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北海道に新たなワイン産地を。石狩の海風がつくるテロワール

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北海道に新たなワイン産地を。石狩の海風がつくるテロワール

石狩市事業者の想い

文:髙橋さやか 写真:斉藤玲子

古今東西、人々を魅了してやまないワイン。その一滴には、葡萄が育つ土地の気候や風土、葡萄の栽培から発酵、ボトルに詰められるまでの時間、そして、醸造家の想いが詰まっています。

2020年、北海道に新たなワイナリーが誕生しました。石狩湾からほど近い2つの農場で葡萄を栽培し、ワイン造りをおこなうさっぽろワイン。心地よい海風と、砂を含んだ土壌を生かし、石狩ならではのテロワールを生み出しています。

長年の夢をカタチに。運送会社からのワイン造り

さっぽろワインは、名前の通り札幌の会社ですが、葡萄の栽培をおこなうのはお隣の石狩市。北海道に数多くあるワイナリーのほとんどは、丘陵地帯で葡萄を栽培する中、石狩の平地を選んだのはなぜだったのでしょうか。さっぽろワイン立ち上げのきっかけについて、栽培から醸造までを手がける海野(うんの)さんにお話をうかがいました。

ーーさっぽろワインは、2020年に創業された新しいワイナリーですが、立ち上げのきっかけについて教えてください。

海野
:創業者の三浦は、昔からワインが好きで「いつかワイナリーを造りたい」という夢を持っていました。長年、運送会社を経営してきたのですが、夢を叶えるべく2016年から石狩市で葡萄の栽培をスタートしました。

葡萄は植えたからといって、すぐその年に収量が確保できるわけではありません。植樹して3年目、4年目以降になって、ようやく一定量の葡萄が収穫できます。酒造免許を取得するためには、「年間これだけの量の葡萄を作らないといけない」というルールがあるんです。酒造免許を取得しワイナリーを設立するため、着々と準備を進め、2020年にさっぽろワインを創業しました。

ーーもともと運送会社を経営されていたところから、ワイン造りをはじめたのですね。

海野
:そうですね。社長は全くの異業種かつ60歳を過ぎてからのスタート。「そこまで気合を入れて、動けるか?」って考えると、すごいなと尊敬します。
ワイン造りについては素人だったので、北海道ワインアカデミー※を受講して、一から勉強したそうです。

※道産ワインの品質向上を目指し、北海道内でワイン造りに携わる人に対し、北海道庁が主催する研修会。栽培や醸造技術、マーケティングを中心とした経営力のレベルアップにつながる講義がおこなわれる。

さっぽろワインの醸造所
さっぽろワインの醸造所

ーー異業種からの参入で、苦労されたこともたくさんあったのかなと思います。

海野
:当初は、石狩ではなく千歳で葡萄畑を始めようとしたものの、日照や土壌などの関係で、うまく行かなかったそうです。地質などの条件を調べてたどり着いたのが、石狩市でした。

葡萄を育てる時って、“水はけの良い土地”というのが絶対条件なんですよね。というのも、葡萄って実はやんちゃというか、手を抜きたがる作物で。

ーー手を抜きたがる?

海野
:葡萄って養分がすぐ目の前にあると、それ以上生長しない、根を伸ばさないんですよ。養分がないとブドウがやる気を出して、地中深くに養分を求めて根を張るので、しっかりとしたブドウが育ちます。北海道のワイナリーが丘陵地帯に多いのは、水はけや日照時間も関係しているんです。

僕たちの葡萄畑がある石狩の八幡地域と樽川地域は、平地ですが、海に近い砂地で水はけがめちゃくちゃいいんです。海岸線から2キロくらいしか離れていないので、2メートル掘ってもまだ砂。水はけ抜群の土地に、千歳市共和地区の火山礫と、椎茸の使用済み菌床を漉き込んだ土壌で、根を太く張ったおいしい葡萄ができます。

海野:さらに葡萄にとって1番の大敵がカビです。石狩の農場は海岸エリアにあり、強い海風が吹きます。それによって、畑に滞留している湿気が飛ばされ、カビや害虫が発生しにくいんです。

ワイン業界でその土地ならではの味わいのことを「テロワール」っていうんですよね。この砂地の土壌と海風こそが、石狩のテロワール。

他とは違う大きな強みなんじゃないかと、新たなワイン産地としての希望を感じています。

10,000本の葡萄の木、一本一本を丁寧に育てて生まれるワイン

石狩という地の利を生かし、育まれる葡萄。一房ひと房への手間を惜しまないことが、おいしいワイン造りにつながると海野さんは言います。

ーーワイン造りで目指してる味や、大切にされていることはありますか?

海野
:おいしいワインは、まずおいしい葡萄をつくることから。目指してる味はあっても、結局は葡萄の味でワインの味が決まるんです。じゃあ、おいしい葡萄のために、何ができるか? そう考えると、草刈りひとつとっても手間をおしまない、一房ひと房への手間を惜しまないことが大切です。

葡萄の木を栽培するときって、枝の間から生えてくる脇芽をとっていく作業があります。
1本の木に数十か所、これが約10,000本あります。それを1本ずつ手をかけていく。

ーー10,000本・・聞いているだけで、気が遠くなりそうです。

海野
:クラクラしてきますよ。どこかで手を抜きたくなるのを、グッと堪えて。「ここまで一生懸命やったんだから、ここから手を抜いたらダメだろう」って自分に言い聞かせながら向き合っています。

手を抜いたら、ダイレクトに味に影響が出る。たったひと房が、10,000本に影響を与えるかもしれない。だから、一本一本丁寧に育てています。

葡萄の木、一本一本を丁寧に大切に育てていく。就労支援施設との農福連携もはかっているそう。
葡萄の木、一本一本を丁寧に大切に育てていく。就労支援施設との農福連携もはかっているそう。

ーー丁寧に育てた葡萄から造ったワインの中で、特に思い入れのあるものはありますか。

海野
:僕がプロデュースしたワインがあるんです。「MAKANAI BLANC(マカナイ・ブラン)」という白ワイン。

さっぽろワインでは、基本的に品種ごとにタンクを分けてるんですけど、2021年にタンクから溢れてしまった葡萄があったんです。せっかく大切に育てた葡萄ですから、「ちょっと味のバランスを見ながら、この葡萄でワインを造ってみようか」となって。

最初は「自分たちのまかないにしようか」なんて、笑い話をしてたんですけど、まかないにするには肝臓がいくつあっても足りない量。笑 

「じゃあ、商品化しよう!」と、味わいを調整して商品化しました。

さまざまな品種をブレンドしたワインは、最近のトレンドにもなっています。名前は「まかない」ですが、ラベルやボトルは高級感のあるデザインに。ギャップをつけたら面白いよね、なんて言いながら楽しく商品化したら、思いのほか好評で。いい商品ができました。

タンクに入りきらなかった葡萄を集めてブレンドした「MAKANAI BLANC 2021」。すっきりとした味わいで、リピーターも多いという。
タンクに入りきらなかった葡萄を集めてブレンドした「MAKANAI BLANC 2021」。すっきりとした味わいで、リピーターも多いという。

飲み手に届ける努力を惜しまない

さっぽろワインに入社する前は、印刷会社にいたという海野さん。仕事のかたわら、ワインや日本酒をはじめ、お酒や食に関する資格を取得し、生産者の方とも交流を重ねていました。さっぽろワインで造り手となった今、飲み手としての自分が長かったからこそ感じる課題も多いといいます。

海野
:僕は長いこと飲み手側としてワイン生産者と交流する中で、ワイナリー経営の大変さをたくさん見聞きしてきたんです。飲み手の自分がこうして造り手になって、改めて、消費者への訴えかけって大事だなと感じています。

海野:基本的には「おいしい」っていうのが大前提なんですけど、ラベル一つ、商品名一つとっても、発想力が大切。今、ワイン生産者さんてすっごい増えてるんですよね。造り手が増えるとともに、消費者も増やさないと、みんな共倒れになってしまいます。

ワイナリー経営って一見華やかなイメージがありますけど、地道で厳しい世界。でも、ワイナリーやってる人たちは、覚悟をもって挑んでいる人たちばかりです。だからこそ、もっと業界全体を盛り上げていかないと。

「じゃ、盛り上げるために何する?」って考えたら、消費者をもっと楽しませなきゃ。「面白いじゃん」って興味を持ってもらって、もっともっと裾野を広げていく必要があると思うんです。

ーー消費者を増やすために取り組んでることはありますか?

海野
:「このワインには、こういう料理が合いますよ」っていうレシピを作って、お客様に提案してます。僕、北海道フードマイスターの資格を持ってるんで、それを生かして。

経営という視点で見ると、自分はまだまだだなと思うんですけど。お客様と会話して、ワインの好みや求めている味を聞いていく中で、うちのワインじゃ賄いきれない時は「どこどこのワイン試してみてください」って伝えてるんですよね。

ーー相手の趣味嗜好に合わせて提案してくれると、信頼できる人だなと感じます。

海野
:もちろん、99パーセント自社のワインを売りたいんですよ。
でも、おすすめした他社のワインをお客様が飲んでみて「北海道のワインっておいしいな」ってなったらいいなと。

当社のワインがサクラアワード※を受賞した時も、プレスリリースに「さっぽろワインに限らず北海道はおいしいワインがたくさんあるので、ぜひ北海道のワインを飲んでみてください」と一言添えたんですよね。本当に消費者を増やすんであれば、ワイン業界全体を盛り上げていかないと。

※サクラアワードは2014年にスタートしたワイン業界で活躍する女性のみが審査を行うという画期的な国際ワインコンペティション。「日本の家庭料理に合うワインを探す」「ワインの消費拡大」「ワイン業界で働く女性の活躍を促す」を目標としている。

さっぽろワインの「ソービニオン・ブラン」は、2022年にサクラアワードの"GRAND PRIX" ベストジャパニーズワイン賞を受賞した。
さっぽろワインの「ソービニオン・ブラン」は、2022年にサクラアワードの"GRAND PRIX" ベストジャパニーズワイン賞を受賞した。

ーー海野さんオススメのワインとお料理の組み合わせはありますか?

海野
:そうですね。例えば、この「ヤマ・ソービニオン」には、石狩鍋や鮭のちゃんちゃん焼きがオススメです。

「ヤマ・ソービニオン」は、山葡萄とカベルネ・ソーヴィニヨンを交配した品種。山葡萄って日本人の舌に馴染む味なんです。ワインとチーズの組み合わせってよくありますよね。チーズ=発酵食品。「じゃあ、日本の発酵食品でワインに合いそうなものは?石狩の郷土料理といえば?」と考えて、たどり着いたのが石狩鍋との組み合わせ。実際食べたら想像以上にベストマッチでしたね。

海野:こっちのシャルドネは、酸味が強いので食べ合わせも限られるんですけど。タコのカルパッチョや唐揚げ、焼き鮭やニシンがオススメです。酸味はレモンと捉えるといいんですよね。

おいしいものと一緒に、おいしいワインを楽しめたら、ワインの価値ってもっと上がる。そういう成功体験を消費者の方が味わってくれれば「また飲んでみよう」ってなるじゃないですか。ワインと料理のおいしい組み合わせで食文化まで変えられたら、面白いと思うんですよね。

ワインを日本の食卓に溶け込むものに

ワイン造りだけでなく、ワインのある食卓、食文化を広げていきたいと話す海野さん。さっぽろワインは、地域に根ざしたワイナリーとしてこれからどんな風に歩んでいくのでしょうか。

ーー今後チャレンジしたいこと、構想していることはありますか?

海野
:2022年からは、野生酵母を使ったワイン造りにチャレンジしようと思っています。今、北海道でもナチュラルなワインがすごく増えているし、消費者のニーズもあります。

野性酵母って扱いが難しくて、なかなか造り手の思い通りにはならないんですけどね。意図しない味になったりするんです。発酵にも時間がかかるので、アルコール度数がまだ低い段階で雑菌が入ると、その時点でダメになってしまったり。

デメリットも多いんですけど、酵母ひとつで、味わいも、香りも、ぐっと変わります。おいしい酵母を見つけられるよう、チャレンジしていきます。

ーー構想が広がっていきますね。今回、海野さんのお話を聞いて、ワイナリーの厳しさもすごく感じました。それでも人はワインに惹きつけられる。みなさんワインのどこに魅了されるんでしょう。

海野
:それは人類永遠のテーマだと思います。人を魅了する不思議な液体。

お酒って面白いし、お酒のある食卓って楽しいじゃないですか。お酒の発酵メカニズムが解明されたのって、19世紀のこと。それより昔の人たちは、神の仕業だと思ってたんですよね。

個人的に、ワインは人間の食文化にすごく適した飲み物だと思ってるんです。数あるお酒の中でも、ワインって一番シンプルに作ることができて、ヨーロッパでは日常にワインが溶け込んでいる。日本の日常にもワインがもっと溶け込む余地があるはずです。

和食や日本の食卓に、もっとカジュアルに溶け込むようなワインを造っていきたいですね。

「楽しく仕事をしてる人は絶対いいものを作れる」が座右の銘だと話していた海野さん。三浦社長がワインへの想いを語る姿を見て、「あ、楽しそうに仕事してる。きっといいもの作ってるんだろうな」と直感したそうです。
海野さんの知識の豊富さ、ワインへの造詣の深さに引き込まれた取材。取材後に自宅で味わったワインは、いつもの家庭料理とも相性ピッタリでついつい杯がすすみました。

Information

さっぽろワイン㈱
〒006-0805
札幌市手稲区新発寒5条1丁目6番1号

TEL : 011-681-0213 (平日のみ)
TEL : 011-215-5796 (土日祝日/ショップ直通)
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