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十勝の豆で幻の納豆を。やまぐち醗酵食品が守り抜く今も昔も変わらぬ味

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十勝の豆で幻の納豆を。やまぐち醗酵食品が守り抜く今も昔も変わらぬ味

本別町事業者の想い

文:三川璃子 写真:小林大起

95%以上を輸入大豆に頼っている今の日本。日本食である納豆も、ほとんどが輸入大豆で作られています。そうした中、十勝の豆に誇りをもち、幻の納豆をつくりつづける方がいます。やまぐち醗酵食品の2代目 代表の山口謙一さんです。先代から受け継いだ昔ながらの製法を大事にしながら、美味しさを追求する山口さんにお話をうかがいました。

手のぬくもり感じる納豆づくり

「手作業だからこそ、思いが伝わる」ー創業から60余年、やまぐち醗酵食品の納豆は製法を変えず、一つ一つていねいにつくられています。

ーーやまぐち醗酵食品さんの納豆はどのようにつくられているのですか?

山口
:うちは全部手作業でやってます。機械は一切使いません。1番こだわっているのは、納豆を木べらで容器に盛り込む時かな。木を使って優しく入れることで、豆と豆の表面積が大きくなって、隙間までしっかり醗酵してくれる。これは機械ではできない技。豆一粒一粒がちゃんと醗酵して、味や食感も格段に変わります。

木べらでつめている様子(写真提供:本別町役場)
木べらでつめている様子(写真提供:本別町役場)

山口:もう一つは豆を水につける時間。豆を煮る前に水につけてふやかすんですけど、うちはその時間が短いんです。そうすることで、豆本来の歯ざわりを残すことができます。利益を考えるととっても不利な方法なんですけど、味と食感が格段に違うので、昔からずっと変わらない製法でやってます。

こうして1から10まで思いをこめて手がけるからこそ、食べる人にも思いが伝わると思ってやってます。

ーー60年以上もずっと同じ製法でやられているんですか?

山口
:ほとんど一緒です。変えたところといえば、約20年前くらいに納豆醗酵室にヒーターを導入したことくらいですね。昔は、炭をおこして調整してたんです。醗酵すると豆自体が熱をもったりして、室内の温度を一定に保つのは本当に大変。うちの母がずっと寝る間も惜しんでその仕事をしていたのを見てきました。そう考えると先代は、やはり偉大ですよね。

(写真提供:本別町役場)
(写真提供:本別町役場)

機械化したのは本当にそれくらいで、他の用具は昔から使っているもの。豆を煮る鉄釜もずっと大事に補修しながら使ってます。今はステンレス製の方が扱いやすいし、買い換えることもできると思います。でも鉄釜を使うことで、納豆に鉄分を取り入れられる。これを変えちゃうとまた味も変わってしまうから、これからも同じものを使い続けていきますよ。

運命的な流れで始まった豆の町での挑戦

豆の町と呼ばれる本別町。先代がこの町にたどり着いて、納豆をつくり始めたのは運命的な出来事だったんだそう。創業当時のお話を伺います。

ーー先代のお父様が本別町で納豆をつくり始めたきっかけは?

山口
:うちの先代は、十勝の上士幌町で馬具屋をやっていました。昔、運搬は全部馬だったからね。でも、時代とともに馬から自動車に移り変わり、馬具屋が廃れて革靴職人に。ちょうどその時「つくり方教えるから、違う町で納豆やってみたらどうだ」って、納豆屋をしている友人に言われたのが始まりだったみたいです。

立ち上げ場所を探しに汽車で釧路に行く道で、大豆や小豆が有名な本別を思い出して、突然途中下車したそうで。たまたま味噌工場だった物件が空いていたのと、近くに井戸があったこともあり、納豆づくりに最適なこの場所で創業することになりました。

ーー途中下車で見つけるなんて、運命ですね。

山口
:タイミングってそういうものだよね。
昔は納豆屋さんが3軒もあって、この辺りは競合が多かったんです。そんな中、「どうやったら新参者の私たちの納豆が売れるだろうか?」って、先代はいろいろ考えたそう。商品ができても、最初はどこの店にも並べてもらえませんでした。

ーそんな厳しい状況をどのように乗り越えたのでしょうか?

山口
:毎朝、まわりの店の開店準備を一生懸命手伝ったと言ってました。納豆のことは一切話さず、ただ重たい雨戸を開けたり、根気強く手伝ったそうです。そういった行動から少しずつ認めてもらって、店に納豆を置いてもらえるように。

商品には自信があったので、食べてもらえばわかると思っていたそうです。そこから少しずつ売れ行きを伸ばして、今があります。今でも商品に込める想いを大事にしているのは、こういった先代の話があるからですね。

ーー山口さんはどのように2代目を引き継ぐことに?

山口
:いたって自然な流れでした。上士幌にいた小学生の頃から、納豆づくりに触れてましたので。本別で納豆屋を立ち上げた時も、かごいっぱいに納豆を入れて、近所に売って回ったり、隣町の農家まで大豆と納豆を交換してもらいに行ったりね。小さい頃から納豆屋が日常だったので、もうこれから先もずっとやっていくものだと思ってました。

でも38歳のある日、父から「明日からお前がやれ」と言われた時は、さすがに責任を感じましたよ。「2代目として、しっかり先代を超えるようなことをしないと」と気持ちを新たにしましたね。

本別の豆が、虹色に輝く糸を引く

先代から変わらぬ製法を貫きながらも、美味しさを追求するために試行錯誤したという山口さん。60余年に渡る納豆人生は紆余曲折。時代の変化に揉まれながらも、歩みをすすめてきました。

山口
:2代目ってなかなか難しいこともあって、今までと全く同じやり方でも「やっぱりちょっと前と味が違うよね」なんて言われることもあります。父のやり方は小さい時から見ていたし、「人が変わるくらいでそんなに変化はないだろう」って思ってたんですね。でも先代と同じことだけしても、ダメなんだとその時思いました。これまで以上の美味しさを追求するにはどうしたらいいのか?考えていた時に出会ったのが、沖縄のサンゴカルシウムでした。

まず最初は農家さんに頼んで、サンゴカルシウムを畑に撒いてもらいました。すると、できた大豆の収穫量や品質、醗酵具合にも変化があって。「これを納豆菌に混ぜたらどうなるのか?」と思って、試してみたら、味も見た目も良いものが出来たんです。

その後、帯広畜産大学で調べてもらったら、納豆菌が通常より4割も増えていることがわかりました。おかげで味や品質も上がり、賞味期限も1週間伸びました。遠方に宅配で届けることも多かったので、かなり助かりましたね。

先代がこのサンゴカルシウムを混ぜた納豆を食べた時、「俺のより、美味いな」ってポツンとつぶやいたんです。それが本当に嬉しくて。やっと先代に追いついた、超えられたかもしれない、と思えたあの瞬間は忘れないですね。

ーー試行錯誤の末、たどり着いたんですね。

山口
:納豆って本当に面白い生きもので。60年も関わってるのに、未だに掴めない。毎日、温度や湿度によって、ちょっとずつ煮方や醗酵の仕方が変わります。これが全部ビタっとはまった時、虹色に輝く糸をひく納豆ができるんです。これが本当にいい納豆が出来た証拠。でも年に4,5回くらいしかない。まさに究極の納豆。出来た時は自分で保存用に取っておいちゃうくらい。最高の出来上がりを食べる時は本当に幸せですね。これを楽しみに、毎日納豆作ってるかもしれない。

あとは、この究極の納豆をつくるには十勝、本別の豆は必須だね。十勝の豆は味も香りも醗酵具合も格別。ただ、年々原料が少なくなっていて、集めるのが大変。農家さんも品種改良を重ねたり、機械化が進んでいるので、昔ながらの自然農法で育てているところはほとんどありません。それでも、「山口さんの納豆のために」って、今も自然農法で作ってくれる農家さんがいます。本当に感謝しかないですよね。肥料も薬もまかない、本当に昔ながらのつくり方で豆を育ててくれています。

この無農薬・無肥料の豆だけを使った商品が「納豆物語」。私が何十年やってきた中での集大成の商品です。豆にこだわり、製法にこだわった最高の納豆。身体に良いのはもちろん、味、香り、歯ざわりが抜群です。

(写真提供:本別町役場)
(写真提供:本別町役場)

自然農法の豆が少なくなった今の時代でも、まだまだつくりたいと思う農家さんもいます。コロナの影響もあって販売に苦戦している方もいるので、積極的に買い入れて、農家さんの助けになればと思っています。少しでもこの自然農法の豆が未来にも残せるように、絶やさずにつくり続けたい商品ですね。

努力は惜しまない。良い納豆を届けていく

「手間ひまを尽くせば、それだけ想いが伝わる」ーー十勝の豆を守り、先代が繋いだ納豆を守りつづけるやまぐち醗酵食品。これからについて、伺います。

山口
:もしかしたらね、私でこの事業は終わりになるかもしれない。最近は難しい時代で、良いものが必ず売れるわけではないからね。でも、うちは絶対に機械化はさせない。つくる量は増やさないし、原料の確保が難しくても豆も変えたくない。今うちで働いている従業員のうち、数人も高齢化してきています。だから私の代でなんとか細く、長く続けて、変わらぬ美味しさを届けたい。

(写真提供:本別町役場)
(写真提供:本別町役場)

「山口さんの納豆って美味しいんだね」って、10人のうち7人でも8人でも言ってくれる人が増えたら嬉しいね。「納豆苦手だったけど、山口さんの納豆食べて好きになった」とか、そういう人が増えてくれると本当に嬉しいですし、そこを目指してます。

本別町は豆の町と言われてます。最近は、町全体で光黒(ひかりくろ)という品種の豆を使った「キレイマメ」のブランドをつくっています。うちも光黒の納豆を使ってるんですけど、本当に素晴らしい。十勝、本別でつくられた素晴らしい豆は、未来に残していきたいですよね。そのために私たちも努力は惜しみません。良い納豆をつくって、届けていきます。

「キレイマメ」光黒を使った納豆
「キレイマメ」光黒を使った納豆

「納豆菌を入れ忘れた時も、びっくりすることに納豆ができてたんだよ!」と失敗エピソードも笑顔で語ってくれた山口さん。工場自体に納豆菌が存在するため、菌の吹き付け作業なしでも納豆が出来上がっていたとのこと。「納豆って生き物だから面白いよね」と楽しそうに納豆づくりをしている姿が印象的でした。

山口さんがつくる納豆は、豆の粒を感じるホクホクとした食感で、大豆の香りと旨味がブワッと口の中に広がります。塩をちょっとふりかけて食べるのが山口さんのおすすめ。昔ながらの優しさがつまった納豆をぜひ堪能してみてはいかがでしょうか?

会社情報

有限会社やまぐち醗酵食品
〒089-3314
 北海道中川郡本別町南2丁目2番地14
電話:0156-22-2342

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