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雄武町

陽はまた昇る。オホーツク温泉 ホテル日の出岬 再生の物語

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陽はまた昇る。オホーツク温泉 ホテル日の出岬 再生の物語

雄武町事業者の想い

文:髙橋さやか 写真:高橋洋平

どんなに暗く長くとも明けない夜はない。必ず朝はおとずれ、太陽は私たちに希望の光をそそぎます。雄武町の岬にたたずむ「オホーツク温泉 ホテル日の出岬」。オーシャンビューの客室と温泉が自慢のホテルは、道内外から訪れる旅人の疲れを癒す場所です。
美しい日の出を臨むホテルで出会ったのは、起死回生の物語。再生の立役者となった支配人工藤 雅行さんにお話をうかがいました。

負の遺産からのスタート

ホテル日の出岬がオープンしたのは、1998(平成10)年12月のこと。温泉が湧き出たもののホテルの建設には紆余曲折があったといいます。「人にやさしいホテル」をテーマに、いち早くバリアフリー対応型の温泉ホテルとして、町の第三セクターが運営してきましたが、時を重ねるうちに内部は荒んだものに。工藤支配人は就任当時のことをこう振り返ります。

工藤:
まず衝撃的だったのがスタッフの表情です。私への不信感を抱く表情、 ホテルを良くしてくださいという期待の表情、そして仕事に疲れきった3つの表情でした。

実際に支配人として内部を知るほど、業務管理や給与ベースなど、さまざまな問題が浮き彫りに。これを機に以前の運営について反省し、新しく1歩を踏み出さなければという状況でした。
 
「負の遺産を背負ってのスタート」だと感じましたね。

私が常々思っているのは、仕事の時間というのは 1日の3分の1もあるということ。その時間が充実していないと、人生そのものが楽しくない。スタッフの表情を見た時に、みんなが楽しく仕事ができる環境を整えなければいけない、そんな風に思いました。

工藤支配人がホテル日の出岬にやってきたのは、2018(平成30)年8月。実は支配人自身もその時、人生の転機を迎えていました。34年間勤めた旭川グランドホテルを退職。その背景には運営会社の交代による経営方針の転換と、自身が培ってきたホテルマンとしてのあり方との、すれ違いがあったといいます。退職後の行き先を模索していた時、雄武町長の熱意によって、ホテル日の出岬にやってきたのでした。

ーーご自身の人生の転機とホテルの再生を担う重圧は、しんどくなかったのですか。

工藤:
しんどいところの騒ぎじゃないですよ。ただ、大変さはあったけれど、ちょっと生き甲斐を感じましたね。私が支配人という立場になったのは、このホテルが初めて。前職は部長職だったので、支配人はこれほど大変なのかと感じました。 でも、やってみようと。

「置かれた場所で咲きなさい」という私の好きな言葉があります。修道女でもある故・渡辺和子さんが2012年に著した作品で、宣教師から渡された「Bloom where God has planted you(神が植えたところで咲きなさい)」というメモに救われた体験を元にした、自叙伝的なエッセイです。

私自身、雄武町に何のゆかりもない人間だったけれど、町長が私を高く評価してくれ、今ここにいる。だったらこの場所で咲けばいい。ただその思いで頑張ろうと。気持ちさえあれば、人って変われる。ホテルも同じです。

工藤:まずは、信頼回復からのスタートとして、1年かけて館内を清掃しました。表側は綺麗に見えるけれど、バックヤードは目も当てられない状況だったんです。

かつてのホテルの代名詞が「お風呂はいいけど料理がまずい」。確かにお風呂はオホーツクを代表する浴場だと胸を張って言えますが、厨房は言葉を失うような状態でした。厨房を一新し、今の料理長の右腕となるいい職人を連れてくれば、安全で美味しい料理を提供できるところまでもっていきました。

お客さまの声にもしっかり耳を傾け、できる限り意見を取り入れる。でも、すぐ取り入れられないもの、お金がかかるものについては年度予算をつけて、町と協議をしながら実現していきました。

喫煙だった客室は禁煙に。壁紙やじゅうたんの取り替えは予算上厳しかったため、全てクリーニングです。 スタッフみんなで清掃して綺麗にしました。
そして寝具。ホテルでは何より心地よい睡眠が満足度を左右します。 寝心地感のよいベッドを導入してくださいと、町に稟議決裁をして、入れ替えてもらいました。

ーースタッフのみなさんは突然の変化にどういう反応でしたか。

工藤:
ただただ驚いていました。改革の一方で私が心がけたのが、ES(従業員満足)とCS(顧客満足)を同時に上げていくことです。

例えば禁煙ひとつとっても、スタッフは喫煙よりも掃除がしやすくなります。スタッフには「新しいアイディアを出して、10個のうち1個しか成功しなくてもいいから、何かチャレンジしよう」と、意識が向上していくよう働きかけました。お客さまの声、スタッフの声を取り入れ改善していくことで、ホテルの評価も向上。各旅行サイトで総合評価4.3以上を獲得しています(2023年7月現在)。さらに給与体系や退職金なども見直し、従業員の意欲向上も目指していきました。

そして、このホテルはやはり町民に愛されてなんぼだと。町民に愛されないホテルが町外から来たお客さんに愛されるわけがない。町民が利用する宴会場を整備し、レストランの月替わりメニューは毎月広報誌に掲載。町民が再びホテルを訪れる楽しみも、大切にしています。

(写真提供:ホテル日の出岬)
(写真提供:ホテル日の出岬)

バリアフリーからユニバーサルデザインへ

2019年からホテル運営に目標を設定し、次々と実現していった工藤支配人。2020年からは新たなホテル整備計画がスタートしました。計画の中でも特に力を入れたのがバリアフリーからユニバーサルデザインへの切り替えでした。

工藤 :
このホテルは開業当初から、バリアフリーを随所に取り入れた素晴らしいホテルでした。 ただ、これからはユニバーサルデザインにしていかなければというのが私の考え方。 
障がい者向けにつくられた特殊浴場の改装にあたって、ユニバーサルデザインの浴場にしたいと希望を出しました。ゆるやかなスロープを導入し、障がい者だけでなく健常者も、乳幼児のいるご家族も、ゆったりと気兼ねなく入浴できる、「貸切展望温泉レラ」へと改装しました。

貸切展望温泉レラ 海を眺めながらゆったりと入ることができる(写真提供:ホテル日の出岬)
貸切展望温泉レラ 海を眺めながらゆったりと入ることができる(写真提供:ホテル日の出岬)

工藤 :実現するためには増設の必要があり、その分費用もかかりました。でも、町は改装費用を捻出してくれたのです。以前は月に1組か2組の利用でしたが、リニューアル後は約600組のお客さまが利用するほどになりました。1度いらっしゃると次はリピーターに。ただ直すのではなく、確固たるコンセプトを持った改装が結果に繋がりました。

さらにホテル全体の整備計画のコンセプトに設定したのが、「海を望む癒しのカフェ」です。現在は客室の改装を順次進めているところ。終了年度の2027(令和9)年までに、ロビーとレストラン、さらに外壁も含めた改装を目指しています。

リニューアルした和室。ゆったりと海を眺めながら過ごすことができ、ワーケーションにもオススメ。(写真提供:ホテル日の出岬)
リニューアルした和室。ゆったりと海を眺めながら過ごすことができ、ワーケーションにもオススメ。(写真提供:ホテル日の出岬)

工藤 :ユニバーサルデザインへの新たなステップとして、2年前から障がい者雇用もスタートしました。最初は仕事の適性がわからなかったので、さまざまな仕事を経験してもらいました。 「お弁当屋さんをやってみたい」という本人の希望もあり、現在は調理補助として料理長に料理の基本を習っています。スタッフも私も、障がい者の方との働き方を関わりながら勉強中です。

ピンチをチャンスに。コロナ禍での挑戦

ホテル運営が安定してきた頃、新型コロナウイルスの影響が宿泊業界を襲いました。ホテル日の出岬も売り上げが大幅に減少。さらにエネルギーコストの高騰がホテル運営に追い討ちをかけています。

工藤 :
コロナ禍は本当に大変でした。疲弊せず、とにかくピンチをチャンスに変えて行かなければと模索しましたね。 新しいメニューづくりやアメニティ・バイキングのスタート、ホテルウェアもリニューアルしました。ピンチをチャンスに変えて準備をしていれば、お客さまは戻ってくると。

備えるためには、雇用も維持しなければなりません。ストレスによる退職者が増えていたことから、今度はスタッフのメンタルケアにも注力しました。

工藤 :何かやり遂げても、常に何かが押し寄せてくるわけです。
改革して、スタッフのケアをして、安定してきたところで、電力費が170%、燃料費が127%上がって思うように利益が出せない。

そうした状況下ですが、各部門の売り上げはコロナ禍で落ち込んだものの、この3年間上がり続けています。こんなことはありえない。私は異常値だと思います。 
でも、それが数字として残っているのは、スタッフの頑張りがあったからこそです。

雄武町観光の核として誇れるホテルに

ーーこの5年間でさまざまなことに取り組まれてきた工藤支配人ですが、今後の構想はありますか?

工藤 :
ホテルの整備計画が完了する2027(令和9)年まで、私は支配人としてここにいるかはわかりません。ただ土台さえ築けば、私に何かあっても計画は進んでいくはず。とにかく後世にこのホテルを引き継ぎたいという思いです。

ホテル日の出岬は、シティホテル、ビジネスホテル、温泉、さまざまな要素が混ざった形で運営されてきましたが、リゾートホテルというコンセプトで運営した方がいい。 ここにホテル日の出岬があるから、プラス観光も出てくるんだと思います。 

雄武町観光の核となるホテルとして、力を注がなきゃダメなんだろうなと。

ーー最後に、支配人のその熱量はどうして湧きつづけるのでしょうか?

工藤 :
使命感でしょうかね。ホテルをどうにかしなきゃならんと。

頑張れるのは、お客さまからの評価や周りの人からの「良くなったね」の声があったから。
支配人の仕事って難しいなと痛感しましたけど、色々取り組んで達成感があって楽しいなと思いました。

投げ出すか、再生するか、ホテルにぶら下がって給料をもらうために、適当にやっとくか。あの時、目の前にあったのは3つの選択肢。それなら、再生を選ぼう。それだけですよ。

工藤支配人の力強い言葉に、胸を打たれた取材。ホテルに宿泊した翌朝、リニューアルした客室からは真っ赤な朝陽が見えました。雲に覆われた空に数分現れたその姿に、「明けない夜はない」のだと、ホテル再生の物語とシンクロした瞬間でした。

オーシャンビューの客室から見える海も太陽も、二度と同じ景色はない。ホテル日の出岬は日々、進化していきます。

ホテル情報

〒098-1703
北海道紋別郡雄武町字沢木346-3 
TEL. 0158-85-2626
FAX. 0158-85-2020

雄武町よりご案内

雄武町では雄武町オホーツク紋別空港利用促進助成事業を行っております。
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