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宝の水が育む土地で。雪が叶える宝水ワインという贈りもの|宝水ワイナリー

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宝の水が育む土地で。雪が叶える宝水ワインという贈りもの|宝水ワイナリー

岩見沢市事業者の想い

文:浅利遥 写真:斉藤玲子

日本各地で近年増加傾向にあるワイナリー。美味しいワインの原点を探る旅は、ここ北海道でも体感できます。ワイナリーを訪ねて感じる喜びは、葡萄栽培やワイン造りのことだけでなく、その土地の風土や歴史、人々の想いに触れられること。
今回訪れたワイナリーは、道内でも積雪量が特に多いことで知られる岩見沢市の宝水町にあります。雪国に住む人々にとっては厄介な雪。けれど「ワインにとって雪は宝物」だと、宝水ワイナリー代表の倉内武美さんは語ります。

レース編み作家さんが作ったRICCAの雪の結晶はラベルに使われている
レース編み作家さんが作ったRICCAの雪の結晶はラベルに使われている

豪雪地帯ならではのワイン造り。雪は天からの手紙、ワインは雪の贈り物。

昨年、岩見沢市では12月の観測史上最多となる積雪量を記録し、大雪の影響で学校は臨時休校になるなど、市民にとって雪は生活する上で困りの種となっていました。有数の豪雪地帯でワイン造りをする宝水ワイナリーですが、雪は特別な存在だそう。

“Snow, the letter from the sky. Wine, the gifts from the snow” ーー雪は天からの手紙、ワインは雪の贈り物。倉内さんからいただいた名刺には、こんな言葉が記されています。その背景にはどんな想いが込められているのでしょうか。

ーーいただいた名刺には「ワインは雪の贈り物」と書かれていますね?

倉内
:そうですね。雪の中って実は暖かいんです。葡萄の樹が雪の上に出てしまうと、凍害で枯れてしまいます。雪の中で葡萄の樹が守られているということで、雪は宝物。

宝水ワイナリーのシンボルマークは雪の結晶です。自家栽培の葡萄で造る「RICCA」シリーズも、雪をあらわす「六花」という言葉が由来となっています。雪国に住む人々にとって、雪は邪魔者に思うかもしれないけど、私からすれば雪は宝物なんです。

ーー雪との関係がとても深いのですね。宝水ワイナリーのワイン造りには、どんな特徴があるのでしょう?

倉内
:葡萄栽培から、一連の流れを全てやっているというところは、ワイナリーのコンセプトになっています。春の苗植えからはじまって、葡萄の管理をして育て、採れた葡萄を工場で搾汁してワインに。過去に、「葡萄栽培とワイン造りは切り離して考えた方が良いんじゃないか」と言われたこともあるんですが。皆で手をかけて、瓶詰めをして、販売していくことを大切にしているので、切り離すことはできない。

全て自分たちの手でつくるということは、自ずと良いものを作らなければならない。そこに責任と誇りをもってワイン造りをつづけています。

偶然をきっかけに始まった葡萄栽培とワイナリー設立

倉内さんは祖父の時代からつづく農家の3代目。もともと、米や麦などの作物を育てていたこともあり、小さい頃から畑に関心をもっていたそうです。「でも、まさか自分がワイナリーを始めるとは思ってもいなかった」と遠くを見つめ、笑みを浮かべながら倉内さんは語ります。ワイナリー設立に至るまでの道のりを伺いました。

ーー米農家だったところから、葡萄栽培をはじめワイナリー設立に至ったきっかけはなんだったのでしょう?

倉内
:はじまりは1980年代のこと。北海道ワインと一緒に葡萄を栽培していた友人が、この農業地区におって。うちの農場では、ちょうど麦畑の連作障害があってね。「葡萄を一緒に植えてみるか」と声をかけられ、友人と葡萄栽培を始めました。

葡萄畑を試験的に増やしていって、最終的に1ヘクタールまで面積を増やしました。当時、北海道ワインの嶌村社長から「葡萄の実がなったら、取り扱ってくれる」という話があったので、栽培した葡萄は、道内のワイナリーへ供給していました。

そしてある日のこと、当時の岩見沢の能勢市長がここを偶然通りかかってね。9月の稲刈り前、畑にいたらピカピカの車が、ほこりを立てて農道を入ってきた。トラクターの上から覗いて見たら、車から降りてきたのは市長でした。以前から市長とは面識があったんですけどね、「倉内、あれ何よ?」と。車から葡萄の垣根が綺麗に見えて感動したと。「北海道ワインに葡萄を出している」と伝えたら、「岩見沢でもワイン産業をはじめたらどうか」という構想が持ち上がりました。

岩見沢市としても、農産物に付加価値をつけられるワイン産業を、農業都市のなかで作れないかと政策を編んでいったんですね。沢山の学びと交流をへて、2002年に岩見沢市の補助事業として地域の農家で「岩見沢市特産ぶどう振興組合」が誕生。その後、2004年には皆で出資した宝水ワイナリーが設立されました。

ーー「宝水ワイナリー」と名付けられたのは町名が由来しているのでしょうか?

倉内
:遥か昔のことですが、宝水ワイナリーが佇むこの地は海底だったんです。海底が隆起して粘土質の泥炭地になったので、水質が悪かったそうでね。水質をよくするために、宝池というダムがつくられました。当時は野の沢という地名でしたが、昭和37年の地番改正のさいに、「宝池の中には綺麗な水がある」ということで、宝水という町名になったんです。
宝の水があるこの地で風土を生かしたワイン造りをしていこう、という想いをこめて、「宝水ワイナリー」と名付けたというわけです。

ーー「宝水ワイナリー」として歩みはじめて、約30年の間苦労されたこともあったのでは?

倉内
:いっちばん酷い目にあったのは、忘れもしない2008年5月10日と11日だね...。気温がマイナス6~7度まで下がって、葡萄の芽が霜でやられちゃって。その中から守ることのできた葡萄で、ワインを120本だけ作りました。当時はとても飲めたものじゃなかったのでね、寝かせておいたんです。

その数年後、知り合いのソムリエから「札幌パークホテルでシェフのワイン試飲会があるから出してみないかい?」と声をかけてもらって。そこに120本だけできたケルナーを出したんです。すると、シェフのみなさんから高い評価をいただきました。その場で箱ごと注文してくれる方もいて、完売した時は嬉しかったですね。

葡萄栽培は自然との戦い。当初はワインを6万本出荷できる設備を整えたんですが、これまでに生産できた最高本数は、4万5千本です。気候変動の影響もあって、なかなか本数が確保できないところは、お客様に申し訳ないですね。

ワイン造りを通じて出会えた人々との繋がりが支えになった

2002年から葡萄栽培をはじめ、試行錯誤を繰り返しながら、幾度の苦難を乗り越えてきた宝水ワイナリー。心の支えになっていたのは、ワイナリーを続けていたからこそ巡ってきた縁や、ワイン造りを通じてつながった人々からのあたたかい声でした。

ーーこちらにポスターやサインがありますが、映画「ぶどうのなみだ(2014)」のロケ地になったのですよね。

倉内
:過去に、全国放送のバラエティ番組などにも取り上げて頂きましたが、映画「ぶどうのなみだ」の撮影地になったことは反響が大きかったですね。海外からもお客さんが来てくれるようになりました。

映画「ぶどうのなみだ」の撮影地となったワイナリーの一角
映画「ぶどうのなみだ」の撮影地となったワイナリーの一角

驚いたのが、映画を観たという女性が宮崎県から自家用車で来て下さったこと。2年後に、友達を連れて再訪して下さった時は、感動しましたね。

神奈川県から来たご夫婦は、フェリーの中で偶然「ぶどうのなみだ」が放映されていたのを見たそうで。富良野へラベンダーを見に行く途中に、映画で出てきた建物が見えたというんで、立ち寄って下さったんですね。そうやって、お客様から聞くエピソードに驚きとともに嬉しさを感じています。
いつ潰れてもおかしくなかったワイナリーでしたけど、皆さんのおかげでここまで来れたのだと思っています。

ーー映画の撮影以降も、北海道ではワイナリーやヴィンヤードが続々と増えていますよね。

倉内
:そうですね。特にこの空知地区では、ワイナリーやヴィンヤードが増えています。以前は、南空知のワイン勉強会をうちで開いたり、今は月に一回、オンラインで醸造家が講師をしながら植え方や管理方法を教えています。そして、ワイナリーを立ち上げている方の中にも、自社で委託醸造をして勉強しにきています。
ライバルでもあり仲間でもある。こういった繋がりのおかげで、少しづつ輪が広がっているなと感じています。

味を守ることへの揺るぎない挑み

人々との繋がりが支えとなり、歩を進めてきた倉内さん。これから目指す宝水ワイナリーのかたちについて伺いました。

ーー倉内さんはワイン造りにたずさわる中で、どんな時に喜びを感じますか?

倉内
:米農家だった頃も、個人販売で注文を受けて配達していたんですけどね。良い米を作らないとお客さんは買ってくれない。「納屋から出る米は、まちから買う米とは全然違うよね」ってお客さんから言ってもらえるのは、私たちにとっても本当に嬉しいこと。それと同じように、畑で採れた葡萄でワイン造りをして皆さんにお届けできるのは、喜ばしいことですね。

とはいえ、今は葡萄の生産量が足りてないので、余市から仕入れて造っているシリーズもあるのでね。いずれはこの畑で栽培し収穫した葡萄だけでやっていきたい、という思いはあります。

ーー葡萄栽培からワイン作りの一連の流れを全てやっているという、ワイナリーのコンセプトを大切にしていくイメージですね。

倉内
:これ以上面積を増やさないのか、と言われることもあるんですが。増やすどころか、まずはこの9ヘクタールの畑をしっかりと整備して、収穫できる葡萄をいかに増やしていくか、ということに、真摯に取り組んでいきたいと思っています。そして、自社農園の葡萄から築かれたRICCAシリーズの味をこれから先も守り続けて、次の世代にも紡いでいきたい。

はじめた頃は「自分らでやるだけやって、誰もやらなかったらやめようや」と、妻と話していたんです。昔はよく、「3代目でかまどかやす」なんて言われてたもんでね。笑
ありがたいことに、3人息子の次男坊が4代目として後を継ぐと言ってくれて、孫が5代目になってくれそうです。なんとしても潰さずに、宝の水は守っていかなければという想いでつないでいきたいですね。

今回の取材を経て、筆者は「挑むこと」について考えさせられました。何かに挑むことは必ずしも拡げることだけではなく、これまでに積み重ねてきた時と人々の想いを胸に何かを守り続けることもまた挑みなのでしょう。宝水ワイナリーの挑戦は、RICCAという雪からの贈りものを守ることで新たな物語へ紡がれていきます。

取材後、倉内代表がおすすめして下さった、宝水ワイナリーを代表するRICCAスパークリング2019をいただきました。ラベル上に輝く雪の結晶は身体へと染み渡り、上品な酸味と果実の香りが。「これが、雪の贈りものか」と思わせる味わい深さでした。
岩見沢市ふるさと納税では宝水ワイナリーで手掛けたワインが味わえます。「ワインの味を確かめてもらって、一度この葡萄畑を見に足を運んでいただければ幸いですし、いらして下さった際には畑を案内させていただきます。」と倉内さんからふるさと納税の寄付者に向けてメッセージをいただきました。宝水ワイナリーが守り続けていく「雪の贈りもの」を、目で舌で感じてみてはいかがでしょう。

会社情報

【株式会社 宝水ワイナリー】
北海道岩見沢市宝水町364-3
電話 0126-20-1810
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