takibi connect 編集部より【特別編】持続可能な炎の燃やし方
Takibi Connect 編集部より
文:高橋さやか 写真:髙橋洋平
地域で活躍する挑戦者と全国の応援者をつなぎたい。
takibi connectはその名の通り、アツい情熱を持った挑戦ストーリーが集まっています。
「takibi connect 編集部より」のページではこれまで、ふるさと納税に秘められたストーリーを届けるWEBメディアとして、編集部の思いを伝えてきました。
今回は特別編として「持続可能な炎の燃やし方」をテーマに、ニセコワイナリーとベジタブルワークス株式会社が挑む、地域での事業についてご紹介します。
ニセコワイナリーが広げる「よろこびの輪」
太陽の恵みをたっぷり受けたブドウが輝く9月初旬。ブドウ畑のかたわらで、オーナーの本間泰則さんにお話をうかがいました。2016年設立のニセコワイナリーが大切にしているのは「一緒に楽しみましょう」というスタンス。本間さん夫妻は地元の方やファンとともに、「ワインを育むよろこび」を共有しています。
8年前から取り組んでいるのが、小中高生を対象とした「探究プログラム」です。
本間:ニセコの近藤小学校とは年4回ご縁をいただき、総合学習の「探究プログラム」の一環として、ワイナリーを活用いただいています。プログラムのポイントは、子どもたちが理解して作業でき、成果を実際に味わえること。
子どもたちは虫取りや収穫など、実際に有機農法によるブドウ栽培を体験し、農作業の楽しさや達成感、自然に対する理解を深めています。10月の収穫では摘んだブドウをジュースにして、テイスティング。感想を自分の言葉で表現してもらいます。
さらに集大成として、子どもたちが発表会をおこなうんです。絵本やプレゼンテーション資料など、各々オリジナルのアプローチで発表してくれます。 生き生きとした子どもたちの姿に、「素晴らしい総合教育だ」という評価をいただいています。
ーーお話聞いているだけでこちらもワクワクします。
本間: もう1つ「ホームステイ苗木」という形で宿題を渡し、子どもたちに1年間苗木をそれぞれの家庭で栽培してもらいます。生育した苗木は、翌年また私が預かり定植し、20歳のお祝いにワインを造ってプレゼントする・・という取り組みです。
ーーとても素敵ですね。
本間:子どもたちの夢を一緒に共有している感じですね。
子どもはワインを飲めませんし、ワイン用のブドウを見る機会も、食べる機会もありません。どこか想像の世界にある「ワイン」を、子どもたちにとって少しでも身近な存在にしたいと活動しています。
ワイナリーの運営は基本的に私と妻の2人ですが、探求プログラム以外にも、子どもから大人まで幅広い世代の方がボランティアで応援に来てくれるのです。みなさんに楽しみを共有していただけるよう、心を砕いていますね。
小規模事業が継続していくには「どんなストーリーがあるか?」が大切だと語る本間さん。ホスピタリティ・インダストリー※ に取り組み、感謝の気持ちをどう表現するか?を大切にしています。
※ホスピタリティインダストリー(hospitality industry)とは、人と人との触れ合いを重視したサービス業全般を指す言葉
本間:実際に畑を見て醸造家の話を聞いて飲むワインは、味の感じ方が大きく変わります。人間の味覚は舌だけでなく、情報量によって広がるのです。
ワインの品質は大前提として、 「どんな思いで作っているのか」「どんな方法で作っているか」「どんな風に届けたいのか」を伝えることも大切です。
サポーターの方々には、 収穫体験など機会あるごとにご案内を出しているんですよ。
ニセコワイナリーのストーリーから他との違いを感じ取って、皆さんがサポート・リピートしてくださるのは、本当にありがたいと感じています。
奥深く終わりのない挑戦を
自然の影響を大きく受けるワイン造り。気候変動の影響に直面しながらも、本間さんは「解決する過程を楽しむ」とポジティブに向き合います。挑戦を恐れず、常に改善を重ねる本間さんの姿勢が、ニセコワイナリーの品質向上と成長の原動力となっています。
ーーここ数年の気温が上昇傾向にありますが、ワイン造りに影響はありますか?
本間: 気温の上昇は、全体としてワイン造りにプラスだと思います。ただ良い面と悪い面がありますね。良い面は気温の上昇によって、主力品種であるシャルドネとピノノワールの生育状態が向上したこと。
悪い面は野生鳥獣による被害です。2023年には高温化により、ムクドリの渡りのタイミングがずれたことが原因で、収穫の最終日に片っ端からぶどうの粒を食べられてしまいました。
もうひとつが冬の間に起こった、大量の野ネズミによる被害です。全体の2割にあたるブドウの樹皮をかじられてしまい、生育していた苗木を再びゼロから育てなければならない事態になりました。今後も毎年起こるのかは未知数ですが、新たな気候変動の脅威ですね。
本間:気象条件に大きく左右されますから、安定的な経営基盤を作ることと後継者問題についても深刻に捉えています。
ーー安定的な経営基盤の確立は、難しいですか?
本間: 2つの難しさがあります。1つ目はとにかく初期の設備資金が膨大にかかること。2つ目は、製造から販売までにタイムラグがあることです。
有機栽培のブドウで、シャンパーニュ地方の伝統的な製造法でスパークリングワインを製造し高級路線を目指すと、瓶詰め後の発酵・熟成に長い期間が必要です。ですからある程度の規模の生産量と資金力がないと、すぐには良いサイクルに入っていきません。
大変な生産工程ではありますが、確たる品質のワインを造っていれば、十分な価値を生める。それがニセコという巨大なマーケットで、オンリーワンでいるメリットだと、私は考えています。
自然の脅威と対峙しながらも、本間さんの栽培・醸造技術が向上し、「高品質でおいしいワイン」とお客様から評価されているという、ニセコワイナリー。事業の規模も徐々に拡大し、ブドウ畑は3箇所に。ワインの販路も広がっています。
ーー前回(2022年)の取材から2年が経ちました。その間にどんな変化がありましたか?
本間:品質の向上に加え規模も拡大して、大きな変化を経験しています。ありがたいことに生産が間に合わない状態。「醸造免許は取れないけれど、ワインを作りたい」という方からの依頼も舞い込むようになり、いわゆるOEMの受託も増えてきました。
もう1つ追い風になっているのは、酒類の輸出に政府が力を入れていることです。
基本的にワインは国際商品です。輸入品と国産品とが戦うマーケットの中で、どういう評価を得られるか?がカギ。
ニセコで収穫するブドウは、目標とするフランス・シャンパーニュの品質に、糖と酸の比率が毎年ぴったり合致するんです。「日本のシャンパーニュ」を目指し、スパークリングに特化したワイン造りに励んでいます。
ありがたいことに、シンガポールやアメリカの企業と商談が成立していますし、ニセコに訪れるインバウンドの方がフラッとワイナリーに訪れることも。その際は海外での駐在経験がワイナリー経営に役立っています。
本間さんはかつて、異業種からワイン業界に飛び込んできました。自身がワイナリー設立を目指した際、醸造の手解きを受けたのが、岩見沢にある10Rワイナリーのブルース・ガットラヴ氏。「ワイン造りは現場での経験を積まないと難しい世界」と言う本間さんの挑戦は、次世代の育成にも広がっています。
本間:2019年からニセコの若い世代とともに、7軒でワイン用のブドウを栽培しています。収穫できたブドウはうちの醸造所に持ち込み、私が手解きしながらワインを造っています。将来自分のワイナリーを持てるよう、いわば体験型のトレーニングですね。
将来的には集積したワイナリーが、夏のニセコを盛り上げる「ワインツーリズム」の一翼を担えたらと構想しています。 次の世代に継ぐプロジェクトとして、町も全面的に協力してくれていますしね。
ーーブドウ栽培とワインの醸造だけでも大きなエネルギーが必要ですが、さまざまなことに取り組む本間さんのバイタリティはどこから生まれるのでしょう?
本間:日々想像もつかないことの連続ですが、私は解決するステップを楽しんでいます。想定外があると、「よっしゃ」と楽しんじゃう。
ある時、学校のプログラムでやってきた高校生に聞かれたんです。「本間さんの生きがいって何でしょう?」って。
そこでね、私はまず「好きなことをして生きていられる」ということ。
それから「テーマが 奥深くて、終わりがないほど挑戦が続くこと」。
3番目に「自分のしていることが、地域と社会に役に立っていること」。
この3つが揃っているから、ワイナリー経営が楽しいんだよ、と答えました。
事業として持続していくのは大変ですし、複雑で面倒なことも毎日のしかかってきます。
そのたびに「どう楽しむか?」という気持ちで向き合っていますよ。
「スパークリングワインは、特別な日に華やかな気分になれるでしょう」と語っていた本間さん。発酵・熟成され生まれるスパークリングワインの気泡のように、沸き続ける本間さんの情熱が心に残りました。
続いてご紹介するのは、同じく羊蹄山の麓・真狩村で特別栽培農産物を生産するベジタブルワークス株式会社です。
“違い”から生まれるベジタブルワークスの強さ
国内でも有数の規模をほこりながら、アップサイクルや自社流通など常に挑戦を続け、新しい価値を生み出すベジタブルワークス株式会社。代表取締役の佐々木伸さんが模索する農業の新たな形と、その背景にある強い信念をうかがいました。
今回取材でうかがったのは加工場とオフィスが併設されたベジタブルワークスのラボ。北海道産の木材をふんだんに使った、モダンながらも温かみのある空間です。大きな窓からは、さつまいもを収穫するスタッフの姿が。畑の規模は2年間で100ヘクタールから150ヘクタールへと拡大し、スタッフは約100名と、会社の規模が大きくなったそうです。
ーーラボの構想はいつからあったのでしょうか?
佐々木:ラボの構想は10年ほど前からありました。
農作物を作ってると、畑や選別の段階で廃棄が出てきます。そういった「もったいない」をなんとかしたいと思っていたんです。
経営的なタイミングと補助金や金融機関の支援、そしてお客さんの応援によって、このラボを建てられました。
ーー加工自体はいつ頃から?
佐々木:加工にチャレンジしようと思ったのは6〜7年ほど前です。最初の商品は人参ジュース、次いでレトルトコーンを手がけました。小樽の㈱NSニッセイにお願いして、市場には出せないトウモロコシでサンプルを作り、テスト販売をはじめました。驚いたことに、生のトウモロコシよりもレトルトコーンの方が先に売れていったんです。
年を追うごとに規模が広がり、コープさっぽろからスタートして、成城石井や無印良品など徐々に販売先を増やしていきました。売れ行きが伸びる一方で、㈱NSニッセイへの委託分に限界が来ていたので、自社で作ろうと。
ーー委託先の限界が来たので加工を自社で担うようになったんですね。
佐々木:それもありますし、冷凍ブロッコリーや人参ジュース、真狩村の特産品であるゆり根など、さまざまな加工品を自社で手がけているので。近年はサツマイモ関連の製品やヌードル感覚で楽しめる切り干し大根など、ラインナップも増え、廃棄ロスの削減や価値の再生産につながっています。
お客さんの反応を見ながら、試行錯誤していますよ。
ーーお客さんの反応はどういったところで得るのでしょう?
佐々木:メールや手紙でいただく言葉に加え、僕がダイレクトに手応えを感じるのは、“僕たちが決めた値段”でお客さんが買ってくれること。価格に見合う製品をつくって、結果お客さんのニーズとマッチしていれば、必然的に需要は増えるはず・・というジャッジです。
例えば、干し芋って僕は食べづらいイメージがあったんですよね。それを1口サイズで食べやすくしたり。既存の製品もちょっとした工夫で、時代に合う形にアップデートできる。食べやすさや色、パッケージなんかは意識して作っていますね。
先人が構築したものを変わらずに続けるのは、時代に合わない部分も出てくる。変化するのが重要だと思っています。
嫌じゃないですか? みんなと同じって。
ーーおそらく大半の人が「みんなと同じが安心する」のかなと。佐々木さんのように、みんなと違う方向に向かうことで、新しい商品が生まれてくるのですね。
佐々木:みんなと同じ売り方をすると、みんなが敵になっちゃうじゃないですか。
北海道の農業は生産可能な時期が限られているので、生産量や販売時期が限定されます。だから工夫するしかない。特別なことをしてようやく、目立つし売れる。そして生産できる。
野菜って僕たち作り手にとっては作品に近いので、誰かの手に委ねたくはないんですよね。それが僕の考える農業にとって、1番重要な部分なんですよ。
ーー信念がないとできないことですよね。
佐々木:できないと思います。
何のために農業やってるのか?っていうと、僕は極論言うと自分のため。だからこそ、僕はお客さんの方を見て仕事したいんですよね。
もしかすると、「人と違う方がいい」という思考じゃなければ、変化する必要もないし、楽かもしれない。 変化ってエネルギーが必要だから、自ずと負荷がかかってきます。
それでも信念を持ってみずから選択肢を増やしていく方が、僕は良いと思うんです。
3つの自由を獲得し、スタッフとともに進化する
「農業を営むのは極論、自分のため」という佐々木さんですが、変化のきっかけにはスタッフや仲間の存在がありました。
佐々木:実は僕、農業があまり好きじゃなかったんですよ。
スノーボードして、実家で働いてを繰り返すうちに、面白くなっていった。さらにアルバイトを雇うようになって・・その子たちのために通年可能な農業へとシフトした結果、今があるんです。
冬に雇用期間の終了を告げた時に、泣いた子がいるんですよ。
「まだまだ仕事したい」って。
雇用環境を整えた結果、冬の農業収入も形になり始めて、運転資金も回るように。僕たちの野菜や加工品が、常にお店やお客さんへと届く状況になったんです。当初は迷いもありましたけどね。
「スタッフは道具じゃないし、一生懸命働く姿に情だって湧く」と語る佐々木さん。以前は日本人が中心だったスタッフは、現在6〜7割が海外の方だそう。
ーー言葉や文化の壁もある中で、仕事の方法や考え方はどうやって伝えていくのですか?
佐々木:日本語が話せる子に通訳してもらったり、身振り手振りで伝える方法もあります。あとは任せる。
運転の仕方や作業の時間配分なんかは教えますけど、あとは彼らのリズムで収穫すればいい。自分たちで試行錯誤するので、時々様子を見て修正すれば十分。それぞれのやり方がありますからね。
ーー任せつつ考え方を浸透させるのは難しいのでは。
佐々木:難しいですけど、 僕1人で全部はできないですから。どうしても任せる必要性が出てきます。
いい野菜を作ったとか、いいパフォーマンスをしたとか、面白い考えを持ってきたとか。僕の指示なしに結果を出した時は純粋にうれしいですし、素晴らしいスタッフに恵まれたなって感じますね。
農作物をつくる仲間も増えたと言う佐々木さん。ベジタブルワークスが築いてきたスケールメリットを活用し、ネットワークを広げています。
佐々木:ここ数年で農産物を作ってくれる仲間も増えました。積丹と洞爺にいるのですが、個人で野菜を販売しようとすると、輸送や顧客獲得の大変さがあります。そこで輸送トラックや販路を活用して、一緒に野菜を届けています。
ーー広がりを感じる展開ですね。さまざまなチャレンジをつづけていますが、今後に向けて構想していることはありますか?
佐々木:農業の選択肢を増やすこと。
僕たちがその選択肢のひとつになれたらと思っています。
羊蹄山の麓に広がる、真狩のおだやかな景色を維持するには、農業が必要です。
その一方で、農業ってギャンブルに近いと僕は思っています。天候にも左右されるし、多角的な視点を持って経営しないと、解決できない事柄がたくさんあります。
僕が目指すのは、ゆるやかに右肩上がりな農業経営。新しいものを見つけて、取り入れていくことが、結果的に事業を継続させる手段にもなるんじゃないかな。
加えて、今や農業人材として欠かせない特定技能外国人と受け入れる地域が、お互いにフィットする環境が必要だと考えています。分断された状態では農業自体の継続も危ういですし、共倒れになる可能性が高いと、危機感をつのらせています。
ーーひと筋縄ではいかないことが山積みですが、佐々木さんはどうして信念を持ってつづけられるのでしょう。
佐々木:好きだから。そしていろいろな選択肢がある中で、自分たちが“選べる”ポジションでありたい。 そのためには自由が必要です。
自由を獲得するのはしんどかったし、正直今もしんどいですけどね。
インフラ的な自由・金銭的な自由・生産的な自由。
ーーその3つを確保しなきゃいけない時代になってきてる気がします。
「北海道の食材や環境は守っていかなきゃいけない。でも言葉だけでは何も始まらない」と語っていた佐々木さん。アツい思いに、心に火が灯るような取材となりました。
アプローチは異なりながらも、本間さんと佐々木さんに共通していたのは「人と地域と関わりながら事業を営むこと」、そして挑戦をいとわず進化する姿でした。
takibi connectはこれからも地域で活躍する挑戦者の姿を届けていきます。
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