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感性を研ぎ澄ませて届ける一粒一粒に込めた徳光珈琲の情熱

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感性を研ぎ澄ませて届ける
一粒一粒に込めた徳光珈琲の情熱

石狩市事業者の想い

文:本間幸乃 取材/編集:高橋さやか 写真:斉藤玲子

あなたは、どんな時にコーヒーを飲みますか?
朝目覚めの一杯。「よし!」と気合いを入れたい時。ほっと一息つきたい時。夜の読書のお供に。誰かとの語らいの時間に。

私たちの暮らしに溶け込むコーヒー。「より良質なものを暮らしへ届けたい」という想いで、日々焙煎を続けるのは、徳光珈琲代表の徳光康宏さんです。こだわりは産地直送の新鮮な豆。日本を代表する珈琲店で学んだ、確かな技術と知識で一粒一粒に目を通しています。一杯のコーヒーに込められた、覚悟と挑戦のストーリーを伺いました。

川上から河口まで。世界の産地を巡る理由

北海道最長の川、石狩川。日本海へ注ぐ河口からほど近い住宅街に本店を構える、徳光珈琲本店。石狩から札幌へと店舗を拡大し、全国にファンをもつ自家焙煎の珈琲店です。

2005年のオープンから変わらないのは「自分の目で見たものを届ける」こと。各店舗には徳光さんが現地で選び、焙煎したコーヒー豆がショーケースに並びます。まずはこだわりの豆について、たずねました。

ーー「これが徳光珈琲だ」という特徴はなんでしょうか。

徳光
:大きな特徴は、産地から直接豆を仕入れていること。まだ売り上げの立たない2006年2月から、毎年世界14カ国を巡っています。南米、中米、アフリカ、アジア。レストランのシェフが畑や海に行くのと同じように、素材をしっかり見定めることを大切にしています。外部からの情報だけに頼らず、良いつくり手、環境を見極めて、パートナーシップをつくっていく。そういうことをしていかないと、継続的に良いものって得られないんですよね。

徳光:あとは、豆の状態からカップまで、一連の流れをしっかり自分の目の届く範囲で行うこと。最近は浅煎りで酸味のある、非常にフルーティーなものがトレンドです。でも僕はトレンドは知るけど、追わない。

コーヒーの良いところって、様々な味わいがあるところなんですよ。透明感があって、ほのかに感じるフルーティーな味わいのもの。キャラメルやナッツのような、少しコクを感じさせるもの。チョコレートのようなカカオの風味もそう。それらが複合的に感じられ、口に含んだ時にスーッと入っていって、飲んだ瞬間に「いやぁ、美味しいね」と思ってもらえるコーヒーを常に出し続けること。当たり前のことなんですけど、コンセプトとして徹底してやっています。

焙煎したコーヒー豆は、ふるいにかけられ目視で選別。ゴミや形の悪いものを丁寧に取り除いていく。「うちのコーヒーは豆面がきれいなんですよ」と、徳光さん
焙煎したコーヒー豆は、ふるいにかけられ目視で選別。ゴミや形の悪いものを丁寧に取り除いていく。「うちのコーヒーは豆面がきれいなんですよ」と、徳光さん

運命の一冊を地図にして

「上っ面の情報じゃなくて、足を運ぶことが大事」と熱をこめて語る徳光さん。自分の感覚を大切にするスタイルは、学生時代から片鱗を見せはじめていました。
その原点は、一冊の本。情熱を注ぐきっかけになった出来事について、伺いました。

ーーいつ頃からこの道に進もうと思ったのですか?

徳光
:小さい頃からなんとなくコーヒーに接する機会が多くて、高校生の頃には今でいうカフェ、当時の喫茶店に通っていました。そういう昭和なスタイルがいいなと思って。
浪人時代に札幌の「アンセーニュ・ダングル」というお店でアルバイトを始めました。今はなきコーヒー専門店。そこが今の入り口かな。

次第に焙煎にも興味が湧いてきて。「アンセーニュ・ダングル」では焙煎をやっていなかったので、自分で豆を仕入れていました。大学4年の時に、以前から「美味しいな」と思っていた、札幌にある自家焙煎の老舗珈琲店「Cafe RANBAN」で求人が出て、1年だけ働かせてもらいました。

徳光:それと、1990年に柴田書店が出した全国のロースターが載っている本があったんですね。結構衝撃的な本で。その本を買って読んで。バイト代が溜まったら、チェックしたお店を全国津々浦々、巡っていました。

ーーそれは、なかなかマニアックな本ですね。実際何箇所くらい行かれたんでしょうか。

徳光
:30箇所以上行ったと思います。各地をめぐった中に、後に僕が働くことになる「堀口珈琲」もありました。当時はまだ、スペシャルティコーヒー※の市場は動いていなかった時代。そんな中「堀口珈琲」は先駆的で、「良質な豆を仕入れるためにはどうしたら良いか」をずっと模索していたお店でした。

その時にはまさか、自分がのちに働くとは思っていなかったんですけどね。その本がきっかけで全国を巡るうちに、「自分でローストした豆を売る店を出したいな」とイメージを膨らませていました。

ーー本を買っても「いつか行ってみたいな」と、思うだけで終わる人もたくさんいると思います。そこまで徳光さんを突き動かしたものは、何だったのでしょうか。

徳光
:やっぱりコーヒーが好きだった、というのが根っこにあったと思います。あと、コーヒーの面白さは「正解が一つじゃない」ところ。色んなスタイルの店があって、色んな味のコーヒーがある。そんな中で自分のスタイル、味を出せる仕事っていいなぁと思っていました。お店の設えだったり、カップだったり。そういう一つひとつを見ることが勉強になったし、吸収する要素になっていましたね。

出会いは掴んで必然にする

老舗珈琲店での経験と、ロースター巡りからの刺激を受けながらも、大学卒業後はサラリーマンをやっていたという徳光さん。しかしコーヒーへの情熱は、消えることはありませんでした。7年後、転機が訪れます。

ーー先ほどのお話に出てきた『堀口珈琲』で働くことになったのは、どのような経緯だったのでしょうか。

徳光
:サラリーマン時代、東京へ異動になって都内を営業で回ってく中で、今まで巡ったお店の点が線でつながっていきました。「あの時行った店はここだったんだ」って。そんな流れで当時「堀口珈琲」がやっていたコーヒー教室に参加していたら、なんとなく求人の匂いがして。店長に「ひょっとして人探してませんか」って聞いて面接、採用してもらいました。それが3月2日で、翌4月1日から働かせてもらいました。

ーー7年働いた会社から1ヶ月で転職! 凄い決断力です。迷いはなかったんでしょうか。

徳光
:一切なかったですね。タイミングを逃すと、働くのが難しいことは、経験から知っていたので。「これは行くしかないな」と思いました。

ーー実際に働いてみてどうでしたか。

徳光
:ちょうどスペシャルティコーヒーが動き出したタイミングに入社したので、業態の幅広いところを一通りやらせてもらいました。
当時は独立志向の高い人間が集まっていて。ほぼ皆独立して、今も続けています。僕も面接の時に「3年後に北海道で店を出す」と宣言して、本当に3年後の3月31日で辞めました。創業者の堀口さんには怒られましたけど。苦笑

ーー堀口珈琲を辞めてから、すぐにお店を開いたんですか?

徳光
:いえ、5月に北海道へ戻って半年ほど準備をしていました。その間小樽の忍路にあるパン屋「Aigues Vives(エグ・ヴィヴ)」さんの庭で、コーヒー販売をさせてもらいました。実はオーナーと僕は「Cafe RANBAN」時代につながりがあって。彼が先に開業していたので、お願いしてみたところ、「徳光くんだったらいいよ」と言ってくれて。

「Aigues Vives(エグ・ヴィヴ)」は「わざわざ求めてくる」場所にあるお店。そこに徳光珈琲との共通点を見出して、どんな人が惹かれてくるのかを知ることが出来ました。
僕がお店をオープンしたら、当時のお客様が来てくれて、今でも通ってくださる方もいるほど。いやー、嬉しかったですね。

「いかに求めている人に刺さるか」というのは、商売をしていく上ですごく大事なこと。彼のところでの経験は、大きな収穫でした。

99.9%が反対した 大通店という大きなチャレンジ

常にアンテナを張り、「欲しい人の元へ届ける」工夫を続けてきた徳光さん。その結果オープンから4年目で札幌円山へ進出。翌年に札幌中心部、大通へ。順風満帆に見えた展開ですが、徳光さんにとっては大きな挑戦だったといいます。

ーー大通ビッセという、札幌のど真ん中にある商業施設へ出店された時は、ただただ「すごいな」と感じました。

徳光
:かなりのチャレンジでしたね。我々の規模であそこに店を出す人は、まずいなんじゃないかな。結構な人に相談しましたけど、100%近く「やめろ」って言われました。苦笑 
本当にその中の一人くらいでしたね。「やれるならやれ」って言ってくれた人は。

ーーそんな中でやろうと決意したのは、どうしてなんでしょう。

徳光
:チャンスを逃したくなかった、というのが一つ。中心部でしか得られないことがあるからです。石狩の店舗はわざわざ探してくるお店。円山は1階なんですけど、路面店ではないんです。便利なんだけど、あそこも探してくるお店。大通は違うんですよね。たまたま通りかかった人が入れるお店。それぞれ、微妙に目的意識の違う人たちがきてくれます。

あとは、札幌の中心部だと海外や全国からのお客さんに出会えます。そこからネット販売に繋ったり。豆の卸先も増えましたし、色んな意味で相乗効果がありました。

決断する時は悩みましたけど、「失敗する」イメージがあまりなかったので、「動かせるなら動かそう」と今までやってきました。ただ15年経った今は、辞める勇気も大切なのかな、とも思っています。コロナの影響もあり、色々考えさせられる1年半ですね。

故郷のシンボルとして

オープンから15年間。自分のイメージやアイディアを信じ進んできた、徳光さん。この先どんな未来図を描いているのでしょうか。

ーー今後コーヒーを通じてやっていきたいことは、何かありますか。

徳光
:「良質なコーヒー」というものを伝える仕事は、これからも続けていきたいですね。これから再開するコーヒー教室もその1つ。

あとは、ここ石狩に、複合的な雇用の創出ができる、ロースタリーカフェがつくれたらいいなと思っています。例えば、朝は60歳以上の方たち、午後は子育て世代、夜は夜でまた別の世代、それぞれにフィットした活躍ができる場をつくれたらと。
毎週マルシェを開催したり、「あそこに行けば何かある」という、色んな可能性を秘めたまちのシンボル的なお店をつくれたらなと。

サラリーマン時代、石狩に帰ってくるたびに、どんどんまちが寂しくなっていくのを見て「何かできないかな」という思いから、石狩で徳光珈琲をはじめました。

いつになるかは、分からないですけど、ここ石狩で、また新しい何かをつくれたらなと思っています。

「アイディアはふっと降りてくる」と語っていた徳光さん。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚という、人間の持つ五感をフル回転して使っているからこそ、繊細で複雑な味と、新鮮なアイディアが生まれるのかも知れません。

遠い海からやってくるコーヒー豆の旅と、雄大な石狩川の流れ。
豊かな自然から生まれた、暮らしの質をワンランク上げるコーヒー。一杯のカップに込められた、こだわりの味をぜひ体感してみてはいかがでしょうか。

店舗情報

【石狩店】
〒061-3202 石狩市花川南2条3丁目185番地
TEL: 0133-62-8030 | FAX: 0133-73-3113
営業時間: 10:00-18:00(L.O./17:30) 定休日: 毎週火・水曜日

【円山店】
〒064-0820 札幌市中央区大通西25丁目1-2 ハートランド円山ビル1F
TEL/FAX: 011-699-6278 営業時間: 10:00-19:00(L.O./18:30)
定休日: 年中無休(年末年始のみ休み)

【大通店】
〒060-0042 札幌市中央区大通西3丁目大通ビッセ2F
TEL/FAX: 011-281-1100 営業時間: 11:00-20:00(L.O./19:30)

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