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羽幌町

最北のうるち米で、幸せの輪を広げる。みなくるファームが紡ぐ想い

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最北のうるち米で、幸せの輪を広げる。みなくるファームが紡ぐ想い

羽幌町事業者の想い

文:三川璃子 写真:原田啓介

羽幌町は、うるち米が育つ北限の地。日本海の潮風に耐えながら力強く育つ羽幌のお米は、米の食味ランキングで最高ランクの「特A」をとるほどの品質の高さ。「米をおかずに米が食べられる」と言われるくらいです。

そんな羽幌のお米に出会ったことをきっかけに、自衛隊から農家へ転身し、米作りに勤しむ人がいます。農事組合法人みなくるファーム次期代表の本間友教さんです。「美味しい輪が大きくなれば、幸せも広がる」ーー羽幌のお米を守る物語がありました。

惚れ込んだお米を残すため、農家の道へ

羽幌川に沿って南東へ進むと、田んぼに囲まれた景色に変わっていきます。「平らに仕上げた田んぼに水が張っている景色が、とても綺麗なんですよ」と本間さん。田んぼの景色は、農家さんが手をかけているからこそ見られるのだということを、改めて感じます。

(写真提供:みなくるファーム)
(写真提供:みなくるファーム)

本間さんが農家になったきっかけや、みなくるファーム立ち上げの背景をうかがいます。

ーー農家を始められたのは、何かきっかけがあったんですか?


本間:僕はもともと千歳で自衛隊に所属していました。長男が生まれて今後の暮らしや人生設計を妻と考えた時に、「ローカルな環境で生活する方がいいんじゃないか」って話になったんです。じゃあその中で僕がやりたいことは何だろう?と考えて、たどり着いたのが羽幌の米農家になることでした。

妻のお父さんが、みなくるファームの立ち上げメンバーの農家で、毎年秋にお米を送ってくれて、そのお米が本当に美味しかったんです。

本間:「この羽幌のお米を自分でつくれたら、自慢できるなぁ」と思いました。

半年かけて悩んで、お義父さんに相談しました。就農したのは2014年。当時人数は足りていたようですが「一人くらいなら」ってことで滑り込みで始めさせてもらうことに。

ここのお米に惚れ込んで、つくりにきたって感じです。

ーー羽幌のお米の違いや美味しさは、どういうところに感じたんですか?

本間:一般的に食味官能試験などで評価されるのは、つやや張り、粘りや柔らかさなどいろいろあるんですけど、僕が「うまい!」と感じたのは香りと食感ですかね。

このお米はすごいって思いました。

ーー今まで農業はやられたことなかったんですよね?畑違いの農家に挑戦するのって、なかなか大きな一歩だなと思ったんですが。

本間:「人がすでにやっていることは、自分も熱意をもってやれば近づける」というのが僕の考え方です。だから、やって無理なことはないと思って踏み出せたんだと思います。

人が上手にできるのは、時間をかけて努力をしているから。技術を継承していけば、近づくことは可能だと思っています。

本間:実際に農家をやってから、うまくいかないことは多々あります。作物の植え付けを自分でやらせてもらうようになったときも、種が出るべきところから出てこなかったとか。だからといって、同じ場所に新たに植えても売り物にはならない。

植え付けから収穫までにタイムラグがあるので、失敗に気づいてもすぐには調整できないんですよね。一度起こした失敗は、自分の中の反省として強く残ってますよ。

ーー最初は、奥様のお父さんとご一緒にお米づくりのノウハウなど教えてもらいながらやっていたのですか?

本間:みなくるファームは4軒の農家が集まってできた農業法人です。なので、僕はお義父さんを含む4人の親方に農家の仕事を教えてもらいました。

本来農家は、一つのやり方を引き継いでいくスタイルが多いと思うんですが、僕は4軒それぞれのやり方を教えてもらえたので、すごくためになってると実感してます。

ーー親方が4人もいる、すごく良い環境だったんですね。
でも4軒の農家さんが一つにまとまるのも大変な気がします。みなくるファーム立ち上げの背景は聞かれてたりしますか?


本間:みなくるファームは、農業機械の不足問題とより効率化を求めるため、平成13年に4人の農家が集まって機械利用組合を設立したのが始まりと聞いています。その後、地域内で農地売却希望が高まり、それらの農地を受け入れるために「農事組合法人みなくるファーム」を設立したそうです。

集落営農という形で、周囲と連携して作業を進めるところは他にもたくさんあると思います。各々の目指すところが合わず、なかなか円満に営農するのは難しいみたいです。もちろん、うちも当初は大変だったはず。

親方たちは、みんなで意見を出し合っては集約して・・を繰り返して、前進していったんだと思います。親方たちが地域のリーダーシップをとってくれてたので、僕らもそれを継承して、羽幌地域のうまい米をみんなでつくっていけたらと思ってます。

適期適作、「品質」で国の食を守る

4人の親方から技術や思いを継承し、農家の道を歩み始めた本間さん。羽幌ならではの地形や気候に葛藤しながらも、品質にこだわったお米づくりを続けています。

本間:羽幌は品質の良いお米を毎年ずっと出しているんです。2017年のホクレン農業協同組合主催のゆめぴりかコンテストでは最高金賞を受賞しました。この品質をこれからも維持していきたいと思っています。

ーー品質を維持するために大事にしていることはありますか?

本間:僕個人では、「適期適作」を心がけてます。一番良い時期に確実に種をまいて、一番良い時期に収穫できるように仕事をすることですね。

米の生育期間は決まっています。その期間内で「いつ刈りとるのがベストか?」計画を立てて、田んぼをおこし、水を入れる下準備をする。基本に忠実に手を抜かず、しっかり下準備を整えることで植え付けのタイミングを見計らっています。

ーー気候変動にも合わせながら計画しているのでしょうか?

本間:雪が多い年なら少し早めに除雪もしなきゃいけない。虫が多い時期にかかるなら、防虫対策をしなきゃいけない。どこの農家さんも一緒だとは思うんですが、「当たり前を守ること」と「観察をしっかりすること」は心がけています。

ーー羽幌という土地ならではの、米づくりの難しさなどありますか?

本間:羽幌は、みなさんが食べる主食用のお米「うるち米」が育つ、北限の地。羽幌より北ではつくれないと言われています。

南の方に比べると圧倒的に不利ですよ。面積も狭いですし、寒い気候で、量が取れない。収穫量が少ないがゆえに、地域全体で「もっとこうしたい」という要望が叶わないこともあります。

それでも農家をやるのは、ここのお米が美味しいからなんですけどね。

ーーお話を聞いていて、ますます羽幌のお米、食べたくなりました。

本間:友達がうちのお米食べて「ご飯をおかずにご飯食べれますよね」って言ってくれるんですよね。僕にとっては一番のご褒美です。だから、来年も送れるように頑張ろうって思いますね。

こうして羽幌のお米が美味しいということがじわじわ広がっていったらいいなと。SNSで一気に拡散されるのではなく、「知る人ぞ知る、羽幌の美味しいお米」として広まってくれると嬉しいです。

ーーブームで広まるのではなく、この先長く続くためにもゆっくり広まってほしいですね。

本間:僕たち農家の仕事は、今後の未来も絶対になくなってはいけない仕事です。自衛隊の頃は「国を守る」と宣言してましたが、今は「国の食を守る」という覚悟でやってますよ。

喜びも、技術もみんなで分かち合う

羽幌に来て、理想のライフスタイルに近づいていますか?とうかがうと「間違いなく言えるのは、幸せだということ」と、笑って答えてくれた本間さん。地域の人口減少という課題を抱えながらも、“みんなが農業をしながら幸せになる未来”に向けて、アツく語ってくれました。

ーー現在抱えている課題などはありますか?

本間:どこの業種もそうですが、人手不足が課題になっています。今は地域に子どもたちが少ない。どうやったら解決できるのか、周りと話し合うこともあるんですけど、なかなかいい答えは出てこないですね。

農業だけで生計を立てるとなると、農地を買ったり、機械投資が必要。敷居が高いと思います。機械化やIT化が進んでいますが、人から人へ、継承し持続することが大事だと思うんです。

本間:僕は農業って、人間のライフサイクルの一環なんじゃないかなと思うんです。農家のおじいちゃん・おばあちゃんは引退しても、自分の好きな野菜は庭で作り続けます。今まで普通に会社員として働いていた人たちも、年をとって自分の時間に余裕ができたら「土いじり」に辿り着いたり。

「土を触って、ものをつくって、自分でとって食べる喜び」が、人の遺伝子に組み込まれてるんじゃないかな。現に僕は間違いなく農業ができて幸せ。

これからは地域全体で一緒に農業ができる方法など、具体的にどうすればいいか、模索中ではありますね。

ーーみなくるファームでは実際に担い手不足の問題があるんですか?

本間:ありがたいことに、うちには若い子たちが入ってきてくれています。いろんな繋がりで、農業とは関係ないところで会社を辞めて来る子もいます。巡り合わせですね。

ーー全く違う職種から来られる人もいるんですね。
ある意味本間さんが、別の職業から農家へ挑戦している姿を見せることで「自分もできるかもしれない」って思えますよね。


本間:そうだといいですね。僕ができてるんだから、「俺はもっとすごいことしてやろう」って思ってほしいくらいです。

自分の子どもたちにも「なりたい自分を想像できなければ、自分のなりたいものにはなれない」ってよく言うんですよ。自分が本当にやりたいと思うなら、一生懸命やればできる。やってみて駄目だったら、なんでできないのか考えればいいだけだと思ってます。

本間:母によく言われてたのが「美味しいものはみんなで食べなさい」という言葉。美味しいものも喜びも分かち合う。

今のご時世、コロナのこともあって、食べ物をシェアするって少なくなってきたじゃないですか。でも、こんなに美味しいものを自分だけでとどまらせるのはもったいない。「ほら、食べてごらん」っていう気持ちって大事だと思ってます。

仕事でも「こうやったら上手くできたよ」って、シェアできたらみんな幸せになる。美味しいものも技術もどんどん継承して、共有していきたいですね。

美味しい輪を少しずつ広げたい

「惚れた羽幌のお米を残すため」ーー当初の思いは、いつしか地域みんなで残したいという思いに変わってきています。本間さんがお米づくりを通して、これから描きたい未来についてうかがいます。

ーーお米を通じて、消費者の皆さんに届けたい思いはありますか?

本間:今少しずつパン食に時代が傾いていると思うんですが、もっとお米も食べてほしいなと思っています。忙しなく過ごす中で、食べる時間を節約するんじゃなくて、手間ひまかけて美味しいものを食べてほしい。

丹精込めたお米を届けることで、「美味しいものをいっぱい食べましょう」と、伝えたいです。

ーー今後の展望はありますか?

本間:まだまだ個人の展望なんですが、地域で乾燥施設をつくって、6次化を進めていきたいと思っています。今まで一戸ずつ手がけていた仕事をまとめてみんなでできたらいいなって。

もっと多くの人に食べてもらって、「羽幌ではこんなに品質の高い、美味しいお米をつくっているんだ!」と、知ってもらいたいですね。

本間:「美味しい」時間を増やせば、幸せの時間も増える。

「美味しいの輪が広がれば、幸せも広がっていく」そう思って、これからも美味しいお米をつくり続けます。

「一生懸命、やれば叶う」ーー惚れ込んだお米を残すためなら努力は惜しまない。優しい口調の裏側に、力強くアツい本間さんの思いを感じました。

「お米をおかずにお米が食べられる」というワードに、取材中想像するだけでお腹がなってしまいそうでした。
手間ひまかけてつくられる、みなくるファームのお米は、幸せな時間も一緒に届けてくれます。

会社情報

農業組合法人 みなくるファーム
〒078-4132
羽幌町字中央 2361 番地
TEL:0164-62-6511
FAX:0164-62-6511

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