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南相馬市

掛け合わせは無限大、南相馬から菅野漬物食品が届ける漬物の可能性

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掛け合わせは無限大、南相馬から菅野漬物食品が届ける漬物の可能性

南相馬市事業者の想い

文:高木真矢子 写真:平塚実里

おだやかな気候のもと、のどかな風景が広がる福島県・南相馬市。
相馬野馬追で知られる街に、「ナンバーワンで、オンリーワンの、感動を届けられる商品を届ける」そんな思いを胸に、日々挑戦を続ける漬物メーカーがあります。

創業82年を迎える、株式会社菅野漬物食品。「みそ漬処 香の蔵」係長の齊藤彰宏さんにお話をうかがいました。

香の蔵店内
香の蔵店内

南相馬で82年の歴史を誇る菅野漬物食品

「相馬きゅうり漬」や「クリームチーズのみそ漬」を展開する菅野漬物食品。福島県外のスーパーでも見かける、菅野漬物食品のパッケージには「タマゴヤ」という文字と卵のシルエットが描かれています。
漬物製造メーカーなのに卵?と気になった人もいるのではないでしょうか。そこには、これまでの歩みが関係していました。


ーー菅野漬物食品さんの歩みと事業について教えてください。

齊藤:1940年に創業し今年で82年を迎えました。会社の始まりは、4代前にさかのぼります。当時、魚屋を営んでいた菅野沖治が、卵や乾物も一緒に売り歩くようになりました。卵を売っていたことから、「玉子屋さん、玉子屋さん」と呼ばれていたそうです。その愛称を受け継ぎ、今でも「タマゴヤ」の文字とロゴを大切に使っています。

その後、創業者の菅野菊雄が婿入りする形で菅野家に入り、梅干しを中心とした漬物作りを始めました。現在は漬物製造メーカーとして、「相馬きゅうり漬」「朝鮮漬」などの乳酸発酵の漬物をはじめ、「クリームチーズのみそ漬」といったお客様に感動されるような商品創りをしています。

創業時からの愛称を今でも受け継ぎロゴに使っている
創業時からの愛称を今でも受け継ぎロゴに使っている

齊藤:当社では特に、「きゅうりの乳酸発酵漬け込み」という製法にこだわりを持っています。乳酸発酵させることで、きゅうり特有の苦味や青臭みがなくなり、本来の美味しさが引き出されます。昔から受け継いできた技術によって、「薄味でもおいしいきゅうり漬け」になるのです。

取材でうかがった「みそ漬処 香の蔵」は、1994年にオープンした店舗。菅野漬物食品・初代の菊雄さんが製作や収集を行った、甲冑などを展示する甲冑館に併設する形で作られました。1998年には、現在の社長である、3代目の菅野行雄が社長に就任。キムチ専門店や「相馬一口きゅうり漬」など、新商品が大ヒットし、菅野漬物食品の業績は右肩上がりとなっていきました。

東日本大震災で一変したまち

順調に歩んでいた2011年3月11日。まちを一変させたのは東北地方太平洋沖地震による災害と、それに伴って起きた福島第一原子力発電所事故でした。

齊藤:当時は、正直、もうどうしていいかわからない状況でした。

工場や店舗の瓦が落ちるといった被害や、残念ながら家族を失った従業員もいましたが、おかげさまで従業員は全員無事でした。原発の30キロ圏外だったことから、地震から約1ヶ月の4月4日には、営業を再開できたんです。

でも、当時、道路を走るのは警察や自衛隊、消防の車ぐらい。
「福島県」「南相馬市」という名前が全世界的に知れ渡り、「南相馬に原発があるんでしょう」と誤解されることもありました。

南相馬市でも、うちは32キロ地点に工場があって、営業しても大丈夫だし、人も暮らしてる。でも、「南相馬」でひとくくりになっているから、外から見たらわからないんですよね。

全国のスーパーとの取引も徐々になくなってしまい、売り先もない。「本当にやっていけるのかな・・」という不安でいっぱいでした。

いまだに「店大丈夫だったんだね」「営業できてないと思ってた」「店流されちゃったんでしょう」と言われることもあります。

「いつまでも下向いてられないし、とりあえず時間はあるから新商品を作ろうか」ーー震災直後、社長の一言から商品開発が始まりました。酒好きが多いという菅野漬物食品のスタッフが新商品の着想を得たのが、2代目から続いている「豆腐のみそ漬」でした。

齊藤:香の蔵の看板商品「豆腐のみそ漬」は、2代目の俊夫さんが実家のお豆腐屋さんの豆腐を使って「豆腐のみそ漬」を作っていたことからはじまりました。震災後は、その豆腐屋さんも廃業してしまって、別の豆腐屋さんに変わったんですが。

「豆腐のみそ漬」はクリームチーズのようなとろける味わいが特徴です。そこから着想を得て、「チーズを味噌に漬け込んだらどうなるのかな?」と、新商品の開発がはじまりました。半年ほど時間を費やし、2011年12月に「クリームチーズのみそ漬」の販売に漕ぎ着けました。

非常に美味しい商品が出来上がったんですけど、最初は「クリームチーズのみそ漬」と言われても、お客さまもなかなか想像がつかない。「チーズなのか、みそ漬なのか、漬物のチーズなのか分からない」といった反応でした。
試食で食べていただくと「チーズの味もするし、味噌味もする」と好評価をいただき、徐々に広まっていきました。

そこから、新たなおつまみ系の商品を開発していきました。「黒胡椒クリームチーズのみそ漬」や「あん肝のみそ漬」、燻製の鴨肉をみそ漬にした「燻鴨のみそ漬」など。それがヒットしていったんです。

残念ながら、今は漬物だけを頑張って売っても、もうみんなが漬物を食べるという時代ではなくなってきています。漬物だけでは厳しい状況で、震災もあり、未来を見据えていくのも大変な状況の中、新しいものに挑戦して、受け入れられたのは非常に大きかったです。

そう言って、目を細める齊藤さん。新商品の手応えを感じ、物産展に向かう齊藤さんたちを待ち受けていたのは、辛く、悲しい反応でした。

心ない言葉に涙する日々からの再起

齊藤:風評被害は、話せばきりがないぐらい、いろいろありました。
物産展では「福島県の人は来るな」と心ない言葉を投げかけられることもありました。
福島県や南相馬という文字が視界に映り込んだだけでも、「本当に安全なものを作ってるのか」と問い詰められることや、「人に差し上げたら、『こんなものいらない』と近所付き合いができなくなった」と返品されたこともありました。

「なんでこんなことを言われるんだろう・・」と、私自身泣きながら仕事をすることもありました。電話の向こうから浴びせられる罵声に、涙ながらに「放射能検査をして安全ですから」と説明する従業員の姿もありました。

ーーつらかったですね・・。

齊藤:心が折れそうになりながらも、「絶対に売れる」という自信があったので、地道に物産展に出続けました。

震災から半年ぐらい経った頃でしょうか。東京など首都圏に行くと「いつまで震災の話をしてんだろうね」という声が聞こえてきたんですよ。都会では、もう切り替えているんだなと・・。

最初は驚いたんですけど、おかげで、気持ちの切り替えができました。

震災後の注文票やFAXで届けられたメッセージの一部。今も大切に全て保管しているという
震災後の注文票やFAXで届けられたメッセージの一部。今も大切に全て保管しているという

齊藤:いつまでも「かわいそうな南相馬の人」「被災者」と言われることに、違和感を感じていたということもあります。ホームページやFAX、物産展で受け付けた注文表にも気づけばあたたかいメッセージがたくさんあったんです。

「前に進むしかないし、やれることをやっていこう」と、会社としても足並みが揃っていました。

風評被害もありましたけど、「頑張ってください」「応援してます」「また(菅野漬物食品の商品を)食べたいです」と言ってくれる方も段々増えてきた。心ない言葉をぶつけてくる人の方を向くより、「こうして応援の声を届けてくれる人たちの方を向いて行こう」と、一致団結しました。

可能性は無限大。「クリームチーズのみそ漬」を福島・東北の名物に

再び力を込めて一歩を踏み出した菅野漬物食品。ホームページには「感動を与え続けられる企業。誰もやらないことに挑戦していく」との言葉が。応援してくれる人たちに向けて、新たな商品開発に邁進しています。

ーー挑戦に関する印象的なエピソードを教えてください。

齊藤:「クリームチーズのみそ漬」開発前から、毎週月曜に新商品開発会議を続けています。開発メンバー6人で、毎週何品かを考えて、試作や試食をしています。

色々な食材を試していますが、面白かったのはフォアグラ。できあがったら、フォアグラが消えていたんです。「誰かが我慢できなくなって食べちゃったのか(笑)」なんて騒ぎになったんですけど、フォアグラって油なので溶け出してしまっていたという。

うまくいくことだけじゃなくて、失敗や見送りになることも多々あります。とにかく、さまざまな掛け合わせというのは挑戦していますね。

社員一丸となって荒波を乗り越えたという齊藤さんの顔は晴れやかだ
社員一丸となって荒波を乗り越えたという齊藤さんの顔は晴れやかだ

齊藤さんは、商品開発では「おいしいのは当たり前。感動するか」を大切にしている、と話します。

齊藤:「感動」というキーワードのもと、「もうちょっと良くしよう」「もっとこうしたら美味しくなるんじゃないか」という考え方は、会社全体としてすごく大事にしています。美味しいのは当たり前で、感動を与えられなければ受け入れられなくなってしまいます。

社是には、「社会から必要とされる企業になる」という言葉があります。周りから必要とされる企業になれるよう、地域は大切にしていきたいです。

2010年に始めたお祭りがあって、震災でストップしてしまったんですけど、それも「地元の方に笑顔になってほしい」という思いから生まれているものです。甲冑館も一年中いつでも見れるようにしていて。

ーー郷土文化の拠点にもなっているんですね。改めて今後取り組んでいきたいことや目標はいかがでしょうか。

齊藤:2018年から、香の蔵の商品を福島ひいては東北の名物と言ってもらえるように、少しずつ商品展開を広げています。

今年の新商品は、クリームチーズの味噌の中にトリュフのパウダーを入れた「クリームチームのトリュフみそ漬」をはじめ、「レッドチリオリーブ~チーズ&レーズン~」など5品を発売しました。

パッケージでは、相性の良いアルコールの提案もしている
パッケージでは、相性の良いアルコールの提案もしている

ーー素材や手法、掛け合わせを変えることができる、可能性が無限大の商品なんですね。

齊藤:社長がよく言うのはナンバーワンで、オンリーワンの、うちだけのもの。
うちで一番美味しいものを作ればいいんだ、と言っています。
漬物って、きゅうりや大根というイメージが先行していますが、それだけじゃないんだよ、と。本当に可能性が無限にあるものなので、他にはないおもしろいものをつくっていきたいです。

「福島に来たら『香の蔵のクリームチーズのみそ漬』」「東北に行ったら『香の蔵』の商品をお土産に買ってきてね」と言ってもらえるようにしたいですね。

自分たちではコントロールできない、出口の見えないトンネルにいるような状況から、「今できることを」と突き進んできた菅野漬物食品。
前を向き、行動し続けたという齊藤さんの話に言葉では表せない力をいただきました。
新しいステージへと進み続ける菅野漬物食品は、これからも南相馬市から無限の可能性を示し続けてくれるでしょう。

会社情報

〒979-2335
福島県南相馬市鹿島区鹿島字町130
TEL:0244-46-3131 
FAX:0244-46-4736

直販店情報

〒979-2305
福島県南相馬市鹿島区永田字北永田28-3
TEL:0244-46-2233 
FAX:0244-46-2355

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