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岩見沢「えみふる」から広がる、子どもも大人も笑顔の子育て

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岩見沢「えみふる」から広がる、子どもも大人も笑顔の子育て

岩見沢市プロジェクト

文:髙橋さやか 写真:斉藤玲子

「子育ての相談って、ハードルが高いでしょう。だから、親子で遊びに来れる場に子育て支援機関を集めたんです」と話すのは、岩見沢市教育部長の所美穂子さん。

岩見沢市中心部の複合商業施設「であえーる」内にある、こども・子育てひろば「えみふる」。大人もワクワクするような遊びの空間に、子育て支援センター、保健センターなどが隣接し、気軽に子育ての相談ができる場となっています。「えみふる」誕生の背景にあったのは、記憶の継承と新しい価値の創造。立ち上げにたずさわった、岩見沢市の所美穂子さんと森さんにお話をうかがいました。

写真左:岩見沢市教育委員会事務局 教育部長 所 美穂子さん 写真右:岩見沢市企画財政部企画室主査 森 勝哉さん
写真左:岩見沢市教育委員会事務局 教育部長 所 美穂子さん 写真右:岩見沢市企画財政部企画室主査 森 勝哉さん

遊び場を中心に据え、子育て支援をもっと気軽に

こども・子育てひろば「えみふる」のメインとなる、あそびの広場は、開放的な空間に大きな木のお家やボルダリング、トランポリンなどがあり、大人も思わず走り出したくなってしまいます。中でも目を引くのが広場の奥に据えられた大きな木。

ーー木がすごくいいですよね。

:この木は、このビルが出来た時からあったんですよ。もともとこの建物は、1988年(昭和63年)に民間の商業ビルとして建てられました。

「人々が集いくつろぐ空間を設ける」という方針で、室内公園がつくられた中に、当別町から切り出された樹齢500年のミズナラの木が据えられたんです。岩見沢の人たちは、木の周りにいろんな思い出があって、私自身も子どもと遊びにきていました。

2012年(平成24年)に、大型テナントの撤退にともなってビルの再開発をする際、最初は木を撤去する予定だったんです。でも、木を残すことで、みんなの記憶や思い出が連綿と繋がっていくんじゃないかって。途中で方針が変わりました。

あそびの広場全体で意識したのは、レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」※の世界。子どもの感性に働きかけるような遊び場を目指しました。

※センス・オブ・ワンダーは、生物学者レイチェル・カーソンの遺作として、彼女の友人たちによって1996年に出版された本。すべての子どもが生まれながらに持っている「センス・オブ・ワンダー」=「神秘さや不思議さに目を見はる感性」を、いつまでも失わないでほしいという願いが込められている。

ーー子どもだけでなく、大人の感性も刺激される空間です。えみふるというのは、このあそびの広場を中心として隣接する施設全体を指すのでしょうか?

:そうです。あそびの広場に注目されがちなんですけど、親子が集まる場所に子育て支援機関を集めた、この場全体が「えみふる」です。

:あそびの広場と同じフロアには、子育て支援センター、保健センターと早期療育の場が設けられています。ひとつ上のフロアには、教育支援センターを設置。
「えみふる」で、教育から母子保健、福祉までを担っています。2012年(平成24年)から段階的に整備をすすめていきました。

:相談窓口って、母乳に関することだったら保健師さん、離乳食だったら栄養士さんと分かれてますよね。でも悩んでいる時って、そんなことは考えていられないのが本音。

だから、「ここに行けばなんとかなる」という場を作りたかった。「えみふるなら、誰に聞いてもいい」というコンセプトで、職員は自分の所管に関わらず、まずは話を聞いて担当につなぐ、という体制になっています。

ーーあそび場で子育ての話を気軽にできるというのは、子育て中の身としてはとてもありがたいです。

:あそびの広場があることで、相談につながりやすくなりましたね。顔の見える関係ができたり、保護者の心理的ハードルも下がっている印象です。

:私も子育て中に感じたことですが、見ず知らずの人に自分の家庭のことを「相談する」ってハードルが高いんですよね。普段行き慣れてる場所で、顔見知りの人に相談できるのが一番いい。

相談される方って、もやもやしてるけど何を悩んでいるかご自身もつかみきれてないことが多い。相談というよりは、気軽に気持ちを話せる場所があることが大切です。

同じ年代のお子さん親子で集まる会があるんですけど、もう質問の嵐。笑
お母さんたちみんな明るくて、「この場にいる人には、何を聞いてもいい人」って思ってるので、いろんなこと聞いてくれます。そういう場を作れたのはよかったなと。それでも、聞けない人っているんでしょうけどね。

:施設内を歩いている職員と世間話をして、「そういうことで悩んでるなら、専門職つれてくるね」と。気軽に話せる、子育て相談のチャンネルを増やしていくような感じですね。

:森さんはこれまで虐待の担当も経験していたので、他機関連携の大切さを実感されていましたよね。子育てって、家族という身近な人たちから病院や保育所まで、複雑に関係性がからみあっています。
深刻な事態に至る前の、もうちょっと軽い段階で他機関連携ができたらと思っていたので、「えみふる」を気軽に話せる場にできたのは良かったですね。

縦割り組織に、ヨコのつながりを

何度も親子で遊びにきたくなるような場があり、さらに同じ場で子育てのちょっとした気になりごとを話せる。そんな理想的な場を体現する「えみふる」ですが、実際に形にしていくまでの道のりは一筋縄ではいきませんでした。

ーー「えみふる」は子育て中の人にとって、とても理想的な場だと感じます。一方で、これまでとは異なる体制をつくっていくことの大変さもあったのかなと。いつ頃から構想して、動いていったのでしょうか。

:まず、2009年(平成21年)にキーテナントの撤退があり、ビルをどう生かすかという課題がありました。2012年(平成24年)に第一次整備として教育委員会が入居したんです。
一定の効果が得られたことから、「子ども・子育てをテーマにさらなる充実を図ろう」というフワッとした構想が生まれたのが2013年(平成25年)頃。全国に、遊び場を中心に据えた子育て支援施設が整備されてきた時代でした。

若手職員をはじめ、さまざまな意見を集約して形になったのが、「えみふる」です。私は担当課長として仕組みを考えて、実際に現場を動かしていったのが森さん。

現場に関わる人は、みんな職員同士ではあるけれど、それぞれに異なる考えを持ったひとりの人。コミュニケーションを重ねて、みんなの意識を醸成していってくれました。

:「えみふる」に関わる方は、それぞれに職域があるわけですよね。「私はここまでの領域、ここからは誰々さんの」と、専門職の間で意見がぶつかることもありました。

ーーどうやってみなさんの意識をとりまとめていったのでしょう。

:コミュニケーションが大事になってきますので、月一回定例でミーティングを開催したり。ちょっと気がかりなお子さんに関しては、連携の回数を増やすことで解消していきました。

:どうしても、これまでの前例と比較して「今まではそんなことしてなかった」という壁にあたります。理解してもらうまでが大変でしたね。

:月に1回の会議では、それぞれが抱えている難題や、個々の専門職が知り得た情報を共有してもらい、「助けていかなければ」となった時に動けるよう、考え方のすり合わせをしていきました。僕は、みなさんがスムーズに動けるよう、橋渡しする役割でしたね。

:専門職じゃない森さんが入ることで円滑になったよね。

:難題をみんなで乗り越えることで、連帯感がうまれたり「できた」という実感につながったり。大きな課題に一緒に立ち向かって動くことで、細かい連携も取りやすくなっていきましたね。

:「なんとかしたい」という気持ちは、職員それぞれ持っているんですよね。大変なケースを抱えると、そこが突破口になる。
膨大な数の経験を積み重ねて、みんなの結束が強まっていきました。私は「よくここまできたね」と思いながら、森さんのことを見てましたよ。

ーー全体の構想、仕組みづくりで気を配ったところはありますか?

:「相談窓口を作りました。来てください」では、絶対ダメだという気持ちがありました。当時の上司が、さまざまな自治体の事例を集めてくれて、それをもとに構想を練って。

「子育て」とひと言で言っても、相談項目は多岐にわたります。
子育て支援部門と母子保健部門という異なる二つの部署が、“場所を共有”することで“意識を共有”することを目指しました。

あそびの広場については、何度も来たくなるような場に。さらに、「来たくなるような場所で相談ができる」というコンセプトができてからは、ぐぐっと動いていきましたね。

反対意見もいっぱいあったんですよ。
例えば、公共施設で、「時間を区切って有料になる」ということへの抵抗が、すごく大きかったんです。受付や登録が必要なことへの抵抗もありましたし。以前は自由に遊べる無料の開放空間だったので。

ーー有料にしたのは理由があったのでしょうか。

:掃除や消毒など、施設管理の問題があるんです。人の配置にも限界があります。
先々、運営費が課題にならないよう、合理的な経費で運営していくことを考え、「時間を区切って入れ替え制にし、都度清掃する」ことにしました。

実際に利用してくださった方は、清潔さに感動してくれるんですよね。赤ちゃんてハイハイするから、床が清潔だと喜ばれます。

時間を区切ったことについても、親御さんからは「切り上げるタイミングができてありがたい」という声をいただいたりね。安全で清潔で心地よく。実際に動き出してみて評価された部分ですね。

ーー心地よく清潔な状態で維持管理していくのって、大変なことですよね。

:清潔さっていうのは、小さいお子さんがいらっしゃる親御さんにとって、大きな評価ポイントなんだなと実感しましたね。特にコロナ禍になってからは、より一層みなさん重きを置かれる部分。清掃のスタッフさんも、本当によくやってくださって。

反対意見に逆らい続ける大変さはありましたけど、コンセプト通りにできて良かったなと思います。

笑顔の輪が広がっていく場に

「そこで何をしたいのか、何ができるかを突き詰めないと、建物って立たないんだなと思いました」と語る所さん。隅々まで工夫をこらして、2016年(平成28年)に「えみふる」が完成しました。その後、岩見沢の子育てはどう変化しているのでしょうか。

ーー「えみふる」ができて、市民からはどんな反応がありましたか。

:「いいもの作ってくれたね」という嬉しい反応をいただいています。児童館の数の多さや、児童見守りシステムなど、既存の制度も含めて「岩見沢の子育て進んでるよね」といった感謝の声も。

:市内の子育て関係機関など、民間の方にも「えみふる」に子育て支援の機関が集約されていると認知が広がりましたね。

:専門職と近い立場で「顔が見える関係作りが徐々にできてきた」という声も聞くようになりました。子育ての悩みや不安、SOSを出すきっかけができてるのかなと。

ーー今後、どんなまちにしていきたいですか?

:「子どもを真ん中に、笑顔が広がっていくようなまち」にできたらいいなと思います。
子どもが笑っていると、そこから周りの人に笑顔が広がっていくじゃないですか。

私ね、「えみふる」ができてから、子育て支援センターの「ひなたっこ」に来たお母さんに「こんにちは」って挨拶したんです。そしたら、「こんにちは」って笑顔で返してくれて。疲れた表情だったのが、声をかけたらパッと明るくなったんです。そういう環境って大事だなって。

子育てってやっぱり大変だと思うんです。「えみふる」を中心に、張り詰めた気持ちで子育てされてる親御さんの心がほぐれて、ゆる〜くなっていくといいなと思います。

「私ね、ぐずってるお子さんいたら『かわいいですね』って声かけるようにしてるんですよ」という所さんの言葉に、岩見沢での子育てが少しでも心地よいものになるように・・という、あたたかい眼差しを感じました。

取材後の撮影では、子どものようにあそびの広場を楽しむ、所さんと森さんの姿が。みずからも楽しむ姿勢が反映された「えみふる」という場から、これからもたくさんの笑顔が広がっていくことでしょう。

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