そばにある幸せをつめこんで。eff eff(エフエフ)が受け継ぐ等身大のおいしさ
ニセコ町事業者の想い
文:本間幸乃 写真:斉藤玲子
日常は、手足を動かし、積み重ねた行動の上にある。ニセコの山麓で暮らしながら事業を営むeff eff(エフエフ)は、本場ドイツの伝統的な製法で、食卓にのぼるハムやソーセージを届けています。
家族の歴史とともに歩んできたeff effの物語。代表の佐々木泰平さんにお話をうかがいました。
生まれた時からそばにあった父の味を守りたい
ニセコ連峰の主峰であるニセコアンヌプリの麓に佇むeff eff。まるで絵本の世界から出てきたようなコテージが、山の木々に溶け込んでいました。
世界中からファンが訪れる国際スキー場からほど近いこの場所で、1985年12月にeff effはオープンしました。まずは創業からこれまでの歩みについてうかがいます。
ーー創業の経緯を教えていただけますか。
佐々木:創業者である私の父・実(みのる)は、酪農学園大学卒業後、日高の牧場に就職しました。酪農を学んでいたことから、父はハム・ソーセージづくりを任されることになったそうです。
ほぼ独学で製造を始めたため、本格的なハム・ソーセージづくりを学ぼうとドイツに渡って修行し、帰国後にeff effをオープンしました。
ーードイツでの修行は、何かツテがあったのでしょうか?当時はインターネットもなかったですよね?
佐々木:ツテはなんだろう‥何か知ってる?
お母様:ドイツ西部の都市ケルンで友人がレストランを経営していたんです。その方の紹介で、ニュルンベルグのソーセージ屋で1年間修行させてもらいました。
ーードイツにお知り合いがいらっしゃったのですね。その後創業の地にニセコを選んだ理由は?
佐々木:ハム・ソーセージの製造工程には豊富な水が必要だからです。
さらに父は山岳部出身で、山が好きだったのでしょう。この場所も、ニセコでペンションを経営していた山岳部の先輩から教えてもらったそうです。
創業当初は軌道に乗るまで大変だったと思いますが、どこか楽観的というか、いつも楽しそうでしたね。
山に限らずアウトドア好きで「ちょっとカヤックで無人島一周してくる」と海外に渡って、帰国後は肉の調達に奔走していたことも。
苦労を苦労とも思わず、好きなことに邁進していた日々だったのかなと思います。
現在は製造に専念しているという父・実さん。2022年1月1日に泰平さんが代表に着任しました。創業の前年に生まれ、店の歴史とともに歩んできた泰平さんですが「家業を継ぐことは考えていなかった」と言います。
ーーまだ継承されて1年ほどなんですね。何かきっかけがあったのでしょうか?
佐々木:きっかけというほどでもないのですが‥父は以前から「70歳までには引退する」と言っていたんです。昨年で71歳。少しズレてしまったんですが、父の節目として僕が事業を継ぎました。
僕が本格的に製造・販売に関わり始めたのは、2017年から。勤めていた土木用品メーカーを退職し、2015年にニセコに戻ってきました。
先を模索していた中で、父が言葉だけでなく、実際に事業を縮小していくのを目の当たりにして。「このままだと本当に辞めてしまうかも」と思ったんです。
佐々木:生まれた時からあった店、いつも食べていたハムやソーセージがなくなってしまう。それは勿体無いし、寂しいなって。父の体が動くうちに店のことを教えてもらおうと、家業に入る決意をしました。
この時が自分にとって一番のターニングポイントかもしれませんね。
子どもの頃はお中元やお歳暮シーズンに贈答用の箱折りをしたり、商品にラベルを貼る程度の手伝いはしていましたが、「家業を継ごう」とは全く考えていませんでした。でも、店がなくなるかもしれない現実が見えてくると、気持ちが変わりました。
店頭に立っていると、「ちっちゃい時から知ってるよ」と声をかけてくれるお客さんがいるんです。
創業から30年以上通い続けてくれるお客さんに会うと、継ぐことを選んでよかったと思います。
昔ながらの製法でつくるドイツ仕込みのハムソーセージ
「いつも食べていた味を守りたい」と泰平さんが受け継いだeff effのハムソーセージは、保存料やうま味調味料を使わず作るやさしい味わい。
取材中にお母様が「どうぞつまんでください」とソーセージの盛り合わせを差し入れてくださいました。
ーーおいしい。初めて食べる味です。あっさりしてるのにお肉の旨味が感じられますね。
佐々木:ありがとうございます。何か特別なことをしているわけではなくて、昔ながらの伝統的な製法で作っているソーセージです。
ーー「昔ながらの」作り方というのは?
佐々木:手作業中心の作り方ですね。
製造工程としては、まず北海道産の新鮮な豚肉を、手作業で小さくカットするところから始まります。筋や軟骨、リンパ部分を丁寧に取り除くことで、口当たりが滑らかで食べやすく、雑味のないソーセージに仕上がります。
ソーセージのカーブは、天然腸を使っている印。天然腸には目に見えない微細な穴が空いているので、燻製の香りがつきやすく、風味が良くなるんです。
腸の大きさや太さにはバラつきがあるので、ウインナー1本の重さが均等になるように、手びねりで長さを調整しています。
ーー泰平さんはハムソーセージ作りをどこかで学ばれたのでしょうか?
佐々木:父から教わりました。父の製造方法は職人技というか、感覚に頼ることも多くて最初は苦労しましたね。
ソーセージは温度管理が重要なんです。品質保持のため、肉の温度が上がらないうちに手早く仕上げなきゃいけない。季節や天候によっても状態が変わるため、気温の高い日には手を冷やしながら作っています。
温度が上がると肉同士がくっつきにくくなり、ボソボソした食感になってしまうんですよ。製造中は温度を測る時間も惜しいほど。作業を繰り返すうちに、肉の感触で温度がわかるようになってきました。
ーーまさに職人技ですね。昔ながらの手作業に加え、保存料を使わず作ることにもこだわっていらっしゃいますよね。
佐々木:そうですね。父と僕の2人だけのミニマムな体制なので、特に必要ないかなと思っているんです。保存料を使う理由って、賞味期限を延ばすことと、多くの人の手で大量の製品を作る過程で、品質を安定させるためだと思うんですよね。
eff effの品質は保存料に頼らずとも、僕の腕を磨くことで維持できます。
委託販売している商品の管理も、できる限り自分たちで行っています。現在の販売先は、店から1〜2キロ圏内にある「ニセコ蒸溜所」と「ホテル甘露の森」。道の駅「ニセコビュープラザ」では商品販売のほか、焼きソーセージとホットドックのテイクアウトでも出店しています。
製造できる量が限られている分、自分たちの目が届く範囲で、一つひとつ製品を届けることを大事にしています。
日常の尊さを胸に
昔ながらの手作業にこだわり、自らの手で届けることを大切にしてきたeff eff。泰平さんが代表に着任した2022年は、まだ新型コロナウィルスの影響が大きかった頃。初めての経営という困難と向き合いながらも、ある想いを持ち、今後を見据えていると言います。
佐々木:経営面では苦労の真っ最中です。
家業に入った当初は作ることばかりを考えていたのですが、販売や設備の維持、今後の方針など、次第に考えることが増えて。作ったもので利益を出すという、経営者としての苦労を実感しています。
佐々木:ただ、作って、売って、お客さんと話をして、と全ての過程を体験できることが楽しくもあるんです。家業に入ってあらためて「作ることが好きだったんだな」って気づいたんですよね。
子どもの頃からeff effのハムとソーセージは身近にあった存在。当たり前すぎて、気づかなかったんですけど。
ーーこんなにおいしいハムやソーセージが身近にあるなんて羨ましい限りです。今後「こんな店にしていきたい」と考えていることはありますか?
佐々木:ニセコに来ることができない方にもeff effの味を届けたいと思っています。これからは積極的に催事に出たり、ECサイトを作ったりと販路を広げたいですね。もちろん「自分たちの目の届く範囲で」という姿勢は変えずに。
お客さんと直接関わることで、商品が届けられるような循環を新たに生み出せたら、と思っています。
ーー最後に、泰平さんにとってeff eff とはどんな存在ですか?
佐々木:eff effは小さい時からずっとそばにあったもの。「日常」です。
だから今までは特別意識したことがなかったのですが、「なくなってしまうかもしれない」と思った時に、その存在の大きさに気づきました。
今では前よりもずっと大きな、自分にとってかけがえのない日常になっています。
幼い頃の「当たり前」は、育ててくれた人の営みに支えられていたことに気づかされた取材。
「eff eff」とはドイツ語で「最高」という意味だそう。泰平さんに受け継がれたeff effのハムとソーセージは、何気ない日々の幸せをやさしく伝えてくれます。
店舗情報
eff eff(エフエフ)
〒048-1511
北海道虻田郡ニセコ町ニセコ483-1
電話 0136-58-3162
営業時間 9:00~17:00
定休日 火曜日・水曜日
年間休日 4月1日~10日・11月1日~20日・年末年始