「観光は人」雄武町観光協会があるもの活かして届ける地域の魅力
雄武町プロジェクト
文:髙橋さやか 写真:高橋洋平
風にそよぐ緑の牧草、のんびりと草を食む牛たちの姿、その先に見えるのはオホーツク海。
北海道北部のまち・雄武(おうむ)町には、北海道らしい自然あふれる景色が広がっています。
雄武町には大きな娯楽施設はありませんが、地域にあるものを生かし、まちの魅力を届けている人がいます。生まれも育ちも雄武町という、三浦富貴子さん。雄武町観光協会職員として、人とのつながりを大切にしながら、雄武町ファンを増やしています。
何もない町だからこそ、できることがある
2016年に設立された雄武町観光協会。ホームページやSNSをはじめ、イベントや物産展への出展、オリジナルグッズの作成など、多岐にわたって雄武町の魅力を届けています。2019年に知人からの声かけで観光協会に参画したという三浦さん。体験プランの企画・運営など活動の幅を広げています。
ーー三浦さんが2019年に観光協会に入ってから、新たにスタートしたことはありますか?
三浦 :雄武町の滞在を楽しんでいただく「おむ旅 体験プラン」が、形になったことですかね。形になるまでには時間がかかったんですが、「 1つでもいいから、雄武の旅行スタイルを見せていこう」と、2020年に体験プランを立ち上げました。
現在は3つのプランがあって、1つが「農家のお母さん直伝 焼きたてパン作り」。2つ目が「牧場さんぽ」といって、普段入ることができない放牧地をさんぽしながら、牛を観察できる体験。3つ目は、日の出岬展望台ラ・ルーナとオホーツク海をバックにした、「ドローンde思い出空撮プラン」です。
ーーどれも楽しそうです。2020年にプランをスタートしたんですね。
三浦 :そうですね。2020年に地域限定旅行業※を取得して、「モニターツアーを組みましょう」と計画していた矢先のコロナで。動けないなりに、実現可能な企画を立てようとプランを練りました。
移動の制限もある中だったんですが、日の出岬ホテルのフロント前で、臨時の観光案内所を出させてもらったんです。雄武町公認キャラクターのいくらすじ子ちゃんのぬいぐるみで、お客さまをお出迎えをさせてもらって、「こんなプランをやってるんですが、いかがですか?」と、ご案内して。その時はドローンの空撮と、ホテルの展望室を利用したヨガ体験を実施しました。眺めの良い場所を貸し切ってのヨガは、特別感があって好評でしたね。
※地域限定旅行業とは、地域の観光資源を活用した旅行商品や体験プログラムを提供する「着地型旅行」を旅行者に提供する旅行業の一形態のこと。
ーー素敵ですね。体験プランの企画など、観光協会の職員としてまちの魅力をどうやって引き出しているんでしょう?
三浦 : 私は雄武町って何もないことが、実は強みなのかなって思っているんです。町の人間がアテンドすることで楽しんでいただいて、 せかせかした旅行ではなく、のんびりとした贅沢な時間なのかなって。
私自身、バスガイドの経験があったり、個人で観光ガイド的なことをしていた時期もあったんですね。本州から友達家族が来た時に、「何もないこの地で、どう3日間を過ごそう?」と考えて、雄武町だからこその体験をしてもらったり。
仕事をしていて感じるのが、雄武町の人たちってサービス精神が旺盛なんですよね。「ちょっと牛見せて」とか、「ちょっと船見せて」とかって、お願いすると、ただ“見せる”以上のことをしてくれるんです。
例えば、ツアーの方と船を見に行ったタイミングで、ちょうどホタテの船が入ってきた時があったんです。そしたら漁師さんたち、張り切ってホタテをくれて。
でも、もらった方は大変じゃないですか。「嬉しいけど、殻付きのホタテどうしよう・・」って。「じゃあ、庭で一緒にホタテ剥きを体験してみましょう」と、思いがけない体験ができて、みなさん喜んで帰っていかれるんですよね。
体験した方が「雄武に行ったら面白い体験ができた!北海道旅行迷ってるなら、行ってごらん」みたいな感じで、次につながっていくとうれしいですよね。
私のあたり前は誰かにとっての特別
まちに人を集めようとなった時、流行りの何かを集客の起爆剤にするケースも。それもひとつのあり方ですが、「あるものを活かしていこう」という三浦さんの姿勢が素敵だなと感じます。
ーー三浦さんは雄武町で生まれ育ったとのことですが、町の魅力って外の人の方が気づくことが多いのかなと。そういう中で、体験プランのアイディアって、どこから出てくるんでしょう。
三浦 :とにかく、あるものを生かさないと。観光の何かを1つ成功させるって、すごく時間がかかると思うんです。
例えば、「サウナが流行ってるから、川でサウナやろうぜ」とかも考えはするんですけど、実行・継続となると、また話は別で。もともと町にないものを持ってきても、経費もかかるし、失敗のリスクもあります。じゃあ、背伸びせずにできることと言ったら、やっぱりあるものをどう活用するか?が大事。
三浦 :暮らしている私たちにとっては見慣れた光景も、「あれはなんですか?」って驚かれることがあるんです。北海道内から来た方ですら。
「あ、これが面白いって感じてもらえるんだな」とか、「あ、こういうことに感動してもらえるんだな」という、ちょっとしたヒントを聞き逃さないようにしています。だから、 来ていただいた方とは、なるべく仲良くなってたくさんお話するようにしてるんですよ。
ーー小さなヒントをキャッチしているんですね。体験プランに関わる方は、もともと三浦さんと繋がりがあった方なのでしょうか?
三浦 :そうですね。周りの人に「こんな体験プランを考えたんだけど、どう?」と相談して、プランを作っています。参加してくれる方にとってもうれしく、協力してくれる方にとっても、長く継続してもらえる体制は意識しています。平日・土日に関わらず、観光協会と先生の都合が合えば、お客さまを受け入れて。みなさん協力して一緒にやってくれてるんですよね。
ーー三浦さんのプランは、地元の人とのコミュニケーションが生まれていいですよね。
コミュニケーションが生まれると、「この人がいる、この場所にまた来たい」ってなります。
三浦 :モニターツアーに来た方にも「観光って人だよね」って言われたんです。
観光地ではない町に、初めて来た時には「その町の生活に触れたい」っていうお話で。その言葉を聞いて、「ディープなナイトツアーに行きましょう」ってお誘いしたんですよね。「何もない町、雄武町へようこそ!」って、スナックに行ったんです。来る人来る人、知ってる人同士で「おぉ!」「ここ座んな」って声をかけ合ってて。人同志の血の通ったコミュニケーションの光景が、そこにありました。
体験プランを立ち上げる時、絶対に私1人じゃできないのはわかっていたんですね。だから、周りの人に「お願いします」って力になってもらって。 それが計らずも、人とのコミュニケーションが生まれる観光になっていた。私がやってきたことって、間違いではなかったのかなって感じてます。
「雄武町っておもしろい!」を内外に
地域の資源と、人とのつながりを活かして生まれた体験プランに加え、観光協会では雄武高校での観光PR授業など、次世代につなぐ活動もおこなっています。地域の魅力を届ける活動は、未来に向けてどのように広がっていくのでしょうか。
ーー観光協会のお仕事をされている中で、励みになることとかってありますか?
三浦 :次の世代への繋がりを感じる時ですかね。
雄武高校では、観光PRの授業があって、パンフレットや動画を作成します。そのパンフレットを、雄武高校の生徒が修学旅行先で配布して、雄武町のPRをしてくれるんです。高校生ならではの視点で、予想外の面白いパンフレットができあがったり、「見てください」と完成品をもって来てくれるのはうれしいですよね。
それと、中学生の職業体験で「観光協会に行きたい」っていう子がいて。「受け入れ可能ですか?」って問い合わせをいただいたので、ぜひ来てくださいって。
一度雄武町を離れたけど、「観光の仕事でUターンしたい」っていう子も何人かいるみたいで。 今廃校も増えているので、そういうところを活用した何かを若い子たちが作ってくれたら、うれしいですよね。
ーー三浦さんは観光協会のお仕事を通して、雄武町をどんな町にしていきたいですか。
三浦 :人口の減少を食い止めることは難しいと思うんですよね、どうしても。そんな中でも、雄武で育った子どもたちが外に出て行った時に、「自分が育った町はこんなに面白くていい場所なんだ。こんな風に人と自然と関わりながら育ててもらったんだ」って、胸を張って伝えられるような場所になっていったら、いいですよね。
成長して大人になった子たちが、いつか自分たちの家族で、体験をしに戻ってきたりとか。友達連れてきたりとかね。離れることで、見えるものもあると思うので。小さい町ながら、「これからの人たち」にとって“住み良いまち”になっていったら・・と思います。
来年度は、あらたに「磯船クルーズ」を構想してるんですよ。漁師さんが運転する磯船に乗って、日の出岬を外から見るっていうプラン。派手さはないんですけど、雄武だからこその体験になると思っています。
私が観光協会に携わって4年。 こうやって、活動をこまめに発信するようになったら、「頑張ってね」「ホームページ見てるよ」と声をかけてくれる人も増えました。今まで知らなかった人たちに「観光協会頑張ってるね」と知ってもらえるのは、やっぱり嬉しいです。
自分が楽しく暮らさないと、何も楽しく発信はできない。
だから、これからも雄武で楽しく暮らして、まちのおもしろさを伝えていきます。
「三浦さんは雄武町の財産です」ーーモニターツアーに参加した方のコメントを役場の方が教えてくださいました。
「港で人が働いてる姿が好きで、 船が帰ってきたり、水揚げしてるところとか、船の音が聞こえると見ちゃうんですよね」と話していた三浦さん。慣れ親しんだ地元への想いが感じられる言葉に、今度はもっとゆっくり遊びに来ようと再訪を誓いました。
協会情報
〒098-1702
北海道紋別郡雄武町雄武1885−14 道の駅おうむ2F
電話: 0158-85-7234