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漁師に甘えびを獲る喜びを。蝦名漁業部が守る羽幌の活気

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漁師に甘えびを獲る喜びを。蝦名漁業部が守る羽幌の活気

羽幌町事業者の想い

文:三川璃子 写真:原田啓介

全国甘えび漁獲量の7割を北海道が占め、その中でも水揚げ量トップクラスを誇る羽幌町。それを支えているのは、羽幌の漁師です。漁師たちが毎日約20時間もの間海の上に立ち、水揚げされた甘えびが食卓に届くのです。

そんな過酷な働き場に出る漁師たちに「甘えびを獲る喜びを感じてほしい」との想いで、甘えびの第6次産業化に取り組む蝦名漁業部。羽幌の活気を守るため、家族のために奮闘し続ける蝦名さんにお話を伺いました。

漁師たちがつくる、羽幌町の知られざる「活気」

蝦名漁業部は2015年に甘えびの加工品作りからスタートし、2017年には甘えびファクトリーをオープン。店内には、甘えびの酒蒸し、パスタソースやラスクなど幅広い楽しみ方ができる甘えびの加工品が並んでいます。

甘えび漁師の奥さんでもある蝦名さんは、どのような想いで事業を立ち上げたのでしょうか。蝦名さんと羽幌町との関わりから、立ち上げのきっかけを伺いました。

ーー蝦名さんのご出身は羽幌町ですか?

蝦名
:出身は羽幌です。高校卒業と同時に札幌に就職が決まり、地元を離れました。当時は、田舎から出たいという気持ちが強かったですね。

札幌での生活に疲れた頃、ちょっと休もうと羽幌に戻ってきて。その後、羽幌で漁師をしている今の旦那に出会い、結婚を機にここに腰を据えることになりました。

ーー札幌から戻ってきて、羽幌の町の変化などは感じましたか?

蝦名
:変化というか、それまで知らかった羽幌の一面に出会いました。えび籠漁師の妻になると、漁で使うロープやえびの出荷の準備を手伝うんですよね。漁の手伝いで港に行った時「羽幌の活気」を初めて見て、本当に驚きました。

早朝2時頃まだ静かな時間、港に明かりが付きます。ちょうどこの時間から漁が始まるんです。沖に行って、港に戻って、大量のえびを出荷して、の繰り返し。今まで自分の町には何もないと思ってたけど、漁師たちの覇気のある力強い仕事振りに「この町にもこんな活気があったんだ」と、とても感動しました。あの瞬間は、今でも忘れられません。

漁船の様子(写真提供:蝦名漁業部)
漁船の様子(写真提供:蝦名漁業部)

ーーそんな活気のある港や漁師たちの姿を見て、なぜ生鮮品ではなく加工品をつくろうという想いに至ったのでしょうか?

蝦名
:結婚して19年、漁に関わって本当に色々なことがありました。えびが獲れすぎると価格が安くなって、燃料代が上がってもえびの価格は上がらない。出荷する金額がどんどん変わり、ほぼ悪い状況が多かったですね。

「環境によってえびの価値が左右される」
漁師たちの努力で価格が変わるわけじゃなく、周りの環境に振り回されることにやるせなさを感じました。

ーーそんなに状況が変動するんですね…それでは毎月の収入もバラバラになってしまいますよね。

蝦名
:そうですね。元々漁師は高校卒業してすぐでも、高い収入を得られるような仕事でした。それが今はさらに変動が大きく厳しい状況。うちの船にも若い乗組員がいて、子どもがいる夫婦もいます。みんなの給料を計算する時に「今月もこれしか渡せないのか」と思う時もありました。

「彼らが漁師になって良かったと感じていることって何だろう?」と、何かできることはないか、考えるようになって。漁に出ない「私」ができることを考え、「羽幌のえびが美味しい」というのをより多くの人、もっと遠くにいる人たちにも届ける役になろうと思ったんです。

「羽幌=えび=美味しい」というブランドを立てるだけで、価値も上がるし、浜値も上がります。結果的に給料をあげる手助けもできると思いました。でもそれだけではなくて、漁師たちにもっと「美味しいえびを獲ってきていること」を感じて欲しくて。

羽幌の甘えびを楽しみに待っている人たちがいる。それを知るだけで、沖に出る楽しみや沖に行く気持ちが変わると思うんです。家族である漁師たちに、沖に行く「意味」を付与してあげたいと思ったのがきっかけですね。

家族を支え、家族に支えられながら続けた6次産業化への歩み

羽幌の甘えびの価値を上げ、漁師が沖に出る楽しみをつくりたい。全国に幅広く羽幌の甘えびを知ってもらうため動き出した蝦名さんですが、立ち上げ当初、周りの反応は想像以上に冷ややかなものでした。

ーー漁師の力になりたいという想いで加工品をつくり始めた時、周りの方の反応はどうでしたか?

蝦名
:いや〜それはもう冷ややかでしたね。甘えびは漁師たちがいつもタダで食べているものだから、「加工して高い値段で売れるわけない」って言われていました。「生きてるやつ食べれるから美味いんだ」って。

確かに羽幌に来て、生きたままのえびや海鮮を食べるのが1番美味しい。でも簡単には来てもらえない。だから私は、どこにいてもこの羽幌甘えびの美味しさを届けられるように、誰もが同じ味を楽しめる商品をつくろうって思ったんです。

そういう想いで始めましたけど、周りには全然伝わらなかったですね。頑張って、徐々に売れ始めた頃、嬉しいことにテレビにも取材してもらいました。ですが、周りは商品化や流通の過程でお金がかかっていることを知らないので、「その値段で売っているの?」と非難されることも。「周りに何言われてもやってやろう」と思ってましたけど、正直辛くて、泣くこともありましたよ。

ーーそんな厳しい意見もあったのですね、私だったらそこで諦めてしまいそうです…。辛い状況の中でも蝦名さんがここまで続けられたのはなぜでしょう?

蝦名
:この事業を始める前に、家族と乗組員に伝えたんです。「迷惑がかかるかもしれないけど、みんながえびを獲ってきてよかったって思えるように、何年かかるか分からないけど そのためにやりたい」 って。

「現状でも十分かもしれないけどみんなにどう思う?」って聞くと、「やってほしい」と言ってくれました。旦那も「一緒にやろう」と言ってくれて、覚悟ができました。私にとって乗組員もみんな家族。その家族がやってほしいと言ってくれるなら、思い切りやろうとスタートしました。

この事業を通して、絶対家族みんなに幸せになってもらいたいと思ってて。その想いは、今でも本当に強く持ち続けています。それでも、くじけそうになる時もやっぱりありました。そんな時、旦那が「関係ない人の言うことは聞かなくてもいい」と支えてくれて。そこから私も「漁師のためにやっていればいい」と気持ちを切り替えて、何か言う人がいても、気にしなくなりましたね。

事業がだんだんと広がって認められてくると、徐々に周りの人の見方も変わってきました。漁業青年部の集まりで、事業報告をすると、「6次化は悪いことではないんだ」という反応に。事業を始めて最初の4年間は本当にとても苦戦しましたが、流れも大きく変わりました。諦めずに続けてこれて良かったです。

甘えび漁師が美味しいと感じるものを届けたい

ーー蝦名さんが商品にこだわっている点は何ですか?

蝦名
:「漁師飯」と「漁師が本当に美味しいと思うもの」を軸に作っています。

まず最初に作り始めたのが「甘えびの酒蒸し」。酒蒸しは蝦名家の漁師飯です。うちでは朝獲ってきた新鮮なえびでつくる酒蒸しが、毎朝食卓に並びます。酒蒸しは冷凍しても味が変わらないので、まずはこれでいこうと、商品開発が始まりました。

試行錯誤の末に商品化した酒蒸し。女性が手に取りたくなるような、かわいくておしゃれなパッケージにもこだわったそう。「かわいいから始まって、え?漁師が作ってるの、というギャップを狙いました」と蝦名さん。
試行錯誤の末に商品化した酒蒸し。女性が手に取りたくなるような、かわいくておしゃれなパッケージにもこだわったそう。「かわいいから始まって、え?漁師が作ってるの、というギャップを狙いました」と蝦名さん。

正直、商品開発なんて今まで全くしたことがなかったので、とても大変でした。

酒蒸しの材料は、甘えびとお酒と塩のたった3つ。ですが、お酒のチョイスや配合、塩の量などを変えて試作の繰り返しです。家庭料理とちがって、商品として「みんなが美味しい」と思えるものを作るとなると難しくて。

納得のいく商品になるまで、すごい量のえびを食べました。ほんっとにすごい量です。かなり凝り性だったので、なんでワインじゃダメなんだろう?なんで日本酒がいいんだろう?とか、いろいろ考えながらやりましたね。一口目で「美味しい」と感じて、食べ飽きない味。

試行錯誤を繰り返して、最終的には私の美味しいは、漁師の美味しいにつながる。1番の美味しいは、私の美味しいだと信じて追求し、商品化に至りました。

ーー本当に塩とお酒だけでできているんですね。

蝦名
:「漁師が食べても美味しい」にこだわっているので、ミョウバンなどの添加物は入れてなくて。どこの漁師の家庭でも、添加物を入れてご飯作っているところなんてないので。まんま漁師の味でお届けしたいと思っています。

えびが生きている段階で加工することが重要で、新鮮だと赤みも甘みもあって、匂いを消すための薬や着色料なんかも必要なくなります。

だから、夜中出荷した新鮮なえびを、漁師さんがそのままうちの冷蔵庫にいれてくれるようになってて。その3時間後くらいに私たちが出勤して、えびがまだ生きている段階で加工し始めます。午前には全部加工済みになっている状態ですね。

生きているえびをすぐ加工するのはもったいないと言われることもあるけど。新鮮じゃなきゃここまで美味しい加工品を作れないと思っています。

ーー甘えびを新鮮なまま扱える羽幌でしか作れない商品ですね。原材料である羽幌の甘えびと、他の甘えびの違いはなんでしょう?

蝦名
:羽幌の甘えびは名前の通り、「本当に甘い」ってことですね。以前は当たり前でしょって思ってたんですけど。仕事で他の市場の視察をして、他で獲れた甘えびを初めて食べた時は、本当にびっくりしました。「羽幌の甘えびって本当に甘かったんだ」って。

食べ比べると味が明確だと思います。うちに来るお客さんも一言目に「甘〜い!」というコメントを言ってくださるので、それくらい羽幌の甘えびは甘みが濃いと思います。

漁師の奥さんたちが家族を想って働ける場所に

ーー酒蒸しの他にも、さまざまな商品を展開していったのは、何か理由があったのでしょうか?

蝦名
:この事業を始めるにあたって目的がもう一つあったんです。それは乗組員の奥さんを雇用すること。小さいお子さんがいて、少ししか働けない漁師の奥さんでも、来れる時に来て働ける場所を作ろうと思ったんです。

幅広くさまざまな商品展開をして、販路を広げることで雇用につなげようと考えて。少しずつ事業が軌道に乗り始めた頃から、私から漁師の奥さんに声をかけて少しずつ仲間を増やしていきました。
私たちは、旦那さんが獲ってきたえびを扱います。家族が一生懸命獲ってきたものなので、みんな丁寧に扱って仕事をしてくれるんです。私もそうですが、家族を想いながら働くことができるので、より仕事への熱も高まると思っています。

(左)蝦名さんと(右)一緒に働く従業員の皆さん(写真提供:蝦名漁業部)
(左)蝦名さんと(右)一緒に働く従業員の皆さん(写真提供:蝦名漁業部)

4年前に甘えびファクトリーを立ち上げて飲食業を始めたのも、従業員の通年雇用が目的でした。秋はお歳暮などで忙しかったですが、春から夏にかけての加工の仕事が少ない時期をうまく使えないかと思って。ありがたいことに、今では飲食で使ってくれる人が増えてます。実際にここで甘えび丼を食べてその場で美味しいと言ってくれる人の姿を見れるようになって、とても嬉しいです。

羽幌に行きたいと思えるきっかけに

漁師が美味しいと思う商品作りにとことんこだわり、漁師の家族である奥さんの雇用のため販路を広げていく蝦名さん。漁師とその奥さんが支え合う、素敵な場ができていました。そんな蝦名漁業部さんの今後の夢を伺います。

ーー今後の夢や展望を教えてください。

蝦名
:まず蝦名漁業部の商品を通して、「漁業」があってこそ、商品があることを知って欲しいですね。

私一度だけ旦那と一緒に船に乗って、沖に行ったことがあるんですけど。本当に大変すぎて、もう二度と行けないと思いました。船酔いどころか、揺れがすごすぎて歩ける状態ではなくて。そんな中、彼らが仕事しているのを見て、これは誰にでもできるものではないって思いましたね。

沖合での漁の様子(写真提供:蝦名漁業部)
沖合での漁の様子(写真提供:蝦名漁業部)

船の上の仕事は、かなり危険だらけ。実際、身近に事故で亡くなられた方もいます。そんな危険な中獲ってきてくれたえびを大事にしたいし、漁師たちみんなのために何かしたい。漁師を目にする機会はないけど、「漁師さんがいるから、これが食べられる」を、商品を通して感じていただけたらいいな、と思います。

今後、もっと沢山の方に羽幌のえびを知ってもらいたいし、商品を届けていきたいです。商品をきっかけに羽幌に来ていただいて、本当に獲れたての甘えびを食べてもらえれば最高ですね。

あとこの甘えびファクトリーを実店舗としてだけじゃなく、「羽幌の資源を活用して商品化しているんだよ」っていう挑戦を見せる場としても活用したくて。これから同じように6次産業化を考えてる人がいれば、どんどん私が経験したことも教えたいと思っています。次へつながっていけばいいですし、魅力的な町にしていきたいですね。

取材中、幾多の困難におちいった場面でのお話も、終始マスク越しでも分かる素敵な笑顔で対応してくださった蝦名さん。「乗組員もその奥さんもみんな家族なんです」と語る言葉には、蝦名さんの温かい家族への愛情を感じました。羽幌甘えびのおいしさにこだわりぬいた商品を、ぜひ食卓に。

店舗情報

有限会社 蝦名漁業部
〒078-4121 北海道苫前郡羽幌町幸町57番地
電話 0164-68-7777
営業時間 9:00~16:00 日曜営業(不定休)

羽幌町ふるさと納税特設サイトのご案内

天売・焼尻2つの島を有し、日本海に面する夕日の美しいまち・羽幌町。
日本トップクラスの水揚げ量を誇る甘えびをはじめとする海産資源や、グリーンアスパラやお米などの農産物、焼尻めん羊など豊かな資源に恵まれています。

こちらの記事でご紹介した「蝦名漁業部」の甘えび加工品も羽幌町自慢の逸品です。
羽幌町ふるさと納税特設サイトには、羽幌町が誇る街の魅力がぎゅっとつまった返礼品がずらり。ぜひ併せてご覧ください。

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