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生産者と食卓をつないで100余年 米どころのお米屋さんが紡ぐ価値|山石前野商店

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生産者と食卓をつないで100余年 米どころのお米屋さんが紡ぐ価値|山石前野商店

岩見沢市事業者の想い

文:髙橋さやか 写真:斉藤玲子

北海道有数の米どころ、岩見沢。作付面積、収穫量ともに北海道No. 1をほこります。この地で1915年に創業した(有)山石前野商店は、100年以上にわたり米生産者と食卓をつないできました。五つ星お米マイスターの資格をもち、お米屋さんの新たな価値を創造しつづける、前野雅彦さんにお話をうかがいました。

日々の食卓に欠かせないからこそ お米の価値を届けたい

岩見沢駅前にたたずむ前野商店。歴史を感じる店内に一歩足をふみいれると、精米機の音とお米のやさしい香りがかすかにただよいます。前野さんが大切にしているのは、「生産者の顔が見える」お米。岩見沢市上志文町の限定生産者と契約したオリジナルブランド米「メープル米®️」をはじめ、全国から選び抜いた府県産米など、こだわりのお米を販売しています。

ーー北海道でいちばんの米どころ岩見沢ですが、地域ならではのお米の特徴というのはあるのでしょうか?

前野:お米って、土地の性質によって食味がさまざまに変化するんですね。当店で扱っているお米の限定生産地である「上志文町」は、岩見沢市の南東部に広がっています。上志文の土は粘土質があつく、肥料を吸い込まないほど、ぎゅっとつまった土。根をしっかり張らないとお米がのびていかないので、大地にぐっと力をいれて根を張る。みずから土地の栄養をたっぷりすって育っていこうという、生命力のあるお米です。力強い味のイメージはありますね。

上志文での稲刈りの様子(写真提供:前野商店)
上志文での稲刈りの様子(写真提供:前野商店)

ーー米どころにおいての、お米屋さんの立ち位置はどういった感じなのでしょう?

前野
:生産者と食卓をつなぐ橋渡しの役割だと思っています。岩見沢って、近くに田んぼがあるからといって、日々みんなが生産者さんのことを見ているわけじゃないですよね。反対に、生産者さんも自分のお米が、誰の食卓に届いてどんな風に味わっているかを見ているわけじゃない。だから、そこの架け橋になれたらと。

店先や配達で、お客さんと接する時には、生産地や田んぼの話をしたりしてますね。「田植えが始まりました」「稲がぐんぐん伸びてきてますよ」「稲穂がたれてきました」といった感じで、季節ごとの田んぼの風景やお米の様子を伝えています。昔は、通信とかもつくったんですよね。田んぼの移り変わりって、身近にあったとしても、日常生活では意識してないと気づかない。配達のときに様子が伝われば、食べる方もお米により愛着が湧くんじゃないかと思っています。

100年以上つづく老舗を継いで

米どころ岩見沢で生産者と食卓に寄り添い、橋渡しをつづける前野商店。100余年つづく歴史は、平坦な道ばかりではなく、山あり谷ありを乗り越えてきました。

ーー長い歴史の中で、苦労された時期もあったと思うのですが?

前野
:先代から聞いているのは、戦争中の話ですね。当時は、配給所も兼ねていました。配給手帳というのがあったんですが、厳しい環境の中で「おまけしてくれないかい」という人もいたり、さまざまな苦労があったと聞いています。

あとは、1993年の大冷害※ですね。タイ米など、外国産のお米が入ってくる中で、途切れないようにお米を仕入れるのは大変でした。「前野さん終わったね」なんて、ささやかれたりもしましたね。地域の生産者さんに支えられて、なんとかやってこれた。先代、先々代の苦労は大きかったですね。苦境の中でも、生産者さんのおかげで地域のお米を仕入れられたこと、お客様と信頼関係を築けたというのは、大きな意味のあった出来事だと思います。

幾多の危機を乗り越ええながら、100年以上に渡り地域のお米屋さんとして歩んできた(写真提供:前野商店)
幾多の危機を乗り越ええながら、100年以上に渡り地域のお米屋さんとして歩んできた(写真提供:前野商店)

時代の波に翻弄されながらも、前野商店は地域の人々に支えられながら、歩みを止めることなく進んできました。大学で民俗学を学び博物館の職員として、はたらいていたという前野さんが17年前に後をつぎます。

ーー家業を継いだのは何かきっかけがあったのでしょうか?

前野:流れにしたがったという感じですね。弟が2人いるんですが、会話の中で自然と、「長男が継ぐものなんじゃない」という話になりました。

ーー実際に継いでみて、戸惑いなどはありましたか?

前野
:小さい頃から見てたので、楽勝かと思ってたんです。でも、見るのと働くのとでは大違いでしたね。
精米機やお米の扱い方ひとつとっても、コツがあるんです。お米のトラブルなんかもそう。米屋で育ったのに、お米は長く保存がきいて安心なものだと思ってたんです。コンディションが悪いと、かびや虫が発生します。悪いコンディションにどう対処するか、現場に出て気づいたことは、たくさんありますね。

どこか別のお米屋さんで修行してから継ぐケースが多いんですけど、自分はその期間がなかった。仕事のバックボーンをどう作るかが大変でしたね。先輩の社員さんにたずねながら、まちの現状、うちの現状を感じ取っていったり。自分でいろんなお米屋さんを調べて食べ歩いて、一軒一軒取材して回った時期もありました。先代から引き継いで、今年で18年目になりましたね。

ーー試行錯誤をかさねながら、仕事が軌道に乗ってきたなと手応えを感じたのはいつ頃でしたか?

前野
:8年目くらいですかね。お客さんの名前と顔と家の場所が一致してきて。お米の好みもわかってきて。小売りがメインですし、まちの中でやってるので、お客さんとの距離感というか、「いつもの」がわかるように、は大事にしてますね。

お客さんにお米の新しい食べ方の提案として、玄米販売と店頭精米も取り入れました。お米屋さんを回っていた時期に、うまくいっているお店は玄米にも力を入れていたので、うちでも取り入れてみようと。

玄米と精白米のあいだの精米加減の「分つき米」も、新しい食べ方の提案として力を入れています。玄米には、良質のビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養がバランス良く含まれています。いっぽうで、ちょっとクセがあって苦手という方もいらっしゃる。玄米に含まれるぬか層と胚芽をすこし取り除くことで食べやすく、精白米よりも栄養バランスがすぐれているのが「分つき米」です。玄米や雑穀は、ちょっとしんどいけど、健康は気になるという方に提案したり、選択肢のひとつとして広がったのはありますね。

ひとりひとりのニーズに寄り添ったお米を

毎日食べるお米だからこそ、見方を変えることであらたな発見がある。米食の可能性を広げていきたいと前野さんは語ります。地域に寄り添ってきた前野商店のこれからについてうかがいました。

ーー今後の夢や展望などはありますか?

前野
:日々の食生活の中で健康を推進するという意味で、玄米や分つき米を広げていきたいですね。そして、米屋だからこそできる、お客さんのニーズに応える売り方をしていきたいです。小分けパックや真空パックもそのひとつ。小分けのお米だと、日によって、気分によって、食べ比べできる。米食の楽しみのひとつとしてご提案できるかなと。岩見沢ってお米がありふれてるので、見方をかえて「食べる口福(こうふく)」として楽しんでもらえたらいいですね。

そして、こだわりや熱意をもってつくっている生産者さんのお米をこれからも紹介していきたいです。ふるさと納税の返礼品にもなっている峯さんのお米も、「じゅんかん育ち」というめずらしい生産方法。地元の下水道資源を利用しながらつくっています。命そのものがめぐりめぐってお米に凝縮されていて、岩見沢という地域の魅力をまるごと詰め込んだお米です。そんな命の源であるお米を味わってもらえたら、米屋冥利につきますね。

言葉の端々に、お米への飽くなき探究心と地元岩見沢への愛情が感じられる前野さん。
「日々の食卓に欠かせないもの、北海道随一の生産地としてありふれているお米だからこそ、角度をかえてもっと楽しんでもらいたい」と、熱意を持ってお話ししてくれました。毎日の食卓に、生産者の顔が見えるこだわりのお米をぜひどうぞ。

店舗情報

【有限会社 山石前野商店】
〒068-0021 
北海道岩見沢市1条西5丁目8
電話 0126-22-0234
営業時間8:30~17:30(日曜定休)
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