地元ブランド「望来豚」の魅力を遠くまで。厚田こだわり隊がつくる優しいおいしさ
石狩市事業者の想い
文:三川璃子 写真:飯塚諒
石狩市の北に位置する厚田区は、水平線に沈む夕日が眺望できることで有名なまち。春から秋にかけて吹く北寄りの風、通称幸せを運ぶ「あい風」の恵みによって、かつてはニシン漁が栄え、今は米や麦などの農業も盛んです。
地元の恵を大切に守り、魅力を発信し続けているのが住民団体の「厚田こだわり隊」です。
「それぞれ無理せず、できることで力になりたい」と語るのは、厚田こだわり隊の販売班長を務める小山さん。商品開発からイベント出店なども行う、厚田こだわり隊の活動に込められた想いを紐解きます。
地元の良さを届けるため、集まった異業種メンバー
厚田こだわり隊は、「厚田の土地・味覚・らしさ」をコンセプトに厚田の魅力発信で地域を盛り上げる団体として平成24年に発足しました。所属する小山さんは、建設会社の役員。本業のかたわら、有志が結集して立ち上げたと言います。
ーー厚田こだわり隊の発足の背景を教えてください。
小山:メロン農家をしている河合徳秋さんが「厚田に直売所がほしい」と声を上げたことが、発足のきっかけになりました。
漁師や商工会に所属する人、市役所職員など、36人ほどが集まって始まりました。かなり異業種ですよ。
ーー小山さんも発足時から関わっているんですか?
小山:私は商工会に所属していたので、その繋がりで発足時に声をかけてもらいました。みんなそれぞれ役割分担してるんですけど、私は販売班の班長をやってます。
他にも企画調整、研究開発、生産などの班がありますけど、今は動ける人数も少し減って、合同でやっていることが多いですね。
直売所では集荷係が朝に野菜を集荷して、我々販売班が値付けなどをおこなっています。これまでは月に1回ほど班で作戦会議もしてましたよ。
みんな本業があるので、「手伝えるところで頑張りましょう」って言ってやってます。やっぱり無理しないことが一番。
ーー約10年継続されているということは、みなさん楽しんでやられているんですね。
小山:そうでしょうね。年齢も若い人から年配の人まで幅広いですよ。みんなイベント好きなんだと思いますね。
直売所を始めてから、市外のイベントやお祭りにもぼちぼち出店するようになったんです。最初は野菜の販売が中心だったんですけど、地元ブランド豚の※「望来豚」をもっとPRしたいねって話になって。
どんな方法がいいかと相談して、自分たちで望来豚に合う豚丼のタレをつくり始めました。
(※望来豚:柔らかな肉質と脂身の甘さが特徴の厚田ブランド豚)
「望来豚」PRの一役に。こだわり抜いた豚まんの開発
厚田ブランドの望来豚の良さを伝えるべく、これまで豚丼のタレや豚まんを独自開発してきた厚田こだわり隊でしたが、お客さんに喜ばれる商品になるまでには長い道のりがありました。
小山:イベントで豚丼を出そうと決めたときに、まずこだわったのが「タレ」でした。厚田こだわり隊のみんなで試食会をして、いろんなパターンを試したんです。ああでもない、こうでもないって意見を出し合って。みんなで「これだね」とたどり着いた味で、試しに1年豚丼を販売してみることにしました。
ただ、素人が作るものだからどうしても味にブレが出てしまってね。どうしようかと思った時にお声かけしたのが、豚丼やジンギスカンのタレで有名な北海道の調味料製造メーカー「ソラチ」でした。
自分たちでこだわって作ったタレをソラチに持ち込んで「この味を再現してほしいです」って頼んだんです。工場の関係で一部使えない材料もありましたが、極力私たちが作った味に近づけてくださいました。
タレ自体の販売は現在していないんですが、野菜炒めやカレーに入れても深みがでる万能のタレなんですよ。
ーータレにこだわることで、望来豚の美味しさを引き立てる豚丼ができたんですね。
小山:そうなんです。いざタレができて豚丼の販売をスタートしたんですが、外での出店はなかなか大変でした。いつも脂まみれ、煙まみれでね。もっと気軽に望来豚をPRするには、豚丼ではない何かで勝負しなくてはいけないと思いました。
せっかく開発したタレを活かせるものとして、考えついたのが「豚まん」でした。事務局の渡部さんがいろんなところの豚まんをひたすら食べ歩いて、研究してくれたんです。
他とは違う豚まんを作りたいねってことで、餡はシンプルにタレで炒めた望来豚のミンチと玉ねぎだけです。
皮には、北海道産小麦を使用してふっくらもちっとさせています。餡だけじゃなくて、皮も褒められることが多いですね。
ーー想像しただけで美味しそうです・・・。実はさっき道の駅で買ってきたんです。
小山:ぜひせいろで蒸して食べてみて。イベントで出すときは私たちも必ずせいろでゆっくり25分蒸してから提供するの。ゆっくり蒸すと膨らみ方が全然変わってくるんですよ。
レンジで温める場合も、なるべく自然解凍してから。冷凍状態でそのままレンジに入れてしまうと、すごく縮んでしまうので。
「焦らずゆっくり」がポイントですね。
ーー豚まんができてから、周りの方の反応はどうでしたか?
小山:最初は「高いなぁ」って言われることも多かったです。コンビニのものより少し大きめだし、せいろで蒸して提供するから仕方ないんだけどね。
でも、この頃は言われなくなったかな。RISING SUN ROCK FESTIVALなど、市内外のイベントに毎年出店することで、ちょっとずつ評判になっていったと思います。
一番印象に残っているのは、2018年の「道の駅あいろーど厚田」オープンの時。950個豚まんが売れたのは驚きましたね。私たちも朝から立ちっぱなしでせいろに張り付き状態。しっかり25分蒸すので、待ち時間が発生するんだけど、それでもお客さんはみんな待ってくれてね。
ホカホカの柔らかい豚まんを食べて「美味しいわ」って言ってくださるのが何より嬉しいことですよね。
ーーイベント出店は大変そうですが、楽しいと感じることも多そうですね。
小山:イベントにいくといろんな人の話が聞けるから楽しいです。
一緒に働く協力隊の話を聞いたり、お客さんの豚まんを蒸している間に「どこから来たんですか?」って話をしたり。それも楽しみだよね。
地域の中も外も盛り上げていきたい
厚田こだわり隊では豚まんの他にも、望来豚100パーセント使用のフランクフルトや、厚田の養鶏所「飛ぶ鳥農場」の卵を使用したマーラーカオ(甘めの蒸しまん)など多角的に商品を開発・展開。イベント出店や商品の地方発送も各地へと広がる一方で、まちへの想いは変わらずにありました。
小山:最近は新型コロナでまちの活動も少なくなってきたから、こうした住民団体は少なくなってきています。高齢者も増えているので、これまでの活動もなかなか難しくなっているところもあります。なくなってしまったお祭りもあるしね。
農家さんと漁師さんが青年部でタッグを組んだ「俺たちの夏祭り」っていうのも、コロナ前まではあったんです。「また復活させてよ」って声かけてるんですけどね。この3年の空白は、長すぎました。
でもこんな状況だからこそ、何かやるべきなんじゃないかって。厚田こだわり隊でちょっと仕掛けようかって話も出てるんです。「この日は空けておいてね」って、やりとりしてる最中です。
人が少なくなっても、形を変えてまちを盛り上げていきたいですね。
ーー今後厚田こだわり隊としてやっていきたいことや、続けたいことはありますか?
小山:次はしゅうまいを作ってみようとか、その他にも商品開発の案はあります。新たにフライパンで表面をカリッとさせる、ひと手間加えた焼き豚まんも提供してみたり。
新しいこともすると思いますけど、まずは欲張らずに、今声をかけてもらっているイベントや市内外での活動を大切にしていきたいです。
遠くの人には「厚田」という土地を感じながら豚まんを楽しんでもらいたい。商品を通して、望来豚のPRの一役になれたら嬉しいです。
厚田こだわり隊の「こだわり」を忠実に守り、ゆっくり蒸しあげた豚まんはふっくらもちっと柔らかい感触。中のお肉はジューシーで、甘辛いタレの味が食欲をそそります。
地元を想う、厚田こだわり隊のみんなが試行錯誤の末にたどり着いた商品。ぜひ味わってみてください。
事務局情報
厚田こだわり隊事務局
〒061-3523
石狩市厚田区望来93番地2