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家族が手を取り合って守る。まるや渋谷水産がつなぐ羽幌の味

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家族が手を取り合って守る。まるや渋谷水産がつなぐ羽幌の味

羽幌町事業者の想い

文:三川璃子 写真:原田啓介
 
日本海を左に見ながら真っ直ぐ。石狩から稚内をつなぐオロロンライン。羽幌町に入ってすぐ、この道路沿いにひときわ車やライダーたちが停まっているお店があります。「北のにしん屋」(まるや渋谷水産)です。

羽幌産の魚を中心に各地で獲れる厳選された鮮魚が並ぶお店。市場の隣には、海鮮丼が食べられる食堂もあります。

取材前に思わず甘エビ丼を注文。テーブルに置かれた甘エビ丼はとにかくキラキラしていて、見惚れてしまいます。

「やっぱり、お昼に来てましたよね!」と笑顔で迎えてくれたのは、北のにしん屋店長の下山茜さんです。「うちは家族で本当に自由にやってますよ」と下山さん。渋谷水産が守りつなぐ羽幌の味と、家族と共に歩んだ道のりをうかがいます。

羽幌ならではの「味」がある

食堂では甘えび丼の他に、ウニやイクラ、海鮮丼などメニューが豊富で迷ってしまいます。鮮魚コーナーには遠方からウニや生えびを求めてくるお客さんも多いそう。
 
ーーお昼にいただいた甘えび丼、プリプリでとても美味しかったです。
甘えびは今日獲れたものを使っているのですか?
 
下山:甘えびは昨日獲れたものを使っているんですよ。獲れたてはプリプリすぎて皮が剥けないし、1日置くことでグッと甘みが増すんです。
 
今日は3箱分の甘えびを剥きましたよ。1箱3kg入っているので合計9kg。今日は多い方でしたが、「毎日6kgは剥きたいね」って言いながら営業してます。

入荷時の甘えびの様子(写真提供:まるや渋谷水産)
入荷時の甘えびの様子(写真提供:まるや渋谷水産)

ーー食堂は観光客の方も多いようでしたが、お店は地元の方も利用されることが多いのでしょうか?
 
下山:地元の人も来てくれますし、お寿司屋さんや旅館など飲食店の方も、鮮魚の仕入れに利用してくれてます。フェリーターミナルにある「浜の母ちゃん食堂」からもウニの問い合わせをいただいていますよ。
 
ーー渋谷水産は加工品もたくさん作られていると思いますが、特に下山さんがおすすめの商品はありますか?
 
下山:羽幌に来てから食べるようになった「かじかの子の醤油漬け」がおすすめです。
 
日本海側の町で生まれ育ったので、かじか汁には馴染みがあったんですけど、かじかの子の醤油漬けは食べたことがなくて。これは羽幌町ならではのものだなぁと思いますね。

下山:創業以来人気なのは「ぬかにしん」です。これを目当てに買いに来てくれる年配の方も多いですよ。創業者である義祖父にとっても、一番思い入れのある商品みたいです。

大家族が生んだぬかにしん、今もつながる渋谷水産の歴史

渋谷水産の創業は昭和48年。水産加工品や小売店を始めたのは、家族がつくった「ぬかにしん」が一つの起点になったそう。当時の立ち上げの背景をうかがいます。
 
 
ーー初代が直売所を立ち上げたときの背景はご存じですか?
 
下山:初代である旦那の祖父(渋谷哲夫さん)は、初めは漁師をやっていたと聞いてます。漁師だけでは生計を立てるのが難しかったことから、トラックの運転手などもしていたそうですね。
 
トラックの仕事の縁もあって、隣町の苫前町からも魚を運搬することもあったそうで。仕入れた魚を加工して、内地に売れるようになってから、今の直売所とは少し違うスーパーのような小売店を始めたそうです。

下山:当時から兄弟、親戚が集まって、家族ぐるみで経営していたと聞いています。「みんなで一緒に家業を盛り上げよう」となったみたいです。
 
最初につくった商品は、今も人気の「ぬかにしん」。家族の女性陣がつくる「ぬかにしん」の味付けが美味しいからと、売ってみたところ好評だったそうです。そこから人手をどんどん増やして、たくさん作っていたと聞いてます。当時は、作れば作るほど売れたみたいですね。

ーー昔から家族みなさんで経営されていたんですね。
ちなみに下山さんはいつ羽幌に?
 
下山:13年前(2010年)に羽幌に来ました。旦那(下山敬太さん)から「実家に帰って跡を継ぎたい」って言われて、札幌からこっちに移ってきたんです。
 
ーー旦那さんから羽幌に帰りたいと言われた時はどんな気持ちでしたか?すんなり受け入れられたんでしょうか?
 
下山:言われたときはびっくりしましたけど、私自身が共和町という自然豊かな環境で育ってきたので、子育てするなら田舎がいいと思ってました。戸惑いがゼロではなかったですけど、軽い気持ちでOKしましたね。

下山:羽幌に戻る大きなきっかけとなったのは、旦那の弟(下山祐太さん)でした。弟が「いつか実家を継ぎたい」という思いで、東京の中央卸売市場で働いていて、それを聞いた旦那が「弟だけだったら、これから大変だろう」と札幌の市場で修行してから、私たち一家が先に羽幌に来たんです。
 
ーー弟さんがきっかけだったんですね。家族を大切にされている思いが伝わりました。
今は家族それぞれ役割分担をしながら営んでいるのでしょうか?
 
下山:お義父さんが社長で、お義母さんがお店の鮮魚コーナーを担当。旦那は部長としてせりやお店の全体管理を行い、弟は専務である義叔父さんに教えてもらいながら主任として加工場を担当。そして私は食堂を担当しています。
 
旦那は近隣のお寿司屋さんや食堂など飲食店の方と、仕入れた魚の情報を細かくやりとりしています。加工場担当の弟は、ふるさと納税のタコを茹でたり、かじかの子の醤油漬けをつくったり、それぞれ役割分担しながらやってますね。

左:下山敬太さん 右:下山茜さん
左:下山敬太さん 右:下山茜さん

「ときに喧嘩しながらも、仲良くやってると思います」と話す下山さん。家族が手を取りながら羽幌の味を守りつないできた渋谷水産ですが、近年は不漁と新型コロナウイルスの影響で何度も頭を悩まされたと言います。
 
ーー下山さんが羽幌に来て約10年の中で、1番変化のあった年はいつですか?
 
下山:やっぱりコロナですかね。流行り始めはお店も閉めていました。
 
それでも、せりがあれば必ずえびは仕入れていたんです。とはいえ、「余ったえびをどうしよう・・」となった時に、ダメ元で「今だけ生えび販売します」ってフェイスブックで声をかけたんです。
 
そうしたら、10人くらいの人が反応してくれて。遠方の人からも申し込みがあって、最終的には売り切れました。その後は、毎日まめに投稿をチェックしてくれる人もいました。
 
この様子を見た役場の人が「ふるさと納税もやってみませんか?」って声をかけてくれて、始めることにしたんです。お店を閉めていても遠方の人に届けられるので、ふるさと納税の導入は助かりました。

SNSで海鮮海苔巻きのテイクアウト販売を告知している様子(写真:北のにしん屋Instagram)
SNSで海鮮海苔巻きのテイクアウト販売を告知している様子(写真:北のにしん屋Instagram)

下山:コロナ禍では、みんなで知恵を絞って、余った海産物の使い道を試行錯誤しました。テイクアウト商品が流行った時期は、「海鮮海苔巻き」を作って販売しました。最近も「ばらちらし」を作って売ってみたり。これもSNSに投稿して、チェックしてくれたお客さんが買いに来てくれました。
 
コロナで苦しかったけど、まわりの人に助けてもらって、ありがたさを感じることは多かったですね。

仕入れを止めず、羽幌の味を守りつづける

苦しい状況でも家族で知恵を出し合い乗り切ってきた渋谷水産ですが、水産業界を脅かす「世界情勢」や「不漁」の問題。海外の魚も扱いづらくなるなか、船が止まり、漁師も少なくなる一方で仕入れが難しくなっているそう。
 
それでも渋谷水産が歩みを止めないのには、ある想いがあったからでした。
 
下山:最近はロシアとウクライナの戦争もあって、ロシア産の魚はあんまり売れなくなってますね。にしんは回遊魚なので、時期によっては海外産も入ることがあるんですが、産地を見て買うのを諦めるお客さんもいます。
 
仕入れ先の船が出なくなって、加工に使う原魚の調達も難しくなったり。不漁が続いているので、魚の値段も高騰・・。など、いろいろと問題はありますが、せりがあれば絶対仕入れてくるんですよね。
 
漁師さんたちのためにも、「誰かが仕入れなきゃ」って気持ちがあったんだと思います。うちは冷凍もできるから、それでなんとか持たせようって。
 
全部ストップさせてはいけないと思ってました。
 
ーーいろいろと困難がある中で、仕入れは止めずに乗り越えてきたんですね。

ーー大変な状況もあると思いますが、今後やっていきたいことはありますか?
 
下山:コロナも落ち着き始めた今、これからの繁忙期に向けて一緒に働く人が欲しいですね。人手が足りてないんです。
 
あとは、ここ数年いろんな影響で商品数も減ってしまっていたので、復活を目指したいです。引き続き仕入れを止めずに。漁獲量も波に乗ってくれるといいなと思いますね。渋谷水産の商品を通して羽幌のまちを知ってもらえるとうれしいです。

「常に明るく元気に」お店を営む上で大切にされていることをうかがったときに、下山さんが答えてくれた言葉です。下山さんが家族と一緒に楽しく営むエピソードに、終始ほっこりさせてもらいました。
 
困難に立ち向かいながらも羽幌の味を守り、家族が手を取り合って生まれた数々の商品。ぜひ召し上がってみてください。

会社情報

株式会社マルヤ渋谷水産
〒078-4118
北海道苫前郡羽幌町浜町2丁目

北のにしん屋
定休日 :火曜日
営業時間:(鮮魚)9:00〜14:00/(食堂)11:00〜14:00

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