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描いた地図の上を歩んでゆく。2 Beans Coffeeが三笠に照らす光

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描いた地図の上を歩んでゆく。2 Beans Coffeeが三笠に照らす光

三笠市事業者の想い

文:浅利 遥 写真:斉藤 玲子

光のあるところに、人は集う。「やらない後悔より、やった後悔を」と、若き才能が北海道三笠から開花しています。

炭鉱で栄えていた面影が残るこのまちでは、かつて6万人が暮らしていました。最盛期と比べると、人が集う場はぐんと減ってしまいましたが、三笠市を拠点にコーヒーを通じて憩いの場づくりをしている若者がいます。22歳という若さでカフェ「2 Beans Coffee(ツービーンズコーヒー)」を立ち上げた、上西歩夢さんです。現在は店舗からキッチンカーへ転向し、活動の幅を広げています。変化を恐れずに突き進む上西さんの根っこには、どんな思いが宿っているのでしょうか。

来店型から、移動型カフェへ。

上西さんは、調理の基礎から応用までを学べる三笠高校の一期生。卒業後は製菓の腕を磨くため、東京の専門学校へ進学し、東京や旭川の製菓店で働きました。2018年、地域おこし協力隊として、再び三笠市へ。

母校の三笠高校生レストランでお菓子作りを教える傍ら、2019年に2 Beans Coffeeを開業。2年後には、キッチンカーで移動型のカフェに転向。その決断力と行動力に驚かされます。

2019年にオープンしたカフェ「2 Beans Coffee」。
2019年にオープンしたカフェ「2 Beans Coffee」。

ーーカフェの開業時は、三笠市で地域おこし協力隊もされていましたよね。

上西:そうです。三笠市の地域おこし協力隊として働いていた頃、月に何回か市民向けにお菓子教室を開いていたんです。人との繋がりが生まれ、収入も安定している任期中に起業して、お客さんと仕事の流れをつかもうと。「やるなら今だ」と思いました。

自分一人では分からないことだらけでしたけど、東神楽町でカフェを開いた協力隊の人と知り合って。カフェの開き方から土地のことなど、気軽に相談できる人がいたことは心強かったですね。クラウドファンディングで開業資金を集め、2019年にカフェ開業を実現しました。平日昼は地域おこし協力隊で働き、平日夜と休日にカフェ営業をしていました。

ーーそこから、2021年にキッチンカーへ転向したのはどんな経緯があったのでしょう?

上西:実は地域おこし協力隊の任期が満了したら、コーヒーの勉強をするため、兵庫県に行こうと思っていたんです。神戸ってコーヒーが盛んなまちなので。店は三笠高校の二期生に渡すと決めていました。

上西:そんな中、子どもを授かったんです。三笠は自然豊かで、農作物が豊富。子育てのことを考えて、環境の良い三笠に居ようと考え直しました。ただ、「自分の店がなくなるし、さぁどうしよう」って。

そこで、思い浮かんだのがキッチンカーでした。地域おこし協力隊の同期で、任期中にキッチンカーを始めた知り合いがいたので、もともと身近には感じていて、興味はあったんです。
自ら色んな地域に足を運んで、たくさんの人に自分のコーヒーを広めることができる。さらに、三笠のことも知ってもらえる。これは、チャレンジしてみようと思いました。

上西:キッチンカーを始める際も、クラウドファンディングで支援を募りました。「次のステップに進んで、頑張ってるね」と、あたたかく応援してくれる人たちの存在が、事業を走らせる上で支えになりましたね。

スペシャルティコーヒーの焙煎と焼き菓子

製菓の道を歩んできた上西さんですが、当初から起業意識があったわけではなく、「ただひたすらお菓子作りに夢中だった」と当時の心境を懐かしく語っていました。
そして今、上西さんを夢中にさせているのは、コーヒー焙煎。製菓とコーヒー焙煎には“ある共通点”があるといいます。一体、コーヒーの何が上西さんを惹きつけるのでしょう。

ーー製菓の道を進み続ける選択肢はなかったのですか?

上西:独学で探求しながらお菓子を作るのは好きなんですけど、いざお菓子屋さんで従業員として働くのは、またちょっと違って。自分が作りたい素朴なお菓子と、お店の華やかなお菓子の方向性の違いがあったり。レシピに忠実に作ることよりも、商品開発の方が自分には合ってるなと気づいたんです。

コーヒーを始めようと思ったきっかけは、札幌の「BARISTART COFFEE(バリスタートコーヒー)」でラテアートを体験させてもらったこと。当時は味とかよくわからなかったけど、とにかく「コーヒー楽しいな」って。
そこから、カフェ巡りをするようになって、「ブラックコーヒーでも、こんなに味わいに違いがあるんだ」って、その奥深さに魅せられました。スペシャルティコーヒーとの出会いも大きかったですね。

ーースペシャルティコーヒーは 2 Beans Coffeeでも扱っていますよね。どういった特徴があるのでしょう?

上西:
スペシャルティコーヒーは、生産者と直接やりとりをして買い付けされる、品質の高いコーヒーのこと。国際的な品評会での審査を経て、基準点以上の評価を受けた豆だけが、スペシャルティコーヒーに分類されるんです。

昔はコーヒーって安価で取り引きされていて、生産者に還元される仕組みになっていなかったんです。スペシャルティコーヒーという新たな枠組みが出来たことで、品質の良いコーヒーが高値で取引されるようになり、生産者にも還元されるようになりました。農家さんは良質なものを作ろうと努力するので、良い循環が生まれていくんです。

手元に届くまでの過程も含めて、「スペシャルティコーヒーっていいな」と思ったんです。本格的にコーヒーを始める決め手になりましたね。

上西:さらに、良質な豆を生かすために大事なのは、焙煎。全く同じ豆を使って浅煎りにしても、お店によって味に違いが出るんです。焙煎の仕方や淹れ方で変わるんですよね。

僕は豆本来の味わいが生きるような焙煎を心がけています。色んな人に楽しんでもらいたいので、飲みやすさは特に意識して。普段あまりコーヒーを飲まない人にも、コーヒーの面白さを伝えたい。浅煎りで酸の風味が残るものから、深煎りで苦味がどっしりと感じるものまで、幅広く揃えています。

ーーイメージした味を焙煎で表現できるって、すごい技術ですよね。どのように技術を身につけていったんですか?

上西:ひたすら本を読んだり、インターネットも活用して。あとは実際に焙煎の回数を重ねて味見しての繰り返しです。
僕、高校生で製菓を始めた時から勉強がすごく好きになって。知れば知るほどお菓子作りに生かせるし、思うように出来なかったら原因をくまなく調べて。独学でいろんなことを試す癖はそこで身につきました。

なので、焙煎も然りです。焙煎のデータがパソコンに残るようにしていて、試行錯誤するうちに、自分が求める味わいに近づいていきました。焙煎って化学変化によるものなので、どのくらいの温度や湿度で焙煎したら、加水分解がどう起きるか?マニアックに突き詰めるのが僕は好きなんです。笑

ーーコーヒーのどんなところが上西さんを惹きつけるのでしょう。高校時代に夢中になったお菓子作りに通ずる部分もありそうですね。

上西:コーヒーも焼き菓子も、材料や作り方はシンプルだけど奥深い。生豆を焼けばコーヒーになるし、焼き菓子に使う材料って、卵と小麦粉と砂糖とバターだけ。それが、混ぜる順番や温度によって味わいが変わる。その変化が僕にとっては、コーヒーにも通じる部分なんじゃないかな。

違いを感じるのは、お菓子はいくつかの材料を組み合わせて作る、“足し算”の調理。対してコーヒーは、“引き算”なんですよ。コーヒー豆から「いかに味を引き出すか」は、焼き菓子とは違う面白さを感じます。

“身の丈チャレンジ” で理想を叶えていく

「変化を楽しむ」ことに面白さを見出していく上西さん。でも人は時に、目には見えない恐れが変化を拒んだりもします。キッチンカーで全道各地を駆け巡りながら、次々と変化をチャンスに、可能性を広げていく力はどこからくるのでしょう。

ーー三笠に来られてからの4年間、次々と色んなことにチャレンジされている印象があるのですが、新しいことを始める時に躊躇することってないですか?


上西:あまりないですね。本当にありがたいことに、周りに恵まれていて、気軽に相談できる人がいるので、身の丈に合ったチャレンジしかしたことがないんです。銀行からの融資とか一切受けたことないですし、規模の大きい大胆なチャレンジってしたことがない。

ーー上西さんの決断力と行動力は、周りからの支えと身の丈にあったチャレンジをし続けることから生まれているんですね。

上西:自分が描ける地図の中で動くので、後先そんなに考えずにできるところもあって。「やらない後悔よりやった後悔」って言うじゃないですか。とりあえず、できることはやってみようと思って、行動するようにしています。そうしていると、次から次へとチャンスが舞い込んでくる感じなんです。

ーーキッチンカーを通じて新たな繋がりや、視野が広がったと思うことはありますか?

上西:ありますね。キッチンカーを始めてから横の繋がりが増えました。

上西:当初はキッチンカーって、店舗でやるよりもクオリティが低くなるのかな?って懸念もあったんです。でも実際にやってみると、レストランの一流シェフがキッチンカーで店と変わらない味を提供していて、イメージが見事にひっくり返りました。お客さんの中には、キッチンカー巡りが好きな人もいて、旭川や札幌に度々来てくださる方もいます。
自分が焙煎した豆を好んで買ってくれて、完売した日は達成感がありますね。

今はキッチンカーのジャンルもさまざま。例えば、ピザ屋さんとジェラート屋さん、うちのエスプレッソが集まれば、イタリアフェアができちゃう。繋がりが増えることで、今後いろんなコラボが実現出来るんじゃないかなと思います。

やさしくしてくれたまちの人がいたから。キッチンカーで三笠に光を

ーーチャレンジし続ける上西さんが今後、やりたいことはありますか?

上西:
キッチンカーを営業しながら、三笠市のプロモーションもできたらと思っています。地域おこし協力隊として三笠市へ戻ってから4年経つんですけど、改めて僕、三笠が好きなんです。

このまちにいる人たちが、クラウドファンディングで支援してくれたり、市からのバックアップもあたたかくて。店を営業していた時には、毎週のように来てくれたおじいちゃんやおばあちゃんもいました。そういう人たちのために、どうにかして、「まちの活性化に繋がることをしていきたい」という思いがあります。

三笠のまちを発信するという意味でも、キッチンカーで全道各地のイベントに呼ばれるような存在になっていきたいです。

平日2日間で1万人近く集まる、大規模なキッチンカーのイベントもあるんです。三笠でも、市と一緒に大きなイベントを企画できたらいいなと構想中です。

ーー「まちを盛り上げたいという」願いの裏には、三笠の人々への想いがあるんですね。最後に、上西さんが 2 Beans Coffeeを続けていく中で、ここだけはゆずれない部分ってどんなところでしょう?

上西:
ひたすら味を追求したいです。いずれは工房を作って、コーヒーとお菓子の店にしたいですね。片手で持って食べられる、フィナンシェとかクッキーとか。素朴なお菓子をただただ美味しく作りたい。

僕はまだまだ知らないことも多いので、変化をいとわずにいたい。その時々で一番いいと思うものをひたすら作って、心に残る美味しさを提供し続けたいですね。

いつのときも、人は光のあるところを求めているように思います。

光は暗闇の中で見えないものを可視化し、光が照らすところに人は集まる。そして、光は時に身も心もあたためてくれる。上西さんは光を宿して、まちに新しい変化を見出してくれるような気がしました。

毎月北海道の各地で真っ赤なリスがコーヒーを届けています。まだまだ変化し続ける上西さんの今を、ぜひコーヒーで味わい体感してみてください。

会社情報




2 Beans Coffee 
Tel:01267-3-7644
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