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「お菓子でみんなを幸せに」猫神様の丸森で栄泉堂が生みだすおいしい笑顔

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「お菓子でみんなを幸せに」猫神様の丸森で栄泉堂が生みだすおいしい笑顔

丸森町事業者の想い

文:高木真矢子 写真:平塚実里

宮城県の最南端に位置する丸森町。
清流・阿武隈川や里山の風景から、豊かな自然と文化を感じられる穏やかな町です。
この町で1893年から続く老舗菓子店「栄泉堂」。地域で古くから親しまれてきた「猫神様」をモチーフにしたどら焼など、ユニークな商品を開発しています。「丸森に根ざしたお菓子で、地域に貢献したい」という、5代目の池田洋平さんにお話をうかがいました。

父の姿、独立を宣言する兄、5代目としての意識

宮城県丸森町で1893年、飴屋として始まった栄泉堂。
5代目の洋平さんは大学卒業後に、菓子職人の世界へ飛び込んだそうです。
県外での修行ののち、結婚を機に実家のある丸森町へ戻り、栄泉堂5代目として日々奮闘しています。


ーーまずは、家業を継いだきっかけや、これまでの歩みを教えてください。

池田:お菓子屋の子どもとして生まれ、小さい頃から漠然と「将来は家を継ぐんだろうな」と思っていました。4つ上に兄がいるんですが、「俺は将来独立するから家を継がない。お前が家を継いでくれ」と、言われて育ってきたのもあると思います。

お菓子屋さんを目指す人は、製菓の専門学校に進学することが多いのですが、「社長になるなら、経営について学んでおくといい」という父の薦めもあり、大学に進学しました。

ーー後を継ぐということに、ためらいはなかったのでしょうか。

池田:父や祖父が職人として、地域の人の喜びにつながる菓子作りをしている姿を見て育ってきたので、「後を継がない」という考えはありませんでしたね。これまで受け継いできたお菓子は、なるべく絶やさず大切にしています。

店内には毎日100個以上作るという菓子がずらりと並ぶ
店内には毎日100個以上作るという菓子がずらりと並ぶ

ーー栄泉堂では、以前から洋菓子と和菓子を製造販売されていたんですか?

池田:そうです。実家に戻った当初は、私が和菓子屋で修行をしていたこともあり、「いずれは和菓子一本にしぼっていこう」と考えていたんです。

でも、町内に3店あった洋菓子店が徐々に閉店し、洋菓子を買えるのがうちだけになってしまいました。クリスマスや誕生日に、ケーキやクッキーなどの洋菓子を楽しみにする地域の人たちの笑顔を思うと、「やはり洋菓子も続けよう」と、和洋菓子店としての継続を決めました。

「菓子職人としてできることを」丸森町への思い

洋菓子店の閉店。
その背景には、少子高齢化による人口減少や、東日本大震災で起きた原発事故に起因するネガティブなイメージによる来町者減少などがありました。丸森町の高齢化率(65歳以上)は4割以上となり、2014年には「消滅可能性都市」に指定されました。


池田:洋菓子店だけではないんです。
子どものころにあった商店は、店主が高齢となり閉店し、町のあちこちに寂しい光景があります。

「丸森町には何もない」という声もありますが、裏を返すと「ありのままの自然を観光資源としてうまく利用している」ということ。修行で県外に出た時には、私自身も「何もない」と感じたこともありましたが、地元に戻ってきて、改めて丸森町の良さを感じています。

豊かで美しい山々があって、雄大な阿武隈川が流れている。そんな風景が一番の魅力だと感じます。

お菓子作りでは、水も重要な要素。丸森町の井戸水であんこを炊いていて、ロケーション的に、とても恵まれている場所だと思ってます。

ーー地域資源を活用されているんですね。人口減少のお話もありましたが、これまでに震災、台風の被害などもあったのではないでしょうか。

池田:震災後はしばらく物流が滞って、うちに食べものを買いに来る人もいました。
生活インフラは整っていませんでしたが、「何か役に立てることないか」とマドレーヌ約3,000個を避難所に配布したんです。準備をすすめる中で、いろんな業者さんやお客さまから、食材の提供などのサポートを受けて、とても助けられましたね。

一方で、原発事故の風評被害で「(福島に近い)丸森のものはいらない」と、心ない言葉をぶつけられショックを受けることもありました。

2019年の台風19号で丸森町を襲った甚大な被害。栄泉堂も店舗や着工間近の新工場などが、被害を受けました。水に浮かぶ菓子、使えなくなった冷蔵庫や冷凍庫・・避難所までの移動に使った愛車まで、浸水の被害にあったといいます。

池田:幸い人的被害はありませんでしたが、物理的な被害が大きく途方に暮れました。そんな時、従業員や近隣住民、ボランティアが店舗の復旧へ力を貸してくれました。「復興支援だから」と、菓子を何度も買いに来てくれる人もいて。人のあたたかさを感じました。

もし自分1人でお店を切り盛りしてたら、メンタル的に結構落ちていたと思うんです。従業員や家族、いろんな人と困難を共にできたので乗り越えられた。周囲の支えに助けられて、1ヶ月後ぐらいには、店を再開することができました。

支えになった「猫神様」

風評被害や浸水被害からの復旧と、少しずつ光が見えてきた矢先。襲ってきた新型コロナの波。越境をはばかられる状況になり、それまで来ていたお客さまやボランティアの来店も、ピタリと止まってしまいました。

池田:舟下りやキャンプ場など、自然を生かした観光資源がことごとくストップをかけられました。やっと立ち直り始めたのに・・。不安になる中、力になったのは2016年から町とともに取り組む「猫神様」にまつわる商品でした。

丸森町では、かつて養蚕が盛んだった町のネズミ対策として多く飼育されたネコをまつる文化財「猫神様」の石碑が数多くあり、日本一の猫神信仰の聖地としても知られています。
池田さんは、2016年に「猫神様」の企画展に合わせて、猫神様をモチーフにした生どら焼き「猫神様が通る」を開発。「ただお菓子が売れればいいというものじゃないんです」そう目を細めながら、池田さんは丸森町への思いを明かしてくれました。


池田:お菓子を考えるにあたって、ただ「売れる」「かわいい」だけで終わらない、何か地域貢献できるようなものが作りたかったんです。

商品を開発したきっかけや時代背景を伝えることによって、「猫神様が通る」を手にしてくれたお客さまが、丸森町に来たり、興味を持ったりしてくれたら・・そういう思いを込めているんです。

石碑から飛び出した猫神様がどら焼きの上を歩いていって、丸森町の場所を教えてくれるというストーリーが隠されたパッケージ。生クリームはホイップではなく、あえてバタークリームを使うことで常温でも持ち歩けるよう工夫している。
石碑から飛び出した猫神様がどら焼きの上を歩いていって、丸森町の場所を教えてくれるというストーリーが隠されたパッケージ。生クリームはホイップではなく、あえてバタークリームを使うことで常温でも持ち歩けるよう工夫している。
生どら焼き「猫神様が通る」。2017年12月には、さとふる人気お礼品ランキング・和菓子部門で月間3位にランクインした。
生どら焼き「猫神様が通る」。2017年12月には、さとふる人気お礼品ランキング・和菓子部門で月間3位にランクインした。

池田:「猫神様」の石碑は丸森町内に80以上あります。それに関連する商品を扱う、うちのようなお店も、「一人や二人での来店なら行けそう」という雰囲気だったんでしょう。

コロナ禍で、密を避ける「マイクロツーリズム」が推奨されたこともあり、気分転換や運動不足解消も兼ねて、猫神様の石碑めぐりをして、栄泉堂に立ち寄り「猫神様」の関連商品を購入してくれるお客さまもいました。

苦しい状況でも、止まらずにいられたのは「猫神様」があったから。本当に、丸森町にとっても、私にとっても支えになりました。

丸森町で古くから大切にされてきた猫神様が、まちを支えました。

お菓子を通して、みんなを幸せにしたい

猫神様にとどまらず、栄泉堂では地域に根ざしたお菓子を開発しています。2019年には、伊達政宗“初陣の地”である丸森町を代表する銘菓として、地産地消のオセロ型もなか「旗揚げ最中」を開発。クラウドファンディングにも挑戦しました。

「旗揚げ最中」は、伊達政宗が丸森町で初陣勝利をあげたことや、丸森町が、度々陣取り合戦の舞台となって藩主が入れ替わった史実から企画したといいます。

 
池田:「旗揚げ最中」は、戦国の名武将・伊達政宗が初陣勝利した地で作られた、縁起のいいお菓子です。これから何かへチャレンジする人たちに向けて、贈り手からの応援の気持ちが詰まったお菓子として、贈り物にしていただけたら、と考えました。

ーー素敵ですね。「猫神様が通る」同様、地域のことや歴史的背景にも興味を持ってもらえそうです。そういった商品のアイデアはどんなところから着想を得ているんでしょうか。

池田:時間が空いた時には町の郷土館へ行って、「みんなが知らないような新たな発見がないか?」探しに行っています。
そうして得た新たな発見を商品に盛り込み、お客さまが丸森町に興味を持ったり、楽しんでもらえるような仕掛けを考えるんです。例えば、「旗揚げ最中」のリーフレットは、向きを変えてスライドさせると、政宗のシンボルの三日月や二重丸、VictoryのVの文字が現れるようになっています。

池田:商品にも工夫をこらしました。最中の黒面は、北海道希少小豆原料の優しく炊き上げた粒あん。白面には丸森産えごまと、きなこのあんを使っています。
えごまは、丸森町の特産品。別名“じゅうねん”とも呼ばれていて、えごまを食べると、10年長生きするといわれる健康食材です。長命を意味する縁起のいい食材でもあります。

ーーお話をお伺いしていて、郷土愛の深さや、どんな状況でも行動し続けていらっしゃる前向きな姿勢を感じました。改めて、今後の目標などがあれば教えてください。

池田:丸森町の少子高齢化が進んでいるので、「丸森」という名前を商品名に入れるなど、町のネームバリューを高め、販路を広げていきたいですね。お菓子を通して丸森町に興味を持つきっかけを作ったり、会社を大きくして雇用も増やすなど、さまざまな面で地域貢献できればいいと思っています。

これまでさまざまな苦しい状況がありましたが、丸森町には「丸森町を盛り上げたい!」という若者や経営者が多く、町のために活動をしています。私も刺激を受けますし「菓子職人として丸森町のためにできることを」という思いを強くしました。

私はお菓子職人。できるのはお菓子をつくること。
これからもお菓子を通して、お客さまや従業員、みんなを幸せにしていきたいですね。

おだやかで物静かな雰囲気の池田さん。「インタビューは緊張して苦手なんです」と言いながらも、熱い想いを胸に秘め、情熱を込めてお菓子作りに取り組んでいました。
栄泉堂のお菓子に込められた思いは、これからも年齢や性別、地域を越えて人々を魅了していくでしょう。

会社情報

有限会社  栄泉堂
本店
〒981-2501 宮城県伊具郡丸森町大内町53
TEL 0224-79-2031
丸森支店
〒981-2163 宮城県伊具郡丸森町除29
TEL 0224-72-2492
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