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廃校を再び人々が集う場に。ひとくらすという希望の種火

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廃校を再び人々が集う場に。ひとくらすという希望の種火

石川町プロジェクト

文:高木真矢子 写真:吉成美里

阿武隈地域の豊かな緑と清らかな水の流れる石川町の山間部。
2021年4月、この地域にレンタルオフィスや会議室を備えた体験型宿泊施設「ひとくらす」がオープンしました。2015(平成27)年3月に閉校した旧中谷第二小学校の校舎を、町及び地元の有志らが約5年の歳月をかけ、利活用について模索・改修。新たに命を吹き込みました。

「ひとくらす」という小さな種火を絶やさぬよう静かに、確かな熱さを胸に前を向き続ける、この地で生まれ育った3人に話をうかがいました。

写真左:石川町役場 防災環境課 課長 鈴木茂彰さん 写真中央:一般社団法人ひとくらす 代表理事 三森孝浩さん 写真右:一般社団法人ひとくらす 理事 仲田昌勝さん
写真左:石川町役場 防災環境課 課長 鈴木茂彰さん 写真中央:一般社団法人ひとくらす 代表理事 三森孝浩さん 写真右:一般社団法人ひとくらす 理事 仲田昌勝さん

多世代が出会い、つながる「ひとくらす」

「ひとくらす」のテーマは、「火」と「暮らし」。さまざまな体験や学習ができる施設としてスタートし、一度は廃校となったこの場所に、再びまちの人々が集いつつあります。

ーー「ひとくらす」は2021(令和3)年にオープンされた施設ということですが、どのような施設ですか。

三森
:「ひとくらす」は、昔は生活の一部であった「火の周りに皆が集まり、語り合ったように、いつでも自由にみんなが集い、語り合えるような場」がコンセプトの自然環境活用型地域交流施設です。「火」と「暮らし」をテーマに、農業・林業体験、DIY、一棟貸しの宿泊、レンタルオフィスなどを展開しています。

一ーどんな方が利用されているのでしょうか。

仲田
:主に「ひとくらす」で行われている各種企画の参加者が多いです。
オープンからまだ1年ですけど、お年寄りのサロンやグランドゴルフ、パン作りなどで、町外の方も来てくれてるんです。林業体験などの体験プログラムも組むこともあり、そちらも人気です。
ここに来ると「何かやってみたい」という気持ちがわいてくるみたいで、イベントで利用した人がアイデアを持ち込むこともあります。「この環境が、この施設が好き」という人たちのつながりが広がって、リピーターになっています。

口コミから、なかなか活動場所が見つからずにいた、子ども食堂の場としても使われるようになったんですよ。

三森:宿泊だと、町外(北関東方面や、郡山市など)の方が多いですね。静かな環境で、校庭までまるごと貸切で、自分たちの時間が使えるというのがいいみたいです。1団体貸切という仕組みは、視察からヒントを得ました。

実は、宿泊施設としての活用については、当初はまったく考えていなかったんです。

宿泊スペースとなっている教室。個室はなく、ベッドルームと17畳の畳を引いた部屋がある。畳の部屋では、子どもたちが枕投げをして楽しむこともあるという。
宿泊スペースとなっている教室。個室はなく、ベッドルームと17畳の畳を引いた部屋がある。畳の部屋では、子どもたちが枕投げをして楽しむこともあるという。

仲田:もともとは、このコミュニティスペース(職員室と校長室程度)で、「みんなが集える場所を作りたい」というところから始まりました。

ただ、実際にはこのスペースだけを借りるわけにいかなくて。三森さんが役場へ行くと、「借りるなら、学校の敷地全部だよ」って役場から言われた!「全部ってこんな広いのどうすんだ」なんて言いながら(笑)、理想と現実を突きつけられながら廃校の活用に向けて動いていったんです。

廃校活用事例の視察にも行って、レンタルオフィスや宿泊をこの自然豊かな環境で仕掛けたらいいんだろうなと、徐々に事業の柱を決めていきました。

「ストーブを囲んでお茶飲みながら過ごせる場にしたい」というイメージが浮かんだコミュニティスペース
「ストーブを囲んでお茶飲みながら過ごせる場にしたい」というイメージが浮かんだコミュニティスペース

廃校を「いつでも自由に、みんなが集い、語り合えるような場所」に

急激な人口減少や少子化により、全国的に廃校の流れが止まりません。
石川町の人口も、1955(昭和30)年の2万5000人から約1万4000人にまで減少。(2021年7月時点)「ひとくらす」のベースとなった、旧中谷第二小の校舎は、1991(平成3)年に移築されたもので、まだまだ利用できる状態でしたが、児童人数の減少を受け、2015(平成27)年に閉校となりました。

ーー閉校から「ひとくらす」立ち上げまでの経緯を教えてください。

三森
:中谷第二小学校の閉校にあたり、地元でも利活用の機運が高まり、2015(平成27年)に地元行政区の検討組織として廃校利活用検討委員会が立ち上げられ、私たちはそこに所属していました。一年間、どんな使い方ができるか検討はしたんですが、具体的な方針が立てられず、委員会は終了してしまったんです。
ただ、行政区での検討は終了しましたが、更地になってしまったり、校舎が残ってもどこかに買われて地域住民である自分たちが入れなくなったりするのは寂しい。「利活用できる方法を仲間で考えませんか?」と、仲田さんや鈴木さんほか、地元有志に呼びかけ、再度検討を始めたのがきっかけです。
これまで、モニターツアーやトークイベント、一日レストランなどの実証実験を行い、施設の利活用方針を打ち立てながら、2017(平成29)年12月に、「一般社団法人ひとくらす」を設立し、町に対し、施設の借用と、利活用方針を提案した結果、正式に、運営組織として認められました。その後、町において施設の改修工事を行い、現在に至ります。

ーー利活用の検討から、オープンまでの3年、試行錯誤などもあったのではないかと思うのですが、いかがでしたか?

仲田
:本当に試行錯誤の連続でしたね。宿泊型の施設というのも、「本当に成り立つのかどうか?」と検討を重ねながら、なかなか難しいんだろうなという思いもありました。廃校活用の事例として、「泊まれる学校 さる小(群馬県)」や「シラハマ校舎(千葉県)」などいろんなところを視察してきたんで、なおさら。

三森:方向性については、最初から関わってるメンバー全員で定例会を開いているので、問題ないんですよ。どちらかというと、施設を借り始めるまでが大変でしたね。

当時、鈴木さんが役場の担当職員だったので、私達の漠然とした「ひとくらす」のイメージをまとめてくれたのは、ありがたかったですね。
施設の雰囲気づくりについては、森ビルさんにも関わっていただきました。

鈴木:役場の立場としては、コスト計算や運営方法など、公設民営の難しさを痛感しました。「ひとくらす」が提案する公共施設を活動拠点とした事業は、石川町としても初めてのケース。町としては、地域に根付いた学校施設をリノベーションして使うのであれば、収益や私有化目的ではなく、地域と共有・協力する形での運営をお願いしたい。「町の課題解決をお手伝いいただく」こととあわせて、「自走できること」という条件を提示しました。

仲田:石川町は、人口減少や移住定住、地域コミュニティの活性化などの課題を抱えていました。イベントなどの認知交流の事業については、一般社団法人ひとくらすで受け、二拠点居住と移住については町と共同で、というコンセプトで進めています。

鈴木:何かを始めるのに一番大事なのは、確固たる決意と、実現可能な計画、ビジョンをその人たちが持っているかだと思います。
今回、町はそれを受け、改修工事に着手したわけですが、議会や地域住民の理解を得るために、事業計画や、「ひとくらす」について丁寧に、何度も説明を積み重ねました。
正直、実現できてよかったなと思います。
心が折れずにやってこれたのは、三森さんや仲田さんをはじめ、ここに関わっている皆さんの思い、頑張っている姿に尽きます。
私は後方支援でしかありませんが、「絶対に成功させる」という思いで取り組んできました。

オープン直前での予期せぬ事態を乗り越え、本格始動

事業計画やリノベーション、地域住民の理解など、施設を借りるまでのさまざまな壁を乗り越えてきた「ひとくらす」の運営メンバー。
2020年のオープンを目指し、準備を進めていた2019年10月、台風19号が発生。石川町でも土砂崩れや浸水などの被害が相次ぎました。

三森
:建物が完成し、オープン間近というタイミングで、台風19号があり、校庭が1年間廃棄物の仮置き場となったんです。この時は町との契約前だったので、夢が断たれたような気持ちになった時もありました。

ーー1年間と期限は決めてあったんですか?

三森
:ええ。契約のときはまだ仮置き場の壁があったんですけど、引き渡しの際には壁も撤去されて。
私達が借りている訳ではないので、なんともしがたいところですよね。あとは待つしかないなと。
不安はありましたが、無事に廃棄物の撤去も進み、半年遅れでオープンを迎えることができました。

鈴木:オープン後は、多くの方が施設を利用してくれて、正直言って想定以上の利用者実績です。学校だったとき以上に人の動きがあるので、地元の人間としても、町職員の立場としてもうれしい。評価に値すると自信を持って言えます。

ーー素晴らしいですね。運営を始めてから、地域の方との関わりに変化は生まれましたか?

仲田:スタートは遅れましたが、実証実験もでき、つながりが生まれた状態で始められたことが、逆に良かったと思っています。私自身も、今までの人生で関わりのなかったいろんな人に会うようになって楽しいですね。

鈴木:特に年配の方の変化を感じています。改修するまでは学校との関わりが薄かった方も足を運ぶようになったそうです。年末の大掃除にも、地元のお年寄りや利用者など約30人が参加してくださいました。

三森:お年寄りの方たちって1人になりがちなんです。計画当初の「地域の人たちがここに集まって、自由に過ごしてくれたら」という思いが形になってきていると感じています。蓋を開けてみると、県外の方にも興味を持って来ていただけて・・想像以上でしたね。

レンタルオフィスも、「ひとくらす」のコンセプトのように、人が人をつなぐという形で、1年目で半分以上埋まるなど予想以上の結果になっています。

仲間とともに、火を灯し続ける

オープンから1年で、多くの人が集う場を実現した「ひとくらす」。運営メンバーの展望はまだまだ広がり続けています。

ーー今取り組んでいることはありますか?

三森
:去年、仲田さんの田んぼで取れた米と宇宙酵母を使って「勝(まさる)」という日本酒500本をつくりました。石川町の酒藏はなくなってしまったのですが、これで「石川町の地酒です」と言えるようになりました。

仲田:「勝」の味はもちろん、ラベルのデザインやビンの色なども自分たちで決めました。

フルーティーで飲みやすく女性に好評だったという日本酒「勝」。仲田家では男性に「勝」という字を付けることにちなみ運営メンバーみんなで命名した。「勝」の文字は書家である三森さんの奥さんによるもの。
フルーティーで飲みやすく女性に好評だったという日本酒「勝」。仲田家では男性に「勝」という字を付けることにちなみ運営メンバーみんなで命名した。「勝」の文字は書家である三森さんの奥さんによるもの。

ーー本当にいろんな形で新しいことに取り組まれていて素晴らしいなと思います。皆さんの原動力や大事にしている指針のようなものはありますか?

仲田
:「やろう!」と、1回口に出したらやるということですね。何より、立ち上げのきっかけとなった「みんなが集まれる場があったらいいな」という思いは忘れないようにしています。

三森:原動力は仲間ですね。運営メンバーは異業種の集まりなので、さまざまな視点から積極的に意見を出してくれますし、企画に関わるみんなが協力的。

「自分たちが楽しめないことは人に紹介できないし、仮にやっても、そんなイベントや、施設に人は来ない」という前提は、「ひとくらす」立ち上げから意識していることです。常に進化しつづけられるよう、「この施設を使って何を楽しめるか」を考えています。

鈴木:私は、三森さんや仲田さんをはじめとする、運営メンバーの熱意ですね。声を上げている人たちに対しそれに答えるというのが、役場の仕事。役場職員としての役割としても、うまく繋がったのだと思います。

ーー今後の夢や展望があれば教えてください。

三森
:今、食堂のそばでピザ釜づくりをしているんです。ワークショップ形式とかで、人が集まるきっかけになればいいなと思っています。「ひとくらす」に残せるものを一つ一つ積み上げていくと、また広がりができるかなと。

仲田:今年もお酒を作ります。それと、春に農業体験プログラムで朝食会を開いたら、30人くらい集まって好評で。羽釜で炊いたご飯と、運営メンバーの牧場から提供してもらった牛乳などを楽しみました。秋には稲刈り体験なども加えて、回数を重ねていこうと思っています。

鈴木:全国的な課題でもある廃校利活用のリードケースとして、「ひとくらす」にはこれからも頑張っていただきたいです。将来的には、全国の廃校利活用の交流会やサミットを開きたいですね。苦労話の共有だけでも、それぞれにプラスとなるものが出てくるんじゃないかと思います。

三森:子ども食堂の例のように「できなかったことが形にできた」というようなマッチングを増やしていけるといいですね。
もっともっと、火のそばに人が集まるような場にしていきたいです。

一度は廃校になった小学校で、「たのしむ」ことから次々に生まれる新たな一歩。
全国的に廃校が増える中、筆者も自分が卒業した小学校が3月で閉校になりました。「ひとくらす」のような活用方法で、人が集まる場になれば、地域の力にもなっていくのだと感じました。
「ひとくらす」を通じ、世代を超えて広がりつつある「種火」は、これからも大きく広がっていくことでしょう。

Information

ひとくらす
〒963-7803 
福島県石川郡石川町中田八又396-1
電話: 0247-57-7073
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