海とともに生き、恵みを届ける。雄武漁業協同組合60年の歩み
雄武町事業者の想い
文:髙橋さやか 写真:髙橋洋平
オホーツク海沿岸のまち・雄武町。毎年1月下旬から3月下旬にかけて接岸する流氷によって、雄武海域はミネラルたっぷりの漁場となります。ホタテ貝をはじめ、ブランド鮭の「雄宝」や毛ガニ、利尻コンブやウニなど。豊富な海の幸が水揚げされます。
時に自然の脅威にさらされる海の世界。雄武の漁師たちが安定した漁業を営むため組成された、雄武漁業協同組合の歩みとこれからについて、代表理事組合長の長谷川一夫さんと、流通加工部 工場長の舘山健一さんにお話をうかがいました。
海の男たちに賞される、雄武の味
雄武漁業協同組合は、幌内・元稲府(もといねっぷ)・雄武・沢木の4つの漁港をかかえ、ホタテ、鮭、毛ガニ漁を3本柱に、専用の工場で加工し出荷しています。
新たに生ホタテの塩水パックを商品化するなど、「とれたてのおいしさ」を届けています。
ーーホタテ貝柱の塩水パックを食べておどろきました。甘みや旨味ももちろんですが、貝柱の繊維が感じられて“とれたて感”がありますね。
舘山: 塩水に浸かった状態でも、ホタテの貝柱はまだ生きてるんですよ。
生ホタテは賞味期限が非常に短く、新鮮な状態で出荷するのが本当に難しいんです。数年前に「本州の方にも生で出してください」という依頼をいただき、塩水保存での菌検査をおこないました。保存には問題がなかったものの、 より「とれたてに近い」味と食感を保てるよう試行錯誤し、理想の商品にたどりつきました。
ーー雄武漁協の三本柱に入っている、鮭と毛ガニについても教えてください。
長谷川:鮭は定置網漁で、代表的なものとしてはメジカ※や雄宝を水揚げしています。「雄宝」は雄武のブランド鮭。前浜沖で漁獲された秋鮭のうち、銀色に輝く3キログラム以上の銀毛鮭のみを厳選して名付けられます。まずは漁師が選別し、さらに加工会社が厳選するんですよ。他の地域にもブランド鮭はありますが、「漁師が選別する」という点で、違いが出てくるかな。
※メジカとは顔が小さく目と鼻の間隔が近いことが特徴のサケ。漁獲量は通常のサケの数%と少ないが、脂肪分が多く味が非常に良いと言われる。
舘山:鮭に関しては、加工場で扱うのは主にメスで、イクラや筋子を作っています。
何より大事なのは鮮度です。浜からすぐに鮭を工場へ運び、お腹を捌いて卵を出し、加工します。 卵は時間が経つと、どんどん鮮度が落ちるので時間との勝負。スピーディーに加工すると、卵本来の旨味を残したまま加工できるんですよ。
漁師の皆さんも鮭にはこだわりがありますよね。
長谷川:そうだね。船に氷を積んでいき、鮭が揚がったら氷水を張った水槽に入れ、すぐに選別。これは雄武漁協がはじめた鮮度保持の方法です。漁協の工場は、水揚げしてから筋子になるまで1時間かからないですね。
ーー ものすごくスピーディですね。
舘山:毛ガニは水揚げからボイルまで、最短で3時間ほどです。状況によっては、浜から揚げて水槽で一晩寝かす場合もあります。
毛ガニが元気なうちにボイルするのが、こだわりです。
従業員はみんな毛ガニに手を挟まれながらバンドをかけて、ボイルしています。ボイルはバーナーの直火でじっくりと。ボイルの加減は気温によっても変わるので、塩分濃度に気を配りながら加工します。
カニの旨味がギュッと閉じ込められて、おいしさが全然違いますよ。
舘山:漁師さんは努力して、質の良い毛ガニだけを水揚げしてきます。僕たちは毛ガニのおいしさを最大限引き出せるよう、さらに選別・加工し、発送してます。
漁師さんは「他に負けたくない」という思いで漁に出る。だから僕らも「他の加工場には負けないぞ」と思って仕事しています。
漁師がつくった漁業協同組合の加工場だからこそ、徹底した品質管理を心掛けてますね。
ーー思いがこもっているんですね。毛ガニ漁についても教えていただけますか。
長谷川: 毛ガニは「籠(かご)漁」といって、籠の真ん中に餌を入れて海に沈めておきます。すると餌の匂いで、毛ガニが籠に寄ってきて、中に入るという仕組みです。
長谷川:漁獲したらすぐに、大きくて身入りの良い毛ガニだけを選別して、保冷バッグへ。8センチメートル未満の毛ガニは海に戻します。浜に揚がったらすぐに加工場でボイル……と、できるだけ短時間で加工しています。
漁師みずから厳しい基準をもうけ、大切に扱われる雄武の海産物。近隣の漁師からもその評価は高いといいます。豊かな漁場の雄武ですが、漁協の組成からこれまでは、決して平坦な道のりではありませんでした。
不安定な海の世界で、漁師の暮らしを安定させる
雄武漁協は1963(昭和38)年に近隣の沢木漁協と合併し、2023(令和5)年に60年を迎えました。前身となる漁協の歴史は長く、古くから加工や出荷に取り組んできました。2024(令和6)年現在、漁協の組合員は103名、全員が経営者です。
長谷川: 今でこそホタテが順調に水揚げできるようになりましたが、昔は魚価自体も安く、不漁の時期もありました。鮭1匹で100円に満たない時もあったんですよ。
先人たちの苦労の上に、雄武漁協はなんとか成り立ってきました。
ーーそんな時期があったんですね。
長谷川: 40年ぐらい前かな。鮭を獲ってもなかなか売れない時期もありました。苦況の中で北海道ぎょれんを含めて「水揚げした海産物は全て処理できるように」と、工場を建設し、加工・出荷できる体制を作っていきました。
最近ようやくホタテが軌道に乗り出して、かなり安定した経営になってきましたね。
雄武漁協では1967(昭和42)年から、ホタテの「4輪採」を開始。オホーツク海沿岸の34キロメートルにわたる海域を四つの区域に分け、ホタテを育てています。成育したホタテは、「八尺」とよばれる、重くて頑丈な漁具を海底に沿って曳く「桁曳網漁(けたひきあみりょう)」によって漁獲されます。
長谷川: ホタテの稚貝放流は、50年ほど前にスタートしました。それまではホタテの成貝を漁獲していましたが、育てる方向に切り替えていったのです。
稚貝を育て、地撒きにより、海に放流……3年後に成貝として漁獲する、という手法です。
長谷川: ただ雄武海域は海底の地質問題がありました。雄武前浜の海底は泥や砂質で、放流の際に下の方の稚貝が窒息状態になって、死んだり生育不良になったこともあります。
「そろそろ……」と見込んでいた2004(平成16)年1月、大シケに襲われました。時間をかけて仕込んできたホタテが、全てダメになってしまったんです。
漁場を見直し、試行錯誤を繰り返しても自然災害はなくならない。
放流して、大シケに襲われ……をその後も繰り返しながら、ようやく最近、年間2万トン台と軌道に乗ってきたところです。
ーー何十年も試行錯誤をつづけたのですね。なぜ心折れずに前を向けるのでしょうか。
長谷川: 漁師って魚が獲れなかったら「明日頑張るぞ」、獲れたら「明日も獲れるな」って、ポジティブな考えじゃないとできない仕事。心配はするけど、嫌になることはない。
やっぱり好きじゃないと、できない仕事なんじゃないかな。
ホンモノの“獲れたての味”を日本各地へ
長い年月をかけ、ホタテの漁獲量が安定してきた雄武漁協。しかしながら、近年は海の様子に変化が見られるそう。ブリや真鯛など、暖流の魚が姿を現すようになったといいます。
長谷川:実際に海水温は高いですし、鮭が母川に帰ってくるまでの動きも昔とは変わってきています。海の変化は紛れもない事実だけど、原因は海水温上昇だけなのか?理由は探っていきたいところです。
3年ほど前から毛ガニの養殖にも取り組んでいますが、なかなか難しい。稚カニから成カニになるまで7〜10年と、時間がかかりますしね。
海の変化がある中でも、雄武は地の利など恵まれている部分が多いと思います。「数は少ないながらも、質の良い海産物を水揚げしていこう」と、漁師みんなで日々努力してます。
ーー最後に、今後の雄武漁協の構想を教えてください。
長谷川: まずはメインであるホタテの水揚げを安定させていくこと。鮭や毛ガニは努力はするけれども、計画的にいかない部分もあります。雄武はタコやウニ、昆布などさまざまな魚種がありますから、うまく組み合わせて運営していきたいですね。
高齢化や後継者問題にも取り組んでいく必要があります。今は組合員が103人いますが、
今の水揚げ水準を今後もキープできるのか?考えていかないと。最近は若い人たちが帰ってきてくれてるんで、そこは希望の光ですね。
舘山:僕は“本当においしいもの”って、現地で食べるのに敵わないと思うんです。
現地と100パーセント同じは難しいかもしれませんが、極力とれたてに近い状態で皆さんに届けられるよう、工夫していきたいですね。
「おいしい」っていう言葉が何よりの励みです。
長谷川: 漁師ってさ、「自分たちが1番だ」って誇りを持って仕事してる。雄武では漁師を取り囲む人たちがみんな、その思いを理解して海産物を扱ってくれています。それは自ずと良い製品につながると、私は思うんですよ。
ぜひ一度「雄武のおいしさ」を体感して欲しいですね。
「今も船で漁に出るんですか?」という質問に、笑顔でうなずいていた長谷川組合長。取材当日が偶然シケだったことから、急遽取材に応じてくれました。
漁師の熱い思いを組合長から、それに応えようと尽力する工場の思いを舘山工場長から、じっくり伺うことができました。
雄武漁協はこれからも、オホーツク海から「とれたて」のおいしさを届けていきます。
Information
雄武漁業協同組合
〒098-1702
北海道紋別郡雄武町字雄武983
TEL. 0158-84-2531