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本別の未来を一緒に考えたい。「とかち創生学」で地域の課題に挑む

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本別の未来を一緒に考えたい。「とかち創生学」で地域の課題に挑む

本別町プロジェクト

文:三川璃子 写真:斉藤玲子

本別町中心街から利別川(としべつがわ)を越えてすぐに、本別高校があります。2022年現在の生徒数は77名。人口減少や近隣のまちを繋ぐ「北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線」の廃線以降、生徒数は年々減少しています。

そうした中「地域と関わりながら、地元人材を育成すべき」と立ち上がったのが、とかち創生学プログラムです。本別高校の授業カリキュラムに「探究の時間」を組み込み、高校生たちが自ら本別にある地域の課題解決に挑んでいます。

地域にある、正解のない課題に挑む

「課題を設定して解決するまでの探究過程は、今必要な学び」ーー本別高校の生徒たちを近くで見守る松田素寛校長先生に、とかち創生学の立ち上げ背景や活動内容をうかがいます。

ーーとかち創生学の立ち上げにはどんな背景があったのでしょうか?

松田:背景には生徒減少や人口減少という課題がありました。前校長である近藤校長の「地域と関わりながら人材を育みたい」という熱い想いがあり、とかち創生学がスタートしたのです。

前校長の専門科目は科学で、「スーパーサイエンスハイスクール※」という理科に特化した研究・探究活動の指導経験がありました。授業では生徒自身の興味に合わせたテーマ(課題)を持って研究し、発表します。実験を重ねながら校外の専門家や先生にもアドバイスをもらいながら進めていくという内容。この活動を地域をテーマに応用できないか?と考えたそうです。

※高等学校等において、先進的な理数教育を実施するとともに、高大接続の在り方について大学との共同研究や、国際性を育むための取組。また創造性、独創性を高める指導方法、教材の開発等の取組。

松田:私自身もスーパーサイエンスハイスクールの指導をしていた経験があり、自分たちで課題を設定して、解決に向かって探究する過程はとても大事だと思っています。
本別高校は、生徒の数に合わせて先生も少なくなってきています。先生一人で複数科目を担当するのもなかなか大変です。生徒たちの可能性を広げるためには、地域との協力が欠かせないと考えました。

前校長が地域との連携を構想しているときに出会ったのが、地域包括ケア研究所の藤井雅巳さんです。アドバイザーとして入っていただき、2019年にとかち創生学がスタートしました。

ーー2019年にスタートしてから、とかち創生学ではどのような活動をされてきたのでしょうか?

松田:まずは協議会を設定して、まちの事業者や住民からアドバイスや支援してもらえる仕組みをつくりました。講演会やワークショップ、商品開発など、地域の皆さんと連携しながら活動しています。

例えば、本別の基幹産業である農業のバックボーンを知る機会として、農作物の生産から6次化まで手がける、前田農産食品代表の前田さんに講演してもらったり、帯広大谷短期大学で栄養について研究している方にお話をしていただいたり。

本別高校生が考えたカレーでナイト
本別高校生が考えたカレーでナイト

松田:2020年の夏休みには、まちの加工調理場を借りて、地元食材を生かした商品開発を始めました。生徒たちが企画を練り、辿り着いたのが町の特産品「豆」と「豚肉」を使ったレトルトキーマカレーです。JAの職員さんと一緒に商品化を進め、パッケージデザインにも彼らの意見が取り入れられました。

ーー高校生たちでパッケージも考えたんですね。すごいです。

松田:カレーの商品化の背景には、本別高校の認知度を上げる目的もありました。うちの高校は、近隣のまちを繋いでいた「北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線」の廃線以降、入学の間口が少なくなり、生徒の数が一気に減っていたんです。1963年に1学年7クラス、全校では21クラスあったのが、2018年には1学年1クラスの全校3クラスまで減りました。

どのまちも今は少子化で生徒数が減っています。近隣の学校と生徒を取り合うのではなくて、本別は本別らしく“地域の核”になるものを見つけて打ち出したい。強い想いをもって商品化まで辿り着いたのは、前校長の精力的な取り組みのおかげだと思っています。

松田:とかち創生学の目的は、正解のない課題を探究し続けて、時代の変化に対応できる多様な価値観を育てること。ちょっとおこがましいかもしれませんが、「僕たちの本別高校が十勝を引っ張ってやるぜ!」くらいの勢いで取り組まなければと思ってます。

探究で気づく本別の魅力

実際に探究の授業を受けた生徒は、どういった想いや考えが芽生えたのでしょうか?本別高校3年生で、生徒会長も務める廣瀬乃愛(のあ)さんにお話しをうかがいます。

ーー授業の合間にお時間いただきありがとうございます。まずはじめに廣瀬さんが本別高校を選んで進学した理由を聞かせてもらえますか?

廣瀬:生まれた時からずっと本別に住んでいて、地元の高校だったというのが大きな理由です。それと本別高校では、本別の姉妹都市であるオーストラリアのミッチェルでの海外研修制度があることを聞いて選びました。

ーー廣瀬さんは、とかち創生学ではどんなプロジェクトを進めていたんですか?

廣瀬:本別高校の入学生が年々減っている課題に着目して、“放課後の復興”をテーマにプロジェクトを立てました。高校生だから、「せっかくなら放課後も楽しみたい」という気持ちもあって、「本校生徒の放課後を救おう」と活動しました。

とかち創生学活動の様子
とかち創生学活動の様子

ーー具体的に放課後にどんな取り組みをしたのでしょう。

廣瀬:町民体育館の活用方法に目を向け、どうやったら高校生が使えるかを考えました。町民体育館は、冬の利用者の混雑が課題だったんです。私たち高校生も、冬は好きな時に体育館が使えない状況でした。夏は外でできるスポーツも、冬になったら室内でしかできなくなってしまうので、体育館の利用日程が被ってしまうことがわかったんです。

実践するところまではたどり着いていないのですが、解決策として、くらしの情報誌かけはしに体育館のスケジュールを載せたらいいんじゃないかと提案しました。

ーー町民体育館が使いづらいという課題はみんなで意見を出し合って決めていったのですか?

廣瀬:チーム内の経験談をもとに意見を出し合って、その後に町内の方々や小中高のみなさんにもアンケートをとってまとめました。

ーー皆さんでアンケートも作って取り組まれたんですね。いやぁ、すごいです。
実際にプロジェクトを進める中で大変だったことはありますか?


廣瀬:自分たちで課題を見つけるのも大変だったんですが、答えのない課題に向き合うことが一番大変でした。その中でどれだけ説得力の出る意見を出せるのか。正確なデータを自分たちで探してまとめるのは難しかったです。

地域包括ケアの藤井さんには、「答えではなく、どうしたら円滑に進められるようになるか」などのアドバイスをもらって、自分たちで考えて動いていました。小さな学校だからこそ、役場の方や地域の方々がコーチとして入ってくれて、仕事の経験談をもとにアドバイスいただけたのは、とても貴重だなと思います。

ーー廣瀬さんから見て、他の生徒さんもとかち創生学のプロジェクトは楽しんでいる様子でしたか?

廣瀬:正直すごい大変なプロジェクトなので、みんな一回は逃げ出してました(笑) 
壁にぶつかることもあったし、私たちのグループも解決策がなかなかまとまらなくて。既存のもので、高校生ができることとなると限られるなぁと感じることもありました。

でも、課題に向き合うことで、自分の住む本別の新たな発見があったなと思います。今まで住んでいても気づかなかったものを、チームみんなで見つけることができてよかったです。

ーー松田校長は生徒さんの活動をみてどう感じていますか?

松田:「答えがない」課題に直面して苦しいのは生徒はもちろん、私たちも同じです。資金がなくてできないことも少なくありません。それでも地域と連携することで生徒たちが実現できる幅を広げていきたいと思っています。

本別のまちが、高校生たちを支える

学校だけでは負担の大きいプロジェクトもある中、地元企業が高校生たちを支えています。

「地元食材を使ったスイーツをつくりたい!」という生徒の声で始まった、フィナンシェ作りプロジェクト。「試作を作って終わりではなく、せっかくなら商品化までやりましょう」と支援してくれたのは松月堂の佐藤さんです。地元企業としてどのように高校生とプロジェクトを進めていったのかをうかがいます。

佐藤:フィナンシェを作るプロジェクトは、高校生たちが考えたレシピにアレンジを加えて、試食会をして終了の予定でした。でも作るだけだったら、誰でもできる。ここでは終われないなと思いました。

「プロジェクトのゴールについて、生徒はどう思っているのか?」と高校に直接相談したところ、「実は生徒も商品化したいと思っている」と聞いて、やるしかないと思いました。

放課後SOY倶楽部の活動の様子
放課後SOY倶楽部の活動の様子

佐藤:ただ期間的にも教育課程の中では活動できなかったので、希望者を募って学外のクラブ活動として始めました。改めてクラブの名前をつけよう!ということで生徒たちに考えてもらって決まったのが「放課後SOY倶楽部」です。本別らしく学生らしい名前ですよね。

ーー放課後SOY倶楽部いいですね。
フィナンシェが商品になるまでどのくらいかかったんですか?


佐藤:1年くらいですね。高校生たちとリアルで時間を合わせて集まるのは大変でしたが、SNSを駆使して連絡をとってましたよ。地域おこし協力隊のサポートもあって、高校生の意見を尊重しながら進められました。

商品ができた今も、高校生と一緒にイベントを企画してる最中です。販売会のようなことをやろうかって話をしています。こうして一緒にできるのは、私としても楽しみですよね。

松田:フィナンシェの商品化は、佐藤さんの声があってこそ実現したことです。学校だけでなく、こうして地域の人たちが子どもたちを育ててくれる環境が本別にある。高校生がやったことに対して、場を与えて可能性を広げてくれる、このまちは本当に素晴らしいですよね。

高校生と一緒に本別の未来を一緒に考えたい

地域の人々の協力によって、高校生の活動の幅と可能性は格段に広がっていきました。「とかち創生学を通して生徒たちは本当にたくましくなった」と、松田校長は語ります。とかち創生学、そして本別高校の描く未来についてうかがいます。

松田:とかち創生学を受けた生徒たちは、課題の現状分析もできて、物事を理論的に話せるんですよね。また、地域の大人に触れることで、「こんな大人になりたい!」といって将来の夢が明確になることも。

就職先を自分で見つけてアポイントをとってきて、さらっと合格しちゃう子もいれば、大学にいって「基礎的な課題解決能力が備わってたので、社会が広がりました!あとは興味関心で突っ走るだけです!」と明るく話してくれる卒業生もいます。

松田:現役の生徒たちも、一つのテーマに対してこんなに長文の感想文を書いてくれるんですよ。「意見をもって話せる子たちが多くなったな」というのを感じて、本当に嬉しいです。

ーー私も正直本別高校の生徒さんには圧倒されました。
今後、本別高校やとかち創生学で新たに構想していることはありますか?


松田:高校は毎年人が入れ替わります。とかち創生学も人が変わる分、仕組みも変えなければいけない。原点から課題解決の苦労を知るために、ゆくゆくは生徒たち自らがクラウドファウンディングを企画して、資金を集めるなどできたらいいなと構想しています。

さらに、これからは高校生も大人も一緒になって、まちの将来を考える機会をつくりたい。あるアドバイザーがこんなことを言ってくれたんです。「高校生の考えに対して、“がんばったね”ではなく、大人たちも同等に、何ができるかを考えられるんじゃないか」って。その考え方がゆくゆくはこの町の成長に繋がっていくんじゃないかと思っています。

松田:企業が抱えている課題は、もしかしたら今の高校生の発想で解決できるかもしれないじゃないですか。企業と一緒に解決策を考えることは、高校生たちにも大きな学びになって、win-winの関係だと思うんです。

子どもたちに温かく、子どもたちを理解しようと前向きに捉えてくれる。そんな素敵なまち・本別だからこそ、できると思ってます。

生徒も地域の人の愛に触れることで、一度地元を出たとしても、将来帰ってきてくれるかもしれない。外にいてもふるさと納税をしてくれるかもしれない。そんな可能性を残していきたいです。

地域の人の愛、松田校長の熱い想い、高校生の凛とした姿勢、その全てに驚かされ圧倒された取材でした。「本別だからできる」という言葉の強さにとても納得させられました。

高校生の可能性を潰さない。地域一体となったとかち創生学の活動は、本別の未来を支えていくでしょう。

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