消滅可能性都市から若き挑戦者が集うまちへ。全力で挑む移住促進
丸森町プロジェクト
文:高田江美子 写真:鈴木宇宙
宮城県の最南端。阿武隈高地に囲まれ、美しい山々と阿武隈川の雄大な渓流の眺めに心穏やかになる丸森町。
自然豊かなこの町は、少子高齢化や若い世代の流出が著しく、2014年には「消滅可能性都市」※に指定されるなど、人口減少の大きな課題を抱えています。課題解決へと大きく舵を切り、地域おこし協力隊を活用した移住促進施策へと踏み出した、丸森町。地域おこし協力隊制度の導入に尽力した安達さんと、現在協力隊のサポートに奔走する大古田さんに、お話をうかがいました。
※人口減少によって存続が困難になると予測されている自治体
挑戦せざるをえない町
丸森町では、多くの地域おこし協力隊が、町外から移住し活躍しています。2021年10月時点で25名という人数は、全国的に見ても多い部類。現在に至るまでには、どのような歩みがあったのかを教えていただきました。
ーー地域おこし協力隊制度は、どういった背景のもとに導入が進められたのでしょうか?
安達:丸森町は少子高齢化が進み、2014年に消滅可能性都市に指定されました。人口減少に対する課題感はもともと大きく感じていたんです。移住定住の促進に向けて町として動き出したのは、国の方針として「地方創生」が叫ばれた2014年頃でしたね。
2016年に移住定住サポートセンターの設立に向け、移住定住推進室が立ち上がり体制整備が進みました。準備を進める中で、「移住定住サポートセンターには、実際に移住される方の気持ちがわかるようなスタッフを入れるべきだ」という声が上がり、地域おこし協力隊制度導入が検討された、と記憶しています。
大古田:最新のデータでは、宮城県内で丸森町の高齢化率は42.5%と、県内で2番目の高さ。(2021年10月時点)
実際に町内を歩くと、高齢者をお見掛けすることが多いですね。少子高齢化と人口減少といった町の状況が、移住促進や地域おこし協力隊の採用に影響しています。
ーー少子高齢化が進み、消滅可能性都市に指定されたことが、地域おこし協力隊導入の背景にあったのですね。そこからどのように隊員が増えていったのでしょうか?
安達:当初は移住サポートセンターだけだったのですが、2015年には商工観光課の管轄で起業サポートセンターが設立されました。2017年には、地域おこし協力隊制度を活用して起業家を呼び込み、地域資源を活かした事業に取り組む「まるまるまるもりプロジェクト」がスタート。
安達:子育て定住推進課や農林課など、他部署でも、地域おこし協力隊制度を活用した人材募集という流れが展開されていきました。一方で、募集活動を一気に進めたものの、当初はなかなか人が集まらなかったんです。
大古田:国で運営している地域おこし協力隊のポータルサイトに情報を掲載したり、起業型の協力隊については、東京などで興味のある人に向けたイベントを開催したり。本当にいろんな方法で募集を行いましたね。
多様な選択肢で、移住者を増やしたい
地域おこし協力隊制度をスタートした丸森町。地域の課題やニーズに合わせ、受け入れる人材・活動内容も多様化していきました。
ーー丸森町の地域おこし協力隊は、他地域では見られない4つの型があるそうですね。
大古田:起業型、企業型・団体研修型、地域貢献型、復興支援型という4種類の地域おこし協力隊の型があります。
起業型は、地域資源を活用した起業を目指すもの。企業型・団体研修型は、地域の企業や団体で働き、最終的には就職を目指して定住に繋げるという型です。
地域貢献型は、丸森町の各自治区に入って、地域の情報発信や特産品の開発などを担います。復興支援型は一番新しいもので、令和元年の台風により受けた大きな被害に対し、災害からの復興に力を貸していただくのが目的です。
安達:前半は行政主導で導入しましたが、後半は、民間からの希望や地域の要望から募集したものもあります。協力隊の人数が急激に増えたのは、地域や企業側からの要望が出てきた時期からですね。
大古田:安定して人が集まり、規模が大きくなったのはここ2〜3年のこと。現在、丸森町の地域おこし協力隊は、25名が町内で活動しています。
ーー地域貢献型というのは、「地域からの要望が上がって」という流れだそうですが、どのような声があがっているのでしょうか?
安達:昔は公民館などに町役場職員が派遣されていましたが、地域の方が自ら自治活動を担っていく方向に舵を切って、10年以上経ちます。その中で「自分たちが苦手なところを、協力隊に力を貸してもらいたい」という要望ですね。
大古田:現時点では、八つのうち二地区に協力隊が入っています。地域のPRに力をいれたいという地区では、地域の特産品をSNSで発信したり、開発過程を外部に発信し、知名度を上げたいという希望があります。
また国際交流に力を入れている地区では、国際交流の橋渡し役として協力隊の力を借りたいという要望が。それぞれの希望にそった形で協力隊に入っていただいています。
隊員と行政が寄り添えるように
導入当初は数名だった地域おこし協力隊は、今は25名に拡大。人数が増え取り組みが多様化する中で、隊員に対してよりよい環境とサポートを提供できるよう、大古田さんは日々模索しているそう。関わり方やサポート体制の工夫についてお聞きしました。
ーーサポートする人数が多くなったことで生じる苦労や課題感もあるのではないかと思いますが、いかがですか?
大古田:そうですね。色々あるんですが・・人が増えることによって隊員のミッションも多様になってきますよね。そうすると個々人に沿ったサポートが必要に。隊員に寄り添うきめ細やかなサポートは課題だと感じています。
安達:隊員の型ごとに特色があって、活動費の許容範囲も異なります。起業型だと商品サンプルの作成に使えるけど、企業派遣型だと好き勝手に商品を作ることは難しい。協力隊同士仲が良くて情報共有がすごく活発なので、「どうしてこっちの型だと出来て私の方は出来ないの?」ということがあったり。
活動が活発なのは嬉しいことではあるんですけどね。
ーー協力隊同士、横のつながりがあるんですね。
大古田:人数が増えるにつれて、横のつながりも強化していこうと、隔月で定例会を実施しています。今取り組んでいることや、困りごと、相談ごとなんかを協力隊同士で共有できる場です。協力隊と受入団体用のメッセンジャーグループを作って、いつでも情報共有が出来るような形も整えていますね。
卒業生も増えてきたので、OB・OGと現役隊員を繋ぐようなイベントもやろうと、企画を進めています。
移住者たちがもたらした、新たな兆し。
ーー地域おこし協力隊も卒業生が出るようになった今、導入当初と比較して町の変化を感じることはありますか?
安達:新しいことにチャレンジする風土が醸成されてきている感じはしますね。
私は商工関係が長かったので、そっちの目線で見てしまうんですが。町内の企業も商品開発や副業への関心が高まっていて、地元のパン屋さんが商品開発を協力隊と一緒にやったり。そういった活動が多くみられるようになってきました。
大古田:私の目線からは、「地域に新しい風を吹き込んだ」という感じがします。
協力隊は若い人が多いので、地域のイベントにも積極的に参加してくれて。
協力隊を導入した当初は、そもそも制度自体が浸透していない部分があったので「あの人って今なにしているの?」という反応もあったようです。ですが、制度の導入から5年経過した今は「地域おこし協力隊です」と言うと、「町のやっているあの事業の人なのね」と、地域の人たちも認識してくれるようになって。全体の傾向として、地域に若い人が増えたことでの良い影響はあったのかなと思います。
ーーお二人が、地域おこし協力隊に関することで、実際にかけられた言葉や体験したことで、嬉しかったことはありますか?
大古田:新しい協力隊が入るときには、OBが「今度入る人はどうですか?大丈夫ですか?」と心配の声をかけてくれるんです。「卒業したらもう他人事」ではなく、地域に新しく入る人を気にかけているのを垣間見られた時は、個人的に嬉しかったですね。「自分が出来ることがあればやるんで」と声もかけてくれて。
安達:私は導入当初に担当していたので、一緒にお酒も飲みましたし、今も繋がりが続いています。今では仲間として遊ぶようになって、協力隊と地域住民の境が無くなってきていると感じられるのは嬉しいですね。
「自走できる環境がととのう町に」
積極的な地域おこし協力隊制度の導入と隊員の受け入れを行い、移住者を増やしてきた丸森町。これから丸森町が目指す姿について、おうかがいしました。
安達:地域おこし協力隊の制度がなくても、丸森町に移住者がふえること。それが最終目標だと思っています。
外からくる人の受け皿がある風土や、移住者が自走できるようなサポート体制の充実。それを求めて、新たな人流が生まれていくのが、ゴールかなと。
地域おこし協力隊の制度は、引き続き増やしていく方向で国も掲げています。行政職員としては制度を活用させてもらいながら、最終目標の達成に向けて取り組んでいきたいですね。
大古田:今は年間で約30人ぐらいの隊員数で推移しています。行政の規模的にも、おそらくそれぐらいの人数が適正なんじゃないかなと。受け入れの土壌自体も整ってきました。
卒業生がどんどん増えていく中で、OB・OGと現役隊員が良好な関係を築いてくれたら嬉しいですね。そこから、地域が掲げていた目標を叶えていってくれたり、町に対して何かしら相乗効果の流れが生まれるような環境になっていくのが、理想かなと思っています。
安達さんと大古田さんのお話から、新しいことへのチャレンジに対しみんなが応援してくれる風土や、町の意欲を感じました。「挑戦せざるをえないまち」から「挑戦しやすいまち」へ。地域おこし協力隊によって新しい風が吹く丸森町のこれからに注目です。