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「匠」と賞美されるゆめぴりか米 三笠の風土を活かした富田農場の米づくり

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「匠」と賞美されるゆめぴりか米 三笠の風土を活かした富田農場の米づくり

三笠市事業者の想い

文:浅利 遥 写真:斉藤 玲子

豪雪地帯、北海道三笠市。一冬で降りしきる雪は屋根がきしむほど、どっさり積もる。やがて、雪は水となって田畑をうるおし、三笠の主力作物を支えています。富田農場ではその土地柄を活かして、お米やスイカ、メロンなど複数種の作物を栽培をしています。

特にお米においては、良質米として6年連続で表彰を受けるほど、毎年高く評価されているのです。三笠の風土に合わせた富田農場の米づくりとこだわりについて、4代目の富田 篤一さんにお話しをうかがいます。

おいしいお米は低タンパクにあり。

2021年、富田農場では「ゆめぴりか良質米生産出荷表彰※」にて優秀賞を5年連続受賞した生産者に贈られる「匠」の認定を受けました。三笠の土地柄を活かした米づくりから、どのようなお米ができるのでしょうか。

ーー豪雪地帯と言われる三笠ですが、米づくりにおいて雪はどのような影響をあたえるのでしょう。

富田:日本の農業の中でも、雪がある地域とない地域での違いは「水」の関係ね。三笠に限らず、北海道の場合は雪解け水をダムに貯めるでしょう。その水が作物に供給される。そのおかげで、北海道の農業は成り立っているの。雪があるからこそ、美味しい米づくりができるんだよね。

ーー 三笠の雪が米づくりに生かされているんですね。富田農場のお米は「ゆめぴりか良質米生産出荷表彰」の優秀賞を5年連続受賞して「匠」の認定を受けているそうですね。

富田:ゆめぴりかの表彰は、低タンパク出荷で全道平均を上回った人だけがもらえるの。令和3年に受賞した人はたくさんいるんだけど、「匠」の認定は、5年連続じゃないとだめ。5年連続っちゅうのは難しいですよ。1年ダメになったら、また最初からやり直しだからね。

うちでは、「米の食味ランキング※」で、最高位の「特A」評価を受けている「ゆめぴりか」と「ななつぼし」という2品種のお米を栽培しています。ゆめぴりかは2016年から6年連続、ななつぼしは2011年から11年連続で、生産した全てのお米が低タンパクの良質米として、評価を受けて出荷されているんです。

ーー お米の品質を決める基準の一つに、お米に含まれるタンパク値が関係しているということですか?

富田:そう。タンパク質が少ない方がよりふっくらした炊き上がりで、良い粘り気が出るんだよね。「ゆめぴりか」のタンパク質基準は7.4%以下なんだけど、うちでは最も良い数値とされる6.8%以下のお米を生産してるんです。

ーー タンパク値の低いお米をつくるには、どのような条件が必要なのでしょう?

富田:肥沃な土壌よりも、地力がない土地の方がタンパク値が下がりやすいんですよ。ここは丘陵地帯で、昼夜の気温差が大きいので、米粒の熟成度合いが良い。

栽培においては、稲が倒れてしまうとタンパク値が下がらないので、風にも耐えられる丈夫な苗をつくることに徹しています。

富田:丈夫な苗づくりへのこだわりは、田植え前の種を発芽させるところから。10日間ほど水に浸けて、こまめに水を変えたり、水温を一定に保って均一に発芽させることが重要なんです。育ち方にばらつきがあると、品質にも影響するからね。なので、田植え後も水田が平らに育つように気を遣っています。

ほら、道中なんかで水田風景を見かけることあるでしょう?端から端まで一直線に平らな水田というのは、生産者が丹精込めて栽培してきたという証。

富田:一つ一つの稲に手をかけることに加えて、1枚の水田全体から生育状況のバランスを良くしていくことも、低タンパクのお米をつくる上では大事なことなんだよね。

もう一つは、無理をしない肥料設計。品質を高めるために必要な分だけに抑えるように心がけています。

連続表彰に値するお米をつくるために

匠の認定を受けた生産者として、「北海道のブランド米を全国に知ってもらうためには、食味も品質もあげていかないと」と語る富田さん。品質を追求し、連続受賞に値する米づくりに行き着くまでには、試練もあったといいます。

ーー高く評価されるお米になるまで、試行錯誤されたことはありますか?

富田:「ゆめぴりか良質米生産出荷表彰」がはじまった2015年。同じ地域の人が何人か受賞している中で、自分だけ受賞できなかったの。タンパク質は基準の7.4%以下だったから、出荷はできたけど、悔しくてさ。「これじゃいけない。こういう稲をつくってるんじゃだめだ」と思ったんだよね。そこから、一気に肥料を減らして、倒れない強い稲への試行錯誤を重ねました。

富田:毎日「おいしくなーれ、おいしくなーれ!」って、農作業に没頭してたね。翌年の2016年からは賞を貰えるようになった。そうしたら今度は、また翌年に向けて「品質をもっと高めよう」と思うわけですよ。低タンパクの部分だけじゃなくて、青米やくず米が入らないように、とかね。そうやって、「より美味しいお米」を目指すようになりました。

ーー誇りをもってつくり続けてこられる中で、困難に直面したこともあったのではないでしょうか。

富田:もちろん最初は失敗だらけですよ!
一度した失敗を繰り返さないように、次の年から自分で工夫してた。取り返しがつかないもん。お客さんもいるしね。

一番先に失敗した方がいいんですよ。大失敗。そうすると、「次は成功させるためにどうしたらいいか?」って、自分で考えて取り組むでしょ。最初っから良いものばっかりやってると、かならずどっかで挫折するから。一番最初に失敗すると、ほら最初のほうってお客さんまだついていないから。笑「これから」って思える。

収量よりも質。おいしいと思うひとつを選び、育てる

「自分の手が行き届く範囲で品質を高めて、美味しいものをつくって、消費者のひとに喜ばれたい」と話す富田さん。品質を追求する姿勢は、30年前に取り組んだある作物がきっかけでした。

ーー品質を大切にする姿勢はいつ頃から芽生えたのでしょうか?

富田:30年くらい前かな。もともと、富田農場では米だけでなくスイカもつくっていてさ。20代の頃、農協から「種無しスイカをつくってくれないか」という話があって取り組んだのがきっかけだね。

富田:最初は、100粒植えてたったの2粒しか発芽しなかったの。周りで種無しスイカを栽培しているところなんてなくて、試行錯誤の日々。発芽の仕方を種苗会社の人が教えてくれて、それで生えるようになって、苗をつくって。ほとんどの農家は撤退しちゃったんだけど、「どうしたら美味しくなるんだろう?」って考えて取り組んだら、抜群に美味しいスイカが出来たんだよ。

苗をつくって販売できるようにもして。その後、大手企業との連携とかもあったんだけど、2年で撤退しちゃったんで、自分で売ろうとなって。市場に出さなくても、直売所で売れたんですよね。

そうした一連の取り組みで、「本当に美味しいものをつくれば、売れるんだ」ってことが体感として分かった。今は作物を増やして、お米とスイカ以外にも、メロンやそば、とうもろこし、かぼちゃを栽培しています。どの作物も自分が美味しいと思う品種をつくるのが、一番良いよね。

富田:やっぱり直売所で販売するにしても、「特別に美味しい!」ってくらいの、こだわりの品を並べていかないと、お客さんは増えていかない。だから、栽培からお客さんの手元に届くまで自分でやる。美味しいものをつくるのは生産者の務めでさ。努力していくのは当たり前だと思ってつくってるよ。

ーー富田さんのように、良質なものにこだわる生産者や消費者が近年増えているように感じます。富田さん自身、農家全体の意識や取り組みの変化を感じられることはありますか?

富田:お米のことで言うと、ゆめぴりかという品種が出来てから、各農協でも「北海道米ブランドの価値を高めていこう」という機運が高まったように思います。今では、一定の基準をクリアしたお米でないと、売れないようになってきてる。良質なお米を届けようと努力する生産者が、少しずつ増えているんじゃないかな。
中でも、私も受賞した「ゆめぴりかの良質米生産出荷表彰」は、流れを変えるきっかけになったよね。表彰があることで、生産者の意識が高まるだけでなく、周りの評価も変わってきて、米農家全体がより良い方へと向かっているという実感はあります。

品質をうたってつくってきたことが、今になってやっと理解してもらえてると感じるね。

「匠」を飾る、農人生がある限り

「自分も年をとってきてるから、あと何回つくれるかな?って考えると、5〜10年だと思う。辞めるまでは納得できるものをつくっていく」と、残りの農人生を見つめる富田さん。これからの米づくりについてうかがいます。

ーー富田さんの実直な取り組みが一つ一つ積み重なって、受賞に繋がった。そうした評価から新たに生まれた可能性や試みはありましたか?

富田:これまでは、生産したお米は農協に出荷していたんだけど、富田農場のお米を単品で販売する機会もでてきました。「匠」の受賞をきっかけに、2022年からはふるさと納税の返礼品として取り扱ってもらっています。こうやって、100%富田農場の米が消費者の食卓に並ぶ機会が、少しずつ増えてくと嬉しいよね。

それと、良質米の生産出荷ができる米農家が1人でも2人でも、さらに増えると良いなと思います。そのために、これからの世代の方々に向けて、品質にこだわってつくってきた自分の取り組みも一つの見本として、伝えていくっていうのは大切だと思うんだ。そうした繋がりが相まって、地域全体のレベルも上がっていくわけですよ。

ーー自らが手本になって後世にも残していく。大事なことですね。
これから先も良いものを届けていくために、いち生産者としてどう在りたいですか?


富田:納得できるものをつくり続けたいですよね。良質米生産出荷をずっと続けているから、2021年に認定を受けた「匠」をもういっかい目指したい。
1年表彰を取れなかったら、またゼロから。5年間積み重ねないと匠には入れない。「どこまでできるか」プレッシャーとの戦いです。

最後までつくり続けていかなきゃならんですよね。それが今後の課題と挑戦です。

後日いただいた、富田さんのゆめぴりか米。艶やかな光沢とふっくらとした炊き上がりに、「これは、美味しいに違いない」と喉が鳴りました。口に含むと、粘り気のある食感とともに、広がるほのかな甘み。麺やパンを食べる日があっても、ここへ戻ってきたくなる。富田さんが生み続けるお米の美味しさは、「匠」の代名詞として、人々の心強い“食の味方”であり続けるでしょう。

会社情報

有限会社  富田農場
〒068-2167 北海道三笠市大里196

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