでます。
雄武では船中でも漁師さんが選別しているので、基本的に質の悪いものはあまりないですね。 浜に上がった時点で、色艶が全然違います。
船が入る時はすぐに浜へ行き、荷揚げの時からよく観察して、良い素材を仕入れられるようにしています。日によって釣れる魚も違うし、天候も関係あるしね。仕入れ後はさらに選別し、加工処理しています。
量販店でも販売される片桐水産の毛ガニ。確かな品質でバイヤーからの評価も高く、全日空のショップで販売された時期もあったほど。「こんなにおいしい毛ガニは初めて食べた」と、お礼の電話をいただいたり、時にはお礼の品が届くこともあると言います。多くの人に愛される創業当時からの味わいは、荒波を乗り越えて受け継がれてきました。
雄武の人たちと支え合い乗り越えた最大の危機
片桐水産の創業は1967(昭和42)年4月。片桐さんの父が、雄武にある畠森水産で働いたのち、独立・開業しました。当初は春の毛ガニを皮切りに、タコ・鮭など季節の漁獲物を扱い、1999(平成11)年からはホタテの加工をスタートしました。
片桐さんが家業に入ったのは1986(昭和61)年。当時のことを聞くと意外な答えが返ってきました。
ーー片桐さんはいつから家業に?
片桐:高校を卒業してすぐですね。最初は仕事がイヤでね。嫌いではないんだけど、友達と遊びたかったのもあって、残業が嫌でしたね。当時は加工量も多かったから。
徐々に遊びたい気持ちも落ち着いていきましたけどね。
ーー 落ち着いていったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
片桐:きっかけというよりは、少しずつ仕事を覚えておもしろくなっていったんですよ。
競りの時に自分で入札するようになったり、タコの炊き方や鮭の切り方、塩のつけ方、ひとつずつ覚えていって。自分で選別した毛ガニを「おいしい」って言われると、やりがいも感じるし。少しずつ仕事が楽しくなっていきました。
片桐:自分が1本1本選別した鮭に対して、「おお、今年の鮭良かったよ」って周りから声をかけられると、純粋にうれしいしね。「ありがとうございます」って。責任感も芽生えました。親父が信頼を築いてきた「片桐水産」の名前に傷をつけるわけにいかないって。
ーー創業からこれまで信頼を積み重ねてきたのですね。苦労された時期もあったのでしょうか。
片桐:2004(平成16)年の大シケですね。
ホタテ漁場が大きな被害を受けて、ホタテの漁獲高が激減したんです。当時はもう加工の中心がホタテでしたから、とにかく仕事がなかった。他のもの、例えばタコや鮭を加工するにも、そもそもの漁獲量が少ない。あの時はきつかったです。
ーーその頃も従業員を抱えていたんですよね。
片桐:そうですね。10人くらいいたのかな。他の工場から委託の仕事をもらって加工したり、鮭の切り身を増やしたり、細々した仕事でなんとかつないで。
うちだけじゃなく、雄武にある他の工場もみんなしんどい時期を耐えていました。
雄武のホタテは成貝になるまで4年かかります。1年ずつ場所を変えて稚貝放流して育てているから、大シケに襲われると4年分のホタテが死んでしまう。次の年に獲りたいと思っても、絶対に獲れないんです。
稚貝放流でホタテが育つまでの3年間、本当に乗り越えるのが大変でしたね。
当時は親父の代だったから、困っている姿を見て「何か仕事を探さなきゃ」と模索しました。銀行にも組合にもお世話にもなりましたしね。
周りの支えもあって、なんとか親父が片桐水産を残してくれたんです。
父の味を守り、次のステージへ
2019(令和元)年に社長となった片桐さん。海外からの技能実習生を含む15名の従業員を抱え、今も片桐さんみずからが選別から加工まで、先頭に立っています。
片桐:なかなか人に任せられなくてね。やっぱり自分で手がけたいという思いが強くて。
例えば鮭にしても、いまだに俺が1本ずつ選んでいます。捌いて、洗浄したら、また一つずつ確認して選別して。
自分の目が届く範囲で細部まで気を配れるのは、小さい加工場の強みかなとも思います。
ーー従業員の方には海外からの技能実習生もいますよね。言葉や文化が違う中でコミュニケーションはどうしているのでしょう。
片桐:難しさもありますが、なるべく話すようにしています。冗談を交えながらね。実習生はホタテだけなんですけど、まずは手順を目で見て覚えてもらう。慣れてきたら作業の様子を見ながら、「もうちょっとこうしたら」ってアドバイスしながら教えています。みんな手際が良くて、早いよ。仕事もすぐ覚えてくれて助かってます。
現在ホタテの加工を中心に展開する片桐水産ですが、海を取り囲む状況が変化する中、未来を模索しています。ふるさと納税では、ホタテのBCフレーク※が大ヒット。雄武町で最も人気の返礼品を生み出しました。
片桐:ホタテのBCフレークは、役場からの依頼で出してみたんです。蓋を開けてみたら、「もう在庫がありません」って。びっくりしましたね。
今後も何か新しい商品を考えていきたいと思ってます。
※Bフレーク、Cフレークとは、貝柱が欠けていたり割れているなど、大きさや見た目が「規格外」のホタテ。味は本来の製品同様。
ーー新しい商品は具体的なアイディアなどあるのでしょうか?最後に今後の構想を教えてください。
片桐:いま原料として扱っているホタテなどを活用した商品や、最近獲れるようになってきたブリを活用した商品を考えていきたいですね。今後は1次加工に限らず、2次加工、3次加工と、新たな商品を作っていきたいです。
札幌や旭川で開催されるマルシェなど、イベントにも出店したいですね。お客さんとコミュニケーションを取りながら、商品のアイディアを探りたい。
毛ガニやタコ、鮭……どれも以前より漁獲量が減って、加工量も減っています。浜値も上がっています。漁のない冬の3ヶ月間にもできるような、新たな加工食品を開発したいなと構想してます。このまま同じことだけをやっていても先がないのでね。いろいろと試行錯誤していきますよ。
終始明るい笑顔で取材に応じてくれた片桐さん。「雄武の良いところは、人との距離が近いところ」とお話しされていました。人同士が近く、気軽にコミュニケーションが取れるからこそ、支え合いながら仕事をしていける。会話の端々に周囲への感謝がにじんでいました。
片桐水産は雄武とともに歩み、最高の味を届けていきます。
Information
片桐水産株式会社
〒098-1702
北海道紋別郡雄武町字雄武1972番地
TEL. 0158-84-2902