丸森を広く外へ。GM7の多様性が創り出す新たな町の魅力
丸森町事業者の想い
文:高田江美子 写真:鈴木宇宙
2018年4月に立ち上がり、丸森町を起点とする地域商社として、物販、観光推進、飲食、指定管理施設の運営など多岐に渡る事業を通じて、まちの魅力を発信している株式会社GM7。立ち上げ当時から事業運営に尽力する代表取締役COOの音羽幸保さんと、地域商社チームの山本楓子さんにお話をうかがいました。
ひとつひとつ丁寧に、丸森の可能性を広げる
GM7という社名には、さまざまな想いが込められています。GはGLOBAL、MはMarumori・Miyagi・ Michinoku、7は地方創生に必要な7つの要素である、遊び・文化・自然・健康・教育・国際・仕事。国内市場のみならず国際市場も視野に入れながら、丸森を拠点に新しい東北地方を創造しています。
ーーGM7では物販、観光推進、飲食など沢山の事業を手掛けていらっしゃいますが、その背景について教えてください。
音羽:GM7の事業領域は、飲食と農業、観光推進事業から地域商社事業まで多岐に渡ります。最初はブランド米の開発や、飲食事業としてジェラート屋さんなど、物販・特産品開発のところからスタートしました。観光もそうですけど、飲食やお土産づくり、農産物のブランディングも含めて、付加価値を付けてさまざまな販路で展開することを目指しています。
地域に普及させていくためには、各事業でシナジーを生んでいく必要があります。地元の事業者さんでは手が届かないところをGM7が担い、関係する事業者さんの和を広げ、とにかく外に外に広げることを意識してやってきましたね。
ーー会社設立後、最初に手がけたのがブランド米のプロジェクトなんですね。
音羽:「町長がトップセールス出来るような、町を代表する特産品を作る」というミッションのもと、丸森町・生産者団体・GM7で三者協定を結び、スタートしたプロジェクトです。
腕のいい20名の農家さんが美味しいコシヒカリを作り、私たちが加工と流通販売を担い、町にバックアップしてもらうという一連の流れ。ブランド米には、土壌診断や減農薬・減化学肥料での栽培、食味値など、明確な基準を設けました。
ブランディングによって、高付加価値の商品を作り出し、生産者に還元するという仕組み作りをまちとともに行っています。共感してプロジェクトに参加する農家さんを増やしていきたいという想いも持ちながら、プロジェクトが進んでいます。
ーー特産品開発の1つ目がお米になった理由などはあるのでしょうか?
音羽:自然に囲まれた丸森町は、きのこやたけのこ、ジビエなど、山の幸が特産品として有名で、生産者も多かったんです。しかし、東日本大震災を機に、状況は一変し、生産者も激減しました。地元が誇りを持って取り組める特産品として、地域で長年作り続けているコシヒカリを町が選びました。
ーー「いざ初陣」という商品名もユニークです。
音羽:商品名の決定までは、紆余曲折がありました。
「丸森町民に応援してもらえる商品づくりが大前提」と強く思っていたので、全戸配布で商品名を募集したんです。役場の方とも意見を交わしながら、町長も巻き込んで進めました。私たちが決めてしまうという選択肢もありましたが、そこは丁寧に、みんなが誇りを持って宣伝してくれる賞品を目指す方向を選んだんです。最終的には、地元の高校生が応募してくれた「いざ初陣」というこの名前に決まりました。
4月にプロジェクトが立ち上がって、11月にはプレリリース。すごいバタバタで進みましたね。笑
ーープロジェクトに関わる人たちが多い中、苦労されたことも多かったのではないでしょうか?
音羽:そうですね。まずは、このプロジェクトの要である生産者さんと、商品設計や合意形成を図るところ。お互いにとって持続可能なプロジェクトにしていくため、付加価値をつけること、生産者さんに還元する利益配分などについては、お互い納得できるように、じっくりひざを突き合わせて話し合いを重ねました。
生産者や行政、農協や既存の流通関係者など、関わる人が多かった分、それぞれに納得してもらい、着地させるということは、難しかったなと感じますね。
販路を私たちが形成していくので、既存の流通形態ではなく、付加価値の高い都市部のチャネルを探してきました。難しさは多々ありますが、丁寧にプロジェクトの趣旨や、自分たちの目的を説明し、理解を得ながら進めました。
ーーひとつひとつ、丁寧に向き合いながらもスピード感を持ってプロジェクトを進めてきたのですね。その後も、沢山の商品開発をされているとお聞きしました。
音羽:丸森町のお米を副原料にした「丸森お米のクラフトビール」シリーズと「ライスワイン」なども手がけています。
「1本より2本(日本)で連携して地方を盛り上げる!」をテーマにした「MARUMORI KAKERU プロジェクト」の一環です。商品開発や販売を1自治体だけでなく、丸森町以外の製造元事業者や自治体も巻き込み展開していくことで、商品の可能性を広げ、ビジネスを通じて、丸森町の産業振興を目指したいという想いがあります。
多様なメンバーが生み出すユニークな事業
ーーお二人は、どのようなきっかけで、GM7に入られたのでしょうか?
音羽:私は宮城県仙台市の出身で、大学では農業経済を学び、卒業後は青年海外協力隊としてアフリカで2年ほど活動。その後、東京でODA(政府開発援助)の仕事を通じ、アフリカやアジア、南米といった発展途上国の農業農村開発・農村支援に携わりました。
東日本大震災を機に、国内部門に移り「日本の農業をなんとかしたい」という想いで仕事に取り組んでいました。
その後、農地に担い手を集める仕事をしたのですが、安定した農業経営のために必要な、加工や販売といった出口戦略の部分に、課題を感じていたんです。自分でも何かやりたい、と考えていたタイミングで、GM7の立ち上げに声をかけてもらいました。そこで、出身地である宮城県に戻ってきて、今はGM7の代表として働いています。
山本:私自身は京都出身ですが、両親ともに青森県出身で、父方の祖父母が農家をやっていることもあり、農業が身近な存在でした。関西の大学で農業について学び、何か農業系の仕事をしたいと学生時代から考えていたんです。卒業後は人材会社に就職したものの、農業にかかわる仕事への転職を考え、丸森町の地域おこし協力隊に。縁あってGM7に来たという感じです。
ーーデザインやプロジェクトの見せ方が素敵だなと思うのですが、これはどのような方が?
音羽:スキルがあるメンバーが揃っているんです。
グループ会社が4社あり、デザイン部門もグループ内にあります。1人1人が地域のリーダーになったりプロジェクトを回していけるよう、プレゼンやデザインのスキルなどを磨いています。四半期に一度全員が集まってプレゼン大会を実施するなど、個々のスキルを伸ばせるような場も作っているんです。
みんなほんとに持っている専門性やスキルがばらばらで、1人は太鼓職人だったり、1人はアメリカ人で英会話を頑張っていたり。山本も含めて、東京など他の地域で仕事を経験して集まってきたメンバーです。経験や興味を活かして戦力になってもらい、自分のやりたいところも含めて伸ばしていく。その中で、新しい事業を開発したり、既存の事業をしっかり確立させています。
これからという時に襲った台風の猛威
魅力あるメンバーが集まり、ブランド米「いざ初陣」をはじめ、クラフトビールの開発、地域の素材を取り入れたジェラート・タピオカ専門店など、スピード感を持って事業に取り組み、形にしてきたGM7。それぞれの事業が軌道に乗りはじめた矢先の2019年10月、丸森町を大型台風19号の猛威が襲いました。
ーー台風19号の被害は、丸森町全体で甚大だったとお聞きしています。
音羽:丸森町北部の阿武隈川支流が決壊し、道路や線路は崩壊。街中も広い範囲で浸水し、動けない状態が数日間続きました。
ちょうど規模拡大のために倉庫を構えて、廃校になった保育園に新しいオフィスを構えた直後に、台風が直撃し被害を受けました。倉庫も事務所も浸水し、大型冷蔵庫などの機器関係や商品も全部だめになってしまったんです。
山本:ちょうど新米を収穫したばかりの時期で、袋詰めした商品が倉庫で出荷を待っていたタイミングでした。その新米がだめになってしまったのを目の当たりにしたときは、本当につらかったです。
私は丸森町に来て、まだ2週間ぐらいのタイミングで台風被害に遭いました。床下浸水で、断水が1ヶ月ぐらい続いたので、まだ関係性もない中ですが先輩の家にお世話になり、復旧のための活動に従事しました。
ーー事業に大きな被害が出たんですね・・。台風19号の被害を経て、今はどのような状況でしょうか?
音羽:台風の被害に際しては、全国の方に応援してもらい、地域の方と協力し支え合いながら復旧活動に取り組む中で距離もぐっと近くなりました。改めて「地域のために」という想いを感じながらやっています。
観光や地域の活性化など、私たち民間がその分野を盛り上げ続け、使命感を持ちながら各プロジェクトを続けているところです。
現在力を入れている「ふるさと納税」の事業もその一つです。
ポータルサイトの運営など、ゼロから立ち上げる苦労や、当初に想定していたシステムの導入など、なかなか思い描いていた通りにいかない部分もあり、知恵と汗をかきながら取り組んでいるところ。地域の商材探しや新たな商品開発なども必要で、地域事象者を回っています。町もそれを理解し協力してくれて、自治体と一緒に共同でやっていくというのは、GM7でしかできない活動と思ってやっています。
山本:もともと地域にある商材だけでなく、地域の食材を取り入れた商品開発も積極的に行っています。町内の養蜂園の蜂蜜を使用したパンケーキや、店主が出汁ソムリエの資格を持つ仙台のラーメン店と共同開発した、丸森町の郷土食材「へそ大根」を用いたラーメン。
和太鼓体験や齋理屋敷の一日館長など、丸森町ならではの体験メニューも企画しています。
丸森に寄り添い、持続可能な未来に
台風やコロナ禍という大きな壁にあたりながらも、「地域のために」という想いを強くしながら、GM7は活動をつづけています。最後に、丸森町への想いとこれからの活動についてうかがいました。
ーー丸森町で活動する中で、まちの好きなところはありますか?
山本:応援してくれる方が多く、人の温かさ・大らかさというのは良いなと思うところです。新しい風を吹かせようと頑張っていらっしゃる人が多く、変えていこうという地域や役場の方々や、外部から来る協力隊の仲間など、前向きなところが良いと思いますね。
音羽:丸森を愛している大人が多くて、熱い想いを持った方々が沢山います。その姿勢を学びながら、私自身も周りの想いに応えていきたいと、使命感がわきますね。
丸森という独自性や地域に対するプライドがあるからこそ、私たちもブランディングや発信をしていきたいと思える、魅力的な地域です。
ーー今後の展望や目標などを教えてください。
山本:丸森町の人口は、減少傾向の中、台風被害後には更に減少しました。その中でも、丸森が本当に好きな人たちが町内には多くいます。現在携わっている商品開発やふるさと納税の分野で、事業者にフィーチャーした形で文化や特産品について情報発信することで、ファンが増え、地域と外を繋いでいければいいなと思っています。
音羽:台風被害や新型コロナウィルスの影響で、今まで当たり前に続くと思っていたことが永遠ではないのだと、気付きました。環境に配慮したり、サーキュラーエコノミーなど、地域の資源を循環させていくような、新しい時代の価値観を今後の事業にも取り入れていかなくてはいけないと思っています。アップサイクルのお店や、地産地消のレストラン、エシカル商品の取り扱いなど、ムーブメントを起こせる仲間を集めて、若い世代の新しい価値観をここで創出し、育んでいきたいですね。
お二人のお話からは、GM7として地域に対する使命感をもち、より良くしていきたいという気持ち、地域を愛する気持ちが溢れていました。
さまざまなメンバーが集まるGM7ですが、共通した地域への想いとそれぞれの個性や得意分野が掛け合わされることで、多岐に渡るプロジェクトを推進していけているのだと感じました。
今後、新たな商品開発や、次のプロジェクトへの意欲をのぞかせていたGM7。今後の活躍がとても楽しみです。
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