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本別町

輝く豆を世界に届ける。日本一の豆のまち本別が紡ぐ歴史

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輝く豆を世界に届ける。日本一の豆のまち本別が紡ぐ歴史

本別町プロジェクト

文:三川璃子 写真:山田祐介

十勝の東部に位置し日本一の豆のまちと呼ばれる、本別町。晴天が多く、冷涼な気候が特徴のまちです。この恵まれた気候を地元では「十勝晴れ」と呼び、温かな日差しをたっぷり浴びて育つ豆は、大正時代から多くの人に愛される産品でした。本別町を支えてきた豆の歴史と、豆の生産を守る物語をひもときます。

先人が支えた日本一の「豆のまち」

小豆からあんこへ、大豆から味噌、豆腐、納豆など、さまざまな姿に形を変え親しまれている豆。中でも本別町の豆は、世界でもトップクラスです。本別町がなぜ「豆のまち」と呼ばれるようになったのか、背景を探るため、本別町農協 食品開発課の柳澤真佐美さんにお話を伺います。

ーー本別町が「豆の町」と呼ばれるようになったきっかけは、何だったんでしょう?

柳澤
:本別町は昔から、豆を育てるのに向いている土壌や気候で、明治・大正時代から、人々は豆を植えて生計を立てていたようです。

第一次世界大戦のあった大正3年には、豆の輸出増加と価格の高騰で、一気に豆成金が増えたという歴史も。本別町はずっと豆に支えられていますね。でも、町全体で「豆のまち」と言うようになったのは、平成9年のこと。インゲン豆の作付面積で、日本一になったことが大きなきっかけです。

広大な土地で育つ本別の豆(写真提供:本別町農協)
広大な土地で育つ本別の豆(写真提供:本別町農協)

柳澤:「豆のまち」というイメージが定着していったのは、平成12年頃です。JA本別の婦人部が「本別発・豆ではりきる母さんの会」を結成して、生豆や豆腐、お菓子などを作ってPR活動をおこなったのが背景にあると言われてます。全国津々浦々、イベントに参加したり、ネット販売を行い、少しずつ認知されていきました。

本別町の人は、豆に誇りを持ってる人が多い。そうした地元愛も相まって、広まっていったんだと思います。

ーー歴史が深いですね。
本別町が豆づくりに適した土地や気候だったとのことですが、具体的にどんな特徴があるのでしょうか?

柳澤
:十勝盆地特有の晴天の多さや、昼夜に寒暖差がある気候が特徴です。昼にいっぱい日の光を浴びることで、旨みと甘みがギュッと詰まった豆に育ちます。また、夜の温度が低いことで糖分を蓄えられるという点も。本別で育つ豆は、渋みも少なく風味がいいことで有名ですね。

旨味と甘みがギュッと詰まった本別産の小豆
旨味と甘みがギュッと詰まった本別産の小豆

本別町は豆の他にも小麦やビートなど、加工品の原材料となる作物が多いのが特徴です。私は本別町に住んでいて、「原材料が生産される土地」は、とても貴重だと感じています。日本は震災が多い国。平成30年の北海道胆振東部地震では、本別町も停電しました。そうした経験から、「ここは原材料があるからどんな状況でも助かる」と思ったんです。豆は保存食で、水で戻して加熱すれば食べられます。

今までも豆に助けられてきた土地ですが、これからもきっとそう。豆に守られながら、私たちも豆を守っていかないと、と思いますね。

丹精込めた豆に輝きを、本別の豆を世界に届ける

今回、特別に豆の選別ラインを見せてもらうことに。農家さんが心を込めてつくった豆はどのように磨かれて、どのように消費者に届けられるのでしょうか。選別ラインを担当する露木さんに選別工場を案内していただきながら、お話を伺います。

ーー露木さんは農協でどのようなことをしているのでしょうか?

露木
:私は主に農家さんから預かった豆を選別して、磨く作業をしています。みなさんがスーパーで見る豆はもっとピカピカですよね? その状態にするまでに、いくつもの機械を通して綺麗にしていくんです。石や枝が混ざっている豆をふるいにかけ、汚れを取り除く。そして、研磨作業を行って、手よりで豆を選別します。

ーー人の手で選別作業もしているんですね。
1日どのくらいの量を選別するのでしょうか?

露木
:約2万トンくらいですね。機械で選別したあと、手で一粒一粒割れている豆や異物を取り除きます。

人の手で丁寧に選別作業される豆
人の手で丁寧に選別作業される豆

露木:豆は水分量や室内の気温などによって、毎日、選別の度合いが変わってきます。なので、選別方法にはマニュアルがないんですよね。豆にとことん向き合って「この豆なら、このくらいかな」と、都度ベストを探りながら調整しています。

この機械たちは本別町農協が出来たころからあるそうで、約50年もの。手直ししながら、昔と変わらない方法で選別しています。一つ変わったことといったら、微妙な色彩の違いを判別し、選別してくれるデジタル選別機が導入されたこと。よりクライアントさんの要望に合わせた豆の選別ができるようになりました。

細かい色を判別し、選別してくれるデジタル選別機に映る画面
細かい色を判別し、選別してくれるデジタル選別機に映る画面

露木:農家さんから預かった大事な豆を選別し、クライアントさんの要望通りにビタっと添えた時は、本当に嬉しいです。農家さんが丹精込めて作った豆が、求めている人の元にちゃんと届く。そのために僕たちがいると思っています。

露木さんたちが大事に選別しピカピカに磨かれた豆は、日本全国に限らず、世界にも届けられるといいます。

ーー現在の本別町農協で管理している豆は何種類くらいあるのですか?
本別町農協でおこなっている取り組みも教えてください。

柳澤
:30種類以上の豆を取り扱っています。大豆や小豆の中でも、さらに様々な品種に分かれていて、スイーツづくりに向いている品種、発酵食品づくりに向いている品種などがあります。国内では、北海道の有名菓子メーカーの「柳月」をはじめ、伊勢の「赤福」などにも本別の豆が使われています。

全国各地で使われている本別産の小豆(写真提供:本別町役場)
全国各地で使われている本別産の小豆(写真提供:本別町役場)

柳澤:本別町の作物の素晴らしさを世界へも広げるため、農協では大豆の「ユキホマレ」という品種を台湾へ輸出する取り組みも始めています。平成25年には5.4トンの輸出に成功し、その後、「光黒大豆」の輸出にも繋げることが出来ました。

現地では、豆乳などの加工品を通して本別の豆の魅力が広がってきています。こうして世界へ、本別の名前が広がっていることは本当に嬉しいですね。販売先が広がることで、本別の豆や農家さんを守ることができると思っています。

環境の変化と後継者不足の苦悩

日本のみならず、世界へ広がる本別の豆。本別ブランドを保ちながら、豆の魅力が広がっていく一方で、自然環境の変化や後継者不足の課題を抱えていました。

ーー時代の移り変わりや環境の変化など、豆の生産や管理で苦労した時期はありましたか?

柳澤
:農業は常に環境の変化に振り回されています。どの作物も同じかもしれませんが、台風で収量が減ってしまって、売る豆が足りなくなったり、今回はコロナの影響で注文数が一気に減って、逆に豆が余ってしまうなど。作物は、急に増やしたり減らしたりできるものではありません。農家さんが一日一日面倒をみてやっとできるもの。

柳澤:農家さんって本当にすごい方たちで、気候変動に合わせて、その都度育て方も変えているんです。昔、本別は他の地域と比べて霜が下りるのが早く、豆が霜でダメになる前に早熟状態で刈り取っていたそうです。刈り取った莢(もみ)は「ニオ積み」といって、傘のように積んで2〜3週間ほど太陽の下で乾かします。そうすることで、風味も味もよくなるそうで、これを昔は手作業でやっていたんですよね。自然と共存し、豆を育て続ける農家さんの姿をみて、どんな状況でも豆を消費者に届けたいと思いました。

豆のニオ積みの様子(写真提供:本別町役場)
豆のニオ積みの様子(写真提供:本別町役場)

柳澤:豆が売れずに余ってしまうと、当然農家さんの手取りも減ります。一生懸命育ててくれたのに安くなってしまったら、本当に申し訳ない。少しでも良いクライアントさんを見つけたり、販売先を増やすことを心がけています。

ーー農業において後継者不足の問題が上がること多いですが、本別の豆の生産ではどうでしょうか?

柳澤
:年々離農される方は増えていますね。農家が減って、農地は余る一方です。他の農家さんが農地を買ってくれることもありますが、一人当たりの所有面積が増えると負担も大きくなるばかり。他の地域にも言えることだと思うんですけど、本別でもそういう状況です。

本別町農協でも、新規就農支援の取り組みをしています。まだまだこれからですが、最近も大学生の研修生が来てくれたり、一人でも農業をやりたいという方を増やしていきたいです。今まで農家さんが頑張って守ってきた豆の歴史を途絶えさせたくないですね。

農家と共に、豆のまちを未来に残す

生産者と消費者の間に立ち、本別町の豆の生産とブランドを守り続ける本別町農協。「農家さんがいるから、豆のまち本別がある」と語る柳澤さん。生産者のために自社商品の開発も手がけているといいます。

柳澤
:農協では生豆の他に、大豆を使ったスナック菓子「SOYKARI(そいかり)」や、燻製した大豆を小袋で包んだ「だいずくん」などを開発し、販売しています。

「SOYKARI」は添加物不使用・ノンフライで作っていて、大豆本来の栄養がぎゅっと詰まっています。健康に気を使いながら、誰でも楽しめるお菓子として考案しました。

SOYKARI(そいかり)とだいずくん
SOYKARI(そいかり)とだいずくん

豆はそのまま食べるよりも、スイーツや味噌などの原材料になることの方が多い作物。農家さんは、生産した作物を食べてくれる消費者の顔を想像しづらいんですよね。こうして形になった商品が身近にあることで、「自分の豆がこんな風に、みんなが楽しんで食べられるお菓子になるんだ」って、農家さんの原動力や励みになるんじゃないかと。

生豆をお土産で持って行くのもいいですけど、もっと気軽に「このお菓子、自分の大豆を使ってるんだよ」って渡せるものがあればいいなと思ってつくりました。

ーー農家さんの励みになるような商品づくりをされているんですね。
豆のまち本別町として、これからどんな未来を描いていきたいですか?

柳澤
:私は農協として、農家さんに消費者の「美味しい」という声を届けるようにしています。私たち農協は橋渡し役。農家さんが大事に育てた豆をお客さんに届ける。真ん中にいるからこそ、生産者と消費者を繋げる役目になっていきたいです。

農協は、豆のまち本別町の「入口」としての役割も担えればと思っています。本別町の豆を使った商品が増えれば、本別のPRに繋がる。本別の豆の美味しさが広がれば、生産者の励みになる。農家さんがいなければ、この美味しい豆はないですし、豆のまち・本別町は存続しません。農家さんの大変な部分をサポートしながら、支えあいながら未来に向かって歩んでいきたいです。

「私、実は昔は豆好きじゃなかったんですよ。今は大好物ですけどね」と笑顔で話してくださった柳澤さん。本別町農協に入り、農家さんの姿を見て豆の虜になったんだそう。本別の豆への誇りと、農家さんを尊ぶ心が感じられます。

取材後に、自宅で本別の小豆をぜんざいにしていただきました。豆自体の甘みが強いので、いつもより砂糖は少なめ。自然の甘みと深い味わいが口いっぱいに広がります。本別のまちを支えた日本一の豆、ぜひご家庭でも召し上がってみてください。

(写真提供:本別町役場)
(写真提供:本別町役場)

会社情報

本別町農協
〒089-3334 北海道中川郡本別町北5丁目2番地1
電話 0156-22-3111 
FAX  0156-22-3557

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